14話 推しに会うなら盛るしかないっしょ!
「……最近」
りなは街を歩きながら呟いた。
「この国、マジで盛れ始めてね?」
「始めておりますね……」
エミリアが遠い目をする。
街には、
少しずつ変化が出始めていた。
リボン。
ネイル。
髪飾り。
キラキラした小物。
“盛る”という文化が、
確実に広がっている。
「見て見て〜!」
「そのネイル可愛くない!?」
「え、どこで買ったの!?」
女子たちの会話も変わった。
前より、
みんな少し楽しそうだ。
(……なんか普通に嬉し)
りなはちょっとだけ笑う。
そんな時だった。
「きゃああああ!!」
突然、
街の一角が騒がしくなる。
「……ん?」
「ど、どうしたのでしょう!?」
人だかり。
黄色い悲鳴。
りなたちはそちらへ向かう。
すると。
「え」
そこには、
王子たちがいた。
「うわ、顔面つよ」
長身。
整った顔立ち。
圧倒的王族オーラ。
しかも今日は、
視察らしく珍しく街へ来ていた。
「きゃー! レオン王子〜!」
「ルーク様こっち向いてください〜!」
「尊い〜!!」
りなが固まる。
「……え」
「レティシア様?」
「推し活、始まってんじゃん」
完全に広まっていた。
◇◇◇
「待って待って」
りなは女子たちを見る。
みんな。
ちゃんと盛っていた。
ネイル。
リボン。
髪型。
以前より明らかに気合いが入っている。
「……なるほどね」
りながニヤリと笑う。
「推しに会えるなら盛るしかなくね?」
「お、おし……」
エミリアが呟く。
すると近くの女の子が勢いよく頷いた。
「だって今日、王子様来るって聞いたから!!」
「朝から髪巻いたし!」
「ネイルも新しくしたの!」
りなは笑う。
「マジアゲじゃん」
推しがいる。
だから頑張れる。
だから可愛くなりたい。
それはきっと、
すごく前向きな感情だった。
◇◇◇
「……しかし驚きました」
エミリアが小声で言う。
「以前の街では、ここまで皆が着飾ることなどありませんでした」
「だよね〜」
「今では、“盛る”のが普通になりつつあります」
りなは街を見る。
少し前まで、
この世界は“我慢”が多かった。
身分。
年齢。
立場。
色んな理由で、
みんな自分を抑えていた。
でも今は違う。
“好き”のために。
“推し”のために。
みんな少しずつ、
自分を楽しみ始めている。
「……なんかいい感じじゃね?」
その時だった。
「あ」
レオン王子と、
目が合った。
「……」
「……」
数秒沈黙。
そして王子が、
ゆっくり口を開く。
「……妹から聞いていた通りだな」
「へ?」
「貴女が、“盛る文化”の発端か」
りなは数秒考え込み――
「まあ、たぶん?」
王子は少しだけ笑った。
「……面白い人だ」
その瞬間。
周囲の女子たちがざわつく。
「えっ」
「今、王子が笑っ……」
「やば……」
りなはまだ知らない。
自分が今、
この国で一番“推され始めている”存在だということを。




