13話 盛れれば歳なんて関係ないっしょ!
「……あれ?」
りなは、
重そうな扉の前で足を止めた。
「ここなに部屋?」
いつもは閉まっている部屋。
今日は少しだけ開いていた。
なんとなく気になって、
そのまま扉を開ける。
――瞬間。
空気が止まった。
「…………」
長机。
並ぶ貴族たち。
ピリついた空気。
そして、
めちゃくちゃ険しい顔をしたお父様。
「……レティシア」
「あ、やば?」
りなは察した。
これ絶対、
入っちゃダメなやつだ。
「今、大事な話をしているところだ」
「え、会議?」
「外交問題についてだ」
「うわ空気マジサゲじゃん」
数人の外交官が固まった。
お父様が静かに頭を押さえる。
「……あとにしなさい」
「はーい」
りなは素直に扉を閉めた。
だが。
閉まる直前。
一人の男性外交官と目が合った。
疲れ切った顔。
隈。
死んだ目。
(……あの人、やばくね?)
◇◇◇
「それでですね」
「はい」
数時間後。
なぜか、
その外交官とお茶していた。
名前はクラウス。
隣国から来た外交官らしい。
「いや〜、最近ほんと疲れてまして」
「顔に出てる」
「ははは……」
笑い声が乾いている。
「仕事もですが、妻も最近機嫌が悪くてですね……」
「ん?」
「昔はもっと優しかったのですが」
クラウスは遠い目をした。
「最近は“太った”だの、“もう若くない”だの気にしておりまして」
「ふーん」
「しかも私には文句ばかりで……」
りなは数秒考えた後、
普通に言った。
「それ、更年期ってやつじゃね?」
「こ、更年期?」
「ストレス溜まってるだけだと思う」
クラウスがぽかんとする。
「えぇと……」
「自分に余裕ないと全部マジサゲになるし」
「まじ……?」
「あと」
りなは頷く。
「たぶん盛れてない」
「……はい?」
「いやだから」
りなは真顔だった。
「盛れば解決」
「…………」
クラウスが完全に止まった。
◇◇◇
「はい、これ」
机の上へ、
いくつかの道具が並べられる。
「これは……?」
「つけま」
「つけま……」
「こっちはネイル」
「ねいる……」
「で、これケープ」
「けーぷ?」
「髪いい感じに固定するやつ」
クラウスは困惑していた。
「いやしかし、妻はもう若くありませんし……」
りなの動きが止まる。
「……え?」
「ですから、その……」
「盛れれば歳なんて関係ないっしょ!」
クラウスが目を見開いた。
りなは当然みたいに続ける。
「可愛くなりたいって気持ちに歳とかなくね?」
「……っ」
「あと多分、その奥さん普通に素材いい」
「そ、素材……?」
「ちゃんと盛ったら絶対アゲ」
クラウスはしばらく呆然としていた。
だが。
最後には小さく笑った。
「……不思議なお嬢さんだ」
「よく言われる」
◇◇◇
数週間後。
「レティシア様!!」
メイド長が、
大きな箱を抱えて部屋へ飛び込んできた。
「今度はなに!?」
「隣国から大量の贈り物が!!」
「は?」
箱の中には。
高級茶葉。
宝石。
香水。
大量の特産品。
そして手紙。
りなが開く。
『妻が最近、とてもよく笑うようになりました』
『“また綺麗になりたいと思えた”と』
『心より感謝いたします』
りなは数秒黙って。
「……マジアゲじゃん」
少しだけ、
嬉しそうに笑った。
◇◇◇
その頃。
隣国では。
「最近、“盛る”という文化が流行っているらしい」
「外交官夫人が広めたとか……」
「ネイル? なるものも人気だそうで」
少しずつ。
本当に少しずつ。
“盛る文化”は、
国境すら超え始めていた。




