9話 王女だって盛ってもいい
フィリアは、
鏡の前で小さく息を吐いた。
「……」
銀色の髪。
整った顔立ち。
完璧な姿勢。
誰もが羨む、
“理想の王女”。
……のはずだった。
「王女殿下、本日のご予定ですが――」
「はい」
朝から続く予定。
勉強。
挨拶。
公務。
お茶会。
毎日同じ。
笑顔も、
言葉も、
全部“王女らしく”。
昔からそうだった。
「フィリア様は王女なのですから」
そう言われ続けてきた。
だから。
可愛い服が気になっても。
派手な髪型に憧れても。
誰かみたいに笑ってみたくても。
全部、
我慢してきた。
――でも。
「っふふ……」
フィリアは、
机の引き出しをそっと開ける。
そこには、
一枚の“ぷり”が入っていた。
りなと一緒に撮った写真。
少し変な顔で、
笑いながら写っている。
そして写真の端には、
カラフルな文字。
『うちらマブダチ!!』
「……まぶだち」
フィリアは小さく呟く。
“親友”という意味らしい。
最初は変な言葉だと思った。
でも。
その文字を見るたび、
胸の奥が少し温かくなる。
人生で初めてだった。
王女ではなく、
“フィリア”として接してくれる相手。
ただ一緒に笑って、
楽しいと思える相手。
「……変なの」
ぷりを胸に抱きしめる。
見るたびに、
少し元気になる。
そんな時だった。
「王女殿下」
侍女が部屋へ入ってくる。
「本日の髪の準備を――」
「……今日は、自分でやります」
「えっ?」
侍女が固まる。
フィリアは、
そっと髪へ触れた。
昨日、
りなに教わったアレンジ。
少し編み込んで、
リボンを通すだけ。
たったそれだけなのに。
鏡の中の自分が、
少しだけ違って見えた。
「……っ」
胸が高鳴る。
侍女が恐る恐る口を開く。
「そ、その髪型は……」
フィリアは少し不安になる。
やっぱり変だろうか。
王女らしくないだろうか。
すると。
「……とても、お似合いです」
「……え?」
「すごく、可愛らしいです」
フィリアは目を見開いた。
“可愛い”。
その言葉を、
王女としてではなく、
一人の女の子として言われた気がした。
「……ありがとう、ございます」
気づけば、
自然に笑っていた。
◇◇◇
「……王女殿下、最近雰囲気変わったよな」
「前よりよく笑われるような……」
「それにあの髪型……」
王城では、
少しずつ噂が広がり始めていた。
そして。
「……レティシア様」
フィリアは小さく呟く。
机の上には、
『うちらマブダチ!!』
と書かれたぷり。
たった数日。
それなのに。
世界が少しだけ、
色づき始めていた。
「……王女だって、盛ってもいいんだ」
鏡の中の自分は。
前より少しだけ、
好きになれていた。




