第1章 1話 セフィル動きます
あ、なんか意識がはっきりする⋯
僕は朝起きたらいつもと何か違う気がした。
あ~、これが物心か⋯
言葉はわかる。喋れるかも。やってみるか。
「あ、あ~あ~〜」
いけそうかも。
「あ〜い〜う〜え〜お〜あいうえお」
よし。いけた。
普段はただぼうっとしているような生活だったが、意識が鮮明になった。何でもできるかも。
前より世界の見え方が変わった様な気がする。
物心がつくってこんな感じなんだね。不思議〜
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
物心がついてから6年が経った。
僕も今年で10歳だ。
時間の流れって早いね。
そんな事より、今日は本を見つけた。
なんとなく僕が普段入らない部屋に入って探検していると、薄暗い部屋の隅に、ぽつんと置かれていた。
埃を被った赤い表紙。
金色で何かが描かれている。たぶん文字だ。でも読めない。
⋯⋯なんか、かっこいい。
触れると、指先が少しだけざらっとした。
本を見つけたは良いものの、文字が読めないから読めるようになりたいのだが、帰ってきたら父さんにお願いしてみよーっと。
それまで何してよっかな〜
やることも無いんだよな~
なんか無いかな〜
う~ん、散歩でもするか。
あ~でも動きたくないな〜⋯どーしよ。
しょうがない。セフィル、動きます。
「よっこいしょっと」
はぁ⋯さ、行くか
「動かないと何も始まらないからね」
僕は外に出ると、いつもどうりの変わらない見慣れた村が見えた。
さて、どこを散歩しよう。
「森の方にでも行ってみるとするか」
僕は村を少し歩くと入れる森へと足を運んだ。
道中では、水車の回る音や、川の水が流れる音、畑の匂いもする。
畑の匂いは独特で、慣れてない僕にはちょっと臭く感じる。
でも、草木が風に靡く音や日差しの暖かさもあって、歩くのは悪くない。
散歩を日課にしても良さそうかも。
そんな事を考えていると、森に着いた。
森に入ってしばらく歩いていると、
開けたところにでた。
こんなところがあったのかと思いながら、木々の間を抜け、草原に足を踏み入れた。
「この広さがあれば何でもできそうだな」
⋯うん。流石に何でもはできないかも。
まあ、昼寝するのに丁度いい広さだ。
「では早速失礼して⋯」
そう言うと僕は昼寝をし始めた。
しかし、眠気が無かったから寝られなかった。
ただただぼうっとして空を見上げるだけで、僕の時間は潰れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
空を眺めて時間を潰していると、日が暮れてきたので、もう帰ろうと思う。
村に帰るため、しばらく森を歩いていると、僕はとあることに気づいてしまった。
「どうしよう、迷った」
とある事とは⋯そう、迷った事だ!
こういう時は、不思議と冷静なものだ。
夕暮れ時に、森に一人、これは詰んだな。
いや待て待て、今の僕は冷静だ。決して焦っていない。うん。あああ、焦ってない焦ってない。大丈夫だ落ち着け。
よく考えろ。どうする?
⋯一旦来た道を戻ろう。うん。それがいい!
僕は来た道を戻ると、さっきの草原に出た。僕は深呼吸をして、冷静になり解決策を考えた。
そして編み出した答えは⋯
「勘で行こう!」
そう、人生迷ったら勘で行くと何とかなるものだ。さあ進もう。
そう考え、僕はまた森へと足を運んだ。
森に入ると、勘で進み始める。
また違う場所に着いたらどうしよう。そんな事を考えながら歩いていると、だんだん不安になってきた。
日が沈み始めて暫く経った。
もう空の半分は黒く染まっている。
そんな状況だが、僕はまだ、森で彷徨っている。非常にまずい。でもまあ、この辺は魔物が出ないので安全だ。出てもちょっとした動物とかだ。大丈夫。
などと考えながら歩いていると、近くからガサガサと草を掻き分ける音がした。大丈夫。危ない魔物じゃない。きっとイノシシとかだ。ん?イノシシ?
僕は音のした方向を向いた。
だんだんと音が近づいてくる。そして、出てきた生き物は――
魔物⋯ではなくイノシシだった。
イノシシか、じゃあ僕詰んだなこれ。
イノシシとは言っても、通常のイノシシよりは小さめだ。多分まだ子供なのだろう。
イノシシがこちらに気づくと、一つの足で土を蹴り始めた。
う~んどうしよう。とりあえず距離を取りつつ、逃げる準備を⋯
僕はそう考えながら静かに後退りしていると、イノシシが鼻息を鳴らした。
やばい。怖い。いや、冷静に、冷静に。
適切な距離を保ったら、あとは追い付かれないように全力で⋯多分村がある方向に全力ダッシュだ!
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」走れ、走れ、走れ、走れ!追い付かれる前に、なんとか村まで走るんだ!
後ろからイノシシの走る音が近づいてくる。近づいてくるということは、だんだんと距離を詰められているということだ!非常にまずい!
イノシシに追い掛けられつつ全力で走っていると、光が見えた。
「やった、村だ!」
僕はその光に辿り着くため、更に全力で走った。
「おおおおぉぉぉ!!!!」
僕は突き飛ばされ気味で光の先に行くと、なんとか森を抜け、村に着いた⋯が、
抜けた先は、川でした。
僕は、結構な音を立てて顔面から川に落ちた。疲れ切った僕には、川の水の温度が少し心地よく感じた。あ~染みるぅ。
あ、結界石みっけ
⋯いやいやいや、溺れる溺れる。やばいやばい。自慢じゃないが、僕は泳げない。だから助からないかもしれない。
あぁ、いい人生だった⋯と、思ったけど、この川、意外と浅かった。普通に立てるくらいの浅さだ。
でも服はベチャベチャに濡れた。
そりゃ、体全体浸かったら濡れるよな。
ま、帰ろう。ちなみに、イノシシはと言うと、川に入らず、岸で止まった。イノシシって、急に止まれるものなのか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの後、家に帰ったらすごく叱られた。
いやまあ、僕が悪いんだけどね?
でもさあ、やっぱ刺激って大事じゃん?人生において。
なんとか許してもらえたから、次からは気をつけよう。さて、今日はもう晩ご飯を食べて寝よう。
「いただきまーす」
本日の晩ご飯は、猪肉のシチュー・パン・サラダでございます。この猪肉を食べていると、さっきの子イノシシを思い出すな〜。さっきのイノシシより、僕の方が弱いんだろうな〜。
でもまあ、次は逃げ切れるくらいにはなろう。それはそうと、いつも思ってたけど、このサラダってなんの野菜なんだろう。なんとなく怖いな。毒とかだったらどうしよう。そんなことは無いと信じよう。
そんな事より、父さんに文字を読みたいとお願いしてみよう。
しかしなんてお願いしようか。ま、普通でいっか。刮目せよ、ここが人生最初のでかいお願いだ。
僕はパンを飲み込んでから、父さんを見た。
「父さん、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「文字を読めるようになりたい」
父さんは少し驚いた顔をして、それから笑った。
「急だな」
「今日、本を見つけてさ、読みたいんだ」
父さんは少し考えてから口を開いた。
「ちゃんと続けるのか?」
「うん」
僕は即答した。多分続くだろう。
⋯いや、続けたい。ちゃんと読めるようになりたい。僕はできる男なのだ!
父さんはまたも考えた。今度は顎に手を当てている。1回はやってみたい考え方だ。僕も大人になったらやってみよう。
「わかった。ただし、10歳の誕生日にな」
「⋯ありがとう!」
僕は今、やり遂げたのだ。人生で初めてのでかいお願いの交渉を成功させたのだ!
10歳のプレゼントということになったが、まあ、あと1ヶ月ちょっと我慢すればいいだけだ。楽しみ!
まだまだ初心者なので優しく見守ってください。




