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異世界転生したのに無双できない  作者: 星野 夜月
第二章 あの華が咲く、秋に
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第二章15 死なない程度の全力

 透は一人で思考を続けてその絶望的な事実にただ一人でたどり着いた。

 この戦いに勝ち目があるのか否か、今のままなら俺には勝ち目がないように感じた。


「まだ状況を悲観するような時ではないだろう。何も試していないのにも関わらず諦めるのは違うのではないか。」


 確かに、そうだ。

 まだ俺は何も試してなどいないしまだ何も行動を起こしてすらいない。

 それなのに、諦めるだなんてらしくもないしそんなこと、俺には許されていいはずがないんだ。

 だって星華さんがあんなふうになってしまったのは、あんなふうに自分自身のことをコントロールできるようなことすらもできなくなったのも全部、全部。


「俺のせいで星華さんはあんなふうになってしまったんじゃないか。」


 それはベードスにも聞こえないようなか細い呟きであったからベードスが余計な混乱をするようなことがないままで終わった。

 もし今のつぶやきがベードスの耳に入っていればもう一悶着が透とベードスの間で巻き起こっていたことだろう。

 どちらにせよ、透としてこれからの戦いに挑む覚悟が決まったということである。


「やりましょう、ベードスさん。勝利条件はただ一つです。星華さんを殺すことなく無力化すること、ただそれだけです。」


「ようやく覚悟を決めたようだな。その勝利条件、飲み込んだ。最大限、お互いの最大限を出し切ろうじゃないか。そういえば貴様……あなたの名前をまだ聞いていなかったな。今、名前を聞いてもいいだろうか?」


 確かに、ベードスさんはさっきの戦いの時に自分の名前を名乗っていたが俺はまだベードスさんに名前を一度も言っていなかったな。

 戦闘中は貴様とかあなたとか言われるよりも普通に名前で呼ばれた方が連携しやすいだろうしな。


「幾星 透です。それが俺の名前です。」


「それではこれからあなたのことは透と呼ばせてもらうことにしよう。」


 そしてそんな会話をしたあと、透とベードスは先ほどから隠れ続けていたギルドの残骸から身を出して。


「それではいくとするか、透。」


「はい、いきましょうベードスさん。」


 そして俺とベードスさんは星華さんに向けて走り出した。

 ◇◇◇◇◇

 怖い、ただただ怖い。

 私を取り巻く全てが怖い。

 動かないものも怖いけどさらに動くものの方がずっとずっと怖かった。

 それが私に向かって動いてくるようなものであればそれは発狂してしまうほどに、暴れてしまうほどに、いや違う。

 そんなことは私にできるわけがない、だって私はそれに勝てるような力もないし、そもそも立場自体がない。

 だから発狂するでも、暴れるでもなく私にできることはその場にじっとしたまま啜りながら泣くことしかできない。

 でも、今の私には啜り泣くこと以外にもできることがある、それは言葉を発することだった。

 それだけ聞けば言葉を発していようが発していまいがあまり大差があるようには感じないかもしれない。

 でも、違う、全然違う。

 私が言葉を発すれば怖いものが少し消える。

 だから、私にも対抗することができるのだ。

 この、か細い喉を使い続ければきっといつかはこの怖いのも、消えてなくなってくれるだろう。

 事実、私の目の前から少しずつ怖いのはなくなってきたし、それどころか私の目の前から怖いものが自ら逃げ去っていくぐらいなのである。

 だから、私は言い続ける、目の前からそれが消えて無くなるまでいつまでも、いつまでも。

 そして、だんだん消えていく怖いものが、減り続けるものが、何故か今、増えた。

 それは2つあった。

 そして、何故かこちらをまっすぐ見つめている気がする。

 私に何かを向けるとしたらそれは敵意以外あり得ない、だって、今の今までにそれ以外を向けられたことなんてなかったのだから。

 だから私に向かってくるそれが怖くて、怖くて仕方がないから私はそれを消すという意思を持って言葉を、

 ――言葉を、発し続ける。―――

 ◇◇◇◇◇

「なんだ!?」


「これは予想していたよりも難しい戦いになるだろうな。攻撃を受けないように気をつけろよ透。」


「わかってます、よっと!」


 先ほどまでは狙いなど一ミリも感じられないような無差別な魔法だったのだが、俺とベードスさんが出た瞬間に急に魔法に指向性が出てきて、明らかに俺たちを狙うようになったのである。

 ある意味無差別に魔法を撃たれるよりは避けやすいといえるのだが、その分俺たちに魔法が当たる確率が格段に上がってしまっている。

 って、そういえば。


「あの、ベードスさん」


「どうした?今も魔法が打たれて止まらないのだが。透も話す余裕があるのか?」


 いやまあ、実際そんな余裕があるわけもなく、今も結構限界なのだが。

 俺の場合視界(スキル)があるからある程度の魔法が打たれる予測を立てることができるし、そのおかげで回避の難易度はかなり下がっている。

 その点、俺の横で今も少しずつ星華さんに近づいていき始めているベードスさんの凄さがわかるというものである。

 まあ一応ベードスさんも俺の持っているスキルみたいなものを持っているかもしれないけどその可能性はほとんどないと俺は思っている。

 何故ならそういうスキルがあるとしたならあの時―星華さんが最初に魔法を周りに打った時に声をあげるなりなんなりをして周りのことを心配していたはずである。

 それどころか、そもそも俺を冤罪で断罪をしようとする時にその星華さんの周りに漂う変な気配に気づいているはずである。

 つまり、今ベードスさんが魔法を避けられているのは完全に実力ということになる。

 本当にベードスさんはすごい人のようである。


「そりゃ、余裕なんてあるわけじゃないですけど、結構深刻な問題に気がついてしまって。」


「なんだ、もしかしてやっぱりその少女を助けることなんてできないから倒してくれ?とか抜かすつもりか?」


「いやもうそんなこと言うつもりはないですよ。俺としても最大限やれることをやろうって言う覚悟は決めてあるので。」


「ならなんなんだ?その深刻な問題っていうのは?」


 そしてそんな疑問を顔に浮かべているベードスさんに向けて、俺は一つ息を吸い込んで。


「俺の剣って、どこにありますか?」

 ◇◇◇◇◇

 何故?なんで目の前のそれは私の前から消えてくれないのだろうか?

 こんなにも言い続けているのに、こんなにも抗い続けているのに、どうして?

 どうして?

 いや、でも今まで抵抗をできていたこと自体がおかしかったのだ。

 だって、私の中からそれが一度とも消えることはなかったのだから。

 だから、それは消えない。

 絶対に消えるわけがないのである。

 だから、だからあんなことになったんだ。

 そうだよね?いや、そうに決まり切っているそれ以外なんてあり得ない。

 ねえ。

 〇〇〇〇

 ◇◇◇◇◇

「俺の剣ってどこにありますか?」


 なんか俺とベードスさんでいざ出陣みたいな雰囲気を出して今この場にいるわけだが、あるのが当たり前すぎて気づかなかったのだ。

 そういえば今俺、生身で回避しまくっているだけで別に防御してなくね?て言うかそもそも防御するための剣なくね?と。

 まあシルバーメタルソードは今は俺の横にいるベードスさんの異常な程の魔法によって強化された剣によって、今は見るも無惨な状態になってしまっているわけだが。


「どこにあるも何も透が投げたのではないか?透もまさかそれ以上の策もなく剣を投げたわけではないだろう?他にも剣があると考えていたのだが。まさか、ないのか?」


「いえいえ、策はありましたよ。策は。でもそれを木っ端微塵にしてくれたのはあなたではないのですか?ベードスさん。」


「あ、あー。そういうことか。それは、まあ、その、すまなかった。いや!でも剣を投げたのは貴様ではないのか?なら、その位置くらい覚えているだろう?」


 透の表情がベードスの言葉を聞いた瞬間に、動くのをやめて、固まっていった。

 確かに、透の持っている剣の内一つはベードスがぶっ壊している、この事実は変わることはないし、絶対の事実である。

 だがそれが事実であるように、透が自分で剣を適当に投げたというのも変わりようのない事実として横たわっていた。


「あはは、なんていうか。まあ俺もあの時は切羽詰まっていたというか、俺自身そんなに考える余地が、まあ人がいない方に投げるくらいのことしか考えれていないかったので、仕方がないんじゃないかなと。」


「つまり、透は覚えていないんだな。まあ、確かにあの時俺は透を本当に倒そうと思っていたからな。さらにいえば、あの魔法も使っているんだしな。多少は理解できる。だが、それでも投げた方向程度は、なんとなくの位置くらいは覚えているものではないのか?」


 言い訳ならたくさん思いついた、星華さんの魔法でギルドがボロボロになっているからもうわからないとか、それこそさっき言ったようなものだとか、色々あったがいうのはやめた。

 そんなことを今この場でどれだけ言ったところで剣が飛んで戻ってくるなんていうことはないし、たまたまそこにあるなんてこともない、つまり剣がないという事実は何一つ変わることがないということがわかったからである。

 今はそんなふうに、なんの意味も持たない言葉を吐いている場合ではなく、それよりももっと現実的な解決策を考えるのが先決である。

 だがこの場では、少なくとも現状では幾星 透という人間はこの戦場において完全な戦力外であり、ただの魔法の的程度にしかならないような非力な弱者であるということである。

 つまり、今俺がすべきことは。


「一つ、かなりわがままなお願いをしてもいいですか?ベードスさん。」


「なんだ、まさかとは思うが無くした剣の代わりに今すぐに別の剣をこの場に生成しろとかいうのではないよな?流石にそれはこの俺でもできないぞ。」


 ベードスはいかにも真剣な表情で透に言ったのだった。


「いや流石に俺のことを馬鹿にしすぎじゃないですかね!?そんなに俺超わがままで馬鹿みたいなことすると思われてるんですか?だとしたら、行っておきますけど流石にそこまで俺は頭悪くないですよ?ベードスさん。」


「御託はいいから早くそのわがままなお願いを聞かせてはくれないだろうか?透?」


 いや、よくわからない方向に話を広げたのはベードスさんなんじゃないんですか?と、透は思っている。


「いや………まあもういいですよ。言いますから聞いてくださいよ?俺は今から剣を探すために色々なことをしたいんです。ですが、このままここで魔法を回避しながらだとかなり限度があります。ですので、俺は一度さっき隠れていた場所に戻ってその色々なことをしようと思います。ですので剣を見つけるまで一人でその、魔法の対処っていうか星華さんの対処をしてほしいっていうか………。」


 少しだけ申し訳なさそうに透はベードスに対してそのお願いをした。

 ふたつ返事で了解と言われるとも思っていないし、そもそもこの問題は透自身の向こう見ずな行動をした結果であるが故に、断られて当然のお願いであった。

 だが、答えは少しばかり意外なものとなっていた。


「透、貴様は確か先ほど俺の発言を正していたな?なら、こちらも同じように透の発言を正そうではないか?」


「俺の発言を正す?」


「そのようなお願いはわがままでもなければ俺にとって無理なことではないということをだ。悪いが、確かに一人になってしまっていてはおそらくあの女性の暴走を止める、そこまでのことはできないだろうな。だが、透が剣を見つけるまでの間生きていればいいのだろう?それなら、透のお願いは軽々こなして見せようではないか。」


 そんなベードスの返答に少しの間俺は、その場に立ち尽くせざるを得なかった。

 何故なら、ベードスの言葉は透の脳内に展開されていたさまざまな種類の言葉の内のどれでもないのである。

 そしてそんな想定外の言葉をさも当然のように言われてしまったのだから、衝撃はかなり大きかった。


「え?」


「いや、だから言っているだろう。そのようなこと、軽くこなして見せようではないかと。」


「いやいや、あの魔法ですよ?普通に当たりどころが悪かったら死ぬかもしれないですよ?それに、さっきもベードスさんは言っていたじゃないですか。話す余裕があるのか〜とか。」


「何を勘違いしているんだ?それは俺の状況を表すものではなく、貴様の身を案じてのことだぞ?」


 つまり、まあ余裕だけど流石にそのまま決着まで持って行くことはできないから早くそれをしろっていうことなんだろう。

 やっぱり俺ってかなり弱いんだな、というふうに思わざるを得ないし、さらにいえば魔法の予兆を見れるスキルがあるにも関わらず余裕のないように見える俺はなんなんだ、と思っていた。

 いやまあでも、それぐらい余裕だっていうふうにベードスさんがいうのであればそのお言葉に甘えてしまうというのもありなのかもしれないな。

 それに、もしかしたら背後から俺が不意打ちなんてことができるかもしれないし。


「それじゃあ頼みますよ?ベードスさん。本当に死んだりしないでくださいよ?自分の落ち度をどうにかするために人を巻き込んで、さらにはベードスさんが死んだりしてしまったら、俺としても後悔しきれないですし。それ以上に星華さんのために、死なないでください。」


「ああ。任せておいてくれ。死んでも死なないで見せよう。いや、これではあまりよろしくないか。死なない程度に、全力を出して見せようじゃないか?透。」


 そう答えるベードスさんに頷きながら、俺はもう一度星華さんの魔法から逃れるために良さそうな物陰を探して、そこに隠れた。

 ◇◇◇◇◇

「死なないでくれ、か。」


 ベードスは、星華によって繰り出される数々の魔法を回避しながらも、先ほどの透の言葉に対して思考をしていた。

 回避しているだけではなく、定期的にベードスの持つ騎士剣で魔法を断ち切るなどして魔法の脅威を退けたりしていた。

 はっきり言える、魔法を断ち切るなどという技はとてもではないが透には、少なくとも今の透にはほぼできない技である。


「さっきまで、剣を振りかざされ、謂れもない罪によって大衆に罵詈雑言を吐き捨てられながらも。その状況を加速させた俺に対してそんなことを言うなんてな。」

 ◇◇◇◇◇

 よし、せっかく逃げさせてもらえたんだ、今ベードスさんが魔法をたくさんもらってしまっているんだ、最大限速くこの状況を打開、いや振り出しに戻せるようにしなければならない。


火素作成(ファイアワークス)


 まあなんで急にこの魔法を使ったのか、何も灯りが欲しかったとか言うことではない、それは次の言葉によって証明される。


付与(エンチャント)


 そう、属性付与魔法。

 これなら、(つか)が燃えることはないが間違いなく刀身に火属性の魔法物質の素(エレメント)を付与することができる、そうすれば俺が投げた剣の周りが燃えるなりなんなりするはずだ。

 そうすれば俺が無くしてしまった剣を見つけることができるだろう。

 そう思っての行動だったのだが。


「あれ、なんにも起こらない?っていうか俺の手にまだ火素作成(ファイアワークス)で生み出した火がそのまま残ってる!?」


 俺は確かに詠唱したはずなんだけどな、なんで付与されないんだ?でも、確かに火素作成(ファイアワークス)は成功しているわけだからmp切れとかではないと思うし、そもそもその程度では今の俺のmpは削り切れることはないと思うのだが。

 ていうかそもそも俺の付与になんか条件とかってあったっけ?

 あーそういえば、俺が手に触れてるもので、そこに付与するっていうイメージがないと付与されないっていうのが条件だった気がする。

 まあこの作戦が通じなかったとしても別にいい、俺の策がそのまま通用するなんてことはないと最初から想定していたのだから。

 そして、俺は目を閉じた。

 普通、そこにはもう(まぶた)一枚分の暗闇しか無いはずだが、今の俺にはスキルがあるのだ。

 結果俺の視界には今、たくさんの淡い光があった。

 そう、たくさんの淡い光が。


「あー。ギルドの装飾品とかそういうのって、案外魔力がある素材ばっかりでできていたっていうわけか。」


 昨日、俺はこの新しいスキルを手に入れていた。

 あの時はかなり動揺が大きかったというのもあるし、それ以上にスキルの使い方をほぼ理解していなかった、そしてそもそもこんな場所でスキルを使うだなんてことは想定していなかった。

 故に、気付かなかった。

 俺の中ではやはり魔力のようなものは常識ではなく、特別なものなのでやはり少し驚きを感じてしまうのである。


「でも、全部が全部魔力のようなものを帯びているわけではないし、この周辺にあるスキルに反応している物体を片っ端から探していけば見つかるだろうな。」


 ちなみに、このスキルで反応して、表されるものは全てゆらめく炎で表されており、はっきり言って形そのものは区別の仕様がない。

 まあ強いていえば魔力の大小によって炎の大きさが変化していることぐらいであろう。

 せめて、先ほどの魔法が成功していれば魔力がある程度大きくなって判断もしやすかったというものである。

 ちなみにだが、先の透の魔法は失敗したというわけではない。

 魔法自体は確かに発動はしているが、その魔法の効果を発動させる矛先がなかったが故、不発に終わったというだけである。

 そうして、透はスキルに反応しているものを剣が見つかるまで探し続ける。

 そして――――

 ◇◇◇◇◇

 透が自分の剣を探している間でも、ベードスと星華によって、ずっと戦い……正確に言えば魔法を避け続ける戦いは続いていた。

 星華によって、魔法製の水球の弾丸の雨はいまだに降り続けているが、ベードスの持ち前の鍛え上げてきた剣の技量、そして純粋な体力の多さによってベードスに星華の魔法が、少なくともまともにベードスに当たることはなかった。

 透に宣言していた通り、ベードスは透が自分の武器を探している間生きたまま時間稼ぎを続けることに成功していた。

 だが、ギルドは明らかに崩壊の一途を辿っていたのだった。

 だがギルドがここまで破壊されているのにそれに対して他の犯罪取締(ポリス)のようなものが来ることはない。

 その理由は単純であり、現在大半の犯罪取締(ポリス)はパラフルズのニュークリアの外に行き、そこに住んでいる住人に対しての説得を行なっている。

 そのため今はかなりニュークリアにいる犯罪取締(ポリス)は平常時に比べてかなり少なくなっている。

 さらに言えば今は昼。

 本来、大体の冒険者は夜にこのニュークリアに戻ってくる場合が多い。

 上級の冒険者になればなるほど階層を上がる時間や、さまざまなモンスターと長く戦うようになるものだからである。

 だから、この時間帯に戻ってくるような冒険者は大体の場合ギルドを破壊するようなことはできないと思われているからこそ、そして夜に上級の冒険者による暴動こそを警戒するためにこの時間帯は休みとなっている。

 その休みの時間帯の埋め合わせに使われているのが今星華と戦っているベードスである。

 はっきり言ってしまえば星華はレベルだけを見れば、とても上級冒険者と言えるようなものではないが、ずば抜けたmpと、初級冒険者とは思えないほどの攻撃力の高い魔法、そしてある特殊なスキルによって予想外の脅威となっていたのだった。

 だが何もベードスはなんの考えもなく魔法を避け続けているわけではないのである。


「はああ!」


 こうして時々、正確にいうのであれば余裕がある時は全て魔法を切り捨て、ギルドに対する負担、被害を最大限小さいものにできるように努力をしている。

 ◇◇◇◇◇

 なんで、目の前のあの誰かは私の目の前から消えて無くならないのか。

 それは彼女の中で消えない疑問となりはじめており、それ以上に確かな苛立ちとなっていた。

 その苛立ちは時間が経てば経つほど膨らんでいくものであった。

 この場所はもうほぼ壊した、目の前に二人いたはずだけど一人は私の前から勝手に消えていった。

 なのに、どうして?どうして目の前の彼だけは私の前から消えてくれないのか?

 それなら、と彼女は思った。

 周りのものを、壊し、消すことなんかよりも、私のことを止めてしまいそうな目の前の脅威こそを排除しなければならないだろうと。

 だから、私は今までよりもずっと明確に、明瞭に、確かに、間違いなく、はっきりと、自分の意思で目の前の存在を破壊し、私の視界から消すことにした。

 ◇◇◇◇◇

 彼との約束を守るためにもここで死ぬわけにはいかない。

 そんな使命感がベードスをさらに奮い立たせていた。

 そもそもベードスの実力であればそこまで奮い立とうがなんだろうが普通にしていれば星華の魔法を避けることは可能なのだが、透の言葉によってベードスはいつもよりもずっと全力でこの戦いに臨んでいた。

 だからこそ、本来最初はするつもりもなかった魔法破壊(スペルブレイク)をする羽目になってしまったのである。

 そもそもの話ではあるがベードスは一応やりようによっては星華のことを抑えることが出来なくはない。

 それは彼の本気であり魔法、【リーガル・サンクションズ】が発動可能かどうかに関わらずである。

 だが、それをしてしまうのは少しリスクが高く、何より彼の頼みでありお願いに反してしまう結果となる可能性がかなり高いものとなってしまうので彼の中では却下となっているのである。

 それ以上にベードス自身、これは自分が決着をつけるのはよろしくないのだろうという謎の勘のようなものが働いていたというのもその強行策を実際に行うに至らない理由の一つでもあるのだった。

 まあ、このまま避け続ければそのまま透が帰ってくるまで耐えれるだろう、そう、ベードスは思っていた。

 そして、どうやら今回の水球は切り捨てることが出来そうだ、そう思ったベードスは水球を自らの騎士剣で切り裂いた。

 そして、その後の魔法が来た。

 その魔法は、どうやら今までの魔法とは明らかに違うものとなっていた。

 今まではそれこそ、水の球が少々早いスピードでこちら側に飛んでくるものしか来ていなかったがそれは見た目からまず違った。

 それは水の球なんてものではなく、水の刃と言えるものであった。

 ベードスはそれを見た時に、その脅威を直感的に感じ、即座に行動に移した。

 これは避けてはならない、絶対に防がなければならない。

 これが当たって仕舞えばおそらくギルドは今までとは比べ物にならないほどの被害を受ける結果となってしまうだろうと。

 そしてベードスは、目の前の水の刃に対して魔法破壊(スペルブレイク)を仕掛けることにした。

 水の刃はこれまでの水球に対してそもそもの攻撃範囲の大きさからかなり上回っている。

 さらに言えば水球よりも速度自体も速い。

 大きさが大きくなっているのにも関わらず速度が変化していないどころか加速しているのだからその脅威の大きさも推し量れるというものである。

 まず、そもそもベードスの行なっている魔法破壊(スペルブレイク)、これはあるレベルに到達すれば獲得できる魔法の()のようなものを認識できるようになるスキルを利用した、ある意味そのレベルにさえ到達すれば誰でも可能になる技術なのである。

 もちろん、そのスキルを持っていれば誰でも簡単にというわけでもない。

 そのスキルを使用したその技術を地道に体に身につけて行く、その過程があってこそできる技術、それが魔法破壊(スペルブレイク)なのである。

 まあ中には天性の才能により、その地道な努力によってどうにかたどり着く場所を、そしてその過程を最初からスキップしてたどり着くようなものもいると言われている。

 だが、そのほかにも自分の持つ天性の才能とは別の才能、すなわちスキルにより、その過程を飛ばすものもいると聞くがそれはあまり少ないらしい。

 ちなみにベードスは最もこの中では割合が高いものとなっている地道な努力によってその場にたどり着いた努力タイプの存在である。

 だが、それゆえにその技術は基礎が完全に出来上がっている圧倒的な技術の結晶と言えるかもしれない。

 まあ、いくらそんなベードスとは言えどもベードスよりも上の技術を超える技術を持つもの、それを超える戦闘力を持つような存在はこの世にまだまだ、いやいくらでもいるのだが。

 だが、その技術があるからこそ魔法の核を見つけるスピード、それはこの水の刃を破壊するには充分なものとなっている。

 これまでとは違う水の刃の重さ、そして威力によってこれまでの戦いで初めての力と力による押し合いが発生した。

 だが、それでもこの水の刃の魔法の核はベードスでもどうにか破壊できるレベルのものであった。


「この魔法は、この魔法の核は正直なところ破壊できるかどうかは五分五分だったな。危ない危な――」


 その時だった。

 ベードスが星華によって作り出され、放たれた水の刃を魔法破壊(スペルブレイク)することに成功した直後だった、破壊したはずの水の刃がもう一度目の前にあった。

 今までの魔法は一度放たれた後、ある程度のクールタイムが置かれていた。

 だが、今回はそれを感じなかった。

 いや、違う。

 これは俺が鍔迫り合いをしているうちに発生、そして破壊した直後に放たれたということか?

 まずい、今はさっきの魔法破壊(スペルブレイク)に力を入れすぎて次の動きに持っていけるような状態ではない。

 このままだと直撃してしまう。

 ああ、すまない。

 透、貴様の頼みを、約束を、果たすことはもう出来なそうだ、本当に申し訳ない。


「約束を守ってくれてありがとうございます。」


 男はそう言ってベードスの前に、ベードスを守るように立っていた。

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