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異世界転生したのに無双できない  作者: 星野 夜月
第二章 あの華が咲く、秋に
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第二章14 it is hard

「う、おおおおおおおお!」


 剣を抜いた俺はベードスの剣の構えから剣の軌道を予測して、攻撃を防いだ、わけもなくスキルを使って防御率を高くして強引に防御することに成功した。

 でも、でも、でもでもでもでもでもでも。

 何か、型のような流れのあるような剣によって俺の剣筋を誘導していくベードスは少しずつその剣に込める力を強めていく。


「なぜだ。なぜ貴様はそこまでしてその女の口を押さえ続ける!?」


「そうしないといけないからです!」


 俺は星華さんの口を押さえ続けたままベードスの剣と対峙していた。

 自分の剣に誇りを持つベードスからすればそんな舐めプは屈辱もいいところだろう。

 だが、本来であればそんな舐めプは通用するわけがないものである。

 第一透の剣の実力はお世辞にも綺麗なものとは言えないし、それどころか素人のまま戦いすぎて少し変な癖のようなものすらもでき始めている始末である。

 それをベードスは知るわけもない透のスキル《ディフェンスレートアップ》、そしてベードスの剣に押し負けることのないように《筋力増加(ストレンジブースト)》を発動させることによってどうにか凌いでいるのが現在の透の状態である。

 だが、それ以上にベードスも少し奇妙なものを感じ始めていた。

 なぜ、そこの罪人は俺に対して攻撃をしてくる素振りもなくただ防御に徹しているのか?という疑問を。


「こんなことを貴様に聞くのはおかしなことかもしれないが、なぜ貴様は俺に攻撃をしてこない?」


「は?」


「なぜ貴様は攻撃をしない?」


「そんなこと―――」


「そんな慈悲なんてものをそいつにかけるな!」


 そんなベードスの疑問はこの状況を見ているただの人々によってついに答えを知ることはできなかった。

 ベードスは確かに透の口が「そんなこと」と言った後も言葉を紡いでいたのをその目で見ていたが。


「そうだそうだ!」


「早くそんなやつやっつけちゃってよ!」


 そんな、なんの事情も知らない傍観者たちの手で答えを聞く機会は失われてしまったようである。

 いや、事情を知らないというその一点においては間違いなくベードスも同じなのだが。


「いや、俺が間違っていたな。」


「は?どういうことですか?」


「貴様にまだ情があり、この場での問題を解決するという俺本来の役割を果たしていなかったことが間違っていたということだ。」


 さっきまでの剣、その全てが十分すぎるほど俺の全力を上回っていて、そもそも攻撃する意思がないから今は防御に回っていた、そう考えていた。

 だが、実際には違っていた。

 俺がもし、もし本当にベードスを倒そうとして、攻撃の選択肢を捨てずにいたとしても攻撃することはできなかったと今は確信している。

 その相手が今全力を出すことを宣言した、それはこれからは今までのものを軽く変える圧倒が始まろうとしているということである。


「―…―……――」


 俺が押さえている星華さんの口はまだ何かを、魔法を放とうと必死に詠唱をしている。

 だが、どうにか詠唱が成立することのない範囲に抑え込めているからこそ、この状況は変わらない。

 俺と、星華さんの状況は。


「犯してはならない罪を犯す愚民に罰を。間違いを正そうとする我には加護を。誰かが傷つくのを願う、奴らは悪。それを取り除く力を我は欲す。」


「なん、なんだ?急に意味のわからないことを言い始めて、我とかいい初めて、一人称すら変えて妄言を吐き散らすのがあなたの本気なん――いや、まさか。」


 俺からしたら意味のわからない妄言、しかしそれをこの世に吐き出すベードスの表情は何か凄まじい覚悟を感じさせるようなものであった。

 そして、そこから導き出された俺の前世の知識がソースの可能性、それは。


「まさか、詠唱?」


 そう、こういうなんというか儀式みたいな言葉を並べて発動させる魔法、それを俺は前世の魔法のある物語の中で何度か目にしてきた。

 今まで、俺や星華さんの魔法は詠唱とは言えども、本当に短いもはや無詠唱魔法にも等しいものとなっていた。

 だからそれがセオリーな魔法だと勝手に割り切っていたが、それはまだ俺たちの魔法のレベルが低いからとかいくらでも可能性はある。

 そして、それを思いついた俺は最大の警戒をした。

 なぜならこういう詠唱のある魔法というのはとてつもない効果をもたらすものが多いのが鉄則だからだ。


「今、裁きを下すッ!【リーガル・サンクションズ】!」


「ッ!―――」


 来る!とそう思った。

 だが、実際には特に何かが無から顕現することもなく、視界を極光が覆い尽くすのでもなく、ただ今までの光景が続いているだけなのであった。


「征くぞ」


 先ほど詠唱だと思ったそれはただの覚悟を決めるためだけの儀式だったとそう思いたい、いやそれを警戒している場合ではない、本気を出してくるベードスの剣を全身全霊を持って受け止めなければならない。

 だが、おそらくもうこれ以上両手剣の振る速度では対応するのが難しくなりそうだからシルバーメタルソードに持ち帰る。

 ちなみに両手剣――黒金剛石(ブラックダイヤモンド)重長両手剣(ヘヴィロングバスター)はそこら辺の人がいない方向に適当に投げておいた。

 まあ正直なんの事情も知らないで色々言ってきて少しイラッとこないわけではないがもしそれで見てる人たちに当たってしまったらそれこそとり返しがつかなくなってしまうから、流石に避けたというわけである。

 それに、いくら威力が強いとは言えども今までの攻撃ではシルバーメタルソードでは受けきれないレベルのものではないはずである。

 それに、頑張ればコネクトスラッシュの二撃目でベードスの攻撃を受け止めれるようにできるかもしれない。

 そう、透は見誤っていた、先ほどのベードスの言葉を。

 そして、【リーガル・サンクションズ】を。

 そして、構えた剣をこちらに――


「は、あぁ?」


 眼前にベードスはいた。

 そして剣が俺の目の前に近づいてきてるのが視界に入ってきた、それを俺はどうにかして傍観し続けているしかできな


「い訳ないだろ!」


 ていうかこんなのおかしいだろ?瞬間移動?いや、そういうのじゃない気がする。

 それに、俺の眼球が映す視界にベードスの存在を確認できるようになる直前、ベードスが踏み込むのが見えた。

 瞬間移動をするのに踏み込みは多分必要がない。

 ていうことは踏み込む瞬間に聞こえたバキッと何かが割れるような音は、踏み込む時の力が強すぎたがゆえってことか?

 まじかよ、っていうかよく今のを受け止めれた本当にグッジョブ……


「うむ、貴様の力の程度はよくわかった。次で仕留めるとしよう。」


 前言撤回、全然グッジョブじゃない、相手の思い通りだったみたいです。

 それと、今のでなんとなくわかったことがある。

 まあ今まで全力を出していない可能性もあるっちゃあるがおそらくそれを使わない状態のままの全力だった、そう仮定した上での考えにはなるのだが。

 さっきの、んーなんだっけ、【リーガル・サンクションズ】?だったかなんだかわからないがそれはやっぱり魔法だったと考えるのが一番筋が通っている気がする。

 となると、この魔法の効果は。


「全ステータスの超上昇?」


 まあまだ試していないDEF、mp、???とかは俺の知るところではないがなんとなくそんな感じがした。

 そしてSTRは明らかに俺の一番最強スキル筋力増加(ストレンジブースト)による能力上昇の幅を大きく上回っているような気がしたからである。

 俺より強いヤツがさらに全ステータスが、大幅に超上昇してしまう、これが示す結末はもう一つしかないと言っていい。

 もはや詰みだろこの盤面。

 だとしても絶対に諦めることだけはしない、じゃないとここまで抗い続けてきた意味が全てなくなる。


「ここで、終わらせようか。君のその犯罪を。」


 そして少し体を前に倒し、足を上げたベードスが地面を砕いた。

 文字通り地面を砕いてこちら側に超高速でベードスが接近してくる。

 とりあえず俺はシルバーメタルソードを目の前に掲げておく、正直なところベードスの攻撃を受け止めれるかどうかは運である。


「うおおおおああおおおお!」


 それは透自身も無自覚の叫びであり、透の中での緊張具合をどうにかしてまぎらわそうとして出てきた叫び声である。

 だが、高速で接近するベードスはその声を聞いても表情ひとつ動かすこともなくその手に持つ騎士剣を透に振り下ろそうとしていて。

 そして俺の手に持つシルバーメタルソードに衝撃が走るのを待ち、どうにかしてそれを抑え切ろうと――


「あれ?」


 あのベードスの速度だ、もうすでにここにきているはずなのにどうしてなんの衝撃も来ないんだ?

 そうして目を閉じていた俺は視界を広げるために目を見開いて。


「もう、貴様はこれで抵抗のしようもないな。ではこれにてこの件は終わりだ。」


「は、ぁ?」


 ベードスは騎士剣を鞘に戻しながらそう淡々と言ってのけた。

 だが、それに対していちいち反応してやれるほど今の俺は心のリソースは余裕のある状態ではなかった。

 だって、だって、だって、だって、だって、だってだってだってだってだってだってだってだってだってだって。


「どうして、ぇ?」


 俺の持っていた、いや持っていたはずであったシルバーメタルソードは刀身が粉々に砕け散っていたのだから。

 そこにあるのは柄とその先に少しだけ金属の部分があるだけであり、その剣はもはや実戦でもう一度使うことなどどだい無理な完全に破壊されている状態にあった。

 その衝撃に俺は今まで張っていた気がほつれて抜け切ってしまって、そして左手は星華さんの口から離れていったのだった。


「それではそこに投げ捨ててしまった両手剣は俺が回収していくことにしようか。それでは身柄を確保させてもらおう。」


「だめです、だめなんです。そしたら……ハッ!」


 待て待て待て待て、今俺は、俺の左手はどこにある?星華さんの口を押さえれているのか?

 そうして俺は恐る恐る自分の左手をゆっくりと首を回しながら確認していく。

 そして、俺の左手は今、ギルドの床に置いてあった。


「だめです。ではない。もう諦めた方がいい、これ以上は貴様が醜くなるだけだぞ。貴様のためにももう清々しく諦めるがいい。」


 そんなのどうだっていい、俺がどうなろうと何が起きようとどんな仕打ちを受けようと拷問をされようと、最悪死んだとしても。

 俺は、俺の意思でこの世界に来ようと思って来た。

 でも、星華さんは望んでこの世界には来ていない、なのに、こんなところで星華さんを最悪の道に進ませるなんて絶対にだめだ。

 せめて、星華さんを元の世界に帰すまでは、それまでは望んでいないこの世界で笑顔でい続けてほしい。

 だが、世界は星華さんは、そうあり続けることを許しはしなかった。


「バ………」


「早く降伏するんだ!もういい加減にするんだ!」


「ッ、ベードスさん!あとでなんでもしますから、今だけは邪魔をしないでください!」


「なぜ俺が貴様の頼みを聞かなければならない、なんの罪もない善良な民であればなるべくその期待に応えようと努力をしようじゃないか。でも、貴様はなんだ。そこにいる女性を傷つけた。何度も慈悲を与えたにも関わらず、それを全て振り払い、投げ捨ててまで、それでもそれを選び続けたのは貴様ではないか!」


「でも、あなたに理由を言ったところで理解してくれるわけがない!俺だって何回も言ってるじゃないですか。あなたの慈悲を投げ捨てたのも何もかも全て、あなたたちを守るためだって!それでも!信じてくれないじゃないですか!」


 双方、どちらも間違ってなどいない、互いが互いにとっての最善を、正義を成し遂げるための行動である。

 ベードスは民と、自分の責務を(まっと)う仕切るために。

 透は、側にいる、自分自身に怯え続けている萎縮した少女の安寧を願って。

 だからここから先、交わることは難しいだろう。


「それでも、そこにいる少女に俺を、民衆を攻撃する意思なんて見えないじゃないか。」


「レッ………」


「だとしても、それでも。なんで!なんで信じてくれないんですか!」


「そこにいる少女が泣いているからだ!」


 それは唐突の出来事であった。

 誰もわかるわけがない、そんなことがわかるのであればそれは、この中で一人しかいない。

 だからそのたった一人はこの場にいるどんな冒険者たちよりも、犯罪取締(ポリス)よりも速く、動いた少年がいた。

 これは、この視界(スキル)に映っている。

 なんで、星華さんの周りに漂っているこの四つの水球がなぜ今になって膨張を始めているんだ!?

 そんなの、一つしかない。

 か細い声だったとしても詠唱は詠唱だ。

 なら。


「だめだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


「ト!」


 最後の言葉(詠唱)は確かな意思を持って発せられていて、はっきりこの場にいるすべての人たちに聞こえた。

 そして、それまでただ宙を舞っていた水球は確かな意思を持って、直線的に、だが狙いは定まっていないが、発射されてしまった。


「みなさん!頭を下げて!なんでもいい!その場から動いてください!」


「なんだと!?」


 この場の誰一人透のことなど信用していなかった、言うことを聞くわけもなかった、だが、その透の言葉に込められたその思いでこの場にいる人間たちは動いた。

 ただ、一人ベードスを除いて。


「ベードスさん!」


「――」


 俺は気づいたら走っていた。

 俺の相棒――シルバーメタルソードを砕いたこと、俺の言葉を無視して攻撃して来たこと、それを許したわけではない。

 それでも目の前にいる人を見捨てられる理由にはできない、したくもない!

 俺はベードスの身体を押していた。

 なぜかわからないが星華さんのランダムな魔法の発散は俺ではなくベードスに向かっていた。

 他の3つは他の冒険者たちに向かっていっているがどうしてか動いてくれた彼らは、どうにか動くことができたようである。

 そして、最後の一人、ベードスさんも、俺が助けることができた。

 だが、本来ベードスに当たるはずであった水球の弾丸は透を貫いていったのだった。


「ヅ、ァ」


「貴様!何故!」


「だから言っているじゃないですか。あなたたちをあなたを助けるためだって。」


 透の足の膝の部分が星華の魔法によって確かにあった骨や筋肉関節がくり抜かれ空洞が広がっていた。

 それでもまだ外側の筋肉がつながっているため膝から先の足が離れ離れということにはならなかった。

 だが、そうなってまでも透がベードスのことを守っているのがベードスは理解ができなくなっているし、できるわけがなかった。

 何故なら


「貴様はそこにいる少女に対していかがわしいことを無許可でしようとした罪人ではないのか?そうでなければ俺は、俺のしてたことは、貴様の剣のことも。」


「あはは、確かにあの状況だけ切り取ればそう見えてしまうのもわかってはいたんですけど。どうしてもあの場ではあれ以外の解決策が見つからなくて。」


 それは、ベードスに対して強い衝撃と大きな罪悪感をもたらすものとなっていた。

 俯いたベードスに対して若干の同情を覚えたのも束の間でそのあとすぐに俺は周りを見渡して。


「とにかく、早くここから逃げてください!今の星華さん、そこにいる女性は自分自身のことをコントロールできていません!このままだったらあなたたちに怪我をさせてしまうかもしれないので早く――」


 だが、そんな俺の言葉は彼ら彼女らには届くことはなく、ギルドのロビーにこだまするだけであった。

 だが、その言葉に乗せられた願いだけは成就するのであった。


「キャアアアアアアア!」


「うわあああああああ!」


「に、逃げ、逃げないと!」


「早くここから逃げよう!」


 そう言って、透の言葉など聞こえないくらいのパニック状態となっていた彼らはこのギルドのロビーから全力ダッシュで逃げていった。

 傷つけられた透のことも、先ほどまでクズだと罵っていた透がベードスを庇ったという事実も、自分たちが助かったのがクズだと言っていた透の呼びかけによるものだとも知らないまま。


「貴様、とりあえずこれを飲むんだ。」


 そう言いながらベードスは透に対して今まで透が見たこともないような容器に入った緑色の液体を差し出した。


「なん、なんですか?それは?まさかまだ俺のことを毒かなんかで処刑しようとしているってことムグゥ」


「この俺がこの期に及んでそのようなことをする理由などはない。それどころか貴様に俺は助けられた。もはやそのようなことはしない。」


 そんなことを言いながらベードスは透の口にそのよくわからない容器を押し込んで、透にその液体を無理矢理飲ませて来たのだった。

 だが、そのよくわからないベードスの行動によって逆に冷静になってしまった透は先ほどから感じていた足の、正確に言えば右膝の違和感が少しずつ強く主張を始めていた。


「グッ、ああ」


「動くな。まもなくそれも終わるだろう。逆に今まで普通にしていられた方が俺からしたらよっぽど不気味に感じるというものなのだがな。」


 そんなベードスの言葉を聞いた透の感想はよくわからない、それだけであった。

 だが、よくわからないという無理解はすぐにこれから起こる事象によって理解に変化していくことになる。

 流石に透も違和感を主張していくその違和感の正体をはっきりとさせるために、その違和感の源泉、すなわち自身の右膝に目を向けた。


「ぇ?」


「そうか、貴様は自身のその怪我の具合を今知ったということか。無自覚というのも悪くないものであったかもしれないか。」


 ひっ、という情けない声を吐き出しながら透は自身のその傷から目を背けようとした。

 だが、その痛みから逃れようとする行動はやり切ることはできなかった、何故なら。


「目を背けるな。そんなことをしなくてもいい。それに、先ほど俺が飲ませた液体の正体がなんなのかも理解してもらうためにも目を背けることはやめてほしい。」


 さっきまで一方的にボコボコにされていたベードスの言葉に透は従う義理などはチリひとつないと言っても過言ではない。

 だが、なぜか透はそのベードスの言葉の言うとおりにしようというふうに思ったのだった。

 そして、自分の傷を気持ちが悪くなりながらも見続けていると。


「少しずつ傷が、膝の穴が塞がっていってる?」


「そうだ。さっき渡したのはかなりレベルの高いポーションだ。その傷は生半可なポーションだと治し切れる気がしなかったからな。こちら側の組織の一員が2本程度常備しているポーションを貴様に渡した。今にもその膝の穴が塞がっていくことだろう。」


 ベードスの言葉通りに透が星華によって開けられた膝の穴はみるみる塞がっていくのだった。

 だが、少しその様子がグロくて少し気分が悪くなった透だったが空いたままだったかもしれない膝の穴を塞いでくれたからそれに対して文句を言わずに。


「……ありがとうございます。」


 と少しの感謝を込めてベードスに伝えた。


「礼には及ばない。そもそも助けられたのは俺であって貴様ではない。俺のことを庇った結果その傷は負っているのだからその傷を俺が治すのは当然の義理であろう。」


 と、透の感謝に対してベードスは少し上から目線な口調で返すのだった。

 そうして透の膝の穴が完全に治るのを見計らっていたかのようなタイミングで。


「それでだが」


 と、話を切り出した。


「……なんですか。」


「先ほどまでの俺の行いを謝罪させてほしい。貴様は………あなたは本当に正しいことをしていた。本来あなたは俺たちが守るべきであるあなたを傷つけてしまったということに対して深く謝罪をする。申し訳なかった。」


 そう言ってベードスは深く透に対して頭を下げて謝罪の言葉を述べたのだった。

 透としては


「いやまあ、あなたたちからしたらこういう行動をするのは当然です。それにベードスさんは気づいてくれましたそれで充ぶ……」


 と言おうと思ったのだが、せっかくだしこの状態を利用しようと透はかんがえた。 

 少し申し訳ないし罪悪感も結構湧いて来たりもするのだがそれをすることに価値を感じた。

 それに、そっちの方がベードスさんも罪悪感から救われる結果となっているだろうから。


「そう言えば、ベードスさんは俺のシルバーメタルソードを修復のしようもないくらいにはボロボロにしてくれましたよね。」


 ベードスは少し俯いたあと。


「ああ、そうだな。すまない。」


「ならその分と、俺のことを犯罪者扱いしてくれたことの借りを俺は返してほしいと思うわけですよ。」


 その言葉にベードスは少しの間逡巡したあと。


「可能な限り、あまり期待はしないでほしいが要望には応えよう。」


 その言葉に透は拳をギュッと握ってガッツポーズをした。


「ならひとつ、本当にたった一つだけお願いしたいことがあります。それさえ聞いてくれれば今回の件はもうチャラにしましょう。」


「その要望を聞かせてくれ。」


「星華さんを、あの女性のことを助けるために力を貸してほしいんです。」


 今の星華は透のあの一言によって過去のトラウマを思い出してしまい先ほどのギルドにいた人たちとは比にならないほどのパニック状態にある。

 そしてどういうわけなのかは知らないが、もはや無尽蔵に魔力があるのかと思うわせるほどたくさんの水球を生み出してはさらにその水球を発射し続けている。

 だから今、透とベードスが話をしている最中にもギルドは少しずつ魔法による被害を広げ続けている。


「俺の力だったら星華さんのあの状態を抑えることはできないです。でもベードスさんなら、さっきの【リーガルなんだがこんどか】で本来の力の数倍の力を出せるようになるはずですよね?」


 透の問いにベードスはしばし黙り込んで思考したあと、少し透に対して申し訳ないような顔をして。


「まず、間違いを正そう。【リーガルなんだがこんどか】ではなく、【リーガル・サンクションズ】 だ。今は緊急時だから許してやるが平時であれば俺たちを侮辱したとして少し小言を挟んでいたところだったぞ。」


「はーい、いごきをつけまーす。」


 完全な棒読みで答える透に対してベードスは少しため息をつきながら、その言葉の続きを紡ぐ。


「申し訳ないがあなたの希望に沿うことは難しいだろう。我ら犯罪取締(ポリス)が持つ……正式名称で告げると少し理解が難しいかもしれないな。わかりやすく言うのであれば組織全員が持っている共通のスキル【リーガル・サンクションズ】はさまざまな縛りの上に成り立っている。」


「縛り?」


「方法自体は俺も知ることはないがな。本来共通のスキルを手に入れたりすることはできないのにそれを可能にすることができる存在がこの世界にはいるらしいからな。まあ人なのかも確かではないがな。」


「まあとりあえず。もうあのぶっ飛んだステータス上昇は使うことができないってことですね?」


「ああ。申し訳ないことにな。」


 ということは、である。

 ベードスさんは星華さん以上のステータスはあるかもしれないけど星華さんを圧倒することができるような程ではないのだろう。

 そして、普通に星華さん以下の俺。

 つまり、戦力的には同レベルといったところなんだろうな。


「ベードスさん。」


「なんだ。」


「これはあくまで俺のエゴですが。絶対に星華さんを殺さないでください。そしてできる限り傷をつけないようにしてほしいです。」


「なぜだ。相手はこちらに対して明らかな敵意を持っているではないか。それにそこそこの実力者のようだからとてもそんな余裕を持った思考をできるような戦いにはならないだろうな。」


「ですよね。」


 そのとおりである。

 実質戦力差はないと言えるのが現状ではあるのだが、互いの勝利条件の違いが俺たちと星華さんとの勝てる確率の大きな違いをもたらしていた。

 星華さんは単純にその魔法を使って俺とベードスさん、いやパニックの原因が俺であることを考えれば俺だけでも殺すことができてしまえばそれだけで星華さんからしたら勝利も同然であると言えるだろう。

 それに対して俺とベードスさんはこの暴走している星華さんを殺すこともなくどうにかして意識を落とすなどをして、星華さんを無力化することが勝利条件である。

 ただ全力で攻撃してモンスターのように倒すというのであればベードスさんの力を無理に借りなくてもある程度の勝算は俺にもあったと言えるだろう。

 だが、問題は倒してはいけないということにある。

 それは事実上剣を使うことを控えるべきということに等しい。

 俺が剣の柄の部分でどうにかするとか峰打ちを器用にできるような剣士であるとしたなら倒すのよりも少し難しいくらいで済んだかもしれない。

 だが俺にはそのような技術が俺にはないからな。

 つまり剣を使うのはあくまで魔法に対して対抗するときだけで星華さんに対して直接剣を使用してしまう場合はおそらく星華さんのことを殺してしまうことになるからである。

 だが俺にはベードスさんがいる。

 ここにいるベードスさんといかに連携をできるのかどうかというのがこの戦いの勝利の鍵となるだろう。

 そもそも俺に星華さんを気絶させたりするようなことができるのか?

 前々から感じていた圧倒的なレベルの差があるという事実。

 そんな弱気な考えすら出てきてしまうほど。

 それほどにこの勝利条件の差は激しいものであり。

 それ以上にこの戦いに。


「勝ち目なんて、あるのか?」



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