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異世界転生したのに無双できない  作者: 星野 夜月
第二章 あの華が咲く、秋に
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第二章13 でりけーとぽいんと

「で、今日は何しようか?」


 とは第五階層についた矢先に星華さんから放たれた一言である。

 ここに来るまでずっとお互い無言だったからなんというかすっごく気まずかった。


「ふえ?」


 だからなのか、急に話しかけられたことに驚いてしまった俺はそんな素っ頓狂な言葉を吐き出していた。

 いやだってさ、さっきのこともあったし、やっぱり不機嫌になっているのかな?と思って話しかけたい気持ちをグッと堪えて黙っていたのに、なんだ。

 それも、本当に何もなさそうな顔をしたままそんなことをいうから気が抜けるというものである。


「ええと、なんでしたっけ?」


「今日何をするのか話そうっていうことを透さんに聞いたんだけど。」


「あー、そうでした。そうですね。」


「ねえー、透さん今日なんか変だよ?どうしたの?熱でも引いてるの?さっき、ギルドに入る前も一人でボーっとしてたりしてさ。どうする?今日は休もうか?」


 いや全部あなたのせいですけどね!

 とは喉元まで出かかった透の心の声である。


「心配しなくても全然大丈夫ですよ。少し考え事をしてただけなので。」


 そのまま黙っているわけにもいかないのでとりあえずそう答えておいた。

 考え事をしていたというのは全てにおいて嘘というわけではないのでね。

 一部、星華さんの発言とか行動からいろいろ考えていたという点においては間違っていないのだから。

 そんな透の言い訳を聞いた星華は少し「ふーん」というような顔をして


「それじゃあ、何考えてたの?」


「ふえ!?」


 透は二度目の変な声を出した。


「えーと、星華さんの――いえ、人に話すことではないと思うので、やっぱりなんでもないです。気にしなくていいので!」


「そーなんだーー」


 とてつもない棒読みであった、感情の起伏を感じないそんな返答であった。

 ただ、そんな星華にも一つわかっていることがあり、(私がらみのことなんだなー)という程度のことはわかっている。


「まあいいよ。それで、今日は何をしようか?」


 星華の問いかけは再度一番最初の質問に戻る。

 今日何をするか、か。

 サボテンに関しては倒しても倒してもあまり意味を感じることがないので、別に無視したままでいいと思う。


「ク――」


「あー、昨日も何するのか透さんに任せっきりだから私もしっかり考えないといけないね。よし!それならサボテンはもう私たち余裕だよね!?」


 どうやら俺が「クリーオンと戦いませんか?」と聞こうとした時の最初の呻き声のような「ク」を星華さんの耳は拾わなかったようだ。

 都合のいい耳である。

 ここで、もう一度俺の意見を引っ張り出したところで星華さんの勢いを削ぐと思うから、さっきの俺の考えは一度胸の中にしまって。


「そうですね。実際昨日もたくさんサボテンなら倒しましたし。それにお互いサボテンのドロップアイテムの使い道もないですから。」


「そうそう!だからもう階層主に挑んじゃわないかな!?って思ったんだけど。」


 あー、それは少しまずいかもしれない。

 流石に俺の現在のステータスではこの階層での階層主と戦うというのはリスクが大きすぎる。


「ええっと、それは………」


「どうしたの?」


「ええっと」


 実際星華さんのどんどん先に進んでいきたいという気持ちも十分に理解できてしまう。

 だから、否定したくても否定しきれないのだが。

 あー、そもそもあれがあるじゃないか。


「星華さんのどんどん先に進んでいきたいという気持ちも俺はわかるんですけど。それだと俺が探している砂水晶石(サンドクリスタル)が見つからないというか。」


「あー、ごめん。それのこと忘れてた。私のことしか考えてなくてごめんね。」


「――」


 少し、俺は唖然としてしまった。

 その理由は、俺がなぜ謝られているのかが理解できなかったからである。


「なんで、そんなことで謝るんですか?」


「え?」


「え、いや。今の会話の中に星華さんが謝る要素があるようには思えなくて。」


 ちょっとよくわからなかったので星華さんに直接謝るわけを聞こうとしたのだが。

 そこで、少し星華さんの様子が変になった。


「え、あ、あ。ごめん、ごめん、ごめん…なさい。何か、ダメなこ、と。した?」


 そういう星華さんからは今まであったような何か、大人の余裕にも近いものが一切消えていた。

 いや、それどころではない。

 これじゃあ、まるで――

(まるで、親に怒られている子供のような、怖いものに怯えている子供じゃないか。)

 その言葉を心の中でグッと堪えれた俺は自分のことを褒め称えたくなった。

 おそらく、今この言葉を声に出して、この世の中に吐き出してしまったら何か大切なものが壊れてしまうような気がしたから。

 だがそんなふうに俺が深くいろいろなことを思考しているうちにも星華さんの目は少しずつ暗い色に染まってしまいには、何も見えなくなりそうになっていた。

 そんな星華さんの足は生まれたての子鹿のように震えていた。

 そんな星華さんに俺ができる背一杯のことは


「ごめんなさい。星華さんは何も俺にはしてないです。大丈夫です。大丈夫ですから。すみません。俺も少し考え事をしてて、そのせいで集中力があまりなかっただけです。」


 と、なるべく星華さんを落ち着かせれるような言葉をどうにかして記憶の中から引っ張り出していくしかなかった。

 とりあえず、この状態になってしまったからには今日は冒険をするなんてことは言える気がしなかった。

 だから震えてその場にうずくまっている星華さんをどうにかして家に帰してあげようとして、抱っこをしようとしたのだが


「イヤっ!」


「グッ」


 とてつもない勢いでその手を振り払われ、なかった。

 その勢いやスピードの割にはあまりにか弱すぎる力しか感じることができなかった。

 これには違和感を感じてわけを聞―――けるわけがない。

 とりあえずこの状況を利用して星華さんを家に帰さなければならない。


「イヤっ、イヤっ!離して!触らないで!イヤっいやあ……やめてえ。」


 そんな、消えてしまいそうな言葉で空気を振るわせながら星華は透の背中やさまざまな場所を叩くが赤子の抵抗よりも小さい力しか持たない星華の抵抗は透の中で悩みを増やす原因にしかならかった。


 その後は、ギルドに帰るために混沌の核の階層を星華さんを背負いながら俺は登っていた。

 ただ、星華さんの状態は一つも良くなることはなく、今も俺の背中を叩き続けている。

 どうにかしてギルドに帰ってきたのだが。

 そこで、また一悶着が起きてしまう。


魔水球作成(マジックウォーター)


 そんな、聞き取れるかどうかが怪しすぎる、吐息にも等しいような星華さんの声が聞こえた。

 直後星華さんの詠唱に応えるように世界は無から推定4つ程度の水の球を出現させた。

 なんで!?ここは混沌の核じゃないのに星華さんがこんな………魔法なんて使うような相手なんていないはずなんだけど。

 いや、いる。


「やめてください!星華さん!そんなことしたら取り返しがつかなくなります!やる分にはいいですから。お願いですからここでやるのはやめてください!」


 だが、そんな俺の叫びが星華さんに届くかどうかはわからない、いや、届いていないと見て間違い無いだろう。

 今、星華さんが恐怖を感じるような相手。

 それはこの場にたまたま居合わせてしまったこの国の人たちなんかなわけがない。

 なら誰なのか。


「俺が傷ついたりする分にはどうだっていいので!ここでそれはやるべきことではないです!」


 俺の背中にいる星華さんが今俺に向けて魔法を放とうとしているということはわかりきっているのだが、あいにく俺の防御力では余裕でその威力に耐えきれず貫通されてしまうことだろう。

 そうなれば俺の後ろにいる人たちにもその被害が及ぶのはそこまで考えなくてもわかることである。

 ていうか、こんな攻撃するほどの抵抗を見せるって、どういうことだよ。

 でも、なんとなく星華さんには過去なんらかの大きな、それこそトラウマになるような出来事があったことは想像に易い。

 そして俺はあの時の問いでその星華さんの触れられたくない過去、すなわちデリケートポイントを刺激してしまった、故にパニック状態のようなものになっているのだろう。

 だが、星華さんは俺の言葉なんて気にしない、するわけがない。

 なぜなら俺は今の星華さんにとって…恐怖の対象(てき)なのだから。


()―――」


「そんなことを星華さんにはさせない!」


 俺は、星華さんが何かを呟こうとしたのを耳がとらえた瞬間、咄嗟の反応で星華さんの口を押さえた。

 これ以外にも何か最適解でもあったかもしれないが今の俺にはこれ以外の方法が思いつかなかった。

 さすがに周りにいた人たちも驚いたのか、先ほどまで少しざわざわとしていたギルドの雰囲気が急速に静まり返る。


「なんだ?喧嘩か?」


「男が女の口を……。少し感心しにくいね。」


「だけど見ろよ、なんかあの女の人の周りに変な球みたいなのが漂っている気がするんだけど。」


 その静まり返ったギルドにいた人たちは沈黙の次に、この状況に対する疑問点を口に出し始めた。

 当然と言えば当然である。

 こうなるまでの過程を知らない人たちからすれば、()によって、(星華)が床に押さえつけられている、さらに言えば口の部分を手で形が崩れるくらいに強く押さえつけている、そんな現場を急に見せつけられたのだから。

 そうして、側から見れば正しいのは――


「おい、そこのてめえ。ただの女相手にそんな仕打ちはねえんじゃねえのか?」


 透ではなく星華を助ける行動こそが正義に見えてしまうことだろう。


「すいません、今はそれどころじゃないんです!後、近づかないで――」


「てめえの言葉なんて聞いていないんだよ。泣いている女の子を押さえつけて、てめえの人の心を疑うぜ?ああ?」


 気づいていなかった、いや気付けるわけがない。

 何せ、この行動すらも咄嗟で必死な場面だったのだから。

 確かに、俺も何も知らないでこの場面に立ち会ってしまったらそこにいる鎧を着た少しゴツそうな男の冒険者と同じ行動をとることだろう。

 そして、この男の行動によって、この場での善悪の天秤は完全に傾ききった。


「サイテー」


「ああいう男って生まれてくること自体が間違いのような気がするわね。」


「この世から消えればいいのに。」


「俺でもいくらかわいい女の子でもあんなことはしないわ、理性のない獣と同じじゃんか。」


 ポツポツと雨が降り始める時のように俺に対する罵詈雑言が広がっていく。

 なんで?どうして?俺はあなたたちの身の安全を守るために、少しでも多くの人を助けれるように頑張ってやりたくもないことを星華さんにしているっていうのに?

 それともそれを理解してほしいと、そう思うことすらも傲慢な答えなのだろうか?


「俺は、犯罪取締(ポリス)のベードス・クニリ。今、俺は自分に課された責務を全力で全うする。貴様のそれは見逃せるようなものではとてもないのでな。」


「ちょっと待ってくださいよ!今はそれどころじゃないんですって!俺だってしたくてこんなことをしてるわけがないじゃないですか!?なんなら手伝ってくださいよ!星華さんのことを抑えるのを!」


犯罪取締(ポリス)の俺に、貴様のその邪悪な犯罪の手助けをしろとでものたまうつもりなのか?悪あがきも大概にしろよ?罪人。」


 ザイニン?まさか罪人のことか?俺が、罪人?

 なんでだよ、俺が何をしたってんだよ、俺はあんたたちのために、この身をもって、大衆から少なくともいい目では見られないことなんてわかりきって行動してるんだぞ?

 俺が罪人なんて、そんなふざけたことあるわけないだろ!

 ていうか、さっきから犯罪取締(ポリス)だかなんだか俺はこの世界についてそんなに知識が豊富じゃないから知るわけもなないが、うるさいんだよ。


「その子から離れるんだ。」


「だめです。」


「その子から離れるんだ。」


「………離れるわけにはいかないんです。」


「その子から離れるんだ!」


「……離れたらあなたたちに危害が及ぶんです!」


「いい加減にしろ!」


「俺はお前たちを守るためにこんなことをしてるんだよ!?なんでわかってくれねえんだよ。そこにいるあんたたちだってそうだ!俺もあんたたちと同じでこんなことしてるやつを見たらどうかしてるって思うし、あんたたちと同じ目でそいつのことを見てるだろうよ。でもなあ、これはそれとは違うんだよ!俺はお前らのために身体を張ってやってるんだよ!」


「本性を表したな。」


 冷めた目でベードスは透を見ていた。

 いやベードスは、ではない。

 ギルドにいる全員からこの場の温度が氷点下まで転落してしまいそうになりそうなほど冷たい視線となっていた。


「最後に貴様に慈悲を投げかけよう。」


「なんだよ。」


「その子から離れるんだ。」


「できない。」


「そうか、残念だ。」


 直後、ベードスはその腰に備えてあった前世でいうところの騎士剣のようなものを鞘から抜き放った。

 それはつまり徹底的な武力行使を意味していた。


「それでは、ベードス・クニリ……参るッ!」


 そして、俺の知らない剣の構え方をベードスはした。

 妙に型にハマっているような、見ただけでもある程度相手の強さをわからされるようなそんな剣の構えであった。

 もう、やるしかないのだろうか。

 でもこれをしてしまったら、もう俺は、何かを踏み外してしまうような気がする。

 でも、やらないと星華さんが。


「う、うおおおおああ!」


 俺は剣を――抜いた。








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