第二章11 蠍の毒針
そんなこんなで、俺と星華さんによるサボテン討伐パーティーは10回目の討伐を経て終了となった。
手に入ったサボテンの実は2個程度である。
とても多いとはいえない数だがそもそもあまり使う機会がないと思っているので残念がったりする必要がないのである。
「そろそろサボテン以外にも戦ってみませんか?」
「んー、それもいいか――。でも透さん。それって」
今、星華の胸中を満たしているのは心配である。
この第五階層においてサボテン以外と戦うという提案。
それが意味するところはただ一つしかないだろう。
それは
「でも、透さん。それって、サボテン以外のモンスターと戦うっていうことはアレと戦うっていうことだよ?」
アレとはクリーオンのことである。
クリーオンとはこの第五階層に出現するモンスターの一体であり、具体的な実績を挙げるのであれば透の左目を失わせたモンスターそのものである。
そんなモンスターと戦うと透は言っているのである。
普通に考えればトラウマの一つや二つ抱えていてもおかしくない―少なくとも星華は透もその範疇の中にいる存在だと思っていた。
だからこそ、今星華の胸中は心配で満たされているのだった。
だけど、そんな心配は
「俺は、大丈夫ですよ」
どうやら杞憂で終わるようである。
俺自身、何も感じていないわけではない。
実際もう二度とあんな苦しい思いは味わいたくないし、もう自分の身体のどこかを失うことはしたくない、だから戦わないという選択肢もある意味正しい選択なのかもしれない。
だけど、俺はその選択肢を選びたいとは思えなかったし、選ぶわけにはいかなかった。
確かあのローアさんの話によれば俺の失われた左目は俺がレベルアップを重ねていって、レベルが40〜50くらいになるまで頑張らなければもう戻ってこないようなのである。
現状の俺のレベル上昇条件はクリーオンの討伐であるため、今最も目先にある、達成しなければならない目標、その一つがクリーオンに対するリベンジの成功なのである。
もちろん今言ったことも目的の一つであるがそれだけではなく支配者から砂水晶石をとってきてほしいというお願いもあるからできるだけ早くクリーオンを倒したいのである。
だから、こんなところで自分の心の弱さに負けている場合ではないのである。
「そういうことは俺自身が百も承知です。だけど、支配者に心配をかけさせないためにも希望を叶えるためにもそして俺自身の左目を取り戻すためには早く成長しないといけないんです。」
その意思は確かに星華に伝わった。
その上で星華がこの透の望みを断る理由はないのである。
「わかったよ、透さん。でも危ないって思ったらすぐに引き上げるからね。あと、一応聞いておくけど解毒ポーションは持っているよね?」
そう聞かれた俺はすぐに自分のポーションをしまっているケースを確認して、
「はい、もちろん持っています!」
その答えに星華さんは少し呆れたようなため息をついたあと、少し黙ってジッとコチラをみていた。
そうして、星華自身も覚悟を決めたような顔をして、
「じゃあ、行こうか。」
と言ったのだった。
前回からの経験でわかっているのはクリーオンの出現条件はおそらくこの砂漠の地面に衝撃を与えることだろう。
だがもちろん準備はできるだけしたいのでまず、戦う場所を決めて、その場所の周囲にサボテンの存在がないことをしっかりと確認する。
さっきまでサボテンを倒しまくっていたせいかもしれないがどうやらこの場所の周囲にはサボテンはいないらしい。
戦う準備はもうできたと言っていいだろう。
「ねえ、さっきと同じ戦い方でいいのかな?」
「え、逆にそれ以外の方法があるんですか?」
「でも、君が前衛でクリーオンの攻撃とかヘイトとかを受けてたらそれこそ前みたいに結構重いケガをしちゃうかもしれないじゃない。」
「それは大丈夫です。なんとなく、そんな気がするんです。」
「えー……それ本当に大丈夫なの?」
「はい、任せておいてください。あ、もしダメだったら俺のことをお願いします。」
俺自身でも無茶苦茶言っている自覚はある、だが何も根拠もなくそういうことを言っているわけではない。
根拠とは、俺の新しいスキル、魔力感知である。
このスキルはサボテンとの戦いでなんとなくわかったのだが、攻撃の起こりを予測できるっぽい。
だから、それこそ前回俺が左目を失う原因となったあの不意打ち、そういうなんというか予測しづらい攻撃、そんな感じの攻撃が通用しなくなっている可能性が高い。
だから、俺は前回よりも自信を持ってクリーオンと戦うことができる。
ということで、俺は星華さんと十分な距離を保ってることを確信したので、これ以上星華さんと話していても不安要素を出されてしまう。
そういうふうに不安を煽られ続けたらもしかしたら俺の決意も揺らいでしまうかもしれない。
だから、これ以上星華さんと話すことをやめて。
両手剣を手に取り、大きく振りかぶって、その剣を真下の地面に振り下ろした。
その瞬間、俺の視界の中のもともと何もなかった空間にサボテンに比べて明らかに大きな魔力の反応があった。
それはもはや考えるまでもなく、間違いなくクリーオンのものだろうな。
そうして、透がクリーオンの存在をスキルによって感知したすぐあと、透から少し離れた星華もその異変に気づく。
「え、何この揺れ?もしかして!?」
「星華さん!そこから動かないでください!来ます!」
この言葉で俺は星華さんをそこから動かさないことに成功した。
俺のイメージしているクリーオンの倒し方はそれこそサボテンと戦っていたときと同じように、俺が前衛で身体張っているうちに星華さんの魔法でバーンとやってもらう、これで討伐完了、というイメージである。
そのようなことを考えている間もクリーオンは徐々にその身体を砂から出し始めていた。
そうして、その巨大な鋏が出てきて、そのすぐあとその巨大な身体を全て出し、砂ボコリを撒き散らしながらの大胆な登場である。
「透さん!」
「わかってます!星華さんは魔法の準備をお願いします。サボテンのときと同じように俺がクリーオンの注意をひき受けます。なので、いつでも魔法発射できるようにしておいてほしいです!」
「あーもー、わかったよ!絶対死んだらダメ……いや、ケガもなるべくしちゃダメなんだからね!本当の本当にだからね!」
「はい、任せてください!」
そうして、出てきたクリーオン。
俺の視界にはただのサソリ、にしてはかなりデカいし俺の知っているサソリだとは思えないんだけど、しかいない。
だが、俺にはもう一つの視界がある。
その視界にはどうやらかなり炎の上の方に何か少し大きめな力が溜まっているようである。
これはおそらく、クリーオンが今からしようとしている行動と無関係ではないだろう。
つまりそれは、針による直接攻撃、または針の穴の部分から毒の射出、この二択になる。
だが、毒の射出の可能性がある以上、攻撃を受けるわけにはいかない。
その場合だとアレだけ声を上げて、大丈夫だと言っていたのにまさかの初撃で撃沈とかそういうのはマジで良くないだろう。
というより、格好がつかない。
故に選択すべき行動は回避。
ということで俺は全力でサソリの後ろ側に爆速で逃げた。
この手の攻撃は大体攻撃をするモンスターの背後が案外安全地帯となるのが定番である。
だが、それを理解しているのは俺だけなのでもちろん星華さんは俺のこのスキル頼りの思考と同じことを考えられるわけがない。
「星華さん!クリーオンの針に気をつけてください。もしかしたら毒を放出してくる可能性があります。あのときクリーオンと戦いましたがこの毒の放出の射程範囲はわからないのでできるだけクリーオンの正面にはいないでください!最悪の場合あの時の俺と同じ状態になるかもしれないので!」
「そうなの!?わかった!透さんもしっかり避けてよね!」
そうして俺はスキルによる攻撃の予測を使用してどうにか毒が放出されるよりはやくクリーオンの背後に回ることができた。
星華さんは………あそこにいれば多分当たることはないだろう。
まあまず、今から繰り出される攻撃が毒の放出か、普通に針による攻撃となるのか、それは五分五分だから杞憂になるかもしれないけど。
いや、それならそれでいいんだ。
今の俺にとっての最悪は俺がケガをしたり、それこそ最悪死ぬことなんてはっきりどうでも良くて、彼岸 星華という人間が傷ついてしまうことである。
それこそ俺のせいで死なせてしまうなんていうのはそれこそ言語道断である。
そうして、今どちらの攻撃かの答えがはっきりした。
そのクリーオンの針から液体が放出された。
「わわっ」
その液体はどうやら流石に大丈夫だろうと思っていた星華さんの方まで届きかけていた。
ということは、である。
「まさか、こいつが狙ったのは俺じゃなくて星華さん……?」
あり得る話である。
クリーオンにそこまでの思考能力があるのかどうかは定かではないが、はっきりいって俺なんかよりも星華さんの方が自分を倒す可能性が高いのは当然のことである。
「こいつ………ッ!」
それに気づいた俺は作戦の破綻を予感した。
このままではクリーオンは俺のことを無視、または適当にあしらってすぐに星華さんの方に行ってしまうかもしれない。
それでは星華さんは魔法を撃つタイミングを見計らうよりもクリーオンによる攻撃の回避の方に意識が割かれてしまい、しっかり魔法が決まる可能性がかなり低くなってしまう。
そんなのそのまま許していいわけがない。
「火素作成、付与、ディフェンスレートアップ、筋力増加」
俺は速攻で持っているスキルをすぐに発動した。
mpに関してはだいたい250くらいあるからこの程度じゃ尽きることはないだろう。
そして今、良くも悪くも星華さんに意識を割いているであろうクリーオン。
どうやら俺の魔力感知にも反応はないようだし。
「―――ッ!」
その攻撃に反応できたのはそれこそ先ほどスキルを総動員したからであろう。
なぜなら、その攻撃は透のスキルの視界にはなんの反応もなく、スキルを頼りにクリーオンの動きを回避していた透にとってそれはそれは想定外の行動であるだろう。
マジであぶねえ!
俺が本当の意味でスキルだけに頼って戦闘をしていたらこの攻撃は対処できなかっただろう。
俺は、というよりは普通に考えて人間は戦う時に目を開けて戦っているだろう。
いやまあ、アニメとかであえて目を閉じながら戦っている達人もいるようだからなんとも言えないけど。
まあとにかく俺は目を開けて戦っていた。
だからこそ、魔力を必要としない攻撃を視界に映すことができていた。
だから今、目の前にはクリーオンの針と俺の炎を纏った両手剣がぶつかり合っているのだろう。
もちろん、何も俺の技術だけでこれが発生したわけがない。
スキルコネクトスラッシュ、まあ一段階目だからそこまで威力が高いとは言えないけども、そして筋力増加、これによるSTRの上昇があったからこそ危機を反応してすぐに両手剣を振れていた、実際これがなかったら反応はできていても攻撃を受ける可能性を残すことができなかっただろう。
そして、俺の行動の最後の保証となったディフェンスレートアップ。
これらのスキルのおかげで今も俺の命はあると言えるだろう。
そして、今回の攻撃によって一つ理解したことがある。
それはスキルに依存しすぎるのは良くないということである。
当たり前すぎることだと考えている自分自身でも思うが、そういうことである。
つまり、スキルによって予測できる攻撃は魔力を伴う攻撃だけだということだろう。
つまり普通にモンスターがモンスター自身の体だけでやる行動は魔力感知には反応しない。
今まで、サボテンの針の放出とかクリーオンの毒の放出とか星華さんの魔法とか魔力を使った攻撃しか見てきていないからこのスキルはどんな攻撃だろうと予測できる案外チートスキル、という認識をしていた。
だが、それ以外――つまり魔力を伴わない攻撃があることも忘れてはいけないということである。
例えば俺が付与も何もしていないただのシルバーメタルソードを振ったとしても振る前にはなんの前兆のようなものはないだろう。
それに、なにもスキルの視界になんの変化もしていないわけではない。
実際、今のクリーオンと思われる炎は少し前のめりになった状態で固まっている。
当然である、俺の剣とクリーオンの針で今力比べをしているのだから。
つまり、このスキルで予兆を感じれるのは魔力を伴う攻撃だけであるということを、今回はっきりと認識できた。
まあ、それだけでも十分強いスキルであると言えるだろうが。
とりあえず、この力比べはこちらから力を少しずつ弱めていってこちらから終わりにした。
前回のクリーオンとの戦闘ではこの力比べを相手から力を抜かせてしまったが故に主導権をクリーオンに渡してしまった、それ故に毒を喰らってしまった。
なら、俺が主導権を握れるように先手を取ればいい。
そして、俺のスキルによる視界。
今まではこれに8割近く依存する形になっていたが、その状態であることの危険性については先ほどの単純な針の攻撃のおかげで認識できた。
今、俺は5割くらいまでにしている。
そしてその視界の中でクリーオンの炎の針と思われる部分の炎の大きさや分厚さが変化した。
――前兆だ――
「星華さん!気をつけてください!」
「わかった!」
そう答えた星華さんは俺のスキルの視界の中でクリーオンの正面からかなり外れていく方に動いているのを確認して少し安心した。
なんで、透さんはそんなにこれからしてくる攻撃のことがわかるのだろうか?
そんな疑問はもちろん星華の中にも渦巻いていた。
透は星華に心配をかけさせないために魔力感知のことを話していない。
だから、この忠告は本来疑うべき言葉なんだろう。
だが、彼女の中ではこのような結論が出ている。
連合を組む前にわざわざ自分の悪いところを言ったりして、自分の評価を下げたり、自分の主のことを結構考えて行動していたりしてるから、信用できるでしょう。
というのが短時間透と一緒に過ごしていた星華の結論だった。
だが、その星華が抱いている信頼は――
いや、これについて言及するのは今ではないだろう。
そうして、どうにか星華はクリーオンの毒を避けることに成功した。
いや、どうにかというほどではないかもしれない。
なぜならその毒の放出は星華に向けて放たれたものではないのだから。
クリーオンは、星華を排除するべきだと思考しているがそれ以前の邪魔者―透も排除するべきだと思考した。
そして星華と透そのどちらの方が危険であるかではなく、どちらの方が排除しやすいかということを天秤にかけたクリーオンは透の排除を優先した。
そうして、その攻撃の結果は。
「透さん!」
星華の視界には、それまで透がいたはずの場所にはクリーオンによって放出された毒の残骸と乾燥した砂だけが残っていた。
だがその時、星華は透が死んだ可能性を一瞬想像したが
「セアアア!」
その気合いの入った声によって星華の心配はかき消えた。
その毒の放出はもちろん俺のスキルに反応している。
だから、それをスキルの視界で発見した瞬間。
まず、攻撃が絶対当たってほしくない星華さんにこれから毒による攻撃がくるということを伝え、それと同時にその毒が放出されるよりはやくクリーオンの背後にダッシュして回避に成功。
そして、今に至る。
毒の放出によって明らかな隙を見つけた俺はその隙を逃す手はないのですぐに攻撃をした。
先ほど、クリーオンの針(物理)を受け止めるためにコネクトスラッシュの一撃目を消費しているため、もちろんこの一撃はコネクトスラッシュの二撃目であり、威力が上昇している。
さらに、この二撃目はもちろん普通の上から振りかぶって剣の刀身で斬るものではなく、剣の切先で相手を貫く刺突である。
つまり、俺の最高火力の攻撃である。
「いけええええええ!」
あわよくばスキル会心刺突の効果でクリーオンのhpを99パー削ってくれ!何パーセントで発生するかはもう忘れたけど!
だが、そんな低確率をここで引けるわけもなく、普通の刺突で終わったのだった。
だが、その刺突はクリーオンの腹を突き刺すつもりの攻撃だったのだが、流石のクリーオンもタダで終わる気はないようで、その大きな鋏によって俺の剣は受け止められていた。
だが、それでも一瞬で俺の最高火力をうけとめきれなかった鋏を切り落とすことに成功したのだった。
まあ正確に言えば刺突なので切り落としてはいなくてその刺突による衝撃波によって抉り落としたと言った方が正確な気がする。
だが、初めて、これで初めて俺はクリーオンにまともな攻撃を叩き込めた気がして
「ッしゃあああ!」
と叫んでいた。
いやー、案外結構すごくてびっくり。
というのが私の感想である。
鋏を抉られたクリーオンは明らかに動揺して、その6本の足をバタつかせながら後ろに下がっていった。
「すごいじゃん!透さん!」
「ありがとうございます!でも、まだです。まだ、クリーオンを倒せていないです。まだ気をつけていてください。いつどんなことしてくるかわかりません。それこそ、もしかしたら鋏を抉られた怒りで暴走モードって可能性も否定できないので。」
「う、うん。確かに。ここで気を抜くのは少し早すぎるね。よし!気合い入れ直すね!」
「来ました!」
「えええ!?」
あまりの急展開に流石に星華は驚きを隠せていなかった。
「今からどうにか星華さんの方から遠ざけます。もう一度どうにかして毒を放出させるのでその時に攻撃してください。俺のことは全然気にしなくていいですから!」
「えええ!?わかった。」
俺は有言実行したいので向かってきたクリーオンをなるべく星華さんから遠ざける方向に走っていく。
正直なところ俺を狙うか星華さんを狙うかは五分五分だったので賭けになっていたが、勝算はある。
先ほど、俺はクリーオンの鋏を抉り落とした実績がある。
もし俺がクリーオンの立場だったら何してくるかわからない星華さんよりも実害を与えてきた俺を狙う。
だからクリーオンもそういう思考になってくれたら嬉しいのだが。
「よし!狙い通り!」
クリーオンはどうやら星華さんではなく、俺の方が危険だと判断したようである。
まあだからといって
「逃げ切れるステータスがあるとは言っていないんだけどなー!」
そう、実際のところ俺はクリーオンより多分スピードは遅いというふうに今までの先頭から感じている。
そして、その予想を肯定するかのように後ろから迫るクリーオンと俺の距離は縮まっていった。
「やばいやばいやばいやばいやばい。」
俺は星華さんを心配させないように叫ぶのではなく呟くように言った。
だが、そんな気遣いは意味もなく。
なんか、透さん思ったよりもやばそうじゃない?
と思われていた。
だが、そんなことは透の知るところではない。
だが、星華もただただ見ているだけではない。
俺は背後から迫るクリーオンから逃げきれないことを悟って迎撃体制に入ろうとして――
「魔法物質発射!」
その星華の詠唱のと、クリーオンに水色の弾丸がぶつけられたのは同時だった。
今のは、星華さんの魔法!?
まさか、この状況を見かねて援護してくれたのか?いや、それしかあり得ないだろう。
「ありがとうございまーす!」
「はやく、逃げてー!」
クリーオンは確かに星華さんの魔法を受けていたが、それは甲殻にだけ当たっていたのか、全然怯むこともなく、もう一度俺に向かって走ってきていた。
俺の視界ではクリーオンの炎が結構なスピードで向かっていっているのが視える。
俺がスキルの視界を定期的に見ているのは毒の放出の前兆を見極めるためである。
背後からそれをされてしまうと流石に俺もただでは済まないだろうからな。
そんな不意打ちを防ぐために俺はスキルの視界にも意識を割いているのだが。
「星華さん、そろそろ毒の放出がきます!」
クリーオンの炎が大きくなるのと同時に俺は星華さんに向けてそう叫んでいた。
このままだと、さっきの二の舞になる可能性がある。
今度こそ星華さんの魔法をクリーオンにぶち当てなければならない。
先のサボテンとの戦いで確信した。
俺の剣による攻撃なんか比べる必要もないくらい星華さんの魔法は威力が高い。
だから、俺がクリーオンの隙を作り、俺が攻撃をするよりも星華さんの魔法1発の方がクリーオンに対しては有効なダメージを与えることになるだろう。
なら、俺のやることは一つである。
俺はすぐに両手剣を背中にしまって、もう片方の剣を取り出した。
そして、俺はそこでクリーオンから走って逃げ続けることをすぐにやめて、ズザザザザとその場で砂ぼこりを撒き散らしながらブレーキをした。
「え、何をしてるの!?透さん、はやく逃げないと!毒の攻撃をしてくるんでしょう?ならそんなところで止まったらまた毒にやられちゃうよ!」
ごめんなさい、星華さん。
と心の中で謝罪をしておく。
だって、今とっさに思いついた方法なんだから、説明している暇もないんです。
そうして、俺は右手に持っていた剣を振りかぶって。
どうやらクリーオンは、失った右鋏を再生する能力はないようである。
なら、そこに急に攻撃をされたらまともに反応はできないよね?
その失った右鋏のあった場所に剣を投げた。
だが、その剣を受け止めれないほどクリーオンの対応力は低くはなかった。
だが、そんなことは俺もわかってる。
これに対応できないくらいなら今までの中で何回かは隙をみせてもおかしくはないしなんならもう倒せている可能性すらある。
対応の仕方についてはある程度予想はついていた。
無理矢理身体を使って残っている左鋏で剣を弾く可能性、それと今まさに毒を放出しようとしている針で弾く。
この二択だと俺は予想した。
できることなら、俺は後者であって欲しいと思う。
それなら、俺も毒の放出を楽に回避できるし、クリーオンに致命的な隙を作れるだろうから。
まあ、前者の対応されたならされたでどうにか毒を避けれるように頑張ろう。
そして、剣を投げられたクリーオンはその自慢の針を持って、剣の切先を突いた。
その威力に対して、あまりにも俺のシルバーメタルソードはいくら炎を纏っているとはいえ、耐久力的にも何もかもが負けていた。
その結果は、単純なものであった。
甲高い音を立てながら砂の地面に叩き落とされていた。
だが、その動きをしたおかげで俺はかなり余裕を持って回避のための行動をすることができた。
「星華さん!今です。今なら、こいつは攻撃をすぐには仕掛けられないです!お願いします!」
「わかった!魔法物質発射」
いつもに比べて少し早口な詠唱によって、星華さんの周りを漂っていた水の刃は剣を弾き落とした時の動作をした状態で止まっていたクリーオンに向けて迫っていた。
それを視界にとらえたのかどうかわからないが、クリーオンは少し無理な体勢のままその水の刃から逃げようとしていた。
だが、あまりに強引な動きだったからかクリーオンはそこで転んでしまった。
おお、これは予想外。
そして、そんな無様を晒していたクリーオンに、水の刃は無感情に斬撃を浴びせる――ことはなかった。
まさか計画していたなんてことは透も考えていない、だがたまたま強引に逃げた結果転んでしまったクリーオンだが、その行動は結果的に水の刃による斬撃は足を切り裂き、甲殻に掠るだけに終わった。
まじか、どうして、なんで?ここで全部終わら―俺は馬鹿か?こんなこと、たくさんあっただろう?落ち着け、落ち着いてどうするか考えろ。
もう一度星華さんに魔法を使ってもらう?いや、そのうちにこいつが起き上がってくるかもしれない。
それなら、俺がこいつに対して攻撃をすれば倒せるか?いや、望み薄だ。
俺が攻撃しているうちにすぐに起き上がるだろう。
いやいや待て待て。
そんなこと起こるわけがない。
焦りすぎだろ、こいつはそもそも足を削がれたんだ、起き上がる足自体がない。
つまり、俺だろうが星華さんだろうが攻撃は余裕!
星華さんの水の刃を避けるために全ての足を捧げたようだが、それはどうやら間違いだったようだな?クリーオン!
だが、いくら動けない可能性が高くあったとしてもいつ異常事態が起こったとしても全然おかしくない。
だから、できることなら一撃で倒し切りたい。
でも俺のスキルを全部つぎ込んでも一撃で倒せるような威力はない。
だとしたら、どうしたらいい?
透は今までの戦いの記憶を思い返していた。
スライムに苦戦して、ゴブリンにボコされたり、ツノシシに殺されかけたり、デカいトカゲに危ない目に遭わされたり、階層主と戦って、その度に何度も死を覚悟して―。
あー、そういえば今はなくなってたけど《アラガウモノ》の追加効果に苦しまされたりもしたな。
そういえば、そのときに―。
そうして、別に死にかけている場面でもないが、走馬灯のように今までの記憶がフラッシュバックしていた。
そして。
―答えは出た。
その答えに辿り着いた俺はすぐに行動していた。
もちろん、まだスキルの効果は切れていない、だからわざわざもう一度スキルを発動する必要はないだろう。
俺はクリーオンに向かって走って、走って、走って、そして、そして、そして。
俺は、跳んだ。
そして、叫ぶ。
「跳重力剣烈ああああああああ!」
俺はクリーオンの腹に向かって、俺の手に持つ両手剣を全力で突き刺した。




