第二章10 やっぱり一人よりは人が多い方がいいよね
直後、幾星 透はその場に立つことすらもできず、なんの前触れもなくその場に倒れた。
客観的に見れば、この行動はそれこそ狂人のそれであろう。
なぜなら、倒れている透は残っている最後の眼球すらも出てきそうなほど右目を見開いていた。
それに、口からはよだれが垂れ、小刻みに体が痙攣している。
(な、何が、お、おこ、おこっ、起こった、んだ?ァァァァ思考ァァァァがまァァァァとまらァァァァないィィィィ。)
今透には何が見えているのか、それは周囲の今まで見えていたものの大半が黒一色となっており、感覚的には何もない虚無の闇の中に一人残されたような感じ―。
というのもあるが、もう一つ透の脳みそを混乱させている要因が、
(な、ん、で、俺がいる)
幾星 透の視界の中に幾星 透だと思える紺色の炎のゆらめきが見える。
なぜそれが自分自身だと確信できているのかは透自身ですらわかっていなかった。
今の透の視界はいうならば神の視界に等しい状態であった。
上の方から自分やその周り見通している、だが、奇妙なことに普通の人間としての視界もあるのである。
つまり今は、透は目から伝わる視界による情報と、何かとてつもない視点からの情報、それを同時に処理していることとなる。
だが、その情報は人間にとって、いや少なくとも、幾星 透の脳みそには多大な負荷となって、透を苦しめていた。
急に発生したスキルによって、事実上のパニック状態に陥ってしまっていたが、流石にこれくらい経てば落ち着いたりする。
ていうかさ!あの鑑定士の人助けてくれないのって思ってたけどそういえばさっき出て行ってたな!?
というよりこの視界どうすればいいんだよ。
確か、ギリギリ意識があった時のステータス欄には
《魔力感知》
効果 片方の目を閉じている間、魔力を感知する。
その間、魔力のないものは黒く見える。
魔力のあるものはその性質、魔力量に応じてさまざまな色となって見える。
その時の視界は360度全てが見えるようになる。
とあったはずである。
ついに手に入った新しいスキルと喜びたいところだが、どうやらあまり嬉しくない系――《アラガウモノ》系のスキルだろう。
こんなに自分自身を混乱させるスキルなら手に入んない方が良かったかもしれない。
だけど、こんなふうに不平不満を言っていてもどうしようもないから解決策を考えなければならないだろう。
まずスキルの発動条件、これは 片目を閉じる、か。
あれなんでだろ?俺、目閉じていられるほど余裕ないし、実際目を閉じているはずもない。
こんなふうに余裕で頭を回している透だが、実際いまだに目を見開いたままジタバタしているのは変わらないのである、多少冷静に頭が働くようになっただけで。
だけど、結果的にスキルは発動しているわけでそれはつまり俺は片目を閉じているわけで。
だが、今俺の脳みそを混乱させている2つの視界。
これがあるということは片方の目が開いていなければならない、そうでなければ俺の視界はこのスキルによるものだけに絞られているはずである。
そして今、俺の目のうちスキル以外の視界を持っているのはただ一つしかない、つまり今片目を閉じていることになっているのは、
「俺の、失った左目?」
となると、俺が今右目を閉じたらどうなるのだろう?そしたらもしかしたら普通の視界――まあ、真っ暗かもしれないけどな。
スキルの発動条件は片目を閉じることだったからな、おそらくそうなるだろう。
俺は、あまりの衝撃と混乱によって見開いたままであった右目を確かな意思を持って閉じた。
そうして、右目を閉じたらそこにはゆらめく炎が点々と存在している、そんな暗闇があった。
その中心にはひときわ大きな炎があった。
とりあえず、視界が一つに絞られたおかげでどうにか混乱を完全に収めた俺はゆっくりと息を吐きながら両手を伸ばした。
すると、俺の視界に映っているぼんやりとした炎も同じような動きをした。
これはおそらくスキルの効果だろう。
つまり、このスキルは本当に自分を上から俯瞰するようなそんな感じの視点を持てるようになるスキルだったようだ。
どうやら俺も魔力を持っていたようで少し嬉しい。
ていうか、スキルって片目を閉じたら発動するんだよね!?今俺は両目を閉じているわけで発動条件からは外れている気がするんだけども。
だけど今はスキルは発動しているから発動条件はもう少し正確にいえば、最低でも片目を閉じる、ことなのだろう。
とりあえず、この現状をどうにかしなければならない。
とりあえずもう一度右目を開けてみる。
再度2つの視界が脳内に入り込んできて俺の脳みその処理に少しずつエラーのようなものができ始める。
だが、先ほどスキルだけの視界を体験していたおかげでどうにか少しだけ、視界を俺は判別できるようになってきたようである。
そうしてどうにか立ち上がれるようになった俺はフラフラとした足取りでナディスさんがいる部屋へと向かっていった。
「ええ、大丈夫?」
とは部屋に戻ってきて開口一番にナディスさんに言われた言葉である。
戻ってきた部屋には星華さんもいたが、どうやら星華さんはこちらを心配そうに見ているだけで何かを言ってくる様子がなかった。
まあ、実際俺は壁に寄りかかりながら歩いてここまで来ていたためそういうふうに心配されても仕方ないのである。
今はある程度は普通にできるようになっている。
ナディスさんも俺のスキルによる視界にはゆらめく炎として表されている。
失った左目がスキルの発動条件である片目を閉じるに反応してしまうのでずっとこの視界が外れることがないという、縛りプレイにも等しい生活をしなければならなくなってしまった。
一応俺の脳内にはいつも通りの視界もあるっちゃあるのだが、あまりそればかりには頼れなそうである。
「大丈夫ですよー。」
今、この二人には心配をかけたくない。
ていうか、星華さんに関していえば俺は迷惑しかかけていないわけで、これ以上は寄りかかりたくないのである。
だから、無理をしてでも普通を装おう。
それにこのスキルはおそらく魔力を感知できるから、多分モンスターも例外ではないと思う。
だから、この上から見れる時点で周りの脅威を判断できるのを利用すればもしかしたら今までより俺はいい動きができる可能性もある。
「なら、いいんだけど。だったら――いや、なんでもないです。」
「はい!」
星華さんは、何か言おうとしていた気がするが俺とナディスさんの会話を聞いて追求する気がなくなったようである。
「それじゃあ、二人ともステータスの紙を私にくれますか?」
俺と星華さんは互いに目を合わせた後お互いのステータスが書かれているであろう紙をナディスさんに渡した。
そうしてナディスさんはもらった紙を確認して何やら色々な作業をした後、俺たちに向かって
「はい、これで手続きは終了です。これからも冒険者として頑張ってください。」
そう、笑いながら言ったのだった。
その言葉に俺と星華さんは言葉ではなく、首を縦に振ることで答えた。
手続きが終わり、俺と星華さんは外に出て行った。
そして星華さんは体を伸ばして「んーー」と言った後。
「やっと手続き終わったねえー」
「ですねー」
いやー、俺からしたらやっとじゃなくてもうなんだけどね。
俺は昨日の話を聞いている感じだともっと長い手続きが待ち構えているものだと思っていたのだが、俺が想定しているほど実際は長くなかったので少し肩透かしを食らったような感じである。
だけどこれで晴れて俺と星華さんは連合の冒険者としての行動ができるようになったのである。
まあ、その最初の冒険のときにこんな視界なのには文句の一つや二つは言いたいところではあるが。
今現在この視界を使いこなす、正確にはスキルの視界と現実の視界をうまく区別して動けない俺は、現状両目を閉じてスキルの視界だけに頼るのが最適解となっている。
だが、俺は糸目キャラではないので両目を閉じたままでずっといるのは良くないので頑張って今は普通にしている。
そんなこんなで俺と星華さんは今、混沌の核に転移した。
あの、混沌の核の中に入る前の魔法陣があるところに今まで一人だけできていた身からすると、となりに誰かがいるというのはかなり意外な状況である。
「いやー、なんだかここに一人だけじゃないって少し違和感を感じるね」
「あ、星華さんもですか?俺も今そう思っていたところですよ」
「それじゃ、さっそく中に入ろうか」
「はい、ではいきましょう」
そう言って星華さんが開けたドアを俺は通って、見慣れた階段を降りていった。
「今日はどこの階層に行くんですか?」
「そうだねー……互いのことを知るために一度五階層よりも前の階層に行ってみるっていうのもありだし、でも君にすぐにあのモンスターと戦わせるのは酷なことかもしれないしね。やっぱり前の階層から始めようか?」
あのモンスターとはクリーオンのことだろうな。
確かに、俺自身すぐにアレともう一度戦えって言われたときに感じるものがないと言ったら、流石に嘘になってしまうのが本音である。
だけどだからと言ってそんな俺のただの私情、さらにいえばただの弱音で星華さんの足を引っ張るようなことはしたくない。
俺自身今の状態でできるかどうかはわからないが、それでも俺は、ここで止まりたくはない。
「星華さん、やっぱり俺は嫌です」
「え?何が」
「俺はここで前の階層に戻って足踏みしていたくありません。俺は先に進みたいです。」
「じゃあそうしようか」
その一言を言う前に星華さんがもしかしたら少しは悩んでくれたかもしれない。
実際、今の透の発言は見方によれば自棄になっているという捉え方もできる。
その可能性をもちろん星華は考えたが、それを飲み込んだ上での言葉である。
それに、結局のところ俺は進まなければレベルも上がらないから目も取り戻すことができないから。
はやく行かねばならない。
「とうちゃーく」
そして、階段を降りていった俺たちを砂を含んだ風が歓迎していた。
いやはや、まだ一度しかこの階層に来ていないから多少新鮮な感じである。
「ここに来たのはいいけど、何を目指して進んでいこうか?なんの目的もなく適当なのは良くないと思うんだけど」
「そうですねー、とりあえずそこら辺にいるサボテンを探して一度一緒に戦ってみませんか?」
「確かにそれがいいかも!わたしたちまだ一回も戦ったことないしね。」
そう、まだ一回も戦ったことがないのが俺と星華さんの現状である。
この状態ですぐにたとえばクリーオンとかと戦ったらそれこそ互いに、いやまあ俺の比率が大きいとは思うのだが足を引っ張って最悪の場合全滅の可能性すらあるので、とりあえず一度戦った方がいいだろう。
まあ、それなら前の階層で試したらいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、その場合俺一人、または星華さん一人ですぐに倒せてしまうので連携とかそれどころではないのである。
そういうのも含めて透の判断である。
「大丈夫?透君。ペース合わせようか?」
「いえ!大丈夫です。全然大丈夫です!」
今、俺は星華さんの後を必死に追いかけている。
これは完全にステータスの差だろう。
いやまあ、初めてステータスを測ってもらったときのナディスさんの反応から察していたけどさ、俺ってやっぱり一般的なステータスに比べて低いステータスだったのだろう。
その圧倒的な差が今、進むペースの差としてわかりやすくでていた。
「んー、それならいいけ――っと。透君、気をつけて。見えてきたよ、サボテンが。」
「ッ――」
さあ、ここからは戦闘である。
先ほどの進むペースの差、アレは確かにステータス上の問題が間違えなくあるのだが、それ以上に視界の異常がでかくなっている。
今の俺は現実の視界が約2割、スキルによる視界が約8割と言ったところだろう。
今、俺は自分自身と星華さんそしてその周りをスキルによって見下ろしている。
その視界の中には二つのゆらめく炎だけが先ほどまであったが、先ほど星華さんがサボテンの存在を報告する直前。
その視界の中に少し何か今までの綺麗な炎とは違う、禍々しい炎が入ってきた時点でまさか、とは思っていたが。
魔力を感知するというこのスキルの性質上、もしかしたらその性質も含めて感知している可能性もあるだろう。
兎にも角にも、すぐに戦闘が起こる。
こうなる前から話していた通り、俺が前衛に、星華さんが後衛に位置する陣形である。
まず俺がモンスターによる攻撃、すなわちヘイトをメインでもらう、いうのであれば壁役=タンクとしての動きをする。
そして、攻撃を受けているうちに星華さんの魔法によってモンスターの撃破。
この流れをやり切るためにこの陣形になっている。
「星華さんはまだあまり近づかないのでください」
「え?どうして?」
「星華さんも気づいていると思いますが、このモンスターはヘイトを向ける相手、すなわち敵を倒すためにプログラムされている、そんな存在です。」
「そうだね」
「それで、俺たち二人とも仲良く敵認定されてしまったら
、このモンスターは魔法を打つ星華さんが警戒から外れなくなっちゃうので、なるべく近づかないで、魔法を使う時だけ近づいていください。」
「確かに、私が気づかれちゃったらダメダメになっちゃうからね。ありがとう、その考えが私の中になかったよ。」
「はい。って言っても俺も今思い出したのでほぼ同じようなものですよ〜。では、行きます。」
「うん、頑張って。」
そうやって、少しカッコつけるのはいいのだが俺は一度サボテンと戦って勝ってしまってるからスキルが使えないので結構危ないのである。
あのときの、かなり殺意の高い攻撃は今でも結構やばかった記憶に残っている。
遠距離攻撃はあまり得策ではないし、距離を詰め過ぎてしまうのも得策ではないと言える。
だから、できるだけ一点集中型の針の放出を誘導していこう。
全方位型の方は回避があまりしやすいとは言いづらい攻撃であるが、一点集中型の針の放出は確かにその攻撃自体の殺意は高いが、全方位型に比べてかなり回避、という点においてはしやすい攻撃と言えるだろう。
そうして、俺はそれを実行するためにまずは両手剣ではなく、片手剣を取り出して、
「おりゃー!」
片手剣は俺のイメージ通り、いやそれ以上にはやく、それ以上に正確に俺がイメージした通りにサボテンに向かって行ったのだった。
流石に、違和感を感じた。
確かに以前よりはステータスが多少なりともマシになったような気がするが、それでは説明ができないほど今の投げられた片手剣は、俺の予想の範囲を超えていた。
それこそ、まるでスキル《投剣》を使用しているようで―――
そのとき、つい数時間前、俺がスキル《魔力感知》の想定外の効果によって俺の思考が混沌に満ちるその一瞬前の記憶が俺の脳内から引っ張られた。
《アラガウモノ》
追加効果=消失
この文章が俺の更新されたステータスにあった文言だったはずである。
あの時はそれどころじゃなかったから、それについてよく考えていなかったが、今考えれば……
え、まじか。
よっしゃあああああ!
えっ、てことはこれからは一度倒したモンスターであろうがなかろうがバンバンスキルを使っていけるようになったっていうこと!?
まじで、アツい、っていうか激アツ。
だったら――
と思ってスキルを発動させようとした透のスキルの視界はみた。
斜め前から凝縮されて放たれた針がかなりの速度で自分に向かってきているということを。
このスキルはこういうところでは役に立つのかもしれない。
たとえば後ろから急に奇襲を仕掛けられたとしてもこのスキルによる神の視点ならある程度はその奇襲による被害も防げるようになるだろう。
それだけで死亡率はかなり下がるとみていいだろうな。
とにかく、本来少しは驚くかもしれない攻撃だがスキルによる若干の先読みがあるからそこまで驚くこともなく回避に成功した。
「透さん!いつでもいけるから、そのときが来たら声を掛けてね!」
「はい!だったらこの後自分がどうにかしてこのサボテンから出された針をサボテンに向かって投げます。そしたらサボテンはおそらくもう一度針を放出します。」
「ふむふむふむふむ」
「サボテンは針を放出した後すぐにもう一度放出することはできないので、もう一度放出した後に魔法を使ってください。」
「わかったよ!」
どうやら俺の言いたいことをすぐ理解してくれた星華さんはその場で待ってくれているようである。
そして俺の視界に入っている星華さんの明るめの黄色い炎のそばに魔力の塊?のようなものができている。
おそらくこれが魔法を発射させずに待機させている状態となっているだろう。
だとしたら、次は確実に隙を作らなければならない。
さっきの時よりも確実に、針を放出させる場所、タイミングを予測して誘導しなければならないだろう。
最大限、星華さんの魔法をサボテンに対してクリティカルヒットさせたい。
おそらく星華さんの魔法なら一撃でサボテンをほふれるだろう。
それは俺がサボテンに針を放出させてその合間合間で距離を詰めるのに比べて明らかに短時間で、つまり効率的に倒せる方法だろう。
ならばなおさら俺の攻撃の対処にサボテンの針、すなわちヘイトを向けさせなければならない。
だとしたら、俺も俺の魔法を使っていかなければならないというものだろう。
そして先の攻撃によって放出されっぱなしになっている針を手に取って。
今までの俺だったら縛りによって使うことのできない、捨てるしかなかった選択肢、それを使おうか。
「火素作成」
俺は、左手の手のひらを真上に向けてこの短い詠唱によって生み出した火を宿す。
そして、その火を右手に持っているその針に引火させるように近づけて
「付与」
そうして、その魔法の詠唱によって右手に持っていたただの短剣くらいの長さがあるサボテンの針の2分の1程度、そこに火が発生した。
それをみた俺はそのスキルの効果に首を縦に振った後、その首を星華さんの方に向けて
「星華さん!行きます!」
その言葉は相手に言葉の意味の理解を全部丸投げしている言葉であり、それを言った本人でさえ伝わるかどうかは五分五分といったところだった。
だが、その意味の理解を丸投げされた星華の瞳は少しの間無理解が宿っていたが、そのすぐ後に理解ったとでもいうような意志を宿して
「わかった!いつでも大丈夫にしておくよ!魔法物質刃状加工」
その詠唱と共に星華さんの近くを漂っていたゆらめく光たちは一つにまとまって、刃物のような形となっていた。
本当にいつでも打ち出せる準備は整ったようである。
それを確認した俺は手に持っている、まあ言うなれば炎の針、これを振りかぶって。
「いけーー!」
サボテンに向かって投げた。
もちろんこの針は剣ではないので精度も威力も上昇していないステータス頼りの針投げである。
だが、その針に火が宿っていればそれは十分な脅威となる。
そういうふうにサボテンは判断をした。
結果は明確であり、それを対処するために全方位型攻撃をするために用意してあったであろう針を俺が投げた針がサボテン自身にぶつかるであろう場所に集めて、それを放出した。
もちろんそれによって俺が投げた炎の針は撃ち落とされてしまった、それどころかそれを撃ち落とすために放たれた針の余波がこちらに向かってくる始末である。
もちろん俺に向かってくる針を全て切り払うなんていう芸当はできない。
だから、俺が選ぶ選択肢はただ一つである。
「逃げろ〜おおお!」
あー、ほんっとにやばい。
ほんっとにやばかった。
俺が全力で前に走ることで避け切ることができたが、その針の前を過ぎ去る瞬間にヒュンヒュンという風を切る音がした。
今までの俺であればそこで終わっていただろう。
そこからすぐに攻撃に転じることなどできなかった。
いや、この表現の仕方は絶対に間違ってあると言えるだろう。
今の俺もそこで終わっている。
だが、前までの俺とは決定的に違うことが一つある。
それは、
「魔法物質発射!」
共に戦ってくれる仲間の存在の有無、それが今と少し前の俺との決定的な違いである。
その星華さんの詠唱によって、先ほどまで星華さんの目の前で命令を待っていたその刃物のような形の物質がサボテンに向けて放たれた。
もちろん先の攻撃に対処するために全ての針を使い果たしたサボテンには悲しいことにその刃に対処する針は一つも残っていなかった。
故に、結果は必然。
その魔法の刃によってサボテンの身体は真っ二つとなった。
「イェーイ!」
「い、いぇーい」
これは先の戦闘が終わった後の透と星華の行動である。
ちょっとこのテンションは少しついていけそうになさそうである。
俺は笑顔を浮かべた星華さんがこちらに走って手を出してきたのでそれをハイタッチしようという意味だと判断した俺はそれに答えた。
とはいえ、連合を組んでから初めての戦闘を快勝で終えれたのは俺としてはかなり嬉しい事実である。
大抵の場合最初は良くない結果を修める俺にとってはこの勝利はかなり意外な結果と言えるだろう。
にしても、である。
「本当に、星華さんの魔法ってすごいですねー」
「えー、そうかな?」
「すごいですよ!あんな、切り札みたいな威力を持ってるなんて、俺の魔法は言うなれば戦闘の選択肢みたいな感じなのに。あんなふうな魔法を使えるのは本当にすごいと思いますよ!」
これは紛れもない本音である。
実際俺の使う魔法は、剣とかそういうふうな武器に纏わせることでしかまともな効果を発揮しないからそれ単体でいい一撃にはならない。
だが、星華さんのそれはそれこそ俺が小説とかアニメとかで思い描いていた魔法のそれであった。
「んー、まあ、そう言われると照れるなー。ありがと、でもあんまり期待しすぎたらダメだからね!」
「はい、気をつけておきます。」
嘘である。
バリッバリ期待させていただきますよその魔法に。
だけど、俺自身も星華さんだけに依存する戦闘スタイルはあまりしたくはないのでできるだけ俺だけでも戦闘を決め切れるような努力は続けるつもりである。
「あの、星華さん」
「何ー?」
「とりあえず、このままサボテンを倒し続ける感じでいいですか?」
「それでいいと思うよ。実際私もそれがいいって思ってたし」
そうして、俺と星華さんはサボテンを倒し続けた。
もちろん、サボテンを倒し続けることによってステータスを上げていきたいというのもあるのだが、それ以上に今回のステータス更新によって発現した《魔力感知》これの性能確認をしたいというのが本当の目的である。
そうして、だいたい10匹前後のサボテンを倒し続けてわかったのは、このスキルは案外使えるスキルということである。
発現した当初は本当にその二重の視界に困惑したものだったが流石にこれだけそのスキルの視界と現実の視界が二重で俺の脳に情報を流し込んでくるのにも多少、本当に多少だが慣れてきた。
結果上から神の視点で状況を判断できるというのは考えているよりもずっとアドバンテージになる。
俺のスキルによって映し出されている炎、これはサボテンを倒すと膨らんだ風船が萎むように消えて、スキルの視界から存在を消していくということ。
そして、サボテンの炎は針の打ち出され方によって反応を変えることである。
全方位型の場合はもとよりあったサボテンの炎の外側、この炎の色が少し濃くなっているということに気づいた。
また、一点集中型。
この攻撃を仕掛ける時はその集中させられた一点。
そこが分厚く、色が濃くなる。
それによって、攻撃の起こりのようなものがわかるようになる。
これはこの現実世界ではあり得ない、それこそゲームで見たような攻撃の予測範囲を教えてくれる、そんな感じの情報を現実世界に適応できる、そんな有用なスキルである。
それがこのスキルについていろいろと調べてきた結果である。
これは失った左目の代わり、いやそれ以上のスキルとなって、俺のことを支えてくれるような気がする。
そして、彼岸 星華という存在。
これがいるだけで俺の戦闘はかなり楽になっていた。
実際、最後の一手を星華さんに9割くらい任せてしまっているのが現状ではある。
だが、その決め手を星華さんに任せる、これが結果的に最適解となってしまっているのだから仕方がないと言いたいくらいである。
そうして、まあこれくらいサボテンのことを倒していればそりゃドロップアイテムも落ちてくるというものである。
サボテンのドロップアイテムは実?のようなものだった。
予想通り防具には使えないものだろう。
あの時はこれ以上サボテンと戦う必要も意味もないと考えていたが、今回はサボテンとの連戦によって星華さんの実力の高さをかなり理解できたような気がする。
だが、こういうふうにいろいろ考えているが、今までの戦闘を繰り返して俺が理解したこと、それは単純である。
それは、戦う時はやっぱり一人よりは人が多い方がいいよね。
ということである。
なんか《アラガウモノ》のスキル効果そのものが消えたような雰囲気が出ていますが消えたのは追加効果だけです。




