第二章7 連合
とてつもなく、冷たい目をした支配者がそこにいた。
どうやら、呆れを通り越して怒りに昇華したらしい。
とはいっても、帰りたくても帰れなかったんだよな。
致命傷を喰らって死にかけていたのは事実だし。
それに一日中気絶して倒れていたからどうしようもないのである。
だけど、支配者に心配をかけてしまったのは事実だから、それを理由に反抗する気にはなれない。
「君は耳が聞こえないのかな?」
え?
「私は、君がこの二日間何をしていたんだい?と聞いたはずなんだけど。」
うん、聞かれました。
間違ってないです。
「黙っていないで早く答えたらどうかな?」
そう言われた透は、どういえばいいかという思考を切り上げて。
「その、なんていうか……」
「うん」
「急に出てきたサソリに殺されかけて、現に片目を失っているわけなんですけど。そこをとある薬屋の人……冒険者なんですけど、その人に助けてもらったんですよ。」
「…………」
彼女の沈黙を無視して透は話を続ける。
彼女がとっくに思考を放棄していることも知らずに。
「そしてついさっき起きて、その薬屋の人と話をしてきて、今帰ってきました。」
「………」
あれ?俺は聞かれたことに対して十分な解答をしたつもりだったんだけど?
事実透の解答は十分であった。
十分すぎるほどに。
「支配者?」
「………」
返ってくるのはまたもや沈黙。
もしかして、まだ足りないのだろうか?
もっと詳しく説明した方がいいのかもしれない。
「えっと詳しく説明すると。砂水晶石をドロップしそうなサソリ………」
そういえばローアさんが俺を半殺しにしたサソリの正式名称のようなものを言っていた気がする。
なんだっけ?
クリオネ?いや違う気がする、クリーム?これも違う。
なんだっけ……あ!そうだそうだクリーオンだクリーオン。
「正確にいえばクリーオンに片目潰されて、星華さん――あ、助けてくれた人です――の話によればお腹を貫かれていたみたいです。そこを助けてくれたのが今言った星華さんで、その星華さんが働いている薬屋で1日中倒れていて、それで自分が起きて、星華さんと、ローアさん……お店の店主さんです、と話をして今に至ります!」
うむ、我ながら完璧な説明、解答である。
これなら流石に支配者も満足だろう。
バタッと何かが倒れる音がした。
それは透のものでも、近くの誰かが倒れたわけでもなく。
それは透の目の前にいる、支配者その人で
「支配者ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
倒れる支配者を見た透は絶叫した。
自分のせいということに気づかないまま。
「君は、どうして平然とそんなことを言えるんだい?」
先の出来事から3時間後くらいだろうか?支配者が起きた。
倒れられた時はマジでかなりびっくりしたが、すぐ起きてくれて嬉しい限りである。
もしかして、防具の作成に入れ込みすぎて疲労が溜まっていたのに、それに気づかなかったのだろうか。
だとしたら、今は休んでもらうのが一番であろう。
誰でも、疲れている時はしっかりと休むべきだと思うしね。
「ええっと、まあ事実ですから。」
「だとしても、よくそんな過酷を経験して平然としていられるね。あくまで私からしたらそれは異常だと感じてしまうよ。」
「あの、支配者。」
「なんだい?」
「一度、休んだらどうでしょうか?」
「へ?」
「自分のせいで、支配者に心配をかけてしまったから、多分精神的にも疲れているんですよ。だから、たまには休んだ方がいいんじゃないんですか?」
「んー、それは大丈夫だよ。私は定期的に適度な休憩を挟んでいるし、心配されるほど疲れていない。だから大丈夫さ。」
「それならいいんですけど。」
「ていうか、君こそ大丈夫かい?」
そう言って支配者は、俺の頭の左側の空洞を指差した。
起きた時は違和感がすごかったが、今は少しずつ慣れてきたおかげで、あまりズレも感じなくなっている。
人間の慣れって怖いなと俺は少し思った。
「見た目ほど辛くないですよ。今はだんだん慣れてきましたし。まあ、慣れたらダメなものだとは思うんですけど。」
「そう、なのかい?」
「はい!」
「ならいいんだけど。とにかく!もうあまり怪我をしないようにしてほしいな。」
そう言った後支配者は、一度深呼吸をして。
「今回の件で私は決めたよ。とうに君は1人で冒険できる階層を越してしまったようだからね。君にも連合を組んでもらいたい。」
「え」
「あー、もしかして君は連合について知らないのかい?なら私が君に――」
「知ってます。」
まさか、支配者から連合についての話をされるとは、予想外である。
いつもこのように、異世界の新要素について俺は知らないのだが、今回はたまたま知っていたので、珍しくこのように答えることができた。
「へー、君にしては珍しいじゃないか。」
「たまたま知る機会があったので。」
「それで!君には連合を組むまで冒険することを禁止しようと思う。まあ、もし君がそれで冒険者辞めれるラッキーとか思う人だとしたら、すでに辞めているだろうからね。だからこその提案だ。」
うーん。
なんたる偶然。
なんというタイミングでこんなことを話すんだ支配者!
なんと、俺はすでに連合のメンバーにお誘いをもらっているのである。
それも、ついさっき!
「その提案についてはわかりました。ですが……」
「ですが、なんだい?それでも行かさせて欲しいとでもいうつもりなのかい?だとしたら、それは無理だね。私はこのことについてはかなり硬く決めているから、いくら君でもこの決意は……」
「あの、そうじゃなくて。実は自分、その連合に誘われているんです。」
「は?」
「あの、だから自分は連合にもう誘われていて、それについての相談を今から支配者にしようとしていたんです。」
今、透の言ったことに一つも虚偽はない。
だが、それを信じれるはずもない、彼女は
「そんな都合のいいこと、あるわけないじゃないか。今なら、許してあげよう。君が冒険に行きたいのはわかった。だけど嘘をつくのは良くないと私は思うよ。」
あるんだよなぁ、そんな都合のいいことが。
というか、俺からしたら今の支配者の発言の方がよほど都合が良すぎる。
「ほんとなんですよ、それが。」
「じゃあ、その人を私の前に連れてきてくれないか?そしたら、私もそれを信用しようじゃないか。」
連れてくる、か。
相手をわざわざこちらに来させるのは少し申し訳ない。
ならば、だ。
「すいません支配者、相手をこちらに来させるというのも少し気が引けるので、自分達で相手の場所へ行かせてもらってもいいでしょうか?」
「ああ、いいとも。見せてくれないか?君を連合に誘ったっていう人をさ。」
そう言って、かなり俺のことを疑っている支配者は少し身支度をした後、俺と一緒にあの薬屋に向かうのだった。
まだあそこから出てきてから少ししか経っていないのにもう一度出向くのも少しアレな気がするけどね。
そうして、俺と支配者は星華さんとローアさんのいる薬屋へと向かっている。
もちろん行き先を知っている俺は前を歩いており、その後ろを怪訝そうな表情をしている支配者がついてきている。
「あ、次はそこを右に行きます。」
「君さ、もしかして遠回りしていないかい?」
「そこに行くまで道がそこそこ複雑なので、曲がりくねりは多いですがこれが近道です。」
実際、俺が今通っている道はかなり曲がりくねりが多く、人によっては同じところをぐるぐるしているだけと錯覚してしまうような道である。
最初はもっと開けたまっすぐな道で薬屋に向かっていたのだが、ある日ちょっと別の道で行くと、そっちの方が良かったのである。
とにかく、なるべく早く支配者の疑いを晴らしたいところである。
それに、星華さんと一緒に連合について話せるから実質一石二鳥である。
そして、そして、そして。
そんな曲がることが多い道を進み切って目的の場所に着いた。
「ここです!」
「――」
支配者は驚いて固まっていた。
まあ、多分俺が本当に誘われていたとは思っていなかったのだろう。
そして、そんな支配者を俺は一度放っておいて、
「星華さーん!」
と店内に入るや否やいうのだった。
「随分と早かったねー。」
「はい!」
薬屋の中に入った俺を見た星華さんは少し驚いたような顔をしてそう言った。
支配者は、少しの間店の前で突っ立っていたのだが、半ば強制的に俺が店内に入れていた。
「騒がしい子達じゃのう」
「「あははははは」」
俺と星華さんは、感情のこもっていない声で笑った。
それを見たローアさんは少し呆れたようにため息を吐いた後、その瞳を少し鋭くした。
「そして、こんなすぐにここに戻ってきたということは、結論が出たということかのう?」
「あー、ここにきた理由はその件についてなんですけど、支配者……そこにいる俺の主なんですけど。どうにも星華さん達のことを信じてくれなくて……」
少しきつい言葉になってしまったような気がするが、おおむねあっているはずである。
「その言い方には少し語弊があるね。」
そうして、今日何度目かの気絶を繰り返した支配者が声を上げた。
良くも悪くも、先ほどの透の少しきつい、彼女のことを少し悪くいうような言葉が功を奏して彼女の意識は戻ってきた。
「正確に言えば、君にそんなことを言ってくれるような人がいると思えなかったんだよ。」
「え、透さんそんなふうに思われてたの?」
「え、そんなことないと思いますけど。」
「君は私と初めて出会った時を忘れたのかい?」
覚えている。
あの頃の俺は支配者がいなければ本当に死んでいた。
だから、あの時のこと……いや今もだが本当に感謝している。
そういうふうに透が過去の記憶に浸っていると。
「君は確かあの時、お金も職業も食べ物も住む場所も何もない状態で路地の影に座っていたじゃないか。そんなふうになる時点で、頼りになる友人やそのような関係の人がいないと思うのは自然なことじゃないかな?」
まあ、確かに。
あの時の俺にはそのような存在は何一つなかった。
事実だから先ほどの言葉を否定したくても否定できない。
「はい、確かにそうでした、、。」
「えー、私はそうはならなかったけど、君 本当によく生きているよね。」
「あはは」
透は感情のこもっていない声で笑った!
「そういうことで、私は彼のことを信じれなかっただけです。お二方のことを疑っているわけではありません。」
「それなら良かったです!」
「そうじゃな。」
どうにかして打ち解けることに成功したようである。
「それで少年、本題に入ろうではないか?」
「そうですね。では俺の主も含めて、連合についての話をさせてもらいます。」
俺はそう言ってこの話し合いを始めた。
といっても、俺と星華さんは同意しているからそこは問題ではなかった。
話し合いは詰まることもなく、かなり順調に円滑に進んでいった。
「つまり、君と星華ちゃんはもう話は済ませていて、あとは私が納得すればそれで終わるということかな?」
「まあ、そうなりますね。」
「だったら、結論から言わせてもらうと
全然オッケー!どうぞうちの透くんをよろしくお願いします!」
そう言って、すぐにこの件について支配者は同意の意思を示した。
正直なところもう少し難しい話し合いになると思っていたのだが、想定外に速く同意を得れてかなりびっくりしていた。
「もう少し詳しくすると、星華ちゃん、そしてローアさんからは特に悪意のようなものは感じない。それに何よりも星華ちゃん、君は透くんを助けてくれたそれだけで信用できる。だから、君と星華ちゃんが連合を組むことに反対はないよ。というか、願ったり叶ったりだしね♪」
そう言って、支配者はこちらに視線を送ってきた。
まあ、タイミングがいいのは間違いないからね。
「だったら、」
そして、星華さんは期待の目をこちらに向けてそう言った。
その後返す言葉はもう決まっている、もちろん―――
「はい!俺と星華さんで連合を組みましょう!これからよろしくお願いします!」
そういうと、星華さんは安心したようにホッとため息を吐いた後綺麗に笑って
「うん!これからよろしくね。透さん!」
そうして、俺は美少女の星華さんと連合を組むことになった。
仲間がいるのといないのでは今まで数度仲間ありで戦ったことのある俺でもわかる。
これはかなり今後の冒険が楽に、順調になるだろう。
今後の冒険に楽しみになってきた!
それに、俺の左目を治すためにも俺は今後も最大限の速度で成長を続けていかなければならない。
そうやって決意を固めていると。
「それじゃ透さん。連合になるための手続きをしようか。」
え、手続きとかってあるの?口約束くらいのものだと思っていたんだけど。
「それってどんなことをしたらいいんですか?」
「そうだね……。ステータスとか身分証明書に書いているものを記載するとか色々あるけど一番大事なところを決めようか。」
そうして星華さんは一息間をあけた後。
「私達の連合の名前を決めよーう!」




