37.サフィとルビー
「おい、そんなことより見ろ、見ろ!」
いつの間にかアキラの腕にぶら下がっていたルビーが弾んだ声を上げた。
岩山に囲まれた平地の中に作られた砦を指差す。
「あれが我らの砦だ! 私の姉様が治めているのだぞ!」
「お前の姉さん……?」
「お壌はマリナーラの党首サフィ様の妹なんすよ」
「姉様は物知りだぞ。お前の知りたいことはなんでも教えてくれるはずだ」
「そりゃ、楽しみだ」
「もしかしたら、お前を若返らせる術もわかるかもしれんな」
「カイもそう思うか!」
顔を輝かせるアキラに、少し微妙な顔をしたミユが袖を引く。
「やっぱり元の年齢に戻りたいのか」
「そりゃあ、一応ぴちぴちの十五歳だからな」
「その顔でぴちぴちと言われても、な」
「姉様ならなんでも知っているさ。姉様は昔王都で学士様をやっていたんだからな」
「王都の学士がテロリストの党首に……」
「カイ?」
怪訝な顔で覗き込んでくるアキラにカイははっと顔を上げた。
「どうかしたのか」
「いや、なんでもない」
「ほら、雷鳥が降り始めた。こっちへ来いよ! この時の下がすごいんだぞ!」
「おい、引っ張るな」
ルビーに腕を引かれていく姿は、まるで祖父と孫のようだ。
アキラの背を見るカイの視線は鋭い。
「都落ちした学士に何か思うところでも?」
「王権に反する学識者に、勇者と魔王の話を聞きたい。伝説の、その奥にある現実を」
「そう言うと思ってましたよ」
シオンは小さく笑うと頷いた。
空飛ぶ船は静かに岩山の砦に吸い込まれていった。
「あなたが魔王アキラ、か」
サフィは太陽のように明るいルビーとは対照的に、山奥の湖畔のように静やかな性質をもった女性だった。
「これが姉様だ!」
とルビーが飛びつかなければ、アキラは信じなかっただろう。
砦の最奥部、党首の部屋に通された一行だったが、その部屋は机が一つ置いてあるだけの実に質素なものだ。
綿毛のような金髪をふんわり流しているルビーに対し、サフィは茶色に近い真っ直ぐな赤毛をばっさりと肩で切りそろえている。男物の服に胸当てをつけた長身のいでたちは、男性将校といっても通りそうなほど凛々しいものだった。
「あなたがマリナーラの党首、サフィ。王都の学士ですか?」
「ルビーですね。余計なことをあなた方に話したのは」
「あなたの妹に出会う前に、黒の教会のマキというシスターに教会に来るように誘いを受けました」
「マキですか。あの魔女」
くるくると表情を変える妹に対して、姉のサフィは無表情といっても良い冷静さだ。
「俺にはなぜマキやあんたたちが俺を必要とするのかわからない。魔王だ、なんて言われても何が何だかさっぱりだ。いや、わからないんじゃない。今まで知ろうとしてこなかったんだ。知る必要はないと思って」
アキラの言うことにいちいち頷くと、サフィは静かな声で応えた。
「普通に暮らしている上では、魔王である自分のことなど調べようとは思わないでしょう。
それが自然です。『日常』に疑問を持った者の行く末はこういうことになります」
自分の胸に手を当ててサフィはアキラに言った。
「今まで知らなかった現実を突きつけられたからといって、自分を怠惰であると責める必要はありません」
「思ったよりも優しいのだな、テロリストの親玉というのは」
「優しい?」
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