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30.海賊登場

「俺は……」


 一歩踏み出そうとしたアキラは、左腕を強く引かれて足を止めた。


 ミユが泣きそうな顔でこちらを見上げている。


 潤んだ目に小さく嘆息すると、アキラは声を張り上げた。


「この老体に砲撃をかいくぐっての海越えは辛いな。


 もう少し穏便に迎えに来てくれると、助かる」


「……そうですか」


 静かに答えるとマキは乱れた髪を手で直して微笑んだ。


「いつでも我々はあなた様の味方です。何かお困りの際にはぜひお声がけ下さい。


 また、お迎えにあがります。さ、いきましょう」


 その言葉に応じて、クラーケンは船から離れ始めた。


 砲撃が何回か直撃しているはずだが、支障はないらしい。


「魔物ってのは、あんなに強いものなのか」


「ほんとにな……」


 ミユにしがみつかれながら、アキラも呆然と言った。


「あんなのを従えられる自信は全然ないんだが」


「さあ、どうだか」


 剣を柄に収めると、カイはスタスタと甲板を歩いて二人に近づいてきた。


 砲撃による揺れなどものともしない。


「とりあえず、船室に戻ろう」


 あっという間に近寄ってきた海賊船を見上げ、カイはそう促した。


「何だよ、勇者なのに戦わないのか?」


「人間一人でどうやって船と戦えと?」


 胡乱な目を向けるアキラに、カイはずばっと言い切った。


「魔王・魔物ならいざ知らず、私は人間を切る気はない」


「対して違わないと思うけどな……ああああっ!」


 不意にアキラは重要なことを忘れていたことに気が付き、大声を上げて頭をかきむしった。


「何だ?」


「どうした、アキラ」


「しまった~! 若返りの薬のこと、聞くの忘れてた~!」


『あ』


 カイとミユは声を合わせた。


 もとより龍王退治よりもアキラにとっては優先度の高い目的である。


「首都までいかないでも薬のことがわかるチャンスだったのに~!」


 しかも、その教団幹部が目の前にいたのに、である。


「マキもマキだよ。なんでそれを教えてくれないんだよ!」


「好きで老人でいるわけではないことを言わなかったからだと思うが……」


 もし伝えていれば、嬉々として教えてくれそうである。


「とりあえず今はそのことを悔いていても仕方なかろう」


  嫌そうな顔で海賊船を見上げるカイ。


「クラーケンに砲撃してくる海賊船だぞ。まともな人間が乗っているわけが……」


「くおらあっ!


 聞こえていないとでも思っているのかもしれぬが、甘い!」


 叫び声と共に、『空から人間が降ってきた』。


 尋常ではない距離を飛び越えてきたその人物は、すっくと甲板に降り立つと、右手に持った拳銃をアキラに向けた。


「このルビー様の船を愚弄するとは、いい度胸だ!」


「ほら、厄介だった」


「って言うか、何でお前が言ったのに俺が銃向けられてるんだよ!」


 そら見たことか、という顔をするカイに両手を上げたアキラは叫んだ。

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