29.託宣
「カイが首都の監視を受けていたというなら、俺はどうなんだ」
「そうだ。カイとアキラは同じ預言者から託宣を受けている。どちらにも首都から人間が派遣されていると考えるのが自然だ」
「その点は私どもも奇妙だと思っております」
「俺が直接首都へ向かわなかったのも、そこがよくわからなかったからだ。
とにかく首都へ来いの一点張りで肝心の魔王のことを何も教えてくれない。
私の使命は魔王を倒すことだというのに、王のところへ出向く理由がわからなかった。妙な話だと思った」
油断なくマキとクラーケンを観察しながら、カイは「神」の言葉を思い出していた。
『焦ることはないのですよ』
七色のオーロラが空を覆う極寒の地で、カイはそれと遭遇していた。
村を出て世界を見、魔王と呼ばれる者には片端からぶつかっていった。
しかし本当の魔王の気配すら感じ取ることのできないこの世の中で、一体何を倒せというのか。
雪山で「氷王」と呼ばれる龍を倒したカイは、絶望を感じていた。
そこへ現れたのが、この「女神」だった。
オーロラの滑らかな輝きの中に浮かび上がった巨大な姿に、カイは思わず問いかけていた。「魔王はこの世に存在するのか」と。
『来るべきときに、魔王は必ずあなたの前に現れます。それまで待っていればよいのです』
「しかし、魔王が力をつけてからでは遅いのではありませんか」
勇者としての鍛錬を受け己の実力に自信のあるカイではあったが、それに自惚れるほどカイは達観した性格ではない。
「着々と力をつけつつある魔王の覚醒を待つより、まだ力をつけていない状態で倒したほうが得策ではないのですか」
『焦ることはありません。待つのです』
その時はなぜ答えを授けられないのか。世界の危機にこの女神の暢気さは何だと眉をしかめたカイだが、今朧気ながらもその理由がわかってきていた。
「もしかして、魔王の居場所を教えてくれないのではなくて、知らなかったのではないか」
「え? え? どういうことだよ」
「そのとおりです。実際勇者を見つけることは我々には難しいことではありませんでしたが、魔王・アキラ。あなたは勇者カイが見出すまで我らは見つけることはできなかった。
ゆえに勇者が選ばれる条件と、魔王が選ばれる条件では違いがあるのかもしれない、ということが考えられます」
そんなことより、とマキはアキラを見つめた。
「今のあなたは、その勇者の支配を離れ、我々とともにこの船を離れることが可能です」
「支配などしていない!」
叫ぶカイを尻目にマキはクラーケンを示してみせる。
「この子は私とあなたを迎えるために教会がよこした者です。半透明の見た目とは異なり実体がありますので、移動に対する心配はありません」
マキは一歩足を踏み出した。
「たとえあなたが我々の教会にいらしたとしても、私はあなたの望まない状況をあなたに押し付けることはいたしません。それは我々全信徒の考えだと思っていただいて宜しいかと思います。要は体のよい乗合馬車とでも思っていただければ」
また一歩踏み出す。
「もちろん、あなたが望むのでしたら我々と行動を共にしていただければと思います。
いかがでしょう」
「俺は……」
「アキラ!」
「行っちゃダメだ、アキラ! こんな怪しげな奴のいうこと信じられるものか!」
「俺は……」
ドォン!
突然の衝撃にアキラとミユは慌てて船べりに捕まった。
微動だにしないカイとマキは油断なく辺りを見渡した。
月明かりに浮かび上がった船のシルエットにアキラは呆然と呟いた。
「海賊……?」
「クラーケンに発砲する勇気がある海賊がいるとも思えませんけれども」
意味ありげな笑いを浮かべてマキはクラーケンの足に飛び乗った。
「マキ!」
「少々面倒な相手が現れたようですので、これで失礼させていただきたいと思います」
砲撃の合間にもよく通る声で丁寧に挨拶すると、マキはアキラを見つめた。
「どうされます? ご一緒に行かれますか?」
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