28.魔王様を捜せ
無言の圧力にアキラはこめかみを押さえた。
「魔王を探していたのは勇者・カイだけではないのです」
「どいつもこいつも御伽噺に振り回されやがって……。自分たちで勝手にやってくれよ」
「ええ。ですから私はあなたのご意見を伺いに参ったのです」
アキラのぼやきに律儀に答えると、マキは笑みを消した。
「我々は確かにあなた様を崇拝しておりますが、それ故にあなた様のご意思を尊重したいと考えております。人からの抑圧こそが、我らが最も忌避する悪行ですから」
ゆったりとカイとミユを見ると小さく笑う。
「あなた方のように、ご自分の人生のために他人の人生を決め付けるような行いこそを、ね」
「その考え方自体も、私たちと同じことだとは思わないのか」
「考え方には人それぞれ、立場や行き方によって相違があることも存じております。
ですので、自分たちを『正義』そのほかの方を『悪』と限定することもいたしません」
「それで、そのクロノ教団が俺になんの用? この船で俺に会ったことも、偶然じゃないんだよな」
「船でお会いしたことは偶然ではありませんが、お助けいただいたのは偶然です」
警戒気味のアキラにマキは穏やかな笑みで答えた。その頬がうっすら赤くなっている。
「嬉しかった……」
「崇拝する魔王様に助けられれば、信徒としてはそれは嬉しいだろう」
「違います。わかっていませんね」
うっとりとした表情のままマキは頬に手を当ててミユに答えた。
「人に気にかけてもらう、助けてもらうということがどれだけ私にとって得難いものであるか、あなたにはわからないのですね。それが魔王様だったということは、私にとっては嬉しい付加価値に過ぎません」
ひとしきり語ると、マキは真顔に戻った。
「首都で龍討伐のための人員が集められていることは知っていますね」
「知っているも何も、その討伐隊に加わる為に俺たちは首都に向かっている」
「その目的が名目でしかないということは?」
「どういうことだ?」
「まさか……」
マキの言葉に嫌な気配を感じ、アキラは渋面になった。
「では、王国が隣国の小国全てにに宣戦布告をしていることは?」
「ああ、それは知っている。なんでこの大国が年中戦をしなくちゃならないのかは知らないけど」
「王本人に問いただしてみないことにはわかることではありません。
そして、私たちはそれに抗うことができても、その本質までを理解することは困難を極めるでしょう」
ただ、と語気を強めてマキは続けた。
「この状態が隣国に対しての重大な抑圧となることは推測に難くなく、我々は行動を開始した次第です。龍討伐の人員は、他国に対しての兵隊増強の目くらましに過ぎません。実際に龍がいるかどうかということも、怪しい」
「龍がいないんじゃ、集まった人間は納得がいかないだろう」
「龍という言葉に釣られてやってくる勇者や魔王を見つければ、それらを攻撃目標にすりかえればいいだけです」
「そんな……」
こともなげに言うマキの言葉に、ミユは絶句した。
「……この討伐隊には、俺たちを引き上げる目的もあるというのか」
「あくまでそれはお前たちの仮説だろう?」
毛を逆立てるミユは今にもマキに飛び掛らん勢いだ。アキラはミユの腕を押さえる。
「勇者カイ。あなたには首都から使いが来ていたはずですね。
なぜそれに従い、王城へ赴かなかったのですか。この小細工は、あなたを首都に向かわせる一手でもあるのですよ」
「え?」
マキの言葉にアキラが振り返ると、カイが渋面で立っていた。
「勇者カイの成長については、逐次首都に報告がなされていたはず。あなたの教育係は首都からあなたの村に派遣されていたのでしょう? 勇者は王命を受けてこその正式な勇者。勇者の王道を歩むことが、あなたが今まで厳守してきた生き方の指針だったのではないのですか」
アキラにとっては勇者の存在が王に認められていたことも驚きだったが、さらにカイがその誘いを断っていたことも衝撃だった。
御伽噺の中の勇者。王の依頼で魔王を倒す聖人。出会ったときからカイの行動理念はそこにあると思いこんでいた。だからこそ何の懸念もなく当り散らしても来たのだが……。
「正体のわからないものに従うことはできかねる」
お前もだ、とカイは呟いた。
「待てよ」
黙ってマキの言葉を聞いていたアキラが声を上げた。
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