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23.シスターへ懺悔

 シスターのマキは一人の旅人の告白を聞いていた。


 ここは海を渡る船の上だ。


 マキは布教活動の途中であったが、縋ってくる迷い子……この男はすでに老人だったが……と見放すことは出来なかった。


 彼の言い分とは、自分に期待を寄せて全力を尽くしてくれる人々がいるのだが、どうにもその期待が辛い。重荷であるという。


 彼らの善意は疑わないのだが、できれば逃げ出したい。こんなことを考える自分は薄情なのだろうか、と切々と訴えてくる。


 その悲痛な心の叫びに、マキは『老人』の前に膝まずくと、ひた、とその黒い瞳を見据えた。


「よく……よくぞ話してくださいました」


 真摯にこちらを見つめ返してくる老人に、瞳を潤ませてマキは言った。


「辛かったでしょう。しかもあなたはそれだけの苦痛を味わいながらも、なおかつその人々に愛情をもって接し、しかもその中から逃げ出したい自分に罪悪まで感じでいるのですね。なんと神々しい精神でしょう」


「あ、いや、そこまでのものでは。あいつらにもあいつらの事情があるし……」


 切々と訴えていた様子から一変、戸惑った様子を見せる相手にマキはいよいよ感動した。


いったい、この清々しい人をここまで追い詰める人たちとはどんな人物なのだろう。


「周囲の方々に期待を寄せられるとは、あなたは余程素晴らしい方なのでしょうね。


 でも、そんなに頑張ることはないんですよ。あなたの人生はあなただけのもの。どうぞその輝かしい人生を、自分の思うままに過ごすことに迷いを持たないで下さい」


「そうですよね!」


 ふいに元気になると、老人はマキの手を握り返してきた。


 老人とは思えないほどの強い力に、マキは一瞬ひるんだ。


 きらきらと少年のように黒い瞳を輝かせると、腰まで伸ばして一つに結んだ白い髪を犬の尻尾のよう上下させる。


「カイが、ミユが何を俺に期待しようと、俺以上の自分になれるわけもないし、これ以上あいつらに付き合う義理もない。何といっても二人とも俺を殺す為に張り切っているわけなんだから、よく考えたらさっさと脱走した方がいいに決まってるんだ」


「え? 何? 殺す?」


 はきはきした口調で物騒な単語を並び立てる老人にマキが目を白黒させていると、老人はすっくと立ち上がった。


「意外と体力もついてきたたことだし、ここは一発逃げの一手で!」


「この……大馬鹿者ー!」


 怒鳴り声とともに甲板に駆け上がってきた少年は、情け容赦なく老人、アキラの頭にデコピンを食らわせた。


 同時になぜか腕を押さえて悶絶する。


「あ、あなたはなんてことを……!」


「自分が雷撃くらうのわかっててなんでやるのかな……」


 庇うようにアキラの前に立ち塞がるマキに向かって、ゆっくりと甲板に上がってきたミユがぱたぱたと手を振った。


「心配するな。私たちはその老人の連れだ」


「えっ?! では鍛えて殺そうとして期待を寄せた人たちですか」


「……一体どういう相談をしていたんだ、お前」


「モーニングスターをちらつかせるな、ミユ!」


「え? そんな物騒な物を持っているのですか、あなた」


「……お前?」


 ミユは今度は怪訝な顔でマキを見つめた。


 なんといってもミユの獲物は目立つ。船に乗るさえもこれで船員とひと悶着起こしたくらいだ。


「ああ、失礼しました。私、見えないものですから」


 あっさりと言われ、逆にミユは恐縮した。


 慌ててマキの顔を覗きこむミユだが、きらきら輝く青い双眸からはその様子は見えなかった。


「いいんですよ。私の目は見た目では見えないように見えないものですから、わかりにくいのです。こちらこそ、初対面の方に失礼なことを」


「シスター、一応連れではあるのでそんなに警戒しなくてもいいですよ」


 自分を庇うマキを落ち着かせ、アキラは後ろ頭を掻いた。


「プライベートタイムは干渉しない約束じゃなかったっけ」


「魔王がシスターに人生相談していれば、突っ込みの一つもいれたくなるのは勇者として当たり前だろう!」


「まおう? ゆうしゃ?」


 マキは小首を傾げる。


「申し遅れました、シスター。私はカイ。勇者カイと申します」


「あたしは山の巫女・ミユ」


「勇者様に巫女様……?」


 ほら、とカイに肘でつつかれて実に嫌そうにアキラは言った。


「アキラです。こう見えて十五歳です。将来魔王になるって予言されています」


「は? は? はあっ?!」


「ほらね、突っ込みどころ満載でしょう?」


 混乱に混乱を重ねたマキに、カイは至極真面目な顔で嘆息した。

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