24.解呪の秘薬
「失礼しました。あまりに唐突にいろいろなことをお聞きしたもので。
勇者カイ様に巫女のミユ様。そして魔王のアキラ様、ですね」
『……』
わかれ、というほうが無理がある。
そう思ったからこその自己紹介だったが、すっかり直球で受け止めたマキに逆に三人は困惑した。
船底に近い大広間で食事を囲みながら、一同は介していた。
少し早い夕食が会食となったのはマキのたっての希望であったが、まだ信頼を得ていないのかアキラをカイやミユから庇うように座っている。
輝く笑顔のこの若いシスターは、金色の髪と蒼い瞳でなかなか愛くるしい顔をしている。
とは言え、アキラが声をかけたのも決して最初から人生相談をしようとしていたわけではない。
狭い船室で勇者だの巫女だのと顔を付き合わせるのが億劫になり気晴らしに甲板に出てみたところ、タチの悪い連中にマキが絡まれているのに出くわしたからだった。
(俺が女の子を助けることができるなんて、驚きだよな)
実際にカイの「魔王特訓」は大したものだった。アキラが老年になってしまったことでメニューの変更を余儀なくされたが、それでももとより貧弱だったアキラの身体を船旅に耐えうるほど強靭なものに作り変え、か弱い婦女子に群がる輩を追い払う程度には強くしてくれた。
(あいつ、いっそのこと勇者なんてやめてトレーナーにでもなればいいんだ)
アキラは本気でそう思った。スパルタだが、相手を動かすことがうまい。
勇者とはそういう資質も必要なのかもしれない。
ちなみにアキラの実家である「かもめ亭」にはアキラ老人化の件は知らせていない。
真っ青になったカイが「殺されるから」という理由で猛反対し、「街は怖い」というミユの声により街を経由しないで首都へ向かうことになった。
旅立ちを急いだのはアキラが旅ができるようになったということもあるが、首都でついに「龍討伐」の人員募集が始まったからに他ならない。
カイにしてもいつまでもアキラの特訓に付き合うつもりはないようだったし、アキラにしてみれば、逃げ場所のない岩山よりも旅先の方がカイから逃げ出しやすいだろうという安易な予測をたてていた。
実際カイは非常に優秀な探索者で、どこへ逃げようとたちどころにアキラを発見してしまうのだった。
そしてアキラには、首都に向かうもう一つの事情があった。
「え? それほんと?」
「マジで、マジで」
船着場の小さな食堂。出航を待っている間にふらりと寄っただけの場所で、アキラはかなり有益な情報を得た。
「首都で今、不老長寿とか、若返りとかの薬が出回っているって話」
「マジかよ」
思わず十五歳の言葉が出て、アキラは口を手で覆った。
しかし船乗りの少年はそれがおもしろいと思っているのか、さらに身を乗り出して続けた。
「マジ、マジ。俺、その荷物運ぶ仕事やってたんだからな」
「おおっ!」
一緒になって身を乗り出すと、アキラはぱちん、と手を鳴らした。
「その若返りの薬さえ手に入れば」
「そ、爺ちゃんも若々しくなって、ぴっちぴちのギャルといいこともできるってもんよ」
「や、そっちのほうは特によくて」
このこの、と肘をついてくる少年に頬を引きつらせる。端から見れば祖父と孫の語らいのように見えるかもしれないが、実際は同年代の少年の馬鹿話である。
しかし、アキラは真剣だった。
カイやミユにああは言ったものの実際は十五歳の少年。この七十の身体に満足しているわけでは決してない。とは言え、最初に大見得を切ってしまった以上引くに引けない。
根性はなくとも見栄だけは人一倍あるアキラだった。
「その薬って、首都に行けば手に入るものなのか?」
「馬鹿言っちゃいけないな。首都でだって入手することができるのはほんの一握りのお偉いさんだけさ」
「そんな特別なものなのか?」
「そりゃあ、不老長寿に若返りとなれば、人類の夢ってやつじゃないか」
「夢、ね……」
人類の悪夢って言われてる俺とは真逆の存在だな、とアキラは心中ため息をついた。
「じゃあ、俺みたいな一般市民には到底入手できない代物ってことか」
「それがそうとも言い切れないんだな~」
昼間から飲酒しながら、少年は下卑た笑いを浮かべた。
「大体そんな偉いさんの荷物、俺なんかが運べると思う?」
「うーん、無理そうだなぁ」
「そそ。俺が運んだのはさ、首都で今流行りだした新興宗教の教会なのさ」
「なんでまた教会でそんな物……」
「やっぱあれじゃない? 信者を増やす為には効果的な『神の身業』ってものが売りになるんじゃないの?」
それならばその薬のことを口外したら意味ないだろう、と思ったアキラだが、喉から手が出るほど欲しいその情報のことが気になった。
「それじゃあ、その教会に入信すれば手に入るのかな」
「正規ルートで手に入れるよりはずっと簡単だと思うけどね」
「聞いたか、カイ!」
「聞いたが……」
眉間に皺を寄せるカイ。誰が聞いても怪しい話である。
ましてや七十の老人ならば間違ってもこんな話しには飛びつかないだろう。
しかし、見てくれは七十歳とはいえ、アキラは正真正銘の十五歳である。
当然頭の中身も十五歳のままなわけで、普通の大人ならばこの話にまず感じるであろう「胡散臭さ」も感じ取ることは全く出来なかった。
「……まぁ、何も手がかりがないよりはマシ、か。
よしっ! ちょっと予定には早いが首都に向けて出発だ!」
そして当然のことながらこの手の話をする際の大人の用心深さも持ち合わせていないアキラは、物陰から興奮気味の自分を観察している人物がいることにも気が付きはしなかった。
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