15.魔王として
「……つまりあんまりにもらしくない『魔王』を倒すために、『勇者』が家庭教師として教育をしている、と……そういうこと」
「自分で説明しててもなんだか混乱してくるけど、そういうこと」
混乱して時々叫び声を上げるミユをなだめすかしながら、アキラはなんとか説明を終えた。
話の合間に聞いたところによると、ミユはこの首都に近い山に住む狩猟民族の娘だという。年齢はカイやアキラより二歳下の十三歳である。
旅芸人の一座から魔王の噂を聞き、はるばるここまでやってきたという。
「つくづく迷惑だな、あの団長……」
「かもめ亭の奴らにここのことを聞いたのか?」
「? いいや? あたしは街を目指して歩いてきた」
「なんで街を目指しててこの山にたどり着くんだよ!」
アキラの住む街はかなり大きく城もある。周囲を立派な外郭で囲まれており頑強な門もつ
いている。山から下りてくれば真っ先に気が付くはずである。
「そんでなんで山を登ろうと思ったんだよ。っていうか、よく登れたな」
「山登りは得意だ」
「いや、そういうことではなくて……」
嬉々として答えるミユにアキラはこめかみを押さえた。
「で、魔王は魔王?」
「まぁ……一応そういうことになってるみたいだけど」
「魔王覚悟!」
「うわっ!」
ミユの空手チョップが脳天に決まり、アキラは吹っ飛んだ。
「何をするか!」
アキラを背中に庇いながら言うカイにミユは首をかしげた。
「……弱い」
「いったたた……。説明聞いてたのかよ、お前」
額を押さえて起き上がると、アキラは仏頂面でミユをにらみつけた。
「だから、俺は普通に平和に育ってきたの。魔王って言われても何ができるのかなんてさっぱりわからないし、何もするつもりがない。OK?」
「……魔王なのに」
口を尖らせるミユに剣に手を伸ばしたカイを止めると、アキラはミユに尋ねた。
「で、世界を滅ぼす魔王がいるなら滅ぼそうと、わざわざここまで来たってわけか」
「そうだ」
胸を張るユミにアキラは盛大なため息をついた。
「キチ●イは一人で充分なのに……」
「誰がキチ●イだ!」
カイに剣の柄で小突かれるアキラ。その様子を見ながらミユは怪訝な顔をした。
「事情はわかったけど……。弱いんだったら弱いうちに殺しちゃうんじゃダメなのか」
「ダメだろ。今のままだとかなりこちらが悪人だから」
「いや、どの状態でも人を殺そうとしている時点でお前ら二人とも犯罪者予備軍だから」
ユミに諭すようにいうカイにアキラはもう何度言ったかわからない言葉を繰り返した。
「十五年間静かに暮らしてきたのに、どうして今になって急にこんなことが……」
岩山に唯一生えている大木のウロに身を横たえると、アキラは空を仰いだ。
満点の星が空から降ってくるようだ。
一つ一つの瞬きが、まるで人の息吹のように感じられるほど、その輝きは生々しかった。
『魔王になる』
生まれる前に刻まれた託宣は、カイに言ったほどアキラの人生に無関係だったわけではない。ことに父親のフジはこの件に関し慎重で、家族の者に対しては一笑に付し戯言であると思いこませていたが、アキラが物心つく頃には家族に隠れてはアキラにしつこいように話していた。
『いいですか。私の愛する末っ子くん』
アキラを膝に座らせると、フジはささやくような声でこう言った。
『あなたの十五歳の誕生日に、『勇者』と名乗る少年が現れます』
『ゆうしゃ?』
『そうです。勇気のある者、という意味合いの言葉ですね。実際はそうとも言い切れないのですが』
無邪気に尋ねるアキラにフジはにっこりと微笑んだ。
『彼は間違いなくアキラ、あなたを殺すために育てられているのです』
『ころすってなに?』
『あなたを私やユキさんに会えないようにしてしまうってことですよ』
『そんなのやだ』
泣きべそをかいたアキラの髪を、フジは優しく撫で付けた。
『そうですね。私も嫌です。そうならないように、一緒にがんばりましょうね』
『ぼく、がんばる』
フジの延ばした手の指を小さな手で握り締め、アキラは約束した。
その約束は今も実行中だが、果たしてそれは本当に正しいことなのか。
アキラは初めて幼い日からの父との約束に疑問を持ち始めていた。
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