ふたつの希望 その5
惑星≪アカツキ≫。
ジャパン政府五番目の植民惑星。
地球から主航路を大きく南西上方三次元方向に逸れ、二ヶ月行程距離の所にある≪Far Side≫、『銀河の向こう側』と呼ばれていた辺境宙域に位置する恒星≪PF-9≫の第三番惑星。氷に覆われた極北以外、地表の八割を乾燥と嵐が支配する星。地表温度は低く、赤道地帯でもようやく摂氏十度に届くくらいしかなかった。
約百年前に、この見捨てられたような惑星を地球改造したのは、ジャパン政府と大手民間企業体の合同開発公社だった。
大気は窒素と酸素を主成分としていた為、五十年程の大気変換工程でヘルメット無しの生活が出来るようになった。極北と赤道上空に≪太陽光集約パネル≫を並べ、極北の氷を溶かして惑星全体に水分を浸透させ、太陽光を集めて温度を確保する事で、赤道面だけは温帯気候を保持する事に成功した。
惑星首都≪サクラシティ≫を始めとして、各地に衛星都市が築かれて、ジャパンの植民惑星の中での上位の成功例になった。
最盛期には、惑星全体で千五百万人の人口を数えていた。
地球連邦は、人類生活圏の拡大を基本方針としている。
それは、人間が持つ挑戦心が突き動かすエネルギーから生まれている。
飽くなき未踏の地への挑戦と征服欲。それこそが人類を宇宙まで進出させた原動力だ。
どこかでゴールが待っているというものでは無い。何か障害物が見付からない限り、歩みは止まらない。
それは、連邦政府の規制も届かない純粋な心の昂ぶりだ。
只、それが国家レベルになると、純粋さの欠片も残らないのがオチだった。
連邦政府は、各国政府独自の宇宙開発を認めている。本来なら、そういう事をすれば無秩序な開発競争に陥ってしまいがちだ。事実そうなっている面も多いが、開発した宙域は各国政府の統治に任せるという方針は、競争を促し、連邦政府だけでは不充分だった資金や人材を補ってあまりある成果を挙げた。
新たに人類生活圏が広がれば、それだけ地球連邦の実入りに直結する。人類の増加、経済圏の拡大、収入の増大等、プラス面が大きい。
また、各国政府としても、委任統治領は魅力的な存在だ。委任統治領は、各国政府の直轄領になる。政治、軍事、警察等全て連邦政府の横入りを許さない。
その一事が出費の大きい植民活動を永続させている一番の理由となっている。
連邦政府の目が及ばない。
それは、あまりにも魅力的な言葉だった。
こうした委任統治領は、アメリカ・ロシア・チャイナ・ヨーロッパ同盟・ジャパン等連邦支配宙域内に数十数か所ある。
元々、開発に支障がある宙域の為、連邦政府が手を付けていなかったという面もある。
連邦政府が予算人員の関係上直轄支配を諦めた宙域を各国が独自に開発して運営しているのだ。
そこは、他者の目が及ばない場所だ。
連邦政府の権限が及ばないのを良い事に、表に出ない様々な極秘研究が行われているという噂が絶えない。
それが、植民開発を進めさせる最大の魅力である。
惑星≪アカツキ≫の首都≪サクラシティ≫は、数少ないジャパンの植民都市として莫大な資金が投じられ、最高級の設備が備えられた。
周辺宙域の中核都市を目標に、商用港は勿論、大型艦の修理ドックを擁した軍港、≪アカツキ≫の周囲を回る大型ステーションとの連絡基地等、その規模は連邦直轄都市並みの代物だった。
それも、今は昔。
≪ネオ≫との終わりなき戦いによって、人類社会は大きなダメージを受けてしまった。
地方宙域程、衰退の影響を大きく受け易いものは無い。全てのものを自前で供給出来る地方惑星は滅多に無い。
≪アカツキ≫も同じである。
エネルギーは太陽光発電・高密度地熱発電、食糧は全天候栽培や地下養殖場等で何とか賄えるとしても、都市機能を支える工業製品のほとんどは、他からの輸入に頼っていた。供給が不足すると、都市そのものが機能不全に陥ってしまう。
戦争の雲行きが怪しくなると、≪アカツキ≫の周囲で少しずつ歯車が狂い始めた。
最低限の機能を維持する為に、数少ない輸入品は全て≪サクラシティ≫を始めとする重要都市に優先的に使用され、それでも足りない場合は、部品を郊外の施設から解体・移設していった。
当然ながら、小都市は廃棄処分となり、住人は残った都市に強制的に移住させられるか、惑星を退去する結果になった。その繰り返しにより、今では≪アカツキ≫自体の規模の縮小は避けられず、華やかなりし頃の面影は微塵も見られない。
勿論、これは≪アカツキ≫だけでなく、他の宙域でも同じだった。
どこも青息吐息の状態だったのである。




