ふたつの希望 その3
ユナは、暗闇の中、自分の顔を触ってみた。
この実感がやがて無くなる。このままでは、あと数年も経たずに自分や他の人々は、AI艦隊が放つ砲火に身を焦がされてしまう。
死ぬ事が怖いのでは無い。何も出来無かった人生に苛立ちを感じざるを得ないのだ。
(ああ、もうっ)
幾ら悪態をついても時間は戻らない。
あの時、ユナは、周囲では、冷静で冷徹で心を曲げない人間という評価をされていた。
本当は違うと大声で言いたかった。
本当は、いつも何かを恐れていたし、他人との接触が苦手だったし、男が怖かったし、少食で線が細くて、常に体調を崩していた。
それでも厚い壁に何度も立ち向かって行った。
(自分がやらなければ誰もやる者がいない)
その思いがユナ自身を突き動かし、行動に向かわせていた。
ユナは、無理矢理目を瞑った。
しかし、静かな部屋の中で余計心が掻き乱されて、いつの間にか一時間や二時間過ぎるのはザラにある。
空きっ腹と疲労に苦しむ体を引きずり、沈滞感に沈む夜の街を横目に帰り着いたのは、夜中二時過ぎだった。
結局、あの後来た客はふたりだけ。それも、金が足りず、文句言いながら安酒一杯あおってすぐ帰ってしまった。
女主人は、「これじゃ、儲けにもならないよ」とこぼしながら、ユナを早目に帰らせたのだ。「明日、仕事は無いかもしれないよ」という台詞をユナの背中に投げつけて……。
大して忙しい仕事では無い。客が来ず、提供出来るメニューも少ない。その為、給料は安い。目の色変えて、しがみ付く程のものでは無かった。仕事が無かった為、仕方無く妥協して見付けた店だった。このご時勢、仕事と言う仕事が無い中、割り切らないとどうしようもない。
(どうして、こうなったのだろう)
後から自問する事が何度もあったが、どこで間違ったなんて分からない。
この仕事を否定するつもりは無いが、自分がやりたい事で無いのは確かだった。
それでも、今の時代に働けるという事自体が幸せだった。
街には浮浪者が溢れ、日に数十人数百人単位で飢餓・事故・犯罪による死に陥っている。
役所の機能は半ば停止し、市民サービスは賄賂の窓口と化し、ゴミ収集はおろか、死体処理も手当てされない状態である。
大人達にとって、子供は幸せの象徴では無く、生きる上での重荷となり、美徳は悪徳の前に姿を消し、人間性のある者が先にこの世から退場する事態になっていた。
その光景を目にする度、ユナは胸の張り裂ける思いに駆られていた。
答えの無い自問。決して自答出来無い疑問。答えの無い堂々巡り。
あそこでしか自分の能力を発揮出来ない。
それは、分かり切っていた事。
この場では何の力も持たない自分。
ユナは、怒りを覚えていた。繰り返し思い起こす言葉。
(こうなる事は分かっていたのに……)
たったひとりの人間の力ではどうにもならない事はある。それを知る事が人生でもある。




