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天の艦隊 ~人類絶滅指令~  作者: はかはか
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ふたつの希望 その2

 人類が宇宙に活躍の舞台を移して三百年余り。

 重力が無くなっても、やる事に変わりは無い。終始、争い合い、憎しみ合い、後悔と悲しみのループを繰り返す日々。

 その上、未知なる世界への探求心は止まる所を知らず、急激な生活圏の拡大によって、地球連邦は広大な空間を支配し、紛争を矮小化した見せかけの平和を享受しつつそれなりの繁栄を享受していた。

 人類の進歩が相互理解に繋がらず、単なる相互不信を宇宙規模に拡大させただけの空しさが世界を覆う。

 独善と偽善とが大通りを我が物顔で歩き回り、嘘で塗り固められた薄っぺらい錆色さびいろの幸福感が家庭内の汚濁をそれらしく隠している。

 経済の拡大と技術進化がもたらした天文学的な貧富の差が明らかにした空しい人生行路。

 つまり、いつになっても人間は変わらないまま、科学技術だけが子供の理解を超えようとしていた。


 連邦歴三三六年九月二日。


 最近、倒れ込むようにベッドに入るのに、寝付きは殊の外悪い。

 理由は分かっている。

 先の見えない闇が人類の行く先に立ちはだかっているのに、その闇を振り払う期待感が全く見えない。

 配給券を手に朝早く長蛇の列に並ぶ苦労。少ない給水で一日を賄う悩み。僅かな糧を求めて夜遅くまで仕事をする疲労。辛苦に満ちた毎日だが、それはまだ目に見える苦労である。目に見えない将来の不安は、底深い恐怖である。その闇の重さには何物も打ち勝つ事が出来無い。

 ユナは、生真面目な自分を腹立たしくもあった。もう少し、適当な人間だったら、他の人間達のように運命を受け入れた打算的な生活が出来るのであろうか。

しかし、それ程無頓着に生きる人生に何の意味があるのか。

 少し自分の体臭を含むベッドに顔を突っ伏せて、勢い良く頭を両手で掻く。

 世界を覆っている不安感がいよいよ現実のものになりつつある。

 あとどのくらい自分の命に猶予があるのだろうか。今にも宇宙の彼方から、≪ネオ≫のAI艦隊が姿を現すのではないか。その定かで無い運命の日まで、残された人生をどう過ごせばいいのか。

 ユナは、その不安を生み出している人類の諦観を思い切り蹴飛ばしたかった。

 もっと生き延びたいなら、どうして全力で、力を合わせて、今の苦境を脱しようとしないのか。

 ≪ネオ≫との戦いは他人に任せて、自分達は安全な所で何かに怯えながら隠れて、何をやり過ごせるのか。

 ユナは、そういう他人任せの傍観者が一番嫌いだった。

 誰も動こうとしないなら、己の腕で切り開いて行くのが自分のやり方だった。

 だからと言って、最早自分が関わる事の出来る機会が無くなって久しい。

 あの時、もう少しやりようがあったのではないか。

 あの後、何度も自問自答していた。

 しかし、何度考え直しても、他の手段は無かったんだ、自分には他に方法が無かったんだと結論付けてしまう。


 結局、自分は失敗したんだ。


 そう、自分は間違えていたんだ。


 折角、人類を救うすべを思い付いたとしても、それを実現出来る力が無かったら、何にもならない。

 ユナは、歯痒はがゆい思いで、頭からシーツを被った。

 もう、流す涙も無い。いや、涙を流す程の価値さえ自分には無い。最後の、最後に残された人類復興の機会を、自分にしか見えていなかった機会を、みすみす逃してしまったのだから……。


 ≪ジェンツー≫の敗北は、明らかに人類の滅亡の始まりを伝えていた。

 もう、この期に及んだら、誰が率いても連邦軍に勝ち目は無い。

(でも……)

 頭のどこかで内なる自分が絶えず耳打ちして来る。

 まだ、何か方法がある筈だ。

 それは、諦め切れない馬鹿な自分が生み出す幻なのか。

 店の客が絶望を口にする度、ユナは本気で憤っていた。

(まだ、何かある)

 ユナは、自分が諦めてしまったら、その時こそ人類の滅亡の時だと、自負してもいた。

 心の内に潜む、この声を無視する訳にはいかない。

 只、その前に死の訪れが早いかもしれない……。

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