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天の艦隊 ~人類絶滅指令~  作者: はかはか
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始動 その7

 人類脱出計画は、≪ケープタウン≫の戦いの後に浮かんだ案だった。

 当初は、誰もがその内容に失笑した。

 当然だろう。“人類脱出”というお題目がついていても、結局助けられるのは、極一部の人々だけである。それも、逃亡先の星がどこに見付かるのか見当も付かない状況だった。

 もし、適当な移住先の惑星が見付けられるのなら、既にどこかの国が手を付けている筈。つまり、近宇宙に移住可能な惑星が存在しないという事実は誰もが知っているのだ。

 かと言って、半永久的に生活可能な船も無い。宇宙ステーションのような大規模な拠点を造ろうにも資金も資材も運搬手段も持ち合わせていない。

「自殺行為だ」

 と言う者は今もいる。

 ジェフは、戦時糧食のストローをくわえながら声の主を睨んだ。

 士官学校の同期で、先任参謀として前線の死線を辛うじて渡り歩いて来たクラウス=シン大佐である。

 クラウスは、インド系のアメリカ人で貿易を営む一家の長男として生まれた。その為、経済に明るく、作戦を立てる際も厳密な計算に基づいた用兵を好む。

 ジェフとは違い、実戦に赴くのを好み。AI艦隊との戦闘経験は、生き残りの中では豊富な方である。≪ジェンツー≫の戦いでは、多忙を極めるジェフの頼みを受け、渋々参謀本部に戻って来ていた。

 彼が乗る予定だったインド艦は戦闘開始と同時に轟沈しており、クラウス曰く、「たったひとりのシーク教参謀だから、天が死ぬ順番を後回しにしてくれてるんだろう」との事だった。

(よく分からん理屈だな)

 浅黒い顔に濃い眉毛、大きな黒い瞳をぎょろぎょろさせながら、憎まれ口を聞く様はまるで道化だ。

「自殺行為かどうかは、やってみないと分からない」

 ジェフは、いつものように突き放す言い方をするが、同期だけあって慣れたもの、クラウスは気にする素振りも無く続けた。

「そんなの、≪A計画エープロジェクト≫を口にする奴らと同じだ。しかも、明らかに無理なハードルが並んでいる。これを全部クリアするのに何年かかると思う?」

 ジェフは、軽く溜め息をついた。

「そんな意見は飽きる程聞いたね。それに、向こうの計画の方は更に何倍ものハードルがあるんだぞ」

「ああ、何百回聞いても意見を動かさない大馬鹿者よりはマシだろう。いいか、普通に植民惑星を地球改造テラフォーミングするのに何十年とかかるのに、数年以内には目的地を見付けて、そこに住まないと……」

 ジェフは片手を上げてクラウスの言葉を遮った。その先のセリフは幾らでも思い浮かべる事が出来る。

「いいか、俺は前向きな勝負を好む。分かるだろ?」

 それでも、止まらないクラウスは、胸に手を当てながら言った。

 クラウスも≪A計画エープロジェクト≫には興味を持っている。ならば、どうして≪ジェンツー≫以前にそれを言わない?

「ああ、それか。だってな、ユナ=オサミが≪A計画エープロジェクト≫を宣伝し始めたのは、俺が前線にいる間だったからな。その内容を知ったのは、最近だぜ。それまで、危険な戦いに身を置いて来たんだよ。少しは可哀相と思わないか?」

「それは、俺への当て付けか?」

「皮肉だ」

「まあ、だからと言って、お前に≪A計画エープロジェクト≫を推薦されても俺の考えは変わらなかったがな」

 クラウスは、コーヒーを片手に口角を上げて見せた。

「同期って、そんなに軽いものだったとはな」

「お前があの計画にベットしているとは知らなかったぞ」

 言いながら、ジェフも厚いカップに手を付ける。

「賭け金は少ないがな」

 クラウスは、親指と人差し指で円を作る。

「他に手を挙げる奴がいないんだ。脱出計画と≪A計画エープロジェクト≫だぜ。このふたつを天秤に掛けろって言うのなら、戦う方を選ぶさ」

(呆れた奴だ)

「あの時は、≪ジェンツー≫があったんだ」

 ジェフが憤慨しながら言うと、クラウスは肩を竦めた。

「見事に失敗したじゃないか」

 ≪ジェンツー≫作戦への評価が不当に貶められていると思っているのは、自分だけでは無い。参謀本部では、本当に自信を持って立てられた計画だった。

「前線に出ずっぱりだったお前にあの時の苦労が分かってたまるか」

「本音が漏れ出てるぞ」

 あの時点で≪A計画エープロジェクト≫を実行するのを考えたら、余程現実的な作戦だった。

「賭けている事が問題だな」

「そう言うなって。本命は≪ジェンツー≫だったぜ。俺も」

「嘘つけ」

「脱出計画は、問答無用で支持しないがな」

 ジェフに睨まれて、クラウスは視線を外した。

「俺達は、≪ジェンツー≫で≪ネオ≫の侵攻を止める事が出来た筈なんだ」

「まだ言うか? 相手が一枚上手だったのに気付かなかっただけさ」

 クラウスは、そう言って鼻で笑った。

「幾ら、参謀本部で完璧な作戦を考えても、AIに先読みされてしまうんじゃね。初めから無理な計画だったんだよ」

「それなら、ユナ=オサミだって同じ人間だ」

 ジェフが吐き捨てるように言う。

「あの女な~。何か気になるんだよな~」

「それ、どういう意味だ?」

「いや、惚れてるとかじゃないぜ。只、どこか突き抜けた感があるんだよな~」

 クラウスは腕組みをして首をひねった。

「あの女なら、やってくれそうだって感じるんだよな~」

「お前、あの女とは面識あったのか?」

「時々、本部に戻っていたからな」

 クラウスのユナに対する評価には、渋々ながらジェフも同感する。あの女は、自分達とは異なるベクトルが存在する雰囲気がある。只、ジェフが感じたのは、肯定的な感情では無かった。よくあるのが、”己の人生を賭けた覚悟”というものだろうが、それとはまた違う”覚悟”を感じたのだ。

(確かに、ユナは何かをしでかす予感がしていた……)

 それは、期待を持たせる予感では無かった。どことなく不穏な色をまとった危うさを内包した不安感だった。

 ジェフがユナを支持しなかったのには、その予感めいたものがブレーキになっていた。

(あの女に任せたら何をしでかすか……)

 ジェフは、ジャパンがユナを担ぎ出したと聞いた時、破滅への歯車が動き始めたのを肌で感じ取っていた。だから、出来るだけ抵抗しようとした。人類脱出計画が最適だとは思わない。しかし、ユナに任せたら、何か恐ろしい事が起きそうな恐れがあった。

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