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天の艦隊 ~人類絶滅指令~  作者: はかはか
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始動 その3

「長官のお力を頂いて、大変申し訳ありません」

 スティーブは、グレイナーの後ろを歩きながら頭を下げた。

 謁見室を出たふたりは、公館を出ると足早に車に乗り込んで、自治政府軍本部に戻り始めた。

「はっは。構わんさ。私は出先機関の一責任者だった頃の奴を良く知っているからな。己の才能を読み違えて、毎晩のようにバーやクラブで安酒を煽って女相手に鬱屈を発散してた凡人さ。あの男の頭に、理屈の入り込む余地は無い」

 グレイナーは後席に身を沈ませながら、少し笑みを見せた。

「その分やり易い相手ではあるが」

 グレイナーにおだてられて気分を良くしたコウキは、一応不承不承を装いながら、新たな資金援助を約束してくれた。まだ、議会にかけないといけない為、確実では無いのだが、自治政府の総督は大きな権限を持っている。また、今では議会自体も開店休業状態だ。多少の力技で事を進めるのは難しくない。

「それにしても、連邦大統領なんて、大風呂敷を広げたものですね」

「夢は大きい方がいいだろう? あの男は、とにかく酒と女と褒め言葉には弱いからな」

 グレイナーは、気に入らない人間には辛辣な評価を下す事がある。この好き嫌いの激しさがグレイナーの出世の遅れに繋がったというのは仲間内で噂されていた。

「弱点ばかりじゃないですか」

 スティーブは、苦笑した。

 グレイナーも困ったような表情で含み笑いをした。

「せいぜいおだて上げて利用すればいいんだ」

「二千億……、大丈夫でしょうか?」

「金額的には厳しいだろうな。例え年金を原資にしても」

「それでは、他を当たらないといけないですね」

「そうだな。少々無茶な方法を取ってでも足りない分を補っていかないとな」

 スティーブが可笑しそうにグレイナーを見た。

「長官から、そのようなお言葉が出るとは思いませんでした」

「何を言う。長い軍人生活だ。私だって、多少の無理をした事はある。……多少だがな」

 その多少の中身も耳にした事がある。優秀ではあるが、常識に外れた若手参謀にあらぬ疑いをかけて除籍させた話を聞いた時は、スティーブも嘘では無いかと思った程だ。

「それにしても、総督のさっきの顔……、そう簡単に勝てると思ってるんでしょうか」

「あの男は、≪ジェンツー≫で連邦軍がどれ程痛め付けられたか分かっておらんからな」

 それは、軍による意図的な情報操作のせいでもある。連邦軍は、≪ジェンツー≫での敗北は素直に明らかにしたが、その被害状況の詳細までは隠していた。

「だが、あの戦いによって≪ネオ≫も痛手を被ったのは確かだ」

「本当に半年待ってくれるでしょうか」

「半年でも足りん。一年は大人しくしていて欲しいものだが……」

 ≪A計画エープロジェクト≫の準備に少なくとも半年、実行に少なくとも半年。一年でも足りないだろう。

 自治政府軍本部に到着すると、今度は真っ直ぐ通信課に向かった。

無機質の通路が長く続く。明かりは最小限に抑えられ、それでも電気を消している箇所が多い。

「次は、連邦軍本部ですね」

「うむ。さすがに今回の作戦を実行するには、ジャパンの力だけでは不可能だ。どうしても本部の支持を貰わなければならん」

「ですが、本部が了承するでしょうか。既に、本格的に人類移住計画に取り掛かっているという話ですが。それに……」

「本部からの軍艦供出命令に遅滞した件か」

「遅滞させただけじゃなく、送り出させないふねもありましたので……」

 ≪ジェンツー≫戦を前に連邦軍総司令部は、各国に戦闘可能艦の供出命令を出していたが、その時既に≪A計画エープロジェクト≫の実行を考えていたグレイナー達は、≪雪風≫を始めとして、手持ちのふねの一部の供出を様々な理由を付けて遅らせていたのだ。

「あまり良い印象は無いでしょう」

「あまり?」

「少しばかり?」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。

「まあ、こうなるのは大体分かっていた事だ。一応、向こうにもうちの者を派遣してあるから、期待して待つ事にしよう」

「はい」

 通信課に着くと、既に連絡を受けていた士官がふたりを通信室に連れて行った。

 グレイナーは、通信室の前でスティーブに振り向いた。

「ところで、オサミ君はどこにいったんだ?」

「は。この計画に大変必要な人材を迎えに行くと言っていました」

「どこまでだ?」

「≪カザフⅢ≫だと聞きました」

「今からか? 一週間はかかるだろう?」

 スティーブは、どうしようも無いという風に肩を竦めて見せた。

「自分からか? この時間無い時に」

「はい。私もそう言ったのですが、どうしても自分が行かなければならないとの事でした」

「そうか……。≪カザフⅢ≫と言えば……何だ?」

「オースファンでしょう」

「オースファン?」

「はい」

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