6.廃棄場の二つの太陽
声に振り返ると、二人の後ろには途中までコードを競り合っていたスーツ姿の男がいた。
「あの星は消えてしまいました……。だからあの星の品物は品薄で高価なんですよ」
「あなたは?」
フミヒコの問いにスーツの男は名刺を差し出してお辞儀する。
「申し遅れました。わたくし、星の整理をしております」
名刺には『作業ロボット』『整理担当』とだけ書いてある。
「これ、名前書いてないんだけど?」
「わたくしに個別の名前は必要ありません。消えた星のモノを保存するため集めるのが仕事です。わたくしの今の仕事はあの星のモノを集めること……。お二人にお願いがあります。コードを探してもらえないでしょうか?」
アイはリアルな人型ロボットにとまどいながらも答えた。
「探すったって……その星がないんなら探せないわよ?」
「この星には廃棄物を一時保存する『廃棄場』があります。そこでコードの反応を感知したのですが、わたくしだけでは掘り起こせないのです。あなたたちはどうやらコードを探しているようなので、使用した後、わたくしに渡していただけるのなら、その反応する場所をお教えしましょう」
フミヒコを見るとうなずく。アイもうなずいた。
「わかったわ。確実そうだしやってみましょ」
「では……」
次の瞬間、アイとフミヒコそしてロボットは、『廃棄場』を見下ろせる場所に浮いている円盤の上に立っていた。
「は……」
「い~~?」
『空間移動』したことより、浮いている円盤にいることよりも、アイとフミヒコは見渡す限りの廃棄物に目を丸くしていた。ごちゃごちゃとしたモノの山が、延々、本当に延々と地面を埋め尽くしていた。
「すっごい量ね」
「しかもジャンルばらばら」
さすが旅行者の多い星だけある品揃えの多さに、二人はロボットが手間取るのもわかる。
「右下を見て下さい。大きな白い箱が見えるでしょう? あの辺りなんですが……」
二人も右下に視線を落とす。
「あれって冷蔵庫?」
「みたいね。地球人も来てるのかしら?」
「まずあの箱におりて、それから掘り起こしていきましょう」
廃棄物の海に斜めに横たわっているツードアの冷蔵庫の上に立つと、ロボットは手袋を二人に渡した。そしてまるで『今日は晴れですね』とでも言うように宣言した。
「では始めましょう」
その頃、シンヤはかなり慣れた手つきでキーボードを打っていた。
初めは落ち着かなかった大きなキーの場所も覚え、作業は順調だった。大きなモニターに映るのは、いくつものアキラの側面だ。
「元はアキラなんだから、データを送れば自然と元のカタチになろうとするはずだ。うまくいけば分離もできるかもしれない」
身体はできた。後は顔だけだ。幼なじみで小さい頃から知っているはずなのに、どうも顔がうまくできない。
「アキラの顔は覚えていると思ってたけど、いい加減だな……」
自分の記憶にあるアキラをまぶたの裏に描き出しては、何度もなんども微調整して直していく。
「茶色の髪は不思議なくらいさらさらで、目も茶色っぽくって大きいんだ。初めて顔見たときはびっくりしたんだっけ? まるで捨てられた子犬みたいだった」
モニターの中のアキラは徐々にできあがっていく。
『廃棄場』では小さな穴ができつつあった。正確には直径2メートル深さ5メートルを越す大穴なのだが、まわりの広大さを考えると小さく思える。
「もぅ! 掘ってもほっても出てこないわよ? ほんとにここであってるの?」
「もちろんです。反応は強くなってます。近いですよ」
穴の底で掘り起こす二人からフミヒコは廃棄物を受け取り穴の外に積み上げていく。
「『近いですよ』ってさっきも言ってたような……」
「そうですか? じゃあ『もう少しですから頑張ってください』」
アイはため息をつき、フミヒコは腰を伸ばす。
「やっぱりロボットなのねぇ」
「あと少しってどのくらいなの?」
そんな二人にロボットは手を止めた。
「そうですね……およそ1メートルといったところでしょうか?」
「ほんとに?」
「あと1メートル?」
具体的な数字にアイとフミヒコは破顔した。
「はい。間違いありません。良かった。暗くなる前に見つかりそうですね」
ロボットの言葉にアイとフミヒコはこの星の太陽に目をやった。もうすぐ一つめの太陽が沈みそうだ。『廃棄場』には灯りがない。暗くなってからの作業は困難だろう。
「いそぎましょ!」
「うん!」
加速して掘り起こしていくと、アイの目に赤と黄のしましまがうつった。
「これ?」
「気をつけてください! 切れたら元も子もありませんよ!」
アイはうなずき、コードの上にのっている廃棄物をそっと取り除いていく。フミヒコも上からおりてきて手伝い始めた。
「深いね」
「うん」
さらにしばらく掘って、やっとコード全体が現れた。薄汚れてはいるが切れてない。
「良かった~」
「はぁ……」
思わず座り込むアイとフミヒコ。お互いの頭を紫の光が照らし出した。
「照明?」
「ここに照明装置は無かったはずよ?」
穴をよじ登ると、廃棄物の向こうに二つの太陽の一つが沈みかけていた。空も全体に紫がかり、それはきれいなこの星の夕焼けになっていった。世界を包むように照らすその光は、ごちゃごちゃした廃棄物も紫一色に染め上げる。それは波たつ海か、風の吹く草原のようだ。三人はその光景に立ちつくした。
目を細めて、夕焼けからは目を離さずフミヒコがつぶやいた。
「不思議だ」
「この光景が?」
「うん。この光景も、この星も、こんな光景を誰かと一緒に見ることが嬉しいと思う自分の気持ちも……。ずっとわからなかった。家族や友達、他人と一緒にいたいと望む地球人の気持ちが……今、少しだけわかったような気がする」
フミヒコがアイを見ると、アイもフミヒコを見つめ返した。目が合った二人はやわらかく微笑み合うと、また沈む太陽に目をやった。
見つめている間にも太陽は沈んでゆく。きれいな紫のグラデーションに染まった空はだんだんと暗くなる。夕焼けは、紫からオレンジへと移っていって、一瞬バラ色になった。優しげなピンクオレンジの光を浴びると、まるで祝福を受けているようだ。
でもそれは本当に一瞬で、すぐに空は紺色へと落ち着いた。
「そろそろ行きましょうか?」
ロボットの言葉に、三人は『貸別荘』に戻った。
暗闇の中、モニターの光に照らされているシンヤの後ろ姿が浮かびあがっている。アイは部屋の灯りのスイッチを押した。
「ごめん、遅くなって」
「どんな調子?」
「ちょうどいいタイミングだよ……って、なんだかすごい格好だけど、なにかあったの?」
廃棄場での作業でアイとフミヒコの服は埃っぽく薄汚れていた。
「ちょっとね……」
「話せば長くなるから、また後で話すよ」
そう、とシンヤは話を戻す。
「そろそろ動作確認しようかなと思ってたんだ。短い方のコードをかして」
アイから短いコードを受け取ると、シンヤは機械と透明な箱をつないでスイッチを押す。
「どうかな?」
透明な箱の中には小さなアキラがいた。アイとフミヒコにもアキラとわかる出来映えだった。
「これはすごいですね。あなたは技術者ですか?」
「は?」
見知らぬスーツの男がいることにやっとシンヤは気づいた。
「コードの場所を教えてもらう代わりに、コードを後で渡すって話になって。とりあえず一緒に来てもらったんだ」
「シンヤは技術者なのかって聞いているわ」
シンヤはロボットに頭を下げた。
「情報を提供してもらってありがとうございます。オレは技術者じゃありません。ただ……友達を起こしたいだけなんです」
シンヤはロボットから長い方のコードを受け取ると、コードを付け替える。
データをすべて再チェックすると、コードの先をバスタブの中へと刺した。
(頼む……!)
シンヤは祈るような気持ちでスイッチを押した。




