5.報復の呪い
シンヤの願い通りすぐに店を出て、アイとフミヒコとシンヤの三人は『貸別荘』に戻った。
二階には相変わらず目立つ白いバスタブ、その中には暗褐色の塊がちゃんとあった。
ほっとしたシンヤは機械の部屋に入ると、小さなコードを手に戻ってきた。赤と黄二色でしましまのコードの先には金属の細い棒が出ている。その棒がバスタブの中のアキラに刺さることをシンヤは確認した。
「よし……! オレ、しばらく機械の部屋にいる。ちょっと時間がかかるかもしれない」
「手伝おうか?」
「なんでも言って?」
二人の宇宙人の申し出にシンヤは首をふった。
「これはオレがやらなきゃいけないと思うんだ。一人でやるよ」
「わかったわ」
「待ってるよ」
アイとフミヒコはうなずいた。
「あ、でも、これと同じモノが欲しいんだ。しかも5メートルくらいのやつ」
引き抜いたコードをシンヤから受け取ると、アイとフミヒコはさっそく町に向かった。
シンヤは白い上着を脱ぐと機械の部屋にどっかりと座りこんだ。
「分離する方法は今のオレじゃわからない。でも……」
いくつも並ぶ大きなモニターの手前には見慣れぬ大きなキーのキーボードがある。その横には水槽のような透明の箱。シンヤが昼に触った感じでは、これは立体モデリング装置のようなもの。モニターを見ながら側面のパーツをいくつも作成し、最終的にはくっつけて透明の箱の中で動作確認する……はずだ。
「働けオレの脳細胞! 今なにもできなかったらオレの賢さなんて無意味だ。しゃきしゃき動いてくれよ」
シンヤはぎこちない動きで大きなキーを押し始めた。
その頃、アイとフミヒコは貸別荘の受付に寄っていた。
「一泊になるかもしれないんだけど」
初めの契約では夕方までだったのだ。もう二時間しかない。アイは時間がかかっても大丈夫なようには場所を確保したかった。
「なにぃ? おまいさんはさっき、一泊しないから安くして、とさんざん値切ったんじゃないのかい?」
「それがちょっと事情があって」
「ほっほ~。事情ねぇ。おまいさん、こっちの事情を知らないわけでもないよなぁ? いいかい? この星には数多くの旅行者や犯罪者も受け入れる代わりに、絶対的なルールがある。ルールは簡単『約束を破らないこと』『罪を犯さないこと』『他人に迷惑をかけないこと』。破ると自動的に『呪い』がかかる。『呪い』は色々あるけれど、おまいさんと交わした約束はけっこう大きかったから、その小さな身体では耐えられないかもしれないよ?」
にやりと笑う受付とアイの間に、ぐいっとフミヒコが割って入った。
「あの、これで新しい約束をすることはできませんか?」
差し出したのは、受付その人の顔をかたどったチョコレートだった。
「おぉ! なんだおまい! ゲイジュツカか? そうなのか? ほおぉ。しかしよくできている、すごい。ちょっとこれは、う~~ん……わかった! 特別に新しい約束をしよう。おまいさんたちがこれをくれる代わりに初めの約束とは違って一泊してもいい。……でも、『呪い』から逃れることはできないな。それはこの星から受けるものだ。軽いとは思うが、気をつけることだね」
そう語る受付はチョコレートに釘付けで、もう二人には目もくれなかった。
「ありがとうフミヒコ。助かったわ」
「あはは。バイトのおかげ。僕あそこでチョコレートの飾り作ってるんだ……って、それより『呪い』大丈夫なの?」
「わからないわ。呪われるの始めてなの。今まで約束しても破らなかったから。でも軽いって言っていたし、大丈夫よきっと」
「そうだよね」
『呪い』なんて響きが嬉しくないなぁ、と思いつつ、フミヒコも大丈夫と自分に言いきかせる。
「さ、コード買いに行きましょ」
二人は町へと飛んだ。
「この辺りに売っていると思うんだけど」
「へぇ、地球でいう電気屋街って感じだね」
小さな店が建ち並ぶ通りは人混みでいっぱいだ。かき分けるように歩きながら、コードを扱っていそうな店を探す。しばらく歩いていると、同じようなコードが展示されている店を発見した。
「あれかな?」
「行ってみましょ」
店に入り、持参したコードを見せて尋ねる。
「これと同じコードありませんか?」
「これより三倍くらい長いのがいいんだけど」
「んん?」
店の主人は目を細めてコードを見る。
「ああ……これは珍しい。古い機械のコードだね。うちではもう置いてないなぁ」
「そうですか」
「すみません。置いていそうなお店を教えてもらえませんか?」
「ああいいよ」
こんなやりとりを似たコードを置いてある店に入るたびに繰り返す。教えてもらった中古店に行っても、ちょうど切れていたり、もう置かなくなっていたりした。
十数店まわってアイとフミヒコは休憩がてら小さな喫茶店に入った。アイはアイスココアを一気に飲み干して叫んだ。
「おかしいわ! 普通、こんなにタイミング良く見つからないなんてことはないはず……もしかしてこれが『呪い』?」
フミヒコがグラスから口を離し間の抜けた顔を向けた。
「へ? そういう『呪い』なの?」
もっと血みどろなイメージをしていただけに拍子抜けしたのだ。
「ここでの『呪い』は『自分でした行動は自分に返る』ってことなのよ。例えば何か盗んだとすると、今度は自分の何かを盗まれちゃうの。つまり星に報復されちゃうのね。報復は間髪入れずだし、何倍か拡張されるって話だから、たまらないわよね~。それで極悪な犯罪者もここではなにもしないのよ」
うむうむとうなずくアイ。
「じゃあ僕らは……」
「さっき私たちは約束を破って新しい約束をしたから……そっか! コードはお店では買えないのかも。オークションに行きましょ!」
二人はオークション会場に向かった。
「誰かが買ったモノを再び売り出している状態、つまり約束を破棄して新しい約束を取り付ける状態なら買えると思うのよ。ここっていろんな人が出入りしてるから、モノ自体は絶対あるはず! ただ、かなり値上がりしている可能性が高いんだけど……。フミヒコ大丈夫?」
「うん。お昼たくさん食べたしお茶も飲んだしね。減った分は補給したよ」
「後はタイミングが合うことを祈るだけね」
大きなオークション会場はジャンルによって会場が別れている。目当てのコードがあると思われる会場は、中でも小さなこぢんまりとした部屋だった。それでも警備員らしき人影があり、ものものしい雰囲気が漂っている。
受付にコードを見せて聞くと、もうすぐ始まるオークションに出るらしい。パンフレットをもらって二人は会場に入るとイスに座り、休憩が終わるのを待った。
会場にはたくさんの人が入っていて、競り落とした品物や今回出てくる品物について熱く語り合っている。みんな朝からいるのか少し疲れた様子だが楽しそうだ。
「お待たせいたしました。ただいまより、夕方のオークションを開催いたします」
アナウンスに会場はぴたりと静まる。やがて舞台には『貸別荘』にあったような機械の一部が登場し、つぎつぎとオークションにかけられていった。
どうやら今よりかなり古い時代にもちこまれた機械らしい。その時流行ったのだがここで生産はしてなく、現在使う人もほとんどいない。そんな今でもアンティークマニアに人気なので、こうやってオークションに出されるらしい。
アイとフミヒコがパンフレットから機械についての知識を深めていると、目当てのコードが登場した。
「それでは『立体映像装置』への出力をつなぐコードです。柄はもちろん、この針の感じ、長さといい、たまりませんねぇ。さぁみなさん、500からどうぞ~」
「700!」
「1000!」
100がどれくらいかわかってないフミヒコにとって、高いのか安いのかさっぱりわからない。
「ねぇアイ。あれって高いの?」
「まだそんなには……一万円くらいって感じね」
舞台から目を離さずに、アイも小声で答える。
「ちなみに最初、『貸別荘』を借りるのに払ったのは五千円くらいよ」
「え……じゃあ、あの、食事は……」
「三万円くらい」
「…………」
「ここは旅行者目当ての星だから宿泊料は安いのよ。反対に日常品が高いの。人をたくさん呼んで、お店で落とさせようって方針ね」
「なるほど」
自分の身体で出し切れるかフミヒコは少し不安になった。
そんな会話の間にも、コードの値段はどんどん上がっていった。老紳士、青年、スーツの男の三人が競り合っている。
「5000!」
「8000!」
「10000!」
「おぉっと、一万が出ましたね~。いや~、こんなに早く上がるとは、わたくしも思いませんでした。さぁさぁ他にないですか?」
ちなみに、一万は十万円くらいだ。
「11000!」
アイが参加した。
「おや、かわいいお嬢さんが一万一千を宣言しましたよ?」
「15000!」
老紳士がにやりとアイに視線を送りながら宣言した。
「おお! これはすごい!早くも夕方のオークション最高の値段ですね~」
「20000!」
アイの宣言に会場がどよめいた。老紳士も司会者も、まさか、という顔をした。
一瞬後、すぐに老紳士が叫ぶ。
「21000!」
「……ちょっと先の読めない展開です! わたくしにしてみれば、こんなわけのわからないコードに年収すべてをつぎ込む気持ちがわかりませんが、でも、それがオークションのおもしろいところですね~。さぁ~、彼女はどう出るのか?」
「25000!」
会場も司会者も息を飲んだ。さっきの青年とスーツの男はもう参加してこない。予算オーバーなのだろう。
フミヒコは頭の中で計算していた。
「25500!」
老紳士が苦しげに宣言した。すかさずアイが叫ぼうとするのをフミヒコが慌てて止めた。
「ごめん。これ以上はムリだ。今の僕の力で出せるのは、二万五千分でぎりぎりだよ」
「ええ~? 無限に出せないの?」
「この場で今すぐはムリだよ」
そんな二人の頭上を司会者の声が通っていく。
「おや? 他にいませんか? 二万五千五百! これ以上はないですか?」
凍りつくような沈黙の後、カツーンと競り合い終了の合図が鳴った。
「では、このコードは二万五千五百で終了です。予想以上の高額になりましたが、それこそ人気の証ですね~。では、前にどうぞ~」
老紳士はトランクを持って前に出るとトランクを司会者に渡した。司会者は学者風の男にトランクの中身を確認してもらう。学者風の男はしばらくして大きくうなずいた。
「お釣りはないみたいですね。お待たせしました~。品物をお渡します」
会場に拍手が鳴り響く。
出よう、とフミヒコはアイを会場の外へとうながした。大きな扉を閉めても、会場の中からはアナウンスが小さくもれ聞こえてくる。次の品物はモニターらしい。二人は会場の外にある窓を向いたイスにぐったりと座った。
「どうしよ~。オークションでダメだったら、他に似たようなのって……フリーマーケット?」
「フリーマーケットにはないんじゃない? なんだかけっこう値打ちものみたいだし」
「そうよね。う~ん……そうだ! 直接探しに行けばいいのよ!」
「持ち込んだ星に?」
「そう! 絶対あるでしょ!」
「それは無理ですね」
声に振り返ると、二人の後ろには途中までコードを競り合っていたスーツの男がいた。




