とっておきのお菓子
この物語はフィクションです。
※本話は前回予告からタイトルを変更しています
アカリとクロエの目の前。
テーブルの上。
クリームたっぷりのケーキ。
ふわふわのムース。
ぷるぷると揺れるプリンやゼリー。
色とりどりのクッキーにマカロン――などなど。
たくさんの種類のデザートが、並べられていく。
「すごい……」
視界いっぱいに広がるお菓子の数々に、アカリとクロエは目をまるくする。
「こんなにたくさん……」
「女王いわく――とっておきのお菓子、だそうです」
アカリの呟きに、シロウは笑顔で応える。
「――とっておき……」
改めて、アカリは目の前の光景を見やる。
とっておき――特別に選び抜かれたもの。
その割には、数も種類も多い気がする。
なんというか、統一感がないような――
「ねぇ、シロウ……くん?」
アカリが背中ごしに呼びかける――しかし。
シロウは、庭園の奥をじっと見つめていた。
ついさっき、女王が振り向きもせずに走り去った花壇の奥、そのさらに奥を。
「シロウくん?」
躊躇いがちに、アカリはもう一度呼びかけた。
はっとしたシロウが、静かにティーポットを持ち上げる。
「お飲み物は、紅茶でよろしいでしょうか?」
「え?」
何事もなかったかのようなシロウの振る舞いに、アカリの反応がわずかに遅れる。
「あ、うん――それで」
「かしこまりました」
シロウは小さく頭を下げ、白いカップに紅茶を注ぐ。
曲線を描いて、注がれていく紅茶。
やがて――
「どうぞ」
「ありがとう」
シロウは静かに、アカリとクロエの前にティーカップを置いた。
「気になるものがあれば、おっしゃってください」
流れるような動作で、シロウは銀色のトングと皿を手に取る。
「あ……」
笑顔を向けられ、アカリは口籠る。
「……クロエは、どれが食べたい?」
視線を逸らし、アカリは向かいのクロエに問いかけた。
「んーとねー」
クロエは食い入るようにお菓子を見つめ――
「これと、これと、これ」
シロウを見ながら、指を差す。
「かしこまりました」
カチ…、とトングを小さく鳴らし、
指定されたケーキを二種類。
クッキーを一枚。
「どうぞ」
丁寧に盛り付けられた皿を、クロエの前に置く。
「ありがとう、シロー」
シロウは笑顔で応え、ゆっくりとアカリの方へと向き直った。
「お決まりになりましたか?」
「あ、あーじゃあ……」
アカリは急いでテーブルへと視線を移した。
お腹の調子と相談するも、一つだけ選ぶということに、なぜか気が引けてしまい――
「このプリンと、ゼリー……にしようかな」
胃に優しそうなものを選んだ。
「かしこまりました」
シロウは小さく笑い、盛り付ける。丁寧に盛り付けられた皿を、クロエの前に置く。
「ありがとう、シロー」
シロウは笑顔で応え、ゆっくりとアカリの方へと向き直った。
「お決まりになりましたか?」
「あ、あーじゃあ……」
アカリは急いでテーブルへと視線を移した。
お腹の調子と相談するも、一つだけ選ぶということに、なぜか気が引けてしまい――
「このプリンと、ゼリー……にしようかな」
なるべく、胃に優しそうなものを選んだ。
「かしこまりました」
シロウは小さく笑い、テーブルに並ぶガラスの容器にそっと、手を伸ばす。
しかし――
「あ」と思う間もなく、シロウの指先がプリンの容器を倒してしまった。
カチャ……と静かな音のあと。
「も、申し訳ありません」
磨き上げられたシルバーのトレーの上。
溢れたプリンを見つめながら、アカリは小さく口を開いた。
「……女王様が、心配なんでしょう?」
「……灯シ人様?」
見開かれたモノクルの奥の目と、合う。
アカリはばつが悪そうに、笑う。
「あー、なんか私、余計なこと……言っちゃったみたいだし……」
居た堪れない気持ちからか、アカリは目を逸らした。
シロウはわずかに目線を落とし、
「――いえ、今回は――予想外の出来事が多かったので……」
そのまま――クロエへと向ける。
アカリは、今はそれを見なかったことにした。
「いいよ。行ってきても」
「――え?」
モノクルのチェーンが、かすかに揺れる。
「大丈夫。ここには、クロエと――メイド人形さんたちがいるから」
アカリが目を向ける。
クロエは小さく首を傾げた。
「しかし――」
「してほしいことがある時は、この子たちに話しかければいいんだよね?」
「――ですが……」
念を押すように、アカリは確認する。
それでも決心がつかないらしく、戸惑うシロウは小さく身動ぎした。
やがて――
「――はい」
項垂れるような、シロウの返事。
「申し訳ありません。少し席を外しても……」
「うん、行ってらっしゃい」
アカリは小さく笑った。
「……っ」
すぐにシロウは一礼すると、足早に離れていった。
シロウの姿が、庭園の奥へと消えたあと――
「クロエ――隣、行ってもいい?」
アカリは少し考えて、向かい側のクロエに話しかける。
「うん!」
口元にクリームをつけたクロエが、大きく頷いた。
アカリは立ち上がり、椅子に両手をかける。
すると、
くまのメイド人形が二体、静かに近づいてきた。
じっと、無言で見つめられる。
アカリは椅子から手を離し、しばし考え――
「――あっちへ、移動させたいんだけど……」
クロエの隣を指差す。
くまの人形たちは、微動だにしない。
「えぇと……お願いできる?」
少しだけ気圧されながら、アカリは言った。
すると人形たちは左右、二手に分かれる。
掛け声もないのに、ぴたりと同じタイミングで椅子を持ち上げた。
「おぉー」
思わずアカリは、小さく拍手をする。
カタン、カタタンと、椅子を揺らしながら移動していく。
その後ろに、アカリは続いた。
「力仕事担当、なのかな?」
ゆっくりとついていきながら、そんなことを口にする。
改めて、周りのメイド人形たちに目を向ける。
うさぎやリスといった小動物系の人形は、小回りが利くらしい。
先ほどプリンをこぼして汚れてしまったトレーを、さっと片付け、
すぐに別のお菓子が乗ったトレーを置き直している。
「この子たちだけ、ほかの子たちより少し大きい気がする――くまだから?」
前方で揺れる、茶色くて丸い頭を、アカリはしばらく眺めていた。
椅子を運び終えたあと。
人形たちは、すっと椅子を引き、アカリに座るよう促す。
「ありがとう」
ひと仕事終えた人形たちは、すぐに持ち場へと戻っていった。
「これ、美味しいよ!」
隣に座るクロエから差し出されたのは、シュークリームだった。
「可愛い、ケーキみたいだね」
サクサクのシュー生地の器に、クリームとフルーツやナッツが乗っている。
コンビニで見かけるものとは、訳が違う。
「すごく豪華なシュークリーム……」
どう食べようか――一瞬迷い、クロエを見る。
今、まさに。
シュークリームにかぶりついたクロエと、目が合った。
美味しそうに、口をもぐもぐと動かす。
「……それなら」
(今なら……シロウくんもいないし)
一度あたりを見回し――
アカリは思い切り、シュークリームにかぶりついた。
「んん! 美味しい!」
バニラビーンズを贅沢に使ったカスタードクリーム。
ベリーの甘酸っぱさが、口いっぱいに広がる。
食後で、食べられるか心配だったけど――
「デザートは別腹って、本当なんだなー」
しみじみと思う。
「アカリ!」
もう一口いこうとするアカリに、クロエは待ったをかけた。
「ん?」
顔を向けると、目の前に――ナフキン。
思わずアカリは、瞬きをする。
「お鼻、ついてるよ」
ちょんちょんと、クロエは自分の鼻を指差す。
一瞬。
アカリは言われたことの意味がわからず、ぽかんとする。
そして――
「――あ!」
アカリはナフキンを受け取り、鼻についたクリームをぬぐった。
「あと、ここも」
クロエがそっと、アカリの頬に手を伸ばす。
「え? そんなに?」
慌てるアカリに、クロエはにやにやと笑っていた。
「……クロエだって〜」
アカリはナフキンを裏返して折りたたむ。
「人のこと、言えないでしょ!」
「うぶぶぶ……」
口を拭かれながら、くぐもった声を漏らす。
すっかりやり返されてしまったクロエは、じっとりとした目でアカリを見上げる。
しかし――
「ねぇ、アカリ――楽しいね!」
満面の笑顔を浮かべた。
「――うん、そうだね」
クロエに肩を寄せ、アカリも笑顔で頷く。
空と草花。
色彩と――その景色。
その何もかもが整えられた、主のいなくなった庭園で、
二人は、穏やかな時間を過ごした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
女王のことも、
シロウのことも気になる――しかしアカリは、
今はクロエとの時間を楽しく過ごすことにした。
次回
『言えない言葉』
次回更新予定:
8月1日(日)21:00頃(予定)
※変更になる場合があります




