再会 ─あの日の家族─
神様は再び杖を力強く天にかざした。
すると、辺りは強い光に包まれた。
今度は先ほどとは違い、空間全体が光に包まれていく。
空気が揺れるような感覚に、リリアーナは静かに目を閉じた。
「ありがとう、神様」
そしてリリアーナは、前世の世界へと向かった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(これは……)
リリアーナにとって馴染みのある音だった。
車の走る音。雑踏。どこからともなく流れる音楽。犬の鳴き声。
今度は、周囲の匂いを確かめた。
(……なんだか懐かしい香りがする)
リリアーナは高鳴る胸を抑え、ゆっくりと目を開けた。
(ん……眩しい)
じりじりと焼き付くような陽の光。
アスファルトから跳ね返る熱。
じっとりと肌に張り付くような湿った空気が、日本の夏を感じさせた。
目の前には車や自転車が行き交い、よく知る家が立ち並ぶ。
歩道の脇には小さな花壇。季節の花々が植えられていた。
「懐かしい……」
リリアーナは小さく呟いた。
(私、本当に前世に戻ってきたんだ……)
「あっ……」
リリアーナは、思わず声を上げた。
前から来たサラリーマンの男性が、真っ直ぐリリアーナに向かってきたのだ。
(ぶつかるっ!)
リリアーナは、ぎゅっと目を閉じた。
しかし――。ぶつかるはずの衝撃は、いつまで経っても来なかった。
(あれ? 痛く……ない……)
リリアーナがゆっくりと目を開けると、目の前には誰もいなかった。
「え……? あの男の人はどこに行ったの?」
振り向くと、先ほどのサラリーマンが、リリアーナに背を向けて歩いていた。
「えっ……? 透けてる……」
右手を持ち上げると、その向こうに景色が透けて見えた。
「何?これ……。まるで幽霊みたい。……そっか、私幽霊なんだ……」
(ぶつかった感覚も無いし、相手からも姿が見えない。私、本当に幽霊なんだ……)
(神様……こんなんで会っても意味ないじゃん。私がいるって分かってもらえないなら、意味がないよ……)
リリアーナは静かに俯いた。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
そのとき――。
「ね――ちゃん……?」
(えっ……?この声……)
リリアーナはすぐに顔を上げた。
そこにいたのは、莉子が一番会いたかった家族の一人。六歳年下の弟――智だった。
「智っ!」
リリアーナは強くその名を呼んだ。
(あぁ、間違いない。智だ……)
しかし、目の前にいる智は、リリアーナの記憶にある姿とは違っていた。
背は少し伸び、肌もこんがりと小麦色に焼けていた。輪郭も引き締まり、幼さが薄れているように感じた。
以前は莉子の後ろに隠れてばかりいた、臆病で大人しい智。その頃の印象とは、ずいぶん違っていた。
「智……だよね? なんか……大きくなったね」
リリアーナは、戸惑いながら智を見つめた。
「そりゃあ、ねぇーちゃんがいなくなって、僕が家族を守らないといけないから……」
少し俯き、照れたように話す智を見て、リリアーナは思った。
(あぁ、やっぱり私の智だ……)
莉子は一家の長女として、家族を守るのは自分の役目だと思っていた。弟の智も、自分が守らなければならない存在だった。
(智も……強くなったんだね)
守ってあげなければと思っていた弟が、今度は自分の前に立ち、家族を守ろうとしている。
胸に込み上げる感情を抑えながら、リリアーナは口を開いた。
「だけどよくわかったわね?智は……私の姿が見えるの?」
智は少し複雑な表情を浮かべ、莉子の姿を頭からつま先まで眺めながら答えた。
「見えるけど……幽霊なの? 透けてるんだけど……」
「あはは……」
リリアーナは、涙を浮かべながら笑った。
どうやら、智には見えているらしい。
しかも、リリアーナの姿ではなく、莉子の姿が。
(よかった……)
「……ねぇ――ちゃん?」
智は笑う莉子に、戸惑うように首をかしげた。
――智は、目の前の私を、リリアーナではなく姉の『莉子』として認識していた。
それが、莉子にとってはとても嬉しかった。
「ごめんごめん……。ちょっとね、嬉しくて……」
そう言うと、莉子は照れくさそうに笑った。




