再会 ─ 最後の言葉 ─
「智……元気にしてた?お父さんとお母さんは、元気にしてる?」
「うん、元気だよ。ねぇーちゃんがいなくなってから、しばらくは父ちゃんとかぁちゃんも元気がなかったけど、僕がねぇーちゃんの分まで頑張ると約束したから……ようやく笑うようになったんだ」
「そう……」
莉子は胸がきゅっと痛んだ。
自分がいなくなったことで、家族にこんなにも悲しい思いをさせてしまったのだ。
莉子が視線を落とすと、智の横に一匹の子犬がお利口に座っていた。
「犬、飼ったんだね」
莉子の問いかけに、智は足元に視線を落とした。
「え? あぁ、半年前くらいかな?ココアって言うんだ。可愛いでしょ?」
智はリードを軽く引き、子犬を見せながら、自慢げに笑った。
「うん、可愛い」
子犬は可愛かった。
だけど、それ以上に、子犬を見せて笑顔を浮かべる智が、莉子には可愛くて仕方なかった。
(大人になったなぁ……)
涙が溢れそうになるのを必死に抑え、莉子は言った。
「……ごめんね、皆を悲しませて。私が事故にあったばかりに……」
智は口をきゅっと結び、大きく首を振った。
「それはねぇーちゃんのせいじゃないよっ!そりゃ、ねぇーちゃんがいなくなって悲しかったけど……でも、ねぇーちゃんは子供の命を救ったんだから、英雄だよ!」
そう言うと、智は強い眼差しで莉子を見つめた。
「私が……英雄?」
すると智は、さらに身を乗り出した。
「うん、英雄だよっ!お父さんもお母さんも、言ってるよ」
(私が……英雄……?)
そんなふうに言われるとは、思ってもいなかった。
(本来なら、私は死ぬはずじゃなかった。それでも、家族は私のことを、そんなふうに思ってくれてたんだ……)
自分はただ、家族を悲しませただけだと思っていた。
けれど、そうじゃなかった。
家族の気持ちを知り、莉子は救われた気がした。
「ありがとうね……」
莉子は、感謝の気持ちを込めて、智に微笑んだ。
「だから僕も家族を守る英雄になるんだっ!ねぇーちゃんみたいに、僕も今、走ってるよ」
智は笑顔で語った。
その笑顔が、莉子には眩しかった。
「あはっ、そうなんだ。だけど、私みたいに交通事故には遭わないようにね」
「もちろん!気をつけるもん」
そんな冗談めいたやり取りをしながら、莉子は智と過ごす時間を楽しんでいた。
「ねぇーちゃんは今、何してるの?」
「私? う――ん……信じてもらえないかもしれないけど……」
そして莉子は、自分がゲーム『レジェンド・オブ・アルディア』の世界にいることや、アルディア王国の姫、リリアーナ・アルディア・クラウンとして暮らしていること、強くなるために身体を鍛えていることなどを簡単に話した。
話を聞いた智は、目を大きく見開きながら、声を上げた。
「すげーっ!『レジェンド・オブ・アルディア』って、ねぇーちゃんがよくやっていたゲームだよね!」
「すげー!って、言葉わるっ!それに信じてくれるんだね」
「だって、ねぇーちゃんはそんな嘘つかないだろ?」
嘘をつかない――そんな何気ない言葉が、莉子には嬉しかった。
「実は……最近、聖女にもなったんだよ」
莉子は、少しはにかみながら言った。
「おぉ――!!」
智の声が、さらに大きくなった。
どこまで理解してくれているのかはわからない。だが、驚きも喜びも全身で表現する智を見て、莉子は嬉しくなった。
「そうだっ!」
突然、智は思い出したように声を上げた。
「今から家にいこう! 父ちゃんとかぁちゃんに会いに行こうよ! きっとびっくりするよ!」
智は莉子の手を取ろうとした。
けれど、その手は莉子の手をすり抜けた。
「あ……」
智から、小さな声が漏れた。
莉子は何も言えなかった。
「ごめん……」
智は俯き、悲しげな表情を浮かべた。
「大丈夫よ」
莉子は、心配をかけないように優しく微笑んだ。
その時だった。
ふと、自分の手に目を落とした莉子は、指先が消えかけていることに気づいた。
足元を見ると、足先はすでに消えかけていた。
「智……」
呼びかけに、智は顔を上げた。
「ねぇーちゃんっ!」
消えかけている莉子の姿を見て、智は青ざめた。
「……そんな顔しないで。もう私はこの世にいないんだから……」
莉子は、少しぎこちない笑みを浮かべた。
(もう、時間がない……)
最後に伝えたいことがある。
莉子はゆっくり息を吐くと、静かに口を開いた。
「お父さんとお母さんに、悲しませてごめんなさいって伝えて。私は来世でも元気で生きているから、心配しないでって。それから……」
「ねぇーちゃんっ!まだ行かないで!」
智の悲痛な声が響いた。
「智……私、頑張るから。智も頑張って。誰よりも強くなって、家族を守ってね」
莉子は智を静かに見つめた。
伝えたいことは、まだたくさんある。
けれど、もう時間がない――。
身体が薄れゆく中、莉子は最後に微笑んだ。
「ありがとう」
それが、智に残した最後の言葉だった。




