再び、現る
リリアーナとモルル以外、誰もいない寝室にリリアーナの大絶叫が響き渡った。
その直後――。
執事や侍女たちが、慌てて駆け付けてきた。
何かあったのかと、リリアーナを心配して部屋を訪れたのだ。
リリアーナは、何でもないから、と詫びて皆を返した。
心配そうに何度も振り返る執事や侍女たちを、リリアーナはベッドから見送った。
そして――。
扉が閉められ、再びリリアーナとモルルだけになると、リリアーナは静かに息を吐いた。
足音が遠ざかり、辺りが静かになった。
「……みんな、行ったみたいね」
リリアーナは静かに呟いた。
リリアーナには、二人きりになった今、やりたいことがあった。
それは、モルルの頭上にあった、三角のステータスボタン。リリアーナもステータスを開き、今の状態を知ろうと思っていた。
「ちょっと怖いけど……」
リリアーナは一度目を閉じた。
――ふぅ。
一度深く息を吐くと、リリアーナは呼吸を整え目を開けた。
右上に小さな三角のボタン。
(久しぶりに開くかも……)
最近は、あまり数字を見ないようにしていた。毎日鍛錬を繰り返しても、思ったように上がらない数値を見ると悲しくなるからだ。
――パンッ。
リリアーナは、両手で自分の頬を叩き、気合いを入れた。
「……さぁ、開けるわよ」
そう呟いたリリアーナの視線の先に、モルルの姿があった。
キュル。
モルルは首を傾け、大きな瞳でリリアーナを見つめていた。
モルルに見守られるように、リリアーナは意識をボタンに向けた。
そして――。
リリアーナのステータスが開いた。
リリアーナはこくりと息を飲み、ステータスを見た。
【リリアーナ・アルディア・クラウン】
――レベル 6
体力 8 → 80
剣術 5 → 50
魔法 5 → 50
聖力 ???
「――はぁぁぁぁ!?」
リリアーナは画面を見ながら、思わず唸った。
ステータス画面に並んだ、意味のわからない数値。そして、『聖力』の文字に、リリアーナは混乱したからだ。
「聖力ってことは、私が聖女?それに、いきなりのこの数値は、上げすぎでしょ!だいたい――」
リリアーナは画面を睨み、声を上げた。
「このゲームに聖女なんて言葉は、一切出てこないわよーっ!」
そして――。
リリアーナは気づいた。
モルルのように、自分の名前の下に、説明書きのように小さな文字が並んでいることを。
リリアーナは、その文字に意識を集中させ、拡大させた。
《聖女として覚醒。聖なる力によって、世界の理に干渉することができる。》
「――っ!」
リリアーナは、言葉を失った。
目の前に現れた事実に、ただ驚愕していた。
(――私が、本当に聖女なの?)
色々と疑問に思うことが残る。
レベルに対して、各項目の数値が高すぎること。
そして、モルルとリリアーナに突然現れた、聖女と聖獣という設定。
「……こんなの、聞いてない」
リリアーナは、ぽつりと呟いた。
「ちょっとっ……誰か教えてよ――!」
リリアーナは、天を向いて思わず叫んだ。
すると――。
体の力が抜け、そのままベッドに倒れ込んだ。
リリアーナは、五日間の眠りから覚めたばかりだ。興奮しすぎたせいで、身体が熱くなってしまっていた。
そんなリリアーナを、モルルは心配そうに、見つめていた。
「……大丈夫よ。ちょっと興奮しすぎたみたい。びっくりさせてごめんね……」
リリアーナは再びベッドに横になり、モルルに優しく声をかけた。
すると――。
「――呼んだかの?」
誰もいないはずの室内に、どこからともなく声が響いた。
しかも、その声は、まるで天から降ってくるかのようだった。
「だ、誰っ?」
リリアーナは突然の声に驚きつつも、身体を起こすことができなかった。
五日間、何も口にしていない小さな身体。
そこへ先ほどの興奮が重なり、身体はすっかり熱を持っていた。
(頭が、ぼーっとする……)
「まったく……大変なことになったわい」
その声は、近くにあるようでどこか遠かった。
まるで、天から降ってくるように聞こえた。
リリアーナは、熱で頭がぼーっとしながらも、どこかで聞いたことがあるような懐かしい声に、耳を傾けた。
(この声は、もしかして――)
「神様……?」
リリアーナはぽつりと呟いた。
すると――。
「あぁ、神様じゃ。久しぶりじゃな」
そして――。
その声の主は、何もないはずの空間から、すぅと浮かび上がり、姿を現した。
(神様だ……)
リリアーナは驚かなかった。
つるりとした頭に、ふさふさの白い顎髭の老人。
片手には、身長よりも高い杖を持っていた。
リリアーナがこの人物と会うのは、二度目だった。
莉子をこの世界に転生させた人物。
そして、莉子が交通事故で亡くなった原因を作った――神様である。
「またお前さんに会うことになるとは思わなんじゃがな。この世の理を覆す、予定外のことが起きたんで仕方なく来たんじゃ」
神様は、ぽりぽりと頭をかきながら言った。
「……」
リリアーナは何も言わなかった。
その反応に、神様は意外そうに目を丸くする。
「わしがやってきたのに、随分落ち着いとるな。初めて会った時は、あんな騒いどったのに」
リリアーナは横になったまま、静かに目だけを神様へ向けた。
「……こっちは死にかけたんです。そんな元気はありません」
「おほほ……その通りじゃな」
神様は笑っていた。
(……相変わらず、癇に障るわ)
だが、隣にいたモルルは、そのふわりとした体毛を逆立て、目を吊り上げながら唸っていた。
「大丈夫よ、モルル……。この人は敵じゃないわ」
リリアーナは、興奮しているモルルの身体に片手を伸ばし、優しく撫でた。
すると、モルルもわかったのか、落ち着きを取り戻し、そのまま身体を小さく丸めて、リリアーナの身体にちょこんと寄り添った。
(……まぁ敵ではないけど、諸悪の根源みたいなやつよね)
「起き上がる元気はないじゃろうから、そのまま聞いとくれ。わしがここに来たのは理由があるんじゃ。本当はもう二度と会うことはないと思っておったのだがのぉ」
そう言って、神様は話し始めた。




