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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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家族の絆

(せっかくモルルも助けられたのに……弱い飼い主でごめんね)


ゆっくりと、景色が遠ざかるような感覚だった。


グオォォォ――!


ブラックヴァルグの雄叫びが響く。

再び、リリアーナは覚悟を決めて目を閉じた。


すると――。


眩いばかりの黄金の光が、洞窟内を包んだ。

目を閉じていても分かるほどの眩しさだった。

まるで太陽そのものの光を、すぐ目の前で浴びているかのように――。


瞼が重い――。

 

それでもリリアーナは、ゆっくりと目を開けた。


(何が起きてるの……?)


うっすらと開いたリリアーナの瞳に、信じられない光景が映っていた。


モルルだ――。

 

先ほどのように、モルルがリリアーナを庇うように、その前に立っている。

 

ただ、違うのは――。


モルルが、黄金の光を放ってること。


「モル……ル……?」


リリアーナは、薄れゆく意識の中でなんとか言葉を紡いだ。

だが、その声には力がない。

すでに言葉を話すことさえ難しいほど、リリアーナの体力は限界だった。


それでも――。

モルルの名前を呼んだ。


モルルは振り返らない。

ただ、対峙するブラックヴァルグを真っ直ぐに見据えていた。


(せっかく元気になったのに……)


リリアーナは、残された力を振り絞り、モルルに言った。


「お願……い。モル……ル……逃げて……」


だが、モルルは逃げなかった。

 

薄れゆく意識の中で、リリアーナが最後に見たもの――。


光り輝くモルルの身体が、一瞬――あり得ないほど大きくなった。


そして――。

 

――

――

――

 

パクっ。



大きく口を開いたモルルは、一瞬にして魔獣ブラックヴァルグを飲み込んだ。


「へ……?」


その場の緊張感にはあまりにも不釣り合いな、気の抜けた声がリリアーナの口から漏れた。


(これは、夢――?)


(モルル……一瞬ブラックヴァルグより、数倍大きくなったよね……?)


(え? 食べた? ブラックヴァルグを……食べた……?)


キュウゥゥ――!


モルルは嬉しそうに振り返った。

その姿も大きさも、いつものモルルだ。


モルルは何度もぴょんぴょん飛び跳ねながら、リリアーナのもとへ駆け寄った。

そして、その身をリリアーナの顔に嬉しそうに擦りつけた。

目を細めながら――。


リリアーナの頬に、柔らかなモルルの毛が触れる。

キラキラと星の輝きのように、その一本一本が光り輝いていた。


「モルル……あったかい……。ごめんね。少し、眠らせ……て……」


リリアーナはモルルのふわふわとした温もりに触れながら、ゆっくりと意識を沈めていった。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……ここは……?」


リリアーナはゆっくりと目を開けた。

視界に映ったのは、装飾が施された豪華な天井だった。

それは、見覚えのある景色だった。


(さっきまで洞窟の中にいたのに……)


「ここは、私の……部屋……?」


次の瞬間――。

 

大きな声が響き渡った。


「リ、リリアーナ様がっ!リリアーナ様が、お目覚めになられました!」


それは、リリアーナのよく知る侍女の声だった。

その声の大きさに、リリアーナは思わず頭を抱えた。


(ううっ……頭に響くわ……)


次いで、ドタバタと扉を開け閉めする音や、人の足音、さまざまな人の声が、ひとつの大きな音となってリリアーナの耳に届いた。


(騒がしい……。どうしたのかしら)


リリアーナは身体を起こそうとした。

だが、こめかみに鋭い痛みが走り、起き上がることができなかった。

 

それを見た侍女は、慌ててリリアーナのもとへ駆け寄り、口を開いた。


「無理なさらないでください!五日も寝込んでいらしたんですよ」


「五日もっ?!」


リリアーナは目を丸くした。

そんなに長く眠っていたという自覚はなかったからだ。


そして――。


バンっ!


勢いよく扉を開けて飛び込んできたのは――。


父・アルベルト・アルディア・クラウン。

母・リュシア・アルディア・クラウン。

兄・ヴァルター・アルディア・クラウン。


三人が時間差で、リリアーナの寝室へと入って来た。

そして最後に、アルディア家の医師も入ってきた。


リリアーナは、ベッドに横になったまま、目だけを動かした。

その瞳に、三人の姿が映った。


(お父様、お母様、お兄様……)


リリアーナの大切な家族。

だが、いつも顔を合わせているはずなのに、随分と会っていないような不思議な感覚だった。


嬉しいような、ほっとしたような……。

さまざまな感情が、波のように押し寄せてくる。


リリアーナは、目を潤ませた。


(よかった。皆とまた会えて……)


あの時は命の危機を感じた。

生きることを諦めたくなかったが、覚悟を決めなければならないような状況だった。


今こうして、アルディア家の家族に会えていることは、奇跡なのだ。


「お父様、お母様、お兄様……」


「リリアっ!」


三人がそれぞれ、リリアーナの名前を呼んだ。


「よかったわ……本当によかった……」


そう言って、母・リュシアは口元を両手で覆い、涙を流した。


(お母様……)


リリアーナの胸が熱くなる。


そんなリュシアの肩を、父・アルベルトは優しく抱いた。


「リリア……無事でよかった」


アルベルトは、リリアーナの無事を噛み締めるように言った。


(お父様……)

 

兄・ヴァルターは、そっとリリアーナの枕元へと歩み寄った。

そしてゆっくりと右手を伸ばし、リリアーナの頭を優しく撫でた。


(温かい……)


ヴァルターの手の温もりが、嬉しかった。


「リリア……心配したんだぞ」


いつも強く毅然としているヴァルターの声が、震えていた。


(お兄様……)

 

「ごめんなさい、心配かけて……」


三人の姿に、リリアーナは心から申し訳ないと思った。


(私の身勝手な行動で、みんなを心配させてしまったわ……)


リリアーナは、胸がきゅっと絞られたように痛んだ。


そして、リリアーナには気になることがあった。


「あの……セレスティーヌは……」


一緒にいたセレスティーヌは、どうなったのか。

彼女は無事なのか。


アルベルトが口を開いた。


「心配するな。彼女は無事だ。特に大きな怪我もなく、今は家族のもとに戻っているよ」


「よかった……」


リリアーナは、安堵の息を漏らした。

 

すると――。


ヴァルターは、怒ったように声を張り上げた。


「よくない!リリア……見つけた時は血まみれで意識もなくて、重症だったんだぞ!どんなに心配したか……」


最初こそ声は大きく、険しい顔をしていたヴァルターだったが、その声は徐々に小さくなっていった。

 

そして――。

ヴァルターの瞳は、大きく揺れた。


「お願いだから、人のことばかり心配していないで、もっと自分を大切にしてくれ……」


ヴァルターは目を伏せ、リリアーナの身体を覆う寝具の布を、強く掴んだ。

その手は、小刻みに震えていた。


「お兄様……」


「……彼女から聞いた。リリアが彼女の前に立って、自分を守ってくれたって。感謝していたよ。だけどっ……」


ヴァルターは顔を上げた。

真っ直ぐに見つめるその瞳には、自分の妹、リリアーナだけが映っていた。


「もっと自分を大切にしてほしい……。私の妹は、リリアーナ、ただ一人だから」


ヴァルターの宝石のように美しく輝く瞳。その瞳にはリリアーナを思う強い意思が宿っていた。


「心配かけてごめんなさい……」


兄・ヴァルター、そしてアルベルト、リュシアを心配させたことを、リリアーナは心から詫びた。



 


 


 

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