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【連載版】さよなら初恋。虐げられた令嬢は偽りの恋から愛を得る  作者: ユメミ


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元婚約者の兄の決意

 「こんなはずでは………。

天音………。こんなはずでは………。すまない………」


家安の涙は止まらない。

その様子を徳島家新当主家満は見つめた。


家安は天音を娘のように可愛がっていた。

天音の行方知れずこそ心を痛めていた。


(あいつは結局。

天音さんが『本当に優秀』かどうかを気にしていたな。

失意の彼女の安否も気にしていなかった。


変わらぬ愛の奉仕を望んだ。当たり前のように。


華音嬢には可憐さしか求めなかったのに。


あいつにとって天音さんは道具でしかなかったのか。

だから向き合いもせず、興味も持たず。


見下してきたんだ。

何をしても良いと。

あの子の好意に慢心して。なんて愚かなんだろうか………。


宝の目利きも出来ないのに。何が跡取りだ………。

あの子こそ宝玉の姫だろうが………)


だが家安も家満も当初はそうだった。

彼女は爵位を得るための政略結婚の道具だった。

調べれば調べるほど優秀すぎて恐ろしい娘だった。

顔合わせの頃にはすでに舞姫となりヴェールに素顔は隠されていた。


二人は疑った。

だって舞姫の伝承には顔を隠すべき(・・・・・・)などどこにも記載はなかった。


なら醜女か顔に傷があるのかと。


家安がこっそり失礼を承知で天音に聞いたことがあった。

すると天音はハニカミながら説明したのだ。


『私の容姿を不快に思う人がいる以上。

これが最善なんです。


気持ち悪いでしょう………?白蛇のような髪に赤らんだ紫色の瞳………』



「そやつは。

皇国では白蛇は神の化身。

紫は高貴な色と分からない愚か者か?」


父が呟いた言葉に天音は小首をかしげるだけだった。

その後婚家には容姿を確認する義務があると、こっそり見せてくれた時の衝撃と言ったら。


あの日のことを家満は忘れられない。


白い絹の滝のような髪は神々しくも輝き。

瞳は菫色ともアメジストの輝きとも形容できないほど美しく意思の強さで煌めいて。

顔など卵型で額は広く丸く。

肌は透けるように麗しく。


唇などザクロの汁を垂らしたような艶やかさだった。

恥ずかしそうにはにかんだ笑顔は花の蕾が綻ぶ前の幼さと知的な大人びた雰囲気とチグハグで。

まだ10歳の乙女に見惚れたのだ。


これから大輪の花になる。

それは約束された可憐さをほこっていた。

清純で神秘的で。


何故和家には見せないのかと問うと。


『僕らの婚約に君の容姿は関係ないよ。人前で恥ずかしいだろう。無理しなくていい』

と優しく気遣われたと。


それは『人前で醜女なことを晒すな』と弟が言っているのを家満にはわかった。


たぶん自分の婚約者が醜女なことを学友に揶揄られ本気で信じているらしいと思った。


どうも和家は自分が見もしないことを信用する癖がある。

それらが自身の評価を下げていると言っても聞かないのだ。


思い込みが激しく傲慢。

優秀なはずなのに敵も味方もわからず足をひっぱる交友関係に甘んじている。


とにかく居心地の良さを優先して甘言に惑わされがちなのだ。


そんな和家が天音をよく思っていないのはわかっていた。

それなのに天音は和家を選んだのだ。


(この子は。

美しすぎて家族に害され嫉妬されているんだ。それを守るべき父も帝都に付きっきりだ。


隠すのは本能だ。

妬まれるより気味悪がられる方が対処がし易いんだ)


彼女の髪は白く目立った。

黒く染めてみるのも対策だと父がアドバイスしたことがある。


すると彼女はやんわり拒否した。


『和家様が思い出すかもしれないから。

幼い頃に褒められた髪の色は変えたくないのです』


と。

恥ずかしそうに頬を赤らめて。


和家が影で『毛色の違う』ことにも不満を持っていて。

好みは烏の濡羽色の黒髪だと言っていたのに。


そんなことは家満は言えなかった。


あの子はただ一途に和家を思って自身の能力を捧げようとしていた。

そのことも誇示しなかった。

称賛も欲しなかった。

その謙虚さは愚かなものを増長させた。



(何故………。天音さんはあいつだったんだろうか。

覚えてもいないんだ。

あいつは彼女との出逢いも思い出せないのに。


天音さんはその初恋の甘さを欲するまま………。

俺なら………俺なら悲しませずに………………)


桔梗院家と徳島家の結びつきなら長男の家満が順当だった。

それと同じくらい西の豊富家との縁談も有力候補だった。

それを天音が和家を幼い頃から好いている。

その一点のみで桔梗院男爵は徳島和家との婚約を決めた。


舞姫の指名だ。

誰も文句はつけられなかった。


あの時の家満の失意を父だけはきづいている。


それでも家満は天音の神殿勤めの奉仕の時は仕事の合間を縫いなるべく訪問するようになった。


和家よりも交流をしていた。

天音の頑張りを間近で見てきた自負がある。


そこで目にする天音は領民の悩み事を聞き、妙案や珍技を伝授し。

貧民と泥に塗れながら畑を耕していた。

富めるものまで『寄付金』を条件に経営相談、悩み相談にのる。

それらの寄付金は全て領民に行き渡っていた。

彼女は寄付金もお布施も懐に入れていないのだ。


ある時は天音が設立した孤児院の子供達に勉学を道徳を教えているところも目撃した。


人種も育ちも出自も関係なく学びの場を提供していた。


彼女は正しく『慈愛の女神』と称されたアマカオルニジノミコそのものだった。


妙齢の娘のようにおしゃれや贅沢を望まなかった。

健康的な美に溢れていた。


領民は神殿の信徒関係なく支援され。

桔梗院男爵家の領民は幸せな笑顔に溢れていた。

彼女は素晴らしい女性だった。


天音はずっと家満を将来の兄と慕ってくれた。

家満の煩悩など感じずに。

家満は弟の婚約者に抱いた気持ちは蓋をしてきた。


今、家満は産まれて初めて和家に感謝した。



「父上。

貴方の諜報部隊をお借りできませんか。

彼女の美しい初恋は腐りきった。


彼女は今失意の底にいる。

天音さんの幸せを見ないとおちおち跡も継げません」


家安は驚いている。

だが次の瞬間には目を細めた。


「お前は当主だ。

当主に従うのが諜報部隊だ。好きにしろ。

だがな………。男爵と天子様にバレるな」


「わかっています」


(弱った所につけこむしか。

平凡な俺にはチャンスはない)


家満は和家よりは濃い鳶色の髪をかきあげた。

眼鏡を外し眉間を揉む。黒い瞳が決意に光った。






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