後編
童話のジャンルの話なのに恋愛のジャンルの話より恋愛じみた話になったのはどういうわけでしょうか……。
大国の軍の脅威が去った小さな国は、大変な喜びに包まれていました。
少し前までは、待遇の悪い属国にされるか、ともすれば滅ぼされる可能性もあったのです。
人々は、その脅威を追い払ってくれた魔女を褒め称えます。
そして、たくさんの御馳走、お酒などが至る所で振る舞われました。
お城も人々へ解放され、皆楽しそうに踊り、歌い、歓談しています。
歓喜の人々にもみくちゃにされた魔女は、やっとのことで人気のない場所まで来ると、ほーっと溜め息を吐きました。
そんな魔女へ、おかしそうな声色の問いかけがされました。
「どうした、魔女。今夜の主賓がこんなところで」
「王子……、いえ今は王でしたね」
「ふふ、魔女にそう言われるのは何だかこそばゆいな。今宵は昔のように王子と呼んでくれないだろうか」
「それがお望みなら、……王子」
「うん」
それから二人はしばらく黙ったままで、横に並び腰を下ろしてぼんやりと人々の行き交う様子を眺めていました。
「……皆、とても喜んでいる。すべては魔女のおかげだ」
「……いえ」
「父王は最期まで魔女に悪かったと言っていた。後悔しておられた。本当にすまなかった」
「……いえ」
「魔女は今までどこにいたんだ?」
「……人の入り込めない極寒の地に」
「そんな所で住みにくくはなかったかい?」
「……私には魔術があるから」
「そうか、さすが魔女だ。それにしても今回はずいぶん良いタイミングで助けてもらったね。ずっとこの国を見ててくれたのか?」
「……いいえ、偶然よ」
「そうか。それは僥倖な偶然だった」
「……そうね」
「それで、魔女よ」
「……何?」
「いつ、私に嫁いでくれるのかな」
「…………はあ!?」
魔女は驚き、思わず勢いよく立ち上がりました。
「何を言ってるの、あなたは!」
「何って、昔のように結婚の催促だよ」
「あなた、もう妃も王子もいるでしょう!」
そこで王は怪訝そうに眉を顰めました。
「私には妻も子もいないが……」
「嘘……、だって水晶でそれらしき女性と少年を見たわ」
「……ああ、それはたぶん弟の妃と息子だな。私が結婚していないから、弟の息子が次の王の予定になっている」
「……嘘」
魔女は呆然として王を見ました。
その顔を見た王は苦笑しました。
「嘘なものか。本当は魔女がこの国を出た時点そのまま後を追いたかった。が、弟は身体が弱く王位の重責には堪えられない。さすがに代わりがいない状態で王子としての責務は放棄出来なくてな。だが魔女以外の妻を娶る気もなかった。だから王座に就く代わりに結婚はしない。そして弟の息子が育ったら王位を譲って魔女を探す旅に出る。そう約定をしていたのだよ」
「……そんな。無茶だわ。決して私へは辿りつけなかったわ」
「それでも構わないさ。魔女を想う末の旅路で果てたなら、 それでもきっと私は幸せだったろうから」
そう言うと、王は魔女を愛おしげに見つめました。
それはかつて王子が魔女を見つめたその瞳のままでした。
時を経ても、決して褪せる事のない、その眼差し。
「……あなたって、本当に馬鹿だわ」
「馬鹿でも構わない。君さえ私のそばにいてくれるのであれば」
そう言って王の差し出した手に、魔女は震えるその手を重ねました。
「ねえ、魔女。愛しているよ」
「……私もよ」
やっと聞けた魔女のその言葉に、王は魔女が大好きな太陽のような眩しい笑みを浮かべたのでした。
それから二人がどうなったかと言うと……。
もちろん、人々に祝福され結婚し、末永く幸せに暮らしたということです。
ありがとうございました。
予定通り3部完結です。




