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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第9話 何でも屋《カンポル》、初仕事


「……あんたたち」


 声をかけてきた老婆を、タローは振り返った。


「何でもやってくれるって、本当かい?」


「はい!」


 返事だけは早かった。


 設立から、わずか数分。


 店舗なし。


 資金なし。


 実績なし。


 信用なし。


 そんな何でもカンポルに、早くも客が現れたのだ。


「やります!」


「まだ内容を聞いていないだろう」


 アフラが横から冷静に突っ込む。


「あ」


「まず依頼内容を確認しろ」


「そやな」


 タローは老婆へ向き直った。


「すいません。嬉しくて先走りました」


「変わった兄ちゃんだねぇ」


「よく言われます」


 老婆は少し笑った。


「実はね、探してほしい物があるんだよ」


「探し物?」


「ああ」


「ええやん!」


「だから内容を聞け」


「分かってるって」


 タローは老婆の話を聞く。


「何をなくしたんです?」


「首飾りだよ」


「どんなやつ?」


「銀色の、小さな花の飾りがついた首飾りさ」


「最後に見たのは?」


「昨日の朝だねぇ」


「どこで?」


「家だと思うんだけど……」


「思う?」


 老婆は困ったように眉を下げた。


「最近どうも忘れっぽくてね。昨日も朝からあちこち出歩いたから、どこで落としたのか分からないんだよ」


「なるほど」


 タローは頷いた。


「行った場所、覚えてます?」


「市場と、パン屋と、井戸。それから畑にも行ったねぇ」


「結構あるな」


 アフラが呟く。


「首飾りは高価なものなのか?」


「いや」


 老婆は首を振った。


「売っても大した金にはならないよ」


「なら、なぜそこまで?」


 アフラの問いに、老婆は少しだけ寂しそうに笑った。


「亡くなった爺さんにもらった物なんだ」


「…………」


「若い頃にね。あの人が初めて働いて稼いだ金で買ってくれたのさ」


 タローの表情が変わる。


「それは見つけなあかんな」


「ああ。だから探してくれる人がいないかと思ってたんだけど……」


 老婆は掲示板を見る。


「こんな小さな依頼を、わざわざ出すのもねぇ」


 タローが先ほど考えていたこと、そのものだった。


 掲示板に依頼するほどではない。


 けれど本人にとっては困っている。


 そんな小さな悩み。


「任せてください」


 タローが言った。


「探します」


「本当かい?」


「はい」


「報酬は……」


 老婆が小さな財布を取り出そうとする。


「見つかってからでええですよ」


「え?」


「見つからんかったら、お金もらうの悪いし」


「タロー」


 アフラが口を挟む。


「なんや?」


「先に条件を決めるべきだ」


「でも――」


「金を取れと言っているわけではない」


 アフラは老婆を見る。


「依頼を受ける以上、条件は明確にした方がいい。後で揉めないためにもな」


「なるほど」


 タローは素直に頷いた。


 アフラが老婆へ尋ねる。


「見つかった場合、いくらなら支払えますか?」


「そうだねぇ……銅貨十枚なら」


 タローはソニルを見る。


「どれくらい?」


「食事が何回かできる」


「十分やん」


「三人で分ければ大した額ではない」


 アフラが言う。


「最初の仕事やからええねん」


「まあ、俺もそう思う」


「じゃあ決まり!」


 タローが老婆へ手を差し出す。


「何でもカンポル、初仕事です!」


「カン……?」


「カンポル」


「変わった名前だねぇ」


「覚えやすいやろ?」


「そうだねぇ」


 老婆が笑った。


「じゃあ、お願いするよ」


「任せてください!」


 こうして。


 何でもカンポルの最初の依頼は、老婆の首飾り探しに決まった。



     ◇



「まず家からやな」


 三人は老婆――ミーナの家へ向かった。


 町の端にある、小さな木造の家。


 中へ入ると、タローは周囲を見回した。


「結構物あるなぁ」


 家具。


 衣類。


 食器。


 古い本。


 棚には細かな生活用品が並んでいる。


「どこから探す?」


 ソニルが聞く。


「手分けしたら早いやろ」


 タローは指示を出す。


「俺は寝室。ソニルはこっち。アフラは――」


「待て」


「何?」


「闇雲に探すのか?」


「そのつもりやけど」


「効率が悪い」


「じゃあどうする?」


 アフラはミーナを見る。


「昨日の行動を最初から教えてください」


「昨日?」


「朝起きてから、順番に」


 ミーナは考える。


「朝起きて、顔を洗って……朝ご飯を食べたねぇ」


「その時、首飾りは?」


「つけていたと思うよ」


「確認した記憶は?」


「鏡を見たからね。たぶんあった」


「その後は?」


「洗濯をしたよ」


「どこで?」


「裏庭さ」


「それから?」


「市場へ行った」


「買ったものは?」


「野菜と肉。それからパン屋へ寄ったね」


 アフラは一つずつ確認していく。


 タローは横で感心していた。


「すごいな」


「何が?」


「俺やったら家ひっくり返して探してたわ」


「だから効率が悪いと言った」


「さすが頭脳担当」


「勝手に担当にするな」


「もう仲間なんやからええやん」


 アフラはため息をついた。


「昨日の行動を見る限り、可能性は大きく五つだ」


 指を立てる。


「家、裏庭、市場、パン屋、井戸、畑」


「六つやん」


「…………」


「アフラ?」


「六つだ」


「間違えることあるんや」


「人間だからな」


「なんか安心したわ」


「うるさい」


 ソニルが無言で棚の下を覗いている。


「ソニル」


「なんだ?」


「何してるん?」


「探している」


「そらそうやけど」


 ソニルが棚を動かそうとする。


「待て!」


 タローが慌てて止めた。


「なんだ?」


「力加減!」


「分かっている」


「ほんま?」


「ああ」


 ソニルが棚へ手をかける。


 スッ。


 大きな棚が簡単に持ち上がった。


「…………」


 ミーナの口が開いた。


「兄ちゃん、力持ちだねぇ」


「そうらしい」


「そうらしいってレベルちゃうけどな」


 棚の下を見る。


「ないな」


「じゃあ戻して」


「ああ」


 ソニルがそっと棚を戻す。


 ゴトッ。


「おお」


 タローが拍手する。


「ちゃんと加減できてる」


「昨日言われたからな」


「成長したなぁ」


「子供扱いするな」


 結局。


 家の中から首飾りは見つからなかった。


「次は裏庭だ」


 アフラが言う。


 三人で探す。


 洗濯物の周辺。


 井戸桶。


 草むら。


 地面。


「ないなぁ」


「次へ行こう」


 三人は市場へ向かった。



     ◇



「昨日、この辺を歩いたんですね?」


「ああ」


 ミーナも一緒についてきていた。


「野菜はあそこで買ったよ」


 店を一つずつ確認する。


「昨日この婆ちゃん来ました?」


「ああ、来たよ」


「首飾り落としてなかった?」


「見てないねぇ」


 次。


「昨日何か拾い物なかったです?」


「いや」


 次。


「銀色の首飾り見てない?」


「知らないな」


 見つからない。


「結構大変やな」


 タローが額の汗を拭う。


「探し物とはそういうものだ」


 アフラは周囲を観察している。


 ソニルは地面を凝視していた。


「ソニル」


「なんだ?」


「そんな見方して見つかる?」


「分からん」


「目めっちゃ良さそうやけどな」


「普通だ」


「敏捷∞やから目も良さそうやけど」


「何の話だ?」


 アフラが反応する。


「なんでもない」


 危ない。


 またソニルのステータスを喋るところだった。


「次はパン屋か」


 三人が移動する。


 パン屋でも情報なし。


 井戸でも見つからない。


「残るは畑やな」


「そうだ」


 町の外れ。


 ミーナが使っている小さな畑へ向かう。


「昨日はここで何したん?」


「草を抜いてたんだよ」


「どれくらい?」


「一時間くらいかねぇ」


「範囲広いな……」


 畑は思った以上に広い。


 土。


 野菜。


 雑草。


 銀色の小さな首飾り。


「これ探すん?」


「ああ」


「日暮れるで」


「なら効率よく探すしかない」


 アフラが畑を見る。


「昨日、どこから草を抜きました?」


「あっちからだよ」


「最後は?」


「この辺だねぇ」


「なら、その間を重点的に探す」


「なるほど」


 三人が横一列に並ぶ。


 少しずつ進みながら地面を見る。


「ない」


「こっちも」


「ないな」


 十分。


 二十分。


 三十分。


「ないなぁ……」


 タローが腰を伸ばす。


「ほんまにここなんかな」


 アフラも眉を寄せる。


「可能性は高いと思ったが……」


「別の場所?」


「あり得る」


 ミーナが申し訳なさそうに言う。


「すまないねぇ」


「いやいや」


 タローが笑う。


「まだ探しますよ」


「でも……」


「大事な物なんやろ?」


「ああ」


「じゃあ見つけましょう」


 タローは再び地面を見る。


 その時。


「タロー」


 ソニルが呼んだ。


「ん?」


「これは違うか?」


 見る。


 ソニルが何かを摘まんでいる。


 泥にまみれた細い鎖。


 その先。


 小さな花の飾り。


「…………」


「それや!」


 タローが駆け寄る。


「ミーナさん!」


 老婆が振り返る。


「見つかったで!」


「え?」


 ソニルが首飾りを差し出す。


 ミーナの目が大きくなる。


「これ……」


 震える手で受け取る。


「これだよ……」


 泥を拭う。


 銀色の花が現れる。


「爺さんの……」


 ミーナの目から涙がこぼれた。


「ありがとう」


 三人が黙る。


「本当に……ありがとう」


 タローは少し照れくさそうに頭を掻いた。


「見つかって良かった」


「ああ……」


 ミーナは首飾りを胸へ抱いた。


「諦めかけてたんだよ」


 タローはその姿を見る。


 報酬。


 銅貨十枚。


 金額としては大したことがない。


 三人で一日近く動いた。


 効率だけ考えれば、倉庫整理でもしていた方が稼げたかもしれない。


 それでも。


「……なんかええな」


「何が?」


 アフラが聞く。


「こういう仕事」


「そうか?」


「うん」


 タローは笑った。


「めっちゃ喜んでもらえるやん」


 元の世界でも営業をしていた。


 契約を取れば数字になる。


 成績になる。


 給料になる。


 もちろん感謝されることもあった。


 だが。


 目の前でここまで喜んでもらえるのは、少し違う感覚だった。


「カンポル」


 タローが呟く。


「案外いけるかもしれんな」


「まだ一件だ」


「夢ないなぁ」


「現実を見ているだけだ」


「ソニルは?」


「俺は腹が減った」


「お前はそればっかりやな!」


 ミーナが笑った。


「だったら、うちで食べていくかい?」


「いいのか?」


 ソニルの反応だけ異常に早かった。


「お前、そういう時だけ食いつくな」


「腹が減っている」


「正直やなぁ」


 ミーナは三人を見て笑う。


「報酬とは別に、ご飯くらい食べさせてあげるよ」


「ありがとうございます!」


「タローも早いじゃないか」


「飯は大事や」


 結局、三人とも同じだった。



     ◇



 その日の夕方。


 三人はミーナの家で食事をしていた。


「うまい」


 ソニルが肉を食べる。


「ほんまやな」


 タローもパンを頬張る。


「食べすぎるなよ」


 アフラが言う。


「お前も結構食べてるやん」


「…………」


「腹減ってたん?」


「悪いか」


「素直に言えばええのに」


 三人のやり取りを見て、ミーナが楽しそうに笑った。


「変な三人組だねぇ」


「今日二回目やな、それ言われるの」


「でも」


 ミーナが続ける。


「いい子たちだ」


「子供ちゃいますよ」


「私から見れば子供さ」


 食事を終える。


 帰り際。


 ミーナは約束通り銅貨十枚を渡した。


「ありがとうね」


「また困ったことあったら言ってください」


「ああ」


 タローが笑う。


「何でもカンポルなんで」


「覚えておくよ」


 三人は家を出た。


「初報酬!」


 タローが銅貨を掲げる。


「十枚!」


「三人で分けるのか?」


 ソニルが聞く。


「いや」


 タローは少し考えた。


「カンポルの金にせえへん?」


「カンポルの?」


「これから仕事するなら道具とか必要になるやろ」


「確かに」


 アフラが頷く。


「収入の一部を共通資金にするのは合理的だ」


「じゃあ最初の十枚は全部カンポル資金!」


「構わん」


「俺も異論はない」


「決まり!」


 たった銅貨十枚。


 それが何でもカンポル最初の売上だった。


 だが。


 三人が知らないところで。


 最初の仕事は、すでに次へ繋がり始めていた。



     ◇



 翌朝。


 市場の一角。


「ミーナさん、首飾り見つかったんだって?」


「ああ!」


 ミーナは嬉しそうに胸元を見せた。


「昨日、若い子たちが探してくれてね」


「へぇ」


「三人組でね。変わった子たちなんだけど、最後まで探してくれたんだよ」


「どこの店?」


「店はないらしいよ」


「じゃあ何者?」


 ミーナは少し考え。


 昨日聞いた名前を思い出す。


「確か……」


 そして。


「何でもカンポルって言ってたねぇ」


 その話を。


 近くで野菜を売っていた女が聞いていた。


 さらにその隣の商人も。


 その日の昼。


「カンポルって知ってる?」


「何でもやる三人組らしいぞ」


「探し物を見つけたって」


「へぇ」


 まだ小さな噂。


 町の片隅で交わされる程度の話。


 だが。


 信用とは、こうして生まれる。


 一人から二人へ。


 二人から四人へ。


 そして――。


「そのカンポルって人たち……」


 一人の女性がミーナへ尋ねた。


「家の掃除なんかも、頼めるのかしら?」


 何でもカンポル


 二件目の依頼は。


 すでに三人の知らないところで、生まれようとしていた。

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