表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/33

第10話 何でも屋、大忙し


 何でもカンポル


 記念すべき最初の仕事は、老婆ミーナの首飾り探しだった。


 報酬は銅貨十枚。


 三人で一日近く動いたことを考えれば、決して割のいい仕事ではない。


 それでも――。


「タロー!」


 翌朝。


 宿を出た瞬間、知らない女性から名前を呼ばれた。


「はい?」


「あんたがカンポルのタローだろ?」


「そうですけど……」


「ちょっと来てくれない?」


「何か困り事です?」


「家の掃除を頼みたいんだよ」


「掃除?」


「ああ。ミーナさんから聞いたんだ。何でもやってくれるんだろ?」


「もちろん!」


 タローの顔が一気に明るくなる。


「やります!」


「だから条件を先に確認しろ」


 後ろからアフラの声。


「あ」


「昨日も言っただろう」


「そうやった」


 アフラが女性の前へ出る。


「家の広さと、掃除してほしい場所、それから希望する時間を教えてください」


「え? あ、ああ……」


 女性が説明する。


 タローはその横で感心していた。


「やっぱアフラおったら楽やな」


「お前が何も考えず仕事を受けるからだ」


「俺は仕事取ってくる担当やから」


「まだ向こうから来ただけだ」


「細かいこと気にすんなって」


 ソニルが聞く。


「俺は何をすればいい?」


「掃除」


「分かった」


「待て」


 アフラが止めた。


「ソニルには家具を動かしてもらおう」


「なんで?」


「適材適所だ」


「なるほど!」


 タローが頷く。


「力仕事はソニルやな」


「掃除くらいできる」


 ソニルが少し不満そうな顔をする。


「ほなやってみる?」


「ああ」


 この時。


 タローとアフラは知らなかった。


 ソニルに掃除を任せるという選択が、間違いだったことを。



     ◇



「…………」


「…………」


 タローとアフラは無言だった。


 目の前ではソニルが雑巾を持っている。


「どうだ?」


「どうだって……」


 タローが床を見る。


 確かに拭いている。


 だが。


「なんでこんなビチャビチャなん?」


「水拭きだからだ」


「水多すぎるやろ!」


 床がほとんど水浸しである。


「絞らんかったん?」


「絞った」


「ほんま?」


「ああ」


「どうやって?」


 ソニルが桶の中から別の雑巾を取る。


 握る。


 ブチッ。


「…………」


 雑巾が裂けた。


「こうなる」


「力加減!」


「弱く握った」


「それで!?」


「ああ」


 アフラが頭を押さえる。


「ソニル」


「なんだ?」


「家具を運べ」


「掃除は?」


「もういい」


「そうか」


 ソニルは少し残念そうだった。


「器用三十五の意味、なんとなく分かったわ……」


 タローが小さく呟く。


「何の話だ?」


「なんでもない」


 結局。


 タローが掃除。


 アフラが作業手順を考え。


 ソニルが家具を動かす。


 役割を分けることになった。


「ソニル、その棚ちょっと動かして」


「ああ」


 ズズッ。


「机も」


「ああ」


 スッ。


「ベッドも」


「ああ」


 ヒョイ。


「…………」


 依頼人の女性が目を丸くする。


「兄ちゃん、すごい力だねぇ」


「そうなのか?」


「そうやで」


 タローが答える。


「こいつ力だけはめちゃくちゃありますから」


「だけ、とはなんだ」


「掃除できへんやん」


「雑巾が弱い」


「雑巾のせいにすんな」


 女性が笑った。


「変わった三人だねぇ」


「最近それめっちゃ言われます」


 だが。


 三人で役割を分けてからは早かった。


 重い家具をすべて動かせるため、普段掃除できない場所まで綺麗になる。


 アフラが効率よく順番を決め。


 タローが細かい部分を掃除する。


「終わりました!」


「もう?」


 女性が驚いた。


「もっとかかると思ってたよ」


「三人おるんで」


 タローが笑う。


「どうです?」


 女性は家の中を確認する。


「綺麗になったねぇ」


「良かった」


「特にこの棚の裏なんて、何年掃除してなかったか」


「すごかったですよ」


「言わなくていいよ!」


 女性が笑う。


 そして約束した報酬を渡した。


「ありがとう。また何かあったら頼むよ」


「いつでも!」


 タローは笑顔で答える。


「何でもカンポルなんで!」


「覚えたよ」


 三人は家を出る。


「よっしゃ!」


 タローが拳を握る。


「二件目終了!」


「まだ二件だ」


「順調やん」


「そうだな」


 アフラも否定はしなかった。


 すると。


「あ!」


 後ろから先ほどの女性が走ってきた。


「タロー!」


「はい?」


「そういえば隣の家も困ってたよ」


「え?」


「旦那さんが怪我して、畑仕事ができないらしいんだ」


 タローとアフラが顔を見合わせる。


「……行ってみる?」


「話くらい聞いてもいいだろう」


「ソニルは?」


「腹が減った」


「まだ朝や!」


「働いた」


「ほとんど家具持っただけやろ!」


「働いた」


「分かった分かった!」


 こうして。


 二件目の仕事が。


 三件目へ繋がった。



     ◇



「これ全部?」


 タローが畑を見る。


「ああ」


 農家の男が申し訳なさそうに頷いた。


 足を怪我しているらしく、杖をついている。


「収穫が遅れててな。息子も今、別の村に行ってるんだ」


「なるほど」


 畑には大量の野菜。


「三人で半日くらいか?」


 タローが言う。


「いや」


 アフラが畑を見る。


「もっとかかる」


「マジ?」


「収穫するだけではない。選別して箱に入れる必要がある」


「なるほど」


 タローがソニルを見る。


「頼んだ」


「ああ」


 ソニルが畑へ入る。


「待て!」


 アフラが止める。


「なんだ?」


「お前は箱を運べ」


「またか」


「野菜を触るな」


「なぜ?」


「嫌な予感がする」


「俺も」


 タローが頷く。


「一個だけやらせろ」


 ソニルが野菜を掴む。


 ブチッ!


「…………」


 茎ごと抜けた。


「ほら!」


「取れたぞ」


「取れたけど!」


 農家の男が大笑いする。


「兄ちゃんは運ぶ方が向いてそうだな!」


「そうらしい」


 ソニルは素直に諦めた。


 タローとアフラが収穫。


 ソニルが箱を運ぶ。


 途中から農家の男も、座りながら選別方法を教えてくれた。


「兄ちゃん、それはまだ早い」


「これ?」


「ああ。もう少し置いとけ」


「難しいな」


「慣れだよ」


 タローは一つずつ覚えていく。


「タロー」


「ん?」


 アフラが声をかける。


「こっちを先に収穫するぞ」


「なんで?」


「日当たりの違いで成熟が早い」


「そんなことまで分かるん?」


「見れば分かる」


「俺には全部同じに見えるわ」


「だから俺が言っている」


「助かるわぁ」


 三人で作業を続ける。


 昼を過ぎた頃。


「終わったぞ」


 ソニルが最後の箱を置いた。


「早っ!」


 農家の男が驚く。


「普通なら二日はかかるぞ!」


「三人おるから」


「いや」


 アフラがソニルを見る。


「ほとんどこいつのおかげだ」


 何十箱もの野菜を一人で運んだ。


 しかも疲れた様子すらない。


「兄ちゃん、戦士なのか?」


「ああ」


「レベルは?」


「一」


「…………」


 農家の男が固まる。


「レベル一?」


「ああ」


「嘘だろ?」


「本当だ」


 タローが笑う。


「あんまり気にせん方がええですよ」


「いや、気になるだろ!」


「俺も最初そうやったんで」


 仕事を終え。


 報酬を受け取る。


 すると農家の男が言った。


「なあ」


「はい?」


「明日も暇か?」


「仕事次第ですけど」


「知り合いの農家が人手不足なんだ」


「おっ」


「紹介していいか?」


 タローの目が輝く。


「もちろん!」


 アフラが横で小さく笑った。


「なるほど」


「何?」


「お前の言っていた通りになっている」


「何が?」


「信用だ」


 一件。


 また一件。


 仕事が次の仕事へ繋がっていく。


「やろ?」


 タローは胸を張った。


「営業なめんなよ」


「お前はほとんど向こうから紹介されているだけだが」


「細かいこと言うなって!」



     ◇



 翌日。


「カンポルさん?」


「はい!」


「荷物運んでほしいんだけど」


「任せてください!」


 さらに翌日。


「屋根裏の荷物を整理したいんだが」


「やります!」


 その次の日。


「逃げた鶏を探してくれ!」


「何羽!?」


「十二羽!」


「多いな!」


「十一羽見つけた」


「ソニル早っ!」


「あと一羽だ」


「どこ行ったんや!」


「屋根の上にいる」


 アフラが指差す。


「なんで!?」


 その翌日。


「店の倉庫を片付けたいんだ」


「カンポルに任せて!」


 さらに。


「畑の柵が壊れた!」


「ソニル、木材!」


「ああ」


「待て! 釘打ちはさせるな!」


「なんで?」


「お前が打ったら板まで貫通する!」


「分かった」


「アフラ、そこ押さえて!」


「お前が釘を打つのか?」


「俺しかおらんやろ!」


「曲がっているぞ」


「うるさい!」


 仕事。


 仕事。


 また仕事。


 最初は一日一件だった。


 それが。


 一日二件。


 三件。


 少しずつ増えていく。


 探し物。


 掃除。


 農作業。


 荷物運び。


 店の手伝い。


 迷子の家畜探し。


 本当に何でもやった。



     ◇



 ある日の夕方。


「疲れたぁ……」


 タローは宿のベッドへ倒れ込んだ。


「今日は何件?」


「四件だ」


 アフラが答える。


「そんなやった?」


「ああ」


「そら疲れるわ」


 ソニルは普通に座っている。


「俺は疲れていない」


「お前と一緒にすんな」


「そうか」


 アフラが小さな袋を机へ置く。


 ジャラッ。


「今日の報酬だ」


「おお!」


 タローが飛び起きる。


 三人で稼いだ金。


 最初は銅貨十枚だった。


 今では。


「銀貨もあるやん!」


「ああ」


「すごいやん!」


「全部使える金ではないぞ」


「分かってる」


 食費。


 宿代。


 仕事に必要な道具。


 そして《カンポル》の共通資金。


「それでも増えてるやろ?」


「ああ」


「よっしゃ!」


 タローは嬉しそうに金を見る。


「異世界来て初めてちゃんと生活できそうな気がしてきたわ」


「今までどうやって生きてきたんだ?」


 アフラが聞く。


「それは……」


 タローは一瞬止まった。


 まだアフラには、自分が異世界から来たことを詳しく話していない。


「まあ、色々あってな」


「そうか」


 アフラはそれ以上聞かなかった。


 ソニルも聞かない。


 タローは二人を見る。


「…………」


「なんだ?」


「いや」


 少し不思議だった。


 出会ってまだそれほど経っていない。


 それなのに。


 三人で仕事をして。


 三人で飯を食べて。


 同じ宿へ帰る。


 いつの間にか、それが当たり前になりつつあった。


「悪くないな」


「何が?」


「この三人」


 ソニルが頷く。


「俺もそう思う」


 アフラは少しだけ笑った。


「まだ始まったばかりだ」


「分かってるって」


 その時だった。


 ポンッ。


「ん?」


 タローの目の前に、突然文字が浮かんだ。


【スキル《相づち》の熟練度が上昇しました】


「…………」


「どうした?」


 アフラが聞く。


「ちょっと待って」


 さらに。


【《相づち》Lv4】


「…………」


 タローは固まった。


「何があった?」


 ソニルも見る。


 そして。


 ポンッ。


【スキル《聞き上手》の熟練度が上昇しました】


【《聞き上手》Lv5】


「…………」


 沈黙。


「タロー?」


 アフラが声をかける。


 タローはゆっくり天井を見上げた。


「神様……」


「また神か?」


 ソニルが言う。


 タローは拳を震わせる。


「なんでやねん!」


 二人が驚く。


「なんで異世界来て毎日働いて、上がったんが《相づち》と《聞き上手》やねん!」


「…………」


「筋力とか!」


「…………」


「剣術とか!」


「…………」


「もっと異世界っぽいやつあるやろ!」


 アフラが少し考える。


「だが、お前らしいのではないか?」


「どこが!?」


「毎日、依頼人の話を聞いている」


「それはそうやけど!」


「相づちもよく打っている」


「営業してたら癖になるねん!」


「なら当然の結果だろう」


「納得できへん!」


 ソニルが真顔で言う。


「強くなったのだろう?」


「相づちがな!」


「よかったな」


「何がや!」


 宿の部屋にタローの声が響いた。


 だが。


 三人はまだ知らない。


 この世界では。


 スキルは努力によって生まれ、使い続けることで成長する。


 そして。


 ありふれた下位スキルであっても。


 極めた先に何が待っているのかを――。



     ◇



 それから数日。


 市場で。


「カンポルって知ってる?」


「ああ、あの三人組だろ?」


「この前うちの荷物運んでもらったよ」


「うちは畑を手伝ってもらった」


「ソニルって兄ちゃん、とんでもない力だぞ」


「アフラって奴も頭が切れる」


「じゃあタローは?」


「…………」


「…………」


「よく喋る」


「それだけ?」


「あと話を聞いてくれる」


「何の職業なんだ?」


「知らん」


「俺聞いたぞ」


「何だった?」


「《生物》」


「……なんだそれ?」


「知らん」


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 町の中で名前が広がっていく。


 何でもカンポル


 そして。


 その中心にいる――。


 妙に人懐っこい男。


 怪力の男。


 頭の切れる男。


 三人をまとめて呼ぶ者も現れ始めていた。


「最近いるだろ?」


「ああ」


「あの――」


「変な三人組」


 その呼び名がメイジンに定着するまで。


 そう時間はかからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ