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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第11話 依頼が依頼を呼ぶ


 何でもカンポル


 最初の依頼は、老婆ミーナの首飾り探し。


 そこから掃除、農作業、荷物運び、家畜探し。


 一件の仕事が次の仕事を呼び、少しずつ依頼が増えていった。


 そして――。


「タロー! 次!」


「ちょ、ちょっと待って!」


 朝から市場を走り回るタローの手には、小さな紙が何枚も握られていた。


「えーっと……午前中が商店の荷物運び。その後、畑の柵直して……」


「違う」


 隣を歩くアフラが訂正する。


「先に柵だ」


「なんで?」


「商店への荷物は昼過ぎに届く。それまで行っても意味がない」


「あ、そっか」


「昨日説明しただろう」


「忘れてた」


「…………」


 アフラがため息をつく。


「よくそれで仕事を受けられるな」


「受けるんは得意やねん」


「管理ができていない」


「そこはアフラがおるやん」


「最初から俺に丸投げするつもりか?」


「適材適所!」


「便利な言葉だな」


 その後ろを、ソニルが歩いている。


 両肩には巨大な木材。


 さらに片手には工具箱。


「なあ」


 ソニルが言った。


「これはどこへ持っていく?」


「柵の修理!」


「どこの?」


「…………」


 タローがアフラを見る。


「東門近くの農家だ」


「ありがとう!」


「やはり何も覚えていないじゃないか」


 三人はそんなやり取りをしながら、最初の依頼先へ向かった。



     ◇



「おお、来てくれたか!」


 農家の男が三人を出迎えた。


「昨日の夜にな、家畜がぶつかって柵を壊しちまったんだ」


「どこです?」


「あそこだ」


 見る。


「…………」


 タローは首を傾げた。


「結構壊れてるな」


 十メートルほどにわたって柵が倒れている。


「今日中に直せます?」


「本来なら難しいだろうな」


 アフラが答える。


「でも」


 視線がソニルへ向く。


「こいつがいる」


「俺か」


「お前だ」


「何をすればいい?」


 アフラは壊れた柵を見る。


「まず古い木材を全部抜いてくれ」


「分かった」


 ソニルが一本目の杭を掴む。


「待て!」


 タローが叫ぶ。


「なんだ?」


「優しくな!」


「ああ」


 ズボッ。


「…………」


 地面へ深く打ち込まれていた杭が、野菜でも抜くように抜けた。


 農家の男が目を丸くする。


「すげぇな……」


「次も抜くぞ」


「おう」


 ズボッ。


 ズボッ。


 ズボッ。


「早っ!」


 数分で古い杭がなくなった。


「じゃあ新しい杭を――」


 タローが言いかける。


「俺がやる」


 ソニルが新しい杭を持つ。


「待て待て待て!」


「なんだ?」


「どうやって打つ気?」


「こうだ」


 杭を地面へ立てる。


 拳を振り上げる。


「やめろ!」


 タローとアフラが同時に叫んだ。


「なぜ?」


「絶対壊れる!」


「まだ殴っていない」


「結果が見える!」


 結局。


 杭を運ぶのはソニル。


 位置を決めるのはアフラ。


 実際に打ち込むのはタローと農家の男。


 という役割になった。


「なんか俺、普通に肉体労働してへん?」


「仕事だからな」


「俺、営業担当やねんけど」


「人手不足だ」


「はい」


 文句を言いながらもタローは働く。


 昼前。


「できた!」


 新しい柵が完成した。


「助かったよ」


 農家の男が嬉しそうに柵を見る。


「これで家畜を外に出せる」


「また壊れたら呼んでください」


「いや、できれば壊れてほしくないんだが」


「それもそうやな」


 男が笑う。


「そうだ」


「はい?」


「隣村に住んでる弟が、人手を探してたんだ」


「仕事?」


「ああ。納屋の片付けだったかな」


 タローの目が輝く。


「紹介してください!」


「また即答か」


 アフラが呆れる。


「仕事は大事や!」


「予定を確認してから受けろ」


「あ」


 タローが紙を見る。


「明日は……」


「午前に一件」


「じゃあ午後!」


「場所を聞け」


「あ」


「報酬も」


「あ」


「作業内容も」


「あ」


 農家の男が大笑いした。


「兄ちゃん、本当に仕事できるのか?」


「人と喋るんは得意です!」


「それ以外は?」


「仲間がおるんで!」


「胸を張るな」


 アフラが頭を押さえた。



     ◇



 その日の午後。


 三人は商店へ向かった。


「遅いぞ!」


 店主が待っている。


「すいません!」


「荷馬車がもう来てる!」


 店の前には大量の木箱が積まれていた。


「これ全部、倉庫へ運んでくれ」


「分かりました!」


 タローが腕まくりする。


「よしソニル!」


「ああ」


「頼んだ!」


「お前も運べ」


「え?」


「三人の仕事だろう」


「……はい」


 一箱。


 二箱。


 三箱。


 タローが汗だくになりながら運ぶ。


 横を見る。


 ソニルは。


「…………」


 木箱を四つ重ねて持っていた。


「お前ずるない?」


「何が?」


「俺一個やで?」


「もっと持てばいい」


「持てるか!」


 ソニルが倉庫へ消える。


 戻ってくる。


 また四箱。


「ほんま便利やなぁ……」


「人を道具のように言うな」


「聞こえてたん?」


「ああ」


 アフラは木箱を確認しながら、置く場所を店主へ聞いている。


「この箱は食品ですね?」


「ああ」


「なら奥ではなく手前へ」


「なんでだ?」


「先に売る商品でしょう」


「まあな」


「入荷した順に出せるよう並べた方がいい」


「なるほど」


「こっちの箱は?」


「保存品だ」


「なら奥でいい」


 アフラが次々に指示を出す。


「ソニル、その四箱は奥」


「ああ」


「タロー、それは手前」


「はい!」


 しばらくすると。


「おお……」


 店主が倉庫を見る。


「前より綺麗になってるじゃねぇか」


「ついでです」


 アフラが答える。


「動線も確保しました。これなら荷物を出しやすい」


「兄ちゃん、こういう仕事やってたのか?」


「……分からない」


「は?」


「いや。なんでもない」


 アフラの表情が一瞬だけ曇る。


 自分がなぜ、こういうことを自然に考えられるのか。


 本人にも分からない。


 失われた記憶。


 その中に何かがある。


「アフラ!」


 タローの声。


「これどこ!?」


「右奥だ!」


「了解!」


 考えるのをやめる。


 今は目の前の仕事だ。



     ◇



 そんな毎日が続いた。


「カンポル!」


「はい!」


「庭の草刈り頼める?」


「もちろん!」


 翌日。


「カンポル!」


「はい!」


「店番を二時間だけ頼みたいんだ」


「いけます!」


「待て。先に条件を聞け」


「あ、そやった」


 翌々日。


「カンポル!」


「今度は何!?」


「うちの犬がいなくなった!」


「ソニル!」


「探せばいいのか?」


「そう!」


「特徴を聞け!」


 アフラの声が飛ぶ。


「どんな犬ですか!?」


「茶色くて大きい!」


「名前は!?」


「ポチ!」


「異世界にもポチおるんや!」


「何を言ってるんだ?」


「なんでもない!」


 さらに翌日。


「カンポル!」


「はいはい!」


「荷車が溝にはまった!」


「ソニル!」


「ああ」


 ソニルが荷車を持ち上げる。


「…………」


 依頼人が固まる。


「今……持ち上げた?」


「はい」


「荷車を?」


「気にせん方がええですよ」


「いや、気になるだろ!」


 別の日には。


「夫が話を聞いてくれないのよ!」


「…………」


 タローが固まる。


「これも仕事?」


「何でも屋だろう?」


 アフラが言う。


「まあ、そうやけど……」


 女性が椅子へ座る。


「聞いてくれる?」


「はい」


「最近あの人ったらね――」


 十分。


 二十分。


 三十分。


「なるほど」


「それで?」


「うんうん」


「それは大変でしたね」


 気づけば一時間。


 女性は満足そうに立ち上がった。


「ありがとう! スッキリしたわ!」


「何も解決してへんけど……」


「いいのよ。聞いてほしかっただけだから」


「そんなもんなん?」


「そんなものよ」


 女性が帰っていく。


 アフラがタローを見る。


「今のは、お前にしかできない仕事だな」


「え?」


「俺なら途中で解決策を提示していた」


「それあかんの?」


「相手は解決を求めていなかった」


「なるほど」


「ソニルなら?」


 二人が見る。


「俺なら?」


「一時間話聞ける?」


「無理だ」


「即答やな」


「途中で腹が減る」


「お前らしいわ」


 タローは少し笑った。


 戦えない。


 魔法も使えない。


 力仕事ではソニルに勝てない。


 頭ではアフラに勝てない。


 それでも。


「俺にもできることあるんやな」


「当たり前だろう」


 アフラが言った。


「できることが違うから三人でやっている」


「…………」


「何だ?」


「アフラ、ええこと言うやん」


「普通のことを言っただけだ」


「照れてる?」


「照れていない」


「顔ちょっと――」


「次の仕事へ行くぞ」


「はいはい」


 三人はまた歩き出した。



     ◇



 十日ほどが過ぎた。


 最初は。


「何でも屋?」


「なんだそれ?」


 そんな反応だった。


 だが今は違う。


 市場を歩けば。


「おう、カンポル!」


「タロー、今日は暇か?」


「ソニル! 今度また荷物頼むぞ!」


「アフラ、この前教えてもらった並べ方よかったよ!」


 三人に声が飛ぶ。


「おはようございます!」


 タローは一人一人に返事をする。


「人気者だな」


 ソニルが言った。


「俺ら?」


「ああ」


「そうかな?」


「少なくとも名前は知られてきた」


 アフラが周囲を見る。


「思ったより早かったな」


「営業力や」


「口コミだ」


「俺の営業力!」


「依頼人が紹介しているだけだ」


「それも営業や!」


「そういうことにしておこう」


 タローは少し不満そうだった。


 だが。


 悪い気はしない。


 異世界へ来た初日。


 何もなかった。


 金もない。


 家もない。


 魔法もない。


 職業は《生物》。


 スライムにすら負けた。


 それが今では。


「タロー!」


「はい!」


「明後日空いてる?」


「内容次第!」


「農作業!」


「アフラ!」


「午後なら空いている!」


「午後いけます!」


「頼むよ!」


「ありがとうございます!」


 仕事を頼まれる。


 名前を呼ばれる。


 必要としてくれる人がいる。


「なんか……」


「どうした?」


 ソニルが聞く。


「ちょっとだけ、この世界でやっていけそうな気してきた」


「今さらか?」


「お前は最初からやっていけるやろ」


「そうなのか?」


「岩割れる奴が何言ってんねん」


 アフラが前を歩きながら言う。


「油断するなよ」


「分かってるって」


「仕事が増えれば問題も増える」


「例えば?」


「依頼の重複。報酬の未払い。失敗した時の補償。道具代。移動時間」


「…………」


「さらに今のまま依頼が増えれば三人では回らなくなる」


「…………」


 タローはソニルを見る。


「アフラおってよかったな」


「ああ」


「聞いているのか?」


「聞いてる聞いてる」


「本当か?」


「うんうん」


「その相づちが怪しい」


「スキルやぞ」


「威張るな」


 三人は笑った。



     ◇



 その日の夕方。


 宿の一室。


 机の上には、何枚もの依頼書。


 アフラが整理している。


「明日は午前二件。午後一件」


「結構あるな」


「ああ」


「金は?」


「共通資金も増えている」


 小さな袋を置く。


 ジャラッ。


「おお!」


 タローが中を見る。


「銀貨増えてる!」


「無駄遣いするなよ」


「せえへんって」


「昨日、屋台で肉を二本買っただろう」


「腹減っててん」


「共通資金で買うな」


「一本ソニルにあげた」


「俺はもらった」


「共犯だな」


「共犯?」


「気にすんなソニル」


「分かった」


「お前ら……」


 アフラが頭を抱える。


「次から個人の食事には使うな」


「はい」


「ああ」


「本当に分かったのか?」


「分かったって」


 タローは袋を眺める。


「でも、結構貯まったな」


「まだ大した額ではない」


「最初銅貨十枚やったんやで?」


「そう考えれば順調だ」


「やろ?」


 タローは少し考える。


「いつか店持てるかな」


「店?」


「カンポルの店」


「必要か?」


 ソニルが聞く。


「今は宿で仕事管理してるやろ?」


「ああ」


「依頼する人も、俺ら探さなあかんやん」


「確かに」


「場所あった方が便利やろ」


 アフラが考える。


「悪くない」


「やろ?」


「ただし今は早い」


「分かってる」


「固定費が発生する」


「こていひ?」


 ソニルが首を傾げる。


「毎月必ず出ていく金だ」


「なるほど」


「今の収入では不安定すぎる」


「じゃあ、もっと稼がなあかんな」


「そういうことだ」


 タローはベッドへ寝転がった。


「目標できたな」


「店を持つことか?」


「うん」


「その前に明日の仕事だ」


「現実的やなぁ」


「当然だ」


 ソニルも横になる。


「俺は店より飯が食えればいい」


「お前の目標低すぎへん?」


「腹が減らなければ問題ない」


「ある意味幸せな奴やな」


 タローは笑った。


 何でもカンポル


 まだ小さい。


 町の一角で知られ始めただけ。


 それでも確実に。


 三人の名前は広がっていた。



     ◇



 翌朝。


 市場。


「聞いたか?」


「何を?」


「最近いる三人組」


「ああ、カンポルだろ?」


「うちも頼んだぞ」


「どうだった?」


「変な奴らだった」


「やっぱり?」


「でも仕事はちゃんとしてた」


「うちもだ」


 別の男が話に加わる。


「あのソニルって奴、すげぇぞ。荷車を一人で持ち上げた」


「嘘つけ」


「本当だって!」


「アフラって奴も頭いいらしいな」


「商店の倉庫、あいつが整理したらしい」


「じゃあタローは?」


「タロー?」


「中心にいる奴」


「ああ……」


 少し考える。


「よく喋る」


「前もそれ聞いたぞ」


「あと、話聞くの上手い」


「それだけ?」


「でもな」


 男は笑った。


「なんか知らんけど、あいつと話してると頼みたくなるんだよ」


「なんだそれ?」


「俺にも分からん」


 別の場所でも。


「カンポル?」


「困ったことがあったら頼んでみな」


「何でもやってくれるの?」


「本当に何でもやるぞ」


「掃除でも?」


「やる」


「農作業?」


「やる」


「探し物?」


「やる」


「夫婦喧嘩は?」


「……タローなら話くらい聞くんじゃないか?」


「何でも屋すぎるだろ」


 笑い声が起きる。


 最初は誰も知らなかった。


 店すら持っていない三人組。


 それが今では。


 メイジンの住民たちの間で、少しずつ定着し始めていた。


 何でもカンポル


 怪力のソニル。


 頭の切れるアフラ。


 そして。


 なぜか人が寄ってくるタロー。


 まだ本人たちは気づいていない。


 一件の小さな依頼から始まったものが。


 いつの間にか――。


 町の中で、一つの《信用》になり始めていることに。


 そして、その信用が。


 これまでとは違う依頼を呼び込もうとしていることに。

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