第8話 三人目の仲間
「それで」
アフラは腕を組み、目の前の二人を見た。
「お前たちはこれからどうするつもりなんだ?」
「これから?」
タローは首を傾げる。
「仕事を探していたんだろう」
「ああ、それな」
危うく詐欺に遭いかけたせいで忘れていた。
タローとソニルの所持金は、あと二、三日分。
その間に金を稼ぐ方法を見つけなければならない。
「とりあえず仕事探す」
「どんな仕事だ?」
「それを今から考える」
「…………」
アフラがため息をついた。
「何も考えていないのか」
「いやいや。さっきまでは荷物運びする予定やってん」
「それが詐欺だったんだろう」
「そうとも言う」
「そうとしか言わない」
ソニルが横から口を挟む。
「アフラ」
「なんだ?」
「仕事に詳しいのか?」
「少なくとも、お前たちよりはな」
「おお!」
タローの目が輝いた。
「じゃあ一緒に仕事探してくれへん?」
「なぜ俺が?」
「助けたついで」
「便利な言葉にするな」
「ええやん。ちょっとだけ」
アフラは面倒そうな顔をした。
だが、少し考えてから歩き出す。
「……掲示板へ行くぞ」
「行ってくれるん!?」
「このまま放っておいたら、また騙されそうだからな」
「ええ奴やん!」
「違う。見ていて危なっかしいだけだ」
「それをええ奴って言うねん」
「好きにしろ」
三人は大通りへ戻った。
◇
広場の掲示板。
昨日タローが仕事を探した場所だ。
「いっぱいあるで」
「見れば分かる」
アフラは貼られた依頼書を一枚ずつ確認していく。
【農作業補助】
【倉庫整理】
【薬草採取】
【家屋清掃】
【害獣駆除】
【護衛】
【モンスター討伐】
様々な仕事がある。
「これとかどう?」
タローが一枚を指差した。
【ゴブリン三体の討伐】
「ソニルおるし余裕やろ」
「俺は構わん」
「駄目だ」
アフラが即答した。
「なんで?」
「お前たちは討伐経験がない」
「ソニルめっちゃ強いで」
「強さの問題ではない」
アフラは依頼書を見る。
「ゴブリン三体と書いてあるだけで、本当に三体とは限らない」
「どういうこと?」
「依頼が出されてから数日経っている。その間に増えている可能性がある」
「なるほど」
「さらに巣があるなら、もっといる」
「なるほどなぁ」
「依頼場所は森の中だ。地形も知らない。毒を持つ生物がいる可能性もある」
「…………」
タローはソニルを見る。
「俺らやったら普通に行ってたな」
「ああ」
「やっぱ危ないな俺ら」
「今気づいたのか?」
アフラが呆れる。
「じゃあ、これは?」
タローが別の紙を指差す。
【倉庫整理 銅貨十五枚】
「悪くない」
「おお!」
「ただし拘束時間が長い」
「どれくらい?」
「朝から夕方まで」
「銅貨十五枚で?」
「ああ」
「さっき銀貨五枚って言われた俺ら、やっぱり思いっきり騙されかけてたんやな」
「今さらか」
銀貨五枚。
簡単な荷物運びだけで、その報酬。
相場を知れば知るほど怪しい。
「これなら?」
ソニルが一枚を指差した。
【農家の収穫補助】
「お前なら一人で全部終わらせそうやな」
「そうなのか?」
「筋力的には」
アフラが眉を寄せた。
「筋力?」
「あ」
タローは口を閉じた。
ソニルのステータスを勝手に話すところだった。
「なんでもない」
「怪しいな」
「気にせんといて」
アフラは少し疑問に思ったようだが、それ以上は聞かなかった。
しばらく三人で依頼を見ていく。
しかし。
「うーん……」
タローは腕を組んだ。
「なんかないな」
「選り好みできる立場ではないだろう」
「それは分かってるけど」
農作業。
荷物運び。
清掃。
どれも仕事ではある。
だが、日銭を稼ぐだけ。
「これ続けても、ずっとギリギリちゃう?」
「最初はそんなものだ」
「まあ、そうやねんけどなぁ」
タローは掲示板を眺めた。
元の世界でもそうだった。
働いて。
給料をもらって。
また働く。
それが普通だ。
だが今は、会社も家もない。
身一つで異世界へ放り出された。
「せっかく何もないんやったら……」
「なんだ?」
「自分らでなんかやるのもありちゃうかなって」
アフラがタローを見る。
「商売か?」
「そこまで大層なんはまだ無理やけど」
タローは周囲を見る。
市場。
商人。
住民。
困り事を書いた依頼書。
「困ってる人って結構おるやん」
「当然だろう」
「でも掲示板に出てる仕事って、ある程度決まってるやろ?」
「まあな」
「じゃあさ」
タローが二人を見る。
「掲示板に出すほどでもない困り事って、もっといっぱいあるんちゃう?」
アフラの目が少し変わった。
「例えば?」
「家の掃除とか」
「あるだろうな」
「畑の手伝い」
「ああ」
「無くした物探してほしいとか」
「それもある」
「荷物運んでほしいとか」
「あるだろう」
「壊れた柵直すとか」
「……まあな」
「人によっては、誰に頼めばええか分からんこともあるやろ?」
アフラは黙った。
タローは続ける。
「俺らがそれ全部受けたらええんちゃう?」
「全部?」
「そう」
タローは笑った。
「何でもやる」
「…………」
「掃除でも、農作業でも、探し物でも、荷物運びでも」
「節操がないな」
「最初はそれでええねん」
タローはソニルを指差した。
「力仕事はソニル」
「俺か」
「お前しかおらん」
「そうか」
次にアフラを見る。
「話の条件とか金の交渉はアフラ」
「待て」
「何?」
「なぜ俺も入っている?」
「え?」
「え、じゃない」
アフラは眉を寄せた。
「俺はお前たちの仕事探しを手伝っているだけだ」
「そうなん?」
「そうだ」
「一緒にやらへん?」
「軽いな」
「でも仕事探してるんちゃうの?」
「…………」
アフラが黙る。
タローは見逃さなかった。
「やっぱりそうやん」
「なぜ分かる」
「服」
タローはアフラを見る。
「結構着古してるし、その本もボロボロやし」
アフラが手に持っている本を見る。
「それに昼飯時やのに、さっきから飯屋一回も見てへん」
「…………」
「金ないんちゃう?」
アフラは答えない。
「図星やな」
「お前……」
アフラがタローを見た。
「意外と人を見ているな」
「元営業マンやからな」
「営業マン?」
「まあ、人と話す仕事みたいなもん」
タロー自身は気づいていなかった。
《洞察》十七。
決して高くはない。
それでも、元の世界で人と接してきた経験が消えたわけではない。
ステータスだけが人間の能力ではない。
アフラは少し考える。
「だとしても、俺が入る理由にはならない」
「あるで」
「何だ?」
「俺とソニルだけやったら、また騙される」
「…………」
「めっちゃ重要やろ?」
「自信満々に言うことか?」
ソニルが頷く。
「俺も必要だと思う」
「お前まで……」
「さっきも助けてもらった」
「そうやろ?」
「アフラがいなければ、今頃俺たちは盗品を運んでいた」
「そうそう!」
「お前は嬉しそうに言うな」
アフラは頭を押さえた。
「つまり」
タローが指を一本立てる。
「俺が仕事取ってくる」
二本目。
「ソニルが力仕事する」
三本目。
「アフラが考える」
「お前の役割だけ曖昧じゃないか?」
「営業や!」
「何をするんだ?」
「人と喋る」
「…………」
「相づちも打てる」
「それは聞いた」
「聞き上手でもある」
「それも聞いた」
アフラが呆れる。
だが。
「……悪くはない」
「おっ?」
「少なくとも、単純な日雇いを三人でやるより効率はいい」
「やろ?」
「ただし問題がある」
「何?」
「信用だ」
アフラは掲示板を指差した。
「ここに依頼を出す者は、町の管理所を通している。だから最低限の信用がある」
「なるほど」
「だが、お前たちは昨日今日この町へ来たばかり」
「アフラは?」
「似たようなものだ」
「じゃあ全員信用ゼロやん」
「そういうことだ」
タローは考える。
「なら作ればええやん」
「何を?」
「信用」
「簡単に言うな」
「最初は安くてもええ。小さい仕事からやって、ちゃんと解決する」
「…………」
「一人が『あいつら良かったで』って言ったら、次に繋がるやろ?」
アフラは黙ってタローを見る。
「それを繰り返す」
「口コミか」
「そうそう、それ」
元の世界でも同じだ。
一件。
また一件。
信用を積み重ねる。
タローは特別頭がいいわけではない。
ただ、営業として当たり前にやってきたことだった。
「それなら可能性はある」
アフラが言った。
「ただし最初の依頼を取れるかどうかだ」
「そこは俺の出番や」
「自信があるのか?」
「ない!」
「ないのか」
「でもやる!」
「…………」
アフラはため息をついた。
「本当に変な男だな」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
タローは手を差し出した。
「で、どうする?」
「何が?」
「一緒にやる?」
アフラはその手を見る。
「…………」
ソニルも横から言う。
「俺は三人の方がいい」
「なんで?」
「アフラは頭がいい」
「お前に言われると、褒められているのか分からんな」
「褒めている」
「そうか」
しばらく沈黙。
やがて。
アフラがタローの手を握った。
「……しばらくだけだ」
「よっしゃ!」
「大声を出すな」
「これで三人や!」
タロー。
ソニル。
アフラ。
こうして正式に三人で行動することになった。
◇
「じゃあ次」
タローが言った。
「名前決めよ」
「名前?」
「三人で仕事するんやろ? なんか名前あった方がええやん」
「必要か?」
「絶対あった方が覚えてもらいやすい」
営業時代の経験でも、名前は重要だ。
「何でもやるから……何でも屋」
「そのままだな」
「分かりやすいやろ」
「悪くはない」
「店の名前どうしよ」
タローは腕を組む。
「…………」
そして。
元の世界の記憶を探る。
「またか?」
アフラが嫌そうな顔をする。
「何が?」
「保険会社から取るつもりだろう」
「なんで分かったん?」
「ソニルと俺の名前がそうだからだ」
「頭ええな」
「普通だ」
「なんかあったかな……」
タローは考える。
保険。
生命保険。
会社名。
「…………あ」
一つ浮かんだ。
「かんぽ○命」
「また分からん言葉が出たな」
「これをちょっと変えて……」
タローは指を鳴らした。
「カンポル」
「カンポル?」
「そう」
「何の意味がある?」
「特にない」
「ないのか」
「響きええやろ?」
ソニルが呟く。
「カンポル」
「どう?」
「覚えやすい」
「やろ!」
アフラは少し考える。
「……確かに短くて覚えやすい」
「決まり!」
「まだ俺は賛成したとは――」
「二対一!」
「多数決を取った覚えはない」
「カンポルな!」
「話を聞け」
こうして。
三人の何でも屋。
《カンポル》が誕生した。
店舗はない。
資金もない。
実績もない。
信用もない。
あるのは。
営業経験を持つが、戦闘ではスライムにすら負けるタロー。
異常な武力を持ちながら、考えることが少し苦手なソニル。
そして。
頭は切れるが、まだ自分自身のことすら思い出せないアフラ。
「よし!」
タローは拳を上げた。
「まず仕事探すぞ!」
「結局そこからなのか」
「当たり前や!」
「何をする?」
ソニルが尋ねる。
「最初は簡単なんでええ」
タローは町を見渡した。
「困ってる人探そ」
そんな三人を。
少し離れた場所から、一人の老婆が見ていた。
「……あんたたち」
「ん?」
三人が振り返る。
腰の曲がった老婆が立っている。
「何でもやってくれるって、本当かい?」
タローの目が輝いた。
設立から、わずか数分。
何でも屋。
その最初の依頼が――。
思いがけず向こうからやって来た。




