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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第30話 勝ったのに、国が危ない


 ネオセカンド軍を退けてから数日後。


 タローたちは、生き残った兵士たちとともにスギルヨワ王国の王都へ戻ってきた。


 王都の門が見え始めた頃、タローは妙な違和感に気づいた。


「なんか人多ない?」


 街道の両側に、大勢の人々が集まっている。


 老人もいれば、子供もいる。店の仕事を放り出してきたのか、前掛けをつけたままの商人までいた。


「兵士たちを迎えに来たんだろう」


 アフラは特に驚いた様子もなく答える。


「そらそうか。戦争から帰ってきたんやもんな」


 タローが納得しかけた、その時だった。


「帰ってきたぞ!」


「ネオセカンド軍を倒した英雄たちだ!」


「ソニル様!」


「アフラ様!」


「タロー様もいるぞ!」


 聞き覚えのある名前が三つ並んだ。


「……ん?」


 タローが足を止める。


「今、俺の名前もなかった?」


「あったな」


「なんで?」


「知らん」


 ソニルは興味がなさそうだった。


 しかし王都へ近づくにつれ、歓声はさらに大きくなっていく。


「五千の軍を追い返したんだって!」


「敵将を一人で倒した男がいるらしいぞ!」


「千人の兵を操った軍師もいる!」


「後方の兵をまとめた人もいるって!」


 最後の言葉を聞いて、タローは嫌な予感がした。


「最後のやつ俺やんな?」


「おそらく」


「いやいや、俺そんなんちゃうって」


 タローとしては、負傷者の話を聞いたり、動ける者に仕事を頼んだりしていただけである。


 それがいつの間にか、かなり立派な話になっている。


 そんなタローへ、一人の少年が駆け寄ってきた。


「タロー様!」


「はい?」


「ありがとうございました!」


 突然頭を下げられ、タローは慌てた。


「いやいや、俺なんもしてへんで!」


「兄ちゃんが帰ってきたんです! 怪我してたけど、タロー様たちのおかげだって!」


「…………」


 タローは返す言葉に困った。


 自分が直接助けた兵士なのかは分からない。


 それでも、少年の嬉しそうな顔を見ると悪い気はしなかった。


「そっか。よかったな」


「はい!」


 少年が走って戻っていく。


 その様子を見ていたアフラが、少しだけ笑った。


「何?」


「いや。お前らしいと思っただけだ」


「なんやそれ」


 三人は歓声に迎えられながら、王都へ入った。


     ◇


 その日の午後。


 三人は王城へ呼び出された。


 大広間には国王をはじめ、王国の重臣や軍の指揮官たちが並んでいる。


「ソニル、アフラ、タロー。前へ」


 三人が国王の前へ進む。


「今回の働き、すでに報告を受けている」


 国王はまずソニルを見る。


「ソニル。そなたは敵将バルガスを討ち、その後も敵軍の中央を突破。最後には敵本陣へ単身で突入し、軍旗を落としたと聞く」


「はい」


「敵兵数百の中を一人で進んだとも聞いているが」


「たぶん、それくらいです」


「……たぶん?」


「数えていません」


 大広間が静かになった。


 タローが小声で呟く。


「国王相手でもいつも通りやな……」


 国王は少し困った顔をしたものの、次にアフラを見る。


「アフラ。そなたは途中から軍の指揮を引き受け、千人ほどまで減った我が軍を動かし、数で勝る敵を翻弄した」


「兵士たちが命令に従ってくれたからです」


「最後の偽援軍の策も、そなたが?」


「はい」


「五十人を五百、あるいはそれ以上に見せたと聞いた」


「敵が勝手にそう思っただけです」


 再び大広間が静かになる。


 タローは二人を見ながら思った。


 やっぱり昨日から何かがおかしい。


 いや、理由はもう知っている。


 片方は前世が呂布。


 もう片方は諸葛亮孔明。


 知ってしまった今となっては、むしろ納得するしかなかった。


「そしてタロー」


「はい!」


 急に名前を呼ばれ、タローの背筋が伸びた。


「そなたは後方に残り、負傷者の救護、物資の確保、恐怖で動けなくなった兵士たちへの対応を行ったと聞いている」


「いや、その……」


「何だ?」


「俺、ほとんど喋ってただけなんですけど」


 重臣たちが顔を見合わせる。


「喋っていただけ?」


「はい。話聞いたり、これ手伝ってってお願いしたり……」


 タローとしては、それ以上のことをした覚えがない。


 すると国王は少し考えてから言った。


「それで人が動いたのだろう?」


「まあ……そうですけど」


「ならば、それも力だ」


 タローが目を瞬く。


「人を斬る者だけが戦場で役に立つわけではない。傷ついた者を助け、恐怖で動けなくなった者を再び動かす。それができる者も必要だ」


「…………」


「そなたの働きがなければ、救えなかった兵もいただろう」


 タローは少し照れくさくなり、頭を掻いた。


「そう言われると……まあ、ちょっと嬉しいです」


 国王が笑った。


「正直な男だな」


     ◇


 三人には今回の功績に対する報奨金が与えられた。


 さらに国王は、三人へもう一つの褒美を提示した。


「そなたたち三人を、王国直属の特別顧問としたい」


「特別顧問?」


 タローが聞き返す。


「うむ」


「何する仕事なんですか?」


「王国に必要なことをしてもらう」


「具体的には?」


「その時々による」


「…………」


 タローはアフラを見る。


 アフラも少しだけ眉を動かした。


「めっちゃフワッとしてない?」


 タローが小声で聞く。


「俺もそう思う」


「この国、大丈夫?」


「今からそれを調べる必要がありそうだな」


 ソニルだけは特に気にしていなかった。


「戦えるなら何でもいい」


「お前はもうちょい仕事内容気にせえよ」


 国王は三人のやり取りを見ながら苦笑する。


「もちろん強制ではない。だが、今回の働きを見れば、既存の役職に押し込めるより自由に動いてもらった方が良いと考えた」


 それなら話は分かる。


 アフラも少し考えたあと、頷いた。


「お受けします」


「俺も構わない」


 二人が答える。


 自然と国王の視線がタローへ向いた。


「俺も?」


「三人で、だ」


「ですよね……」


 こうして三人は、スギルヨワ王国直属の特別顧問となった。


     ◇


 ところが。


 三人が最初に任された仕事は、予想外のものだった。


 戦争で受けた被害の確認。


 アフラが王国の資料を見せてもらい、軍の状況や備蓄、財政について調べ始めた。


 最初はタローも隣で聞いていた。


 だが、報告が進むにつれて表情が変わっていく。


「軍の武器についてですが、今回の戦闘でかなり破損しております」


「予備は?」


 アフラが尋ねる。


「ほとんどありません」


「新しく作ればええんちゃう?」


 タローが口を挟む。


 役人が困った顔をする。


「その資金が……」


「ない?」


「はい」


 嫌な予感がする。


「国庫は?」


「かなり厳しい状態です」


「どれくらい?」


「今回の戦争により、ほぼ底をつきました」


「…………」


 タローがアフラを見る。


 アフラは無言だった。


 役人の報告は続く。


「さらに兵士への給金が一部遅れております」


「食料備蓄は?」


「一ヶ月分を少し超える程度です」


「城壁の補修は?」


「以前から必要なのですが、資金不足で……」


「兵士の装備は?」


「かなり古いものが多く……」


「魔術師部隊は?」


「人数が足りません」


「騎兵は?」


「今回かなりの馬を失いました」


 アフラが資料を閉じた。


 タローはしばらく何も言えなかった。


「……ちょっと待って」


「何だ?」


「俺ら、戦争勝ったんやんな?」


「勝った」


「なんで勝った方が滅びそうになってんの?」


 役人が申し訳なさそうに俯く。


 タローは頭を抱えた。


「やっぱヨワスギル王国やん……」


「スギルヨワ王国です」


 役人が訂正する。


「もうどっちでもええわ!」


     ◇


 その日の夜。


 三人は王城の一室に集まっていた。


 机の上には、アフラが集めた大量の資料が置かれている。


「思っていた以上に悪いな」


 アフラが資料を見ながら言った。


「そんなヤバい?」


「ああ。今回はこちらが勝った。しかしネオセカンド王国との国力差そのものが消えたわけではない」


 アフラは地図を広げた。


「むしろこちらは兵も物資も消耗した。相手が態勢を立て直して再び大軍を送ってくれば、次も同じように勝てる保証はない」


「また五千人来たら?」


「条件次第では勝てる」


「おお」


「一万なら厳しい」


「急に怖いこと言うやん」


「なら先に攻めればいい」


 ソニルが口を開いた。


 タローがすぐに振り返る。


「なんでそうなんねん!」


「攻めてくるなら、先に倒した方が早い」


「国庫空っぽって話聞いてた!?」


「金がなくても戦える」


「戦った後どうすんねん!」


 アフラが二人を止める。


「今は攻める時ではない」


「ほら!」


 タローが勝ち誇った顔をする。


「まず、この国そのものを強くする」


 その言葉でタローの表情が変わった。


「国を?」


「ああ。軍だけ強くしても意味がない。金、食料、武器、人材。それらを整えなければ、長期的には必ず負ける」


「そんなこと俺らにできる?」


「やるしかない」


 アフラは少し考え、二人を見る。


「役割を分けよう」


「役割?」


「俺は軍の編成を見直す。それと国の財政や物資についても調べる」


 タローが頷く。


「アフラはそれでええと思う」


「ソニル」


「何だ?」


「兵士を鍛えてくれ」


 ソニルの表情が少し明るくなった。


「どこまで鍛える?」


「死なない程度に」


「難しいな」


「そこ難しいん!?」


 タローが即座に突っ込んだ。


「お前の普通で訓練したら死人出そうやから、ほんま気つけてな!」


「分かった」


「今の返事めっちゃ不安やわ……」


 そしてアフラの視線がタローへ向く。


「最後にタロー」


「俺は?」


「人を集めてくれ」


「…………はい?」


 タローは予想外の言葉に固まった。


「兵士?」


「違う。必要な人材だ」


「鍛冶師とか?」


「それも必要だ。商人、職人、魔術師、冒険者。国を強くするために使える人間なら何でもいい」


「なんで俺なん?」


 タローは自分を指差す。


「そういうのアフラの方が得意ちゃう?」


「探すのはお前の方が向いている」


「なんで?」


 アフラは少し考えた。


「お前は妙に人との縁がある」


「俺が?」


「ああ。俺やソニルと出会ったのもそうだ。旅を始めてからも、お前が話しかけた相手から情報や協力を得られることが妙に多い」


「たまたまちゃう?」


「その可能性もある」


「ほな、たまたまや」


 タローはあっさり結論を出した。


 アフラは少し納得していない様子だったが、それ以上は言わなかった。


 当然、この場にいる三人の誰も知らない。


 タローのステータスにすら表示されない隠れスキル。


 《めぐりあう運命》。


 それが少しずつ、タローの周囲へ人を引き寄せ始めていることを。


     ◇


 翌朝。


「というわけで」


 タローは王都の大通りに立っていた。


「人材探せ言われてもなぁ……」


 右を見ても人。


 左を見ても人。


 王都なのだから当然である。


「この中から国に必要な人見つけろって、無茶振りちゃう?」


 とりあえず歩く。


 鍛冶師なら鍛冶屋へ行けばいい。


 商人なら市場。


 魔術師なら魔術師ギルドのような場所があるかもしれない。


「まず鍛冶屋かな」


 そう考えながら角を曲がった瞬間だった。


「うわっ!」


「ぐっ!」


 誰かと正面からぶつかった。


 相手が持っていた荷物が地面へ落ちる。


「ごめん! 大丈夫?」


 タローが慌てて拾おうとする。


 だが、相手の男は地面へ落ちた荷物を見ながら固まっていた。


 三十代くらいの大柄な男。


 腕は太く、服のあちこちが煤で黒くなっている。


 どう見ても職人だった。


「……終わった」


「え?」


 男が呟く。


「もう終わりだ」


「何が?」


「店だ」


「店?」


「今日で畳む」


 タローは男の服を見る。


 煤。


 太い腕。


 さらに地面へ落ちた荷物の中には、金槌や工具らしきものまで入っている。


「もしかして……」


「何だ?」


「鍛冶師?」


「ああ」


 タローが固まった。


 昨日アフラから言われた言葉を思い出す。


『まず必要なのは、武器や防具を作れる人間だ』


 そして今日。


 人材を探し始めて数分。


 店を畳もうとしている鍛冶師と、道端でぶつかった。


「…………」


 タローは男を見る。


 男も不思議そうにタローを見る。


「どうした?」


「いや……」


 タローは少しだけ空を見上げた。


「また変な奴と出会った気するんやけど」

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