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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第29話 二人の秘密


 ネオセカンド軍が撤退してから、数時間が経った。


 戦場にはまだ戦いの痕跡が色濃く残っていたが、スギルヨワ軍の兵士たちにはようやく安堵の表情が戻り始めていた。


 負傷者の治療が続く一方で、無事だった兵士たちは簡単な食事を取り、地面へ座り込んで身体を休めている。


 五千対千五百。


 誰が見ても圧倒的に不利だった戦いを、自分たちは生き残った。


 それどころか、勝った。


「ほんまに勝ったんやな……」


 タローは焚き火の前に座りながら、昼間の戦場を思い返していた。


 最初は村を襲う魔物を何とかするだけだった。


 それがいつの間にかネオセカンド王国との戦争に巻き込まれ、気づけば五千人もの軍勢と戦っていた。


「異世界来てから展開早すぎるやろ……」


 タローは大きく息を吐いた。


 ただ、今一番気になっているのは戦争のことではない。


 少し離れたところを見る。


 ソニルが食事をしている。


 その隣ではアフラが、今日の戦いについて将軍の部下から報告を受けていた。


 明らかにおかしい。


 ソニルはもともと強かった。


 初めて魔物と戦った時から、普通ではない身体能力を持っていることは分かっていた。


 アフラも頭がいい。状況を整理する能力や、相手の考えを読む力が優れていることは以前から知っている。


 だが、今日の二人はそんな言葉では説明できなかった。


 ソニルは何百人もの敵兵の中へ一人で飛び込み、敵将を倒したあと、そのまま本陣へ突っ込んで軍旗まで叩き落とした。


 一方のアフラは、ほとんど軍を率いた経験がないはずなのに、千人以上の兵を動かして五千の軍勢を崩壊させた。


「絶対なんかある」


 タローは立ち上がった。


 昼間に言った通り、今日は逃がすつもりはない。


     ◇


「ソニル、アフラ」


 少しして、三人は野営地から離れた場所に集まった。


 兵士たちの姿は見えるが、普通の声なら会話の内容までは聞こえない距離だった。


「何だ?」


 ソニルが答える。


 アフラは何も言わず、タローを見ていた。


「で?」


 タローが二人を見る。


「何がだ?」


「何がちゃうわ!」


 思わず声が大きくなる。


「昼間の二人、絶対おかしかったやろ!」


「そうか?」


「そうか? ちゃうねん!」


 タローはまずソニルを指差した。


「お前、何百人おるところに一人で突っ込んでいったやん!」


「必要だったからな」


「普通は必要でもできへんねん!」


 続いてアフラを見る。


「ほんでお前!」


「俺か」


「軍率いたことないって言うてたやろ!」


「ああ」


「それがなんで急に千人以上動かしてんねん! しかも五千人騙して逃がしてるし!」


 二人が黙った。


 タローは腕を組みながら、二人の顔を交互に見る。


「やっぱりなんかあるんやな」


 返事はない。


「俺ら仲間やろ?」


 その言葉を聞いて、ソニルとアフラが顔を見合わせた。


 しばらくして、アフラが小さく息を吐く。


「隠すつもりはない」


「ほな教えて」


「ただ、俺たち自身も今日まで知らなかった」


「どういう意味?」


「今日、思い出したんだ」


「何を?」


「前世の記憶を」


 タローの動きが止まった。


「……前世?」


「ああ」


「ちょっと待って。転生者ってこと?」


「おそらく」


「おそらく!?」


「少なくとも、別の人間として生きていた記憶がある」


 タローは頭を抱えた。


「いやいやいや……」


 自分自身が異世界へ来ている。


 神様にも会った。


 ならば転生者がいてもおかしくはない。


 おかしくはないのだが。


「二人とも?」


「ああ」


 今度はソニルが答えた。


「俺も思い出した」


「いつ?」


「戦っている途中だ」


「そんなことある?」


「実際にあった」


「そらそうやけど!」


 タローは少し考えた。


「それで、前世では何してたん?」


「戦っていた」


 ソニルが答える。


「それは見たらなんとなく分かるわ!」


「そうなのか?」


「お前の場合はな!」


 タローがため息をつく。


「名前は?」


「名前?」


「前世の名前」


 ソニルが一瞬黙った。


 そして静かに答える。


「呂布」


 タローが固まった。


「字は奉先だった」


 数秒間、何も言えない。


「タロー?」


 ソニルが不思議そうに見る。


 タローはゆっくり顔を上げた。


「今、なんて?」


「呂布だ」


「どの呂布?」


「どのと言われても知らん」


「呂布奉先?」


「ああ」


「三国志の?」


「三国志が何かは知らないが、おそらくお前が考えている人物だ」


 タローが数歩後ろへ下がった。


「嘘やろ」


「嘘ではない」


「ちょっと待って!」


 タローは今度はアフラを見る。


「嫌な予感してきた。お前も名前教えて」


「諸葛亮」


 タローの表情が完全に止まった。


 アフラは続ける。


「字は孔明」


「…………」


「タロー?」


「待って。ちょっと待って。ほんまに待って」


 二人が黙る。


 タローはソニルを見る。


「ソニルが呂布?」


「ああ」


 次にアフラを見る。


「アフラが諸葛亮孔明?」


「そうだ」


 もう一度ソニルを見る。


 さらにアフラを見る。


 そして。


「神様ぁぁぁぁぁ!」


 タローの叫び声が夜の野営地に響いた。


「何してくれてんねん!」


「静かにしろ」


 アフラが止める。


「これ静かにできる!?」


「兵士たちが見ている」


 タローが周囲を見ると、離れた場所にいた何人もの兵士がこちらを見ていた。


「す、すんません!」


 タローは慌てて頭を下げ、すぐに声を落とす。


「いやいやいや、おかしいやろ……呂布と孔明やぞ!?」


「俺たちのことを知っているのか?」


「知ってるわ! めちゃくちゃ有名や!」


 二人が少し驚いた顔をする。


「俺らの世界では、二人とも千年以上経っても名前残ってんねんで!」


「千年以上?」


 今度はアフラが反応した。


「ああ。俺、歴史好きやから普通に知ってる」


 タローは興奮しながらソニルを指差した。


「お前なんか三国志最強クラスの武将として有名やぞ!」


「最強?」


 ソニルの口元が少し上がる。


「そこ詳しく」


「食いつくとこそこ!?」


 続いてアフラを見る。


「ほんでアフラは天才軍師として有名!」


「軍師……」


「厳密に言い始めたら色々あるけど、俺らの時代では孔明って言ったらめちゃくちゃ有名や!」


 アフラは少し考え込んだ。


「そうか。後世ではそのように伝わっているのか」


「なんでそんな冷静なん?」


「騒いでも何も変わらない」


「俺だけおかしいみたいやん!」


     ◇


 タローはしばらく興奮していたが、やがて少しずつ落ち着いてきた。


「でも……そういうことか」


 今日の二人の変化。


 ようやく納得できた。


「記憶戻ったから急に強なったんやな」


「正確には少し違う」


 アフラが答える。


「俺たちの能力そのものが突然増えたわけではない。俺の場合は、これまで断片的に残っていた感覚と前世の経験が繋がった。だから以前より状況を判断しやすくなった」


 ソニルも頷く。


「俺も似たようなものだ。身体そのものは昨日までと大きく変わっていない」


「でもめちゃくちゃ強なってたやん」


「使い方を思い出した」


 その一言で、タローは何となく理解した。


 ソニルには最初から規格外の身体能力があった。


 ただ、それを扱っていたのは今世のソニルだった。


 そこへ呂布としての戦闘経験が戻った。


 同じ身体でも、使う人間の経験が違えば強さはまるで変わる。


「なるほどな……」


 タローは二人を見る。


「でも一個聞いていい?」


「何だ?」


「二人って今、ソニルとアフラなん?」


 二人が少し意外そうな顔をした。


「それとも、もう呂布と孔明なん?」


 少しの沈黙のあと、先に答えたのはソニルだった。


「俺はソニルだ」


「そうなん?」


「ああ。呂布だった記憶はある。だが、この世界で生まれてから今日まで生きてきた記憶も俺のものだ」


 アフラも頷く。


「俺も同じだ。諸葛亮としての記憶が戻ったからといって、アフラとして生きてきた人生が消えたわけではない」


「なるほど」


 タローが少し安心したように頷く。


「じゃあ、これからもソニルとアフラって呼んでええん?」


「その方がいい」


「俺もアフラで構わない」


「よかった」


「なぜだ?」


「いや、急に『孔明!』とか呼ぶん恥ずかしいやん」


「そういう問題なのか?」


「俺には大問題や」


 三人の間に、少しだけいつもの空気が戻った。


     ◇


「でも、おかしいな」


 しばらくしてタローが呟いた。


「何がだ?」


「二人とも同じ日に記憶戻ったやろ?」


「ああ」


「しかも二人とも三国志の時代の人間。偶然にしては出来すぎちゃう?」


 アフラもそれについては考えていた。


「俺もそう思う」


「やっぱり?」


「ソニルは強敵との戦いで記憶が刺激された。俺は大勢の兵を指揮したことで記憶が戻った。きっかけ自体は違う」


「でもタイミングは同じ」


「ああ」


 タローの頭に、一人の存在が浮かんだ。


「……神様」


 ソニルとアフラがタローを見る。


「俺をこの世界に送った神様、めちゃくちゃ適当やったやん?」


「以前聞いたな」


「まさか……なんか知ってるんちゃうやろな」


     ◇


 遥か彼方。


 人間たちが暮らす世界とは違う場所で、一人の神がのんびりと下界を眺めていた。


「おー、思い出したか」


 視線の先には、タロー、ソニル、アフラの三人がいる。


 神にとっては、待ち望んでいた瞬間というほどでもない。


 そもそもソニルとアフラをこの世界へ転生させたこと自体、壮大な計画によるものではなかった。


 タローを異世界へ送る少し前。


 神は暇つぶしに、三国志の時代を覗いていた。


 そこで目についたのが、とにかく強い一人の武将と、とにかく頭の切れる一人の男だった。


「この二人、面白いなぁ」


 そんな理由で興味を持った。


「別の世界に転生させたら、もっと面白くなるんちゃう?」


 それだけだった。


 世界を救わせる使命もなければ、二人を協力させる壮大な計画があったわけでもない。


 完全に神の気まぐれだった。


「結果的に面白くなったし、まあええか」


 神は満足そうに頷いた。


 そしてタローを見たところで、別のことを思い出した。


「あ、そういやあのスキルも効いてるんか」


 タロー本人すら知らない、一つのスキル。


 《めぐりあう運命》。


 実を言えば、このスキルが生まれた理由にも大した意味はなかった。


 少し前。


 神は暇つぶしに、とある昔のロボットアニメを見ていた。


 宇宙を舞台に、人と人との出会いや運命が描かれていく作品だった。


「いやー、あれ面白かったなぁ」


 見終わった神は余韻に浸っていた。


 そして、ふと思いついた。


「そうや」


 神が身体を起こす。


「『めぐりあう運命』みたいなスキル、よくない?」


 完全な思いつきだった。


「せっかく異世界行くんやし、いろんな人と巡り会えた方が面白いやろ」


 そうして神は、タローへ新しいスキルを一つ追加した。


 《めぐりあう運命》。


 タローと強い縁を持つ者や、その後の人生を大きく変える人物と、不思議なほど巡り会いやすくなるスキル。


「うん、ええやん」


 神は満足そうに頷いた。


 だが、すぐに別のことを考える。


「でも普通にステータスに出したら、すぐ気づくよなぁ」


 タローが自分のステータスを確認すれば、当然そこに《めぐりあう運命》と表示される。


 それでは面白くない。


 神は少し考えたあと、悪戯を思いついた子供のように笑った。


「そうや。隠しとこ」


 表示設定を少しいじる。


「これならステータス見ても分からへん。いつ気づくかなー」


 こうしてタローは、自分でも知らないうちに一つの隠れスキルを持つことになった。


 もちろん、本人への説明などしていない。


「サプライズって、先に教えたら面白くないしな」


 そして現在。


 神は改めて、タローの隣にいる二人を見る。


 一人は、かつて呂布奉先と呼ばれた男。


 もう一人は、かつて諸葛亮孔明と呼ばれた男。


 神はしばらく三人を眺めたあと、首を傾げた。


「いや、ちょっと待て」


 確かに《めぐりあう運命》は、人との縁を生みやすくするスキルとして作った。


 だが、誰と出会うのかまで神が決めているわけではない。


「いきなりこの二人引く?」


 神自身も、そこまでは想定していなかった。


「タロー、引き強すぎない?」


 思わず笑ってしまう。


 自分の気まぐれで転生させた二人。


 自分がロボットアニメを見て思いついた一つのスキル。


 それらが偶然噛み合った結果、三人は出会った。


 そこに世界を救うための運命も、神によって用意された壮大な使命も存在しない。


 ただの気まぐれと、偶然と、少し変わったスキルが重なっただけだった。


「まあ、面白いからええか」


 神はお茶を一口飲む。


 そして楽しそうに、再び下界の三人を眺め始めた。

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