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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第22話 追う側へ


 王都へ戻った翌日。


「薬の出所を調べてほしい」


 スギルヨワ国王は、そう切り出した。


「やっぱりそうなりますよね」


 タローは小さくため息をつく。


「嫌か?」


「嫌っていうか……」


 少し考える。


「俺ら、何でも屋ですよね?」


「ああ」


「無くし物探したり、掃除したりする仕事ですよね?」


「ああ」


「なんで他国が関わってるかもしれん怪しい薬の出所を調べることになってんの?」


「何でも屋だからではないか?」


「何でもの範囲広すぎません!?」


 国王が笑う。


「ははは!」


「笑ってる場合ちゃいますって!」


「だが」


 国王の表情が変わる。


「このままでは、次に何が現れるか分からん」


「…………」


 タローも黙った。


 昨日。


 四メートルを超える変異オーガが現れた。


 それまで変異種を圧倒してきたソニルですら、傷を負った。


「今回の個体は、明らかにそれまでのものより強かった」


 国王が続ける。


「そしてアフラの報告では、使用された薬そのものが違う可能性が高い」


「はい」


 アフラが答える。


「以前発見したものとは魔力の性質が異なっていました。同じ者が作ったかどうかまでは分かりませんが、少なくとも改良された可能性はあります」


「つまり」


 国王が言う。


「今後、さらに強力なものが作られる可能性もある」


「あります」


「だからこそ」


 三人を見る。


「現れるたびに倒しているだけでは駄目だ」


「元を潰す」


 ソニルが言った。


「そういうことだ」


「分かりやすい」


「お前はそれでええなぁ」


 タローがソニルを見る。


「殴ったら終わりやもんな」


「違うのか?」


「俺は殴られたら終わりや」


「なら殴られるな」


「簡単に言うな!」


 アフラが二人を無視して尋ねる。


「陛下」


「なんだ?」


「これまで変異種が現れた場所と、最初に発見した馬車の痕跡。その記録をすべて見せていただけますか?」


「用意してある」


 国王が兵士を見る。


「持ってこい」


「はっ!」


 大きな地図と数枚の報告書が机に広げられた。


 アフラは黙ってそれらを見比べる。


 最初に変異種が現れた村。


 次の村。


 街道。


 そして昨日、変異オーガが現れた町。


「…………」


「何か分かった?」


 タローが横から覗き込む。


「少し黙っていろ」


「また?」


「考えている」


「はい」


 アフラの指が地図の上を動く。


「やはり」


「何?」


「以前から、出現地点が東部に集中していることは分かっていた」


「ネオセカンド側やな」


「ああ」


 そこはすでに三人も国王も把握している。


「だが、今見るべきはそこじゃない」


「じゃあ何?」


「位置だ」


「位置?」


 アフラがいくつかの地点を指でなぞる。


「変異種が確認された場所はバラバラに見える」


「うん」


「だが、どの場所も東部街道から大きく離れていない」


「…………」


 タローも地図を見る。


「ほんまや」


「そして最初に見つけた馬車の痕跡」


 アフラが別の場所を指す。


「これも東部街道の近くだ」


「ってことは?」


「薬を運んでいる者がいるとして」


 アフラの指が街道をなぞっていく。


「毎回まったく違う道を使っているわけではない可能性が高い」


「同じ道を使ってる?」


「正確には、同じ経路の一部を使っている」


 アフラの指が止まった。


「ここだ」


「どこ?」


「東部街道が森と接している場所だ」


 国王も地図を見る。


「確かに、ここなら東から来た馬車は複数の出現地点へ向かうことができる」


「はい」


 アフラが頷く。


「さらに森へ入れば街道から姿を隠せる」


 タローがようやく理解する。


「じゃあ」


「ああ」


「そこ張っとけばええん?」


「その可能性が高い」


「なるほどな」


 タローが頷く。


「今回は魔物を探す必要はない」


 アフラは地図を閉じた。


「薬を運んでいる人間を待つ」


「出てくるかな?」


「分からない」


「またそれ」


「だが」


 アフラが立ち上がる。


「待つ価値はある」


     ◇


 その日の午後。


 三人は王都を出た。


 向かうのは東部街道。


 ネオセカンド王国との国境へ続く主要な道だった。


「なあ」


 馬車の中。


 タローがアフラを見る。


「なんだ?」


「何日待つつもりなん?」


「必要なだけだ」


「一週間とか?」


「可能性はある」


「一か月とか?」


「否定はできない」


「嫌やで!?」


「なぜ?」


「何でも屋の店ずっと閉まったままやん!」


「今は国王からの依頼を受けている」


「そうやけど!」


 タローが頭を抱える。


「最近、国王からの依頼とか他国の陰謀とか、何でも屋の仕事じゃないねん」


 ソニルは。


 隣で干し肉を食べている。


「ソニル」


「なんだ?」


「お前もなんか言って」


「美味い」


「肉の感想ちゃう!」


「なら何を言えばいい?」


「もうええわ!」


 馬車が進む。


 しばらくして。


 アフラが突然言った。


「止めろ」


「え?」


「馬車を止めろ」


 御者が馬車を止める。


 アフラが降りた。


「何かあった?」


「これを見ろ」


 地面。


 車輪の跡。


「馬車?」


「ああ」


「街道やから普通ちゃう?」


「ここまではな」


「ここまで?」


 アフラが少し先へ歩く。


 そして。


 草地を指差した。


「こっちにもある」


「…………」


 タローが近づく。


 確かに。


 車輪の跡が街道から外れている。


「森の方に入ってる?」


「ああ」


「なんで?」


「普通の商人なら、わざわざ街道を外れる必要はない」


 アフラはしゃがみ込む。


 跡を見る。


「それに深い」


「深い?」


「車輪の沈み方だ。かなり重い荷物を積んでいる」


「…………」


 アフラは周囲を見る。


 森。


 丘。


 街道。


「このまま森へ入れば街道から姿を隠せる」


「うん」


「さらに向こうの丘の裏を通れば、かなりの距離を人目につかず移動できる」


「…………」


 タローがアフラを見る。


「何だ?」


「いや」


「何か言いたそうだな」


「お前、この辺来たことある?」


「ない」


「ないん?」


「ああ」


「地図見ただけで、そこまで分かる?」


「地形を見れば分かるだろう」


「俺には全然分からんけど」


「お前と一緒にするな」


「腹立つ!」


 アフラは歩き出そうとして。


 ふと止まった。


「…………」


 自分でも。


 ほんの少しだけ違和感があった。


 地図を見た時もそうだった。


 森。


 丘。


 街道。


 視界。


 人を隠せる場所。


 逃げ道。


 馬車を通す経路。


 考え込む必要がない。


 見た瞬間に。


 答えが浮かぶ。


「…………」


「アフラ?」


「なんだ?」


「どうした?」


「いや」


 アフラは首を振った。


「何でもない」


     ◇


 三人は。


 車輪の跡を追った。


 森の中へ入る。


「ほんまにこっち?」


「ああ」


「道なくなってるで?」


「だからだ」


「何が?」


「普通の商人なら、こんな場所は通らない」


「確かに」


 しばらく歩く。


 すると。


 ソニルが止まった。


「誰かいる」


「え?」


「どこ?」


「前」


 タローには見えない。


 アフラも目を凝らす。


「何人だ?」


「分からん」


「珍しいな」


「木が邪魔だ」


「当たり前や、森やから」


「静かに」


 アフラが言った。


 三人は木の陰へ隠れる。


 しばらくすると。


 音が聞こえた。


 ガラガラ。


 車輪。


「馬車?」


 タローが小声で言う。


「ああ」


 一台の馬車。


 森の奥から現れた。


 御者。


 そして。


 護衛らしき男が四人。


「怪しい?」


「まだ分からない」


「普通の商人かも?」


「可能性はある」


 アフラは観察する。


 荷台。


 大きな布が掛けられている。


「ソニル」


「なんだ?」


「何か感じるか?」


「何か?」


「荷台だ」


 ソニルが。


 少しだけ目を細めた。


「…………」


「どう?」


「いる」


「え?」


「中に生き物がいる」


「魔物?」


「たぶん」


 タローの表情が変わる。


「当たり?」


「まだ決めつけるな」


 アフラは慎重だった。


「確認する」


「どうやって?」


「近づく」


「普通に?」


「ああ」


「怪しまれへん?」


「だから」


 アフラがタローを見る。


「お前が行け」


「…………」


「なんで?」


「お前が一番怪しまれない」


「褒められてる?」


「たぶん」


「絶対ちゃうやろ」


「行け」


「一人で!?」


「俺たちは見ている」


「見てるだけ!?」


「何かあればソニルが行く」


 タローがソニルを見る。


「頼むで」


「ああ」


「絶対やで?」


「ああ」


「肉見つけてもそっち行くなよ?」


「…………」


「なんで黙るねん!」


     ◇


「すいませーん!」


 タローが森の道へ出た。


 馬車が止まる。


「誰だ!」


 護衛が剣へ手を伸ばした。


「怪しい者ちゃいます!」


「こんな森にいる時点で怪しいだろ!」


「それ言われたらそっちもや!」


「…………」


「…………」


「あ」


 タローが笑う。


「すんません」


「何の用だ」


「道に迷って」


「どこへ行くつもりだ?」


「東の……」


 タローは少し考える。


「村」


「どの村だ?」


「…………」


 やばい。


 そこまで考えていなかった。


「なんやったかな」


「…………」


「名前忘れた」


「帰れ」


「ちょっと待って!」


 護衛が明らかに警戒している。


 タローは。


 相手を見る。


「荷物運んでるんですか?」


「お前には関係ない」


「商売?」


「関係ないと言っている」


「なるほど」


 タローは頷く。


 相手の表情を見る。


 声を聞く。


 反応を見る。


「大変ですね」


「何がだ」


「こんな森の中まで運ぶんやから」


「…………」


 ほんの一瞬。


 男の目が動いた。


「普通の荷物やったら街道の方が楽やのに」


「道が混んでいる」


「なるほど」


 タローが頷く。


「街道混んでました?」


「…………」


「俺ら通ってきたけど、全然混んでなかったですよ」


「…………」


 空気が変わった。


「あ」


 タローも気づいた。


「もしかして――」


 護衛が。


 剣を抜いた。


「余計なことを聞くな」


「やっぱり!?」


「捕らえろ!」


「アフラー!」


 叫んだ瞬間。


 護衛の一人が。


 吹き飛んだ。


「ぐあっ!」


 ソニル。


「早っ!」


「呼んだだろう」


「アフラ呼んだんやけど!」


「俺でもいいだろう」


「ええけど!」


「敵だ!」


 残り三人が剣を抜く。


「殺せ!」


「待て!」


 アフラが森から出てくる。


「一人は残せ!」


「分かった」


 ソニルが。


 剣を持つ三人を見る。


「誰を残す?」


「誰でもいい!」


「了解した」


「なんか怖い言い方やな!」


 一人が斬りかかる。


 ソニルは避ける。


 腕を掴む。


 そのまま投げる。


「ぐあっ!」


 二人目。


 剣が振り下ろされる。


「…………」


 ソニルの身体が。


 勝手に動いた。


 半歩。


 ただ半歩ずれただけ。


 刃が。


 顔のすぐ横を通り過ぎる。


「え?」


 タローが見ていた。


 今の避け方。


 いつもと少し違った。


 無駄がない。


 まるで。


 相手が剣を振る前から。


 どこへ刃が来るのか分かっていたような。


「…………」


 ソニル自身も。


 一瞬だけ動きを止めた。


「ソニル?」


「…………」


「どうした?」


「いや」


 敵が再び斬りかかる。


 今度は。


 ソニルの手が。


 自然に動いた。


 相手の手首を弾く。


 剣が宙を舞う。


 ソニルが。


 落ちてきた剣を掴んだ。


「…………」


 握る。


「ソニル?」


「なんだ?」


「剣使えるん?」


「知らん」


「知らん!?」


「初めて持った」


「じゃあなんでそんな持ち方自然なん!?」


「分からん」


 敵が突っ込んでくる。


 ソニルは。


 剣を構えた。


 考えていない。


 なのに。


 身体が。


 どう動けばいいのか知っていた。


 一歩。


 刃が走る。


 敵の剣だけを弾き飛ばす。


「なっ!?」


 そのまま。


 柄で腹を打つ。


「ぐっ!」


 男が倒れる。


「…………」


 ソニルが。


 自分の手を見る。


「変だ」


「何が?」


「初めてなのに」


 剣を見る。


「知っている気がする」


「何を?」


「使い方」


「…………」


 タローが首を傾げる。


「前に剣使ったことあるんちゃう?」


「ない」


「ほんま?」


「ああ」


「じゃあなんで?」


「分からん」


 ソニルは。


 剣を見つめる。


 ほんの一瞬。


 何かが。


 頭の奥を通った。


 怒号。


 金属がぶつかる音。


 大勢の人間が戦う気配。


 だが。


 それだけ。


「…………」


「ソニル?」


「なんでもない」


 ソニルは剣を地面へ置いた。


     ◇


「こっちだ」


 アフラが馬車の布を外す。


「うわ……」


 タローが顔をしかめた。


 檻。


 その中には。


 一体の魔物。


 まだ変異していない。


「こいつに薬使うつもりやった?」


「おそらくな」


「薬は?」


「探せ」


 三人で荷台を調べる。


「これちゃう?」


 タローが箱を見つける。


 開ける。


「…………」


 中には小瓶。


 赤黒い液体。


 昨日のオーガに使われていたものと。


 よく似ている。


「当たりだ」


 アフラが言った。


「じゃあこいつらが運んでた?」


「ああ」


「どこから?」


 アフラは。


 生き残らせた男を見る。


「聞けば分かる」


「喋るかな?」


「喋らせる」


「怖っ」


 男は。


 地面へ座らされていた。


「名前は?」


 アフラが聞く。


「…………」


「どこから来た?」


「…………」


「薬をどこで受け取った?」


「知らん」


「では、どこへ運ぶ予定だった?」


「知らん」


「全部知らない?」


「そうだ」


「なるほど」


 アフラは。


 男を見る。


 服。


 靴。


 荷物。


 馬車。


 そして。


 男の手。


「…………」


「何見てんの?」


 タローが聞く。


「黙っていろ」


「はい」


「お前」


 アフラが男へ言う。


「兵士だな」


「…………!」


 男の表情が変わった。


「え?」


 タローが見る。


「なんで分かった?」


「立ち方」


「立ち方?」


「それと手だ」


 アフラが言う。


「剣を日常的に握っている」


「冒険者かもしれんやん」


「違う」


「なんで?」


「四人とも動きが揃いすぎていた」


「…………」


「同じ場所で訓練を受けた者の動きだ」


 言ったところで。


 アフラが。


 ほんの一瞬止まった。


「…………」


 まただ。


 なぜ。


 自分はそこまで分かる?


 兵士を少し見ただけで。


 訓練を受けた者の動きまで。


「アフラ?」


「…………」


「またどうした?」


「いや」


 アフラは男へ視線を戻した。


「続ける」


 男の腰。


 そこに。


 小さな金具がある。


「その留め具」


「…………」


「何?」


 タローが覗く。


「何か彫ってある」


 小さな紋章。


 男が慌てて隠そうとする。


「遅い」


 アフラが取り上げた。


「これ」


 タローも見覚えがあった。


「ネオセカンドの……?」


「ああ」


 ネオセカンド王国の紋章。


 男の顔色が変わる。


「違う!」


 突然。


 男が叫んだ。


「俺はネオセカンドとは関係ない!」


「…………」


 タローが瞬きをする。


「まだ何も聞いてないで?」


「…………」


「あ」


 タローが笑った。


「自分で言うた」


「くっ……!」


 アフラが立ち上がる。


「これだけで断定はできない」


「まだ?」


「紋章など盗むこともできる」


「確かに」


「だが」


 アフラは。


 馬車を見る。


 変異させる前の魔物。


 新型の薬。


 ネオセカンドの紋章。


 そして。


 東から続く輸送経路。


「偶然で片付けるには」


 一つずつ。


 証拠が重なっている。


「多すぎる」


「じゃあ次どうする?」


「この男を王都へ連れて帰る」


「それだけ?」


「いや」


 アフラは。


 東を見る。


 その先には。


 国境がある。


「馬車がどこから来たのか」


「…………」


「さらに調べる」


「国境越えるん?」


「まだ越えない」


「よかった」


「なぜ?」


「他国に勝手に入るとか怖いやん」


「お前」


 アフラがタローを見る。


「今さらか?」


「今さらって何!?」


 少し離れた場所。


 ソニルは。


 先ほど拾った剣を。


 もう一度見ていた。


「…………」


 初めて握ったはずだった。


 なのに。


 手に馴染んだ。


 戦い方も。


 避け方も。


 相手との間合いも。


 なぜか知っている。


 そんな気がした。


 一方。


 アフラも。


 地図を見つめていた。


 地形。


 進路。


 兵の動き。


 相手が身を隠す場所。


 考えるより先に。


 答えが浮かぶ。


 二人とも。


 その理由を知らない。


 ただ。


 これまでにはなかった違和感だけが。


 少しずつ。


 大きくなり始めていた。


 そしてカンポルは。


 初めて掴んだ具体的な手掛かりを持って。


 ネオセカンド王国との国境を。


 さらに深く調べることになった。

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