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『平凡な俺が異世界で最強の二人と国を造る』 ~武力も知略もないけれど、出会いだけには恵まれているようです~  作者: ダイヤマ


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第21話 倒れない魔物


 ネオセカンド王国。


 王城の一室。


「以前のものより強力だと言ったな?」


 ネオセカンド2世は、机の上に並べられた小瓶を見つめていた。


 赤黒い液体。


 以前使っていた変異薬とは、明らかに色が違う。


「はい」


 ローブの人物が答える。


「どれほどだ?」


「実際にお使いいただくのが一番分かりやすいかと」


「以前の薬より強いのだな?」


「比較になりません」


「ほう」


 ネオセカンド2世の口元が緩む。


「ならば、これを使えば」


「…………」


「あの忌々しいカンポルもどうにかできるか?」


「それは」


 ローブの人物は少し考えた。


「使い方次第でしょう」


「ならばすぐ使え!」


「陛下」


 側近が慌てて口を挟む。


「なんだ?」


「まず我が国で効果を確認した方がよろしいのでは?」


「なぜだ?」


「以前より強力なのであれば、どのような変異が起こるか分かりません」


「強くなるのであろう?」


「それはそうですが」


「なら問題ない!」


「しかし――」


「スギルヨワで試せばよい!」


「…………」


 側近は黙った。


「どうせ奴らの国だ」


 ネオセカンド2世は笑う。


「何が起きても余には関係ない」


「…………」


 ローブの人物は。


 その言葉を聞いても何も言わなかった。


「何体用意できる?」


 国王が尋ねる。


「今回は」


 ローブの人物が一本の小瓶を手に取る。


「一体で十分かと」


「一体?」


「はい」


「たった一体で何ができる」


「ご心配なく」


 赤黒い液体が揺れる。


「これまでの変異個体と」


 ローブの奥で。


 口元がわずかに笑った。


「同じだとは思わないことです」


     ◇


 数日後。


 スギルヨワ王国、王都。


「暇やな」


「良いことだろう」


 宿の食堂。


 タローは机に突っ伏していた。


「事件が起きてないってことだからな」


 アフラは本を読んでいる。


「それはそうやけど」


 タローは顔だけを上げる。


「カンポルどうなってるんやろ」


「どう、とは?」


「店」


「店?」


「俺ら王都来てからずっと閉めっぱなしやん」


「仕方ないだろう」


「何でも屋やのに仕事受けられへん」


「国王から仕事を受けている」


「規模がおかしいねん」


 タローが起き上がる。


「最初は無くし物探してたんやで?」


「ああ」


「家の掃除もした」


「ああ」


「農家も手伝った」


「ああ」


「それがなんで今、国同士の契約書読んでんの?」


「知らん」


「俺も知らん」


 タローがため息をつく。


「ソニルは?」


「飯だ」


「また?」


「朝から三回目だ」


「金なくなるで」


 その時。


 ドタドタドタ。


 宿の外から。


 複数の足音が聞こえてきた。


「…………」


 アフラが本を閉じる。


「なんや?」


 扉が開く。


「カンポルの方々!」


 兵士だった。


「ほら」


 タローが嫌そうな顔をする。


「絶対なんか起きた」


「王城へ来てください!」


「やっぱり!」


     ◇


 王城。


「魔物?」


「ああ」


 国王が地図を見ていた。


 周囲には重臣と兵士。


 そして。


 タロー、アフラ、ソニル。


「王都から東へ半日ほどの場所にある町だ」


 国王が地図を指差す。


「今朝、巨大な魔物が現れた」


「また変異種?」


 タローが尋ねる。


「おそらくな」


「種類は?」


 アフラが聞く。


「オーガだ」


「オーガ……」


 タローがソニルを見る。


「強いん?」


「普通の個体でも、これまで戦ったグラウルやボアより遥かに強い」


 アフラが答えた。


「マジ?」


「ああ」


「それが変異してる?」


「報告を見る限りな」


 国王が兵士へ目を向ける。


「説明しろ」


「はい!」


 兵士が前へ出る。


「通常のオーガは二メートル半ほどですが」


「うん」


「今回確認された個体は、四メートルを超えております」


「四メートル!?」


「さらに、すでに討伐隊が交戦しておりますが……」


 兵士の表情が曇る。


「攻撃がほとんど通用しておりません」


「…………」


「負傷者は?」


 アフラが聞く。


「現在確認できているだけで十二名」


「死者は?」


「幸い、まだ」


「なら急ぐぞ」


 アフラが立ち上がった。


「ソニル」


「ああ」


「行けるか?」


「問題ない」


 タローがソニルを見る。


「今回は普通のやつより強いらしいで?」


「ああ」


「前の変異種よりも」


「ああ」


「大丈夫?」


「戦えば分かる」


「またそれ!」


「行くぞ」


 アフラが歩き出す。


「ちょっと待って!」


 タローも慌てて続いた。


     ◇


 町へ到着した時。


「…………」


 タローは言葉を失った。


 建物が。


 壊れていた。


 町の入口近く。


 家の壁が崩れ。


 荷車が横転している。


「でか……」


 その先。


 巨大な何かが立っている。


 オーガ。


 人のような形。


 だが。


 四メートルを超える巨体。


 異常なほど膨れ上がった筋肉。


 皮膚の下には。


 赤黒い筋が浮かび上がっている。


 目も。


 赤い。


「グオオオオオオオオ!!」


 咆哮。


 空気が震えた。


「うるさっ!」


 タローが耳を塞ぐ。


「下がれ!」


 兵士が叫ぶ。


「近づくな!」


 十数人の兵士。


 何人かの冒険者。


 すでに戦っていた。


「弓!」


「放て!」


 一斉に矢が飛ぶ。


 ドドドッ!


 オーガの身体に突き刺さる。


「効いた?」


「いや」


 アフラが答える。


「見ろ」


「…………」


 オーガが。


 自分の身体に刺さった矢を。


 無造作に抜いた。


「グルルル……」


「嘘やろ」


「普通のオーガでも皮膚は硬い」


「それがさらに強化されてる?」


「おそらくな」


 兵士が剣を構える。


「行くぞ!」


「待て!」


 アフラが止める。


「誰だ!」


「カンポルだ」


「カンポル?」


 兵士の表情が変わる。


「もしかして、あの?」


「話は後だ」


 アフラがオーガを見る。


「今までどう戦った?」


「剣も槍もほとんど通らん!」


「魔法は?」


「直撃させた!」


「結果は?」


「見ての通りだ!」


「…………」


 アフラの目が細くなる。


「ソニル」


「ああ」


「行け」


「ちょっと!」


 タローが見る。


「いきなり!?」


「兵士をこれ以上消耗させる方が危険だ」


「それはそうやけど」


 ソニルは。


 すでに前へ歩いていた。


「お、おい!」


 兵士が驚く。


「一人で行く気か!?」


「ああ」


「無茶だ!」


「そうか?」


「攻撃が効かないんだぞ!」


「なら」


 ソニルが拳を握る。


「効くまで殴ればいい」


「…………」


 タローが頭を押さえた。


「脳筋すぎるやろ」


「だが」


 アフラが言う。


「ソニルには合っている」


「否定して」


 オーガが。


 ソニルを見る。


「グルルルル……」


 目の前に。


 自分より遥かに小さな人間。


 ドンッ!


 オーガが地面を蹴った。


「速っ!」


 巨体からは想像できない速度。


 巨大な拳。


 ソニルへ振り下ろされる。


「ソニル!」


 ドゴォォン!!


 地面が割れた。


 土煙。


「…………」


 兵士たちが息を呑む。


 だが。


「おい」


 声。


 オーガの横。


 ソニル。


「遅い」


 避けていた。


「グオッ!?」


 ソニルの身体から。


 闘気が溢れる。


「ふっ!」


 拳。


 オーガの腹へ。


 ドゴォォォン!!


 巨体が浮いた。


「おお!」


 タローが声を上げる。


 四メートルを超えるオーガが。


 数メートル。


 吹き飛ぶ。


 建物の壁へ激突。


 ドガァン!


「よっしゃ!」


 タローが拳を握った。


「やっぱソニルや!」


「…………」


 アフラは。


 笑っていなかった。


「アフラ?」


「待て」


「何?」


「まだだ」


「え?」


 瓦礫。


 ガラッ。


「…………」


 何かが動いた。


「嘘やろ」


 瓦礫を押し退け。


 オーガが。


 立ち上がる。


「グルルルル……」


「…………」


 ソニルが。


 少しだけ首を傾げた。


「?」


「なんでお前が一番不思議そうやねん!」


 タローが叫ぶ。


 今までなら。


 終わっていた。


 変異したグラウル。


 変異したボア。


 ソニルの攻撃をまともに受ければ。


 立ってはいられなかった。


 だが。


「グオオオオ!!」


 オーガが走る。


「ソニル!」


 今度は。


 拳が当たった。


 ドンッ!!


「っ!」


 ソニルが両腕で防ぐ。


 それでも。


 身体が吹き飛ぶ。


「ソニル!?」


 地面を何度も転がる。


「おい!」


 タローが駆け出そうとする。


「行くな!」


 アフラが腕を掴む。


「でも!」


「お前が行って何ができる!」


「…………」


「邪魔になるだけだ!」


「分かってるけど!」


 ソニルが。


 ゆっくり起き上がった。


「…………」


 右腕。


 血が流れている。


「血……」


 タローの顔から笑いが消えた。


 ソニルが。


 初めて。


 まともに傷を負った。


「ソニル!」


「大丈夫だ」


「大丈夫ちゃうやろ!」


「いや」


 ソニルは。


 自分の腕を見る。


 血。


 痛み。


「…………」


 そして。


 口元が。


 少しだけ上がった。


「え?」


 タローが気づく。


「お前……」


「なんだ?」


「笑ってる?」


「…………」


 ソニル自身も。


 少し不思議そうだった。


「そうなのか?」


「俺に聞くな!」


「分からん」


「何が?」


「なぜか」


 ソニルは。


 オーガを見る。


 目が。


 先ほどまでとは違う。


「楽しい」


「…………」


 タローが固まった。


「怖っ!」


「グオオオオ!」


 オーガが再び襲いかかる。


 ソニルも前へ出る。


 拳。


 拳。


 ドン!


 ドゴン!


 衝撃が響く。


「なんやこれ……」


 タローは。


 呆然と見ていた。


「人間と魔物の戦いやんな?」


「黙って見ろ」


 アフラは。


 ずっとオーガを見ている。


「何見てんの?」


「違和感だ」


「違和感?」


「あいつの動き」


「どこ?」


「…………」


 右。


 左。


 踏み込む。


 殴る。


 ソニルの拳が当たる。


 オーガの身体が揺れる。


 だが。


 また動く。


「硬すぎる」


 タローが言う。


「それだけじゃない」


「え?」


「見ろ」


 アフラが指差す。


「右脚」


「右脚?」


「魔力が集中している」


「俺には分からん」


「よく見ろ」


「見ても分からん!」


「…………」


「そんな顔すんな!」


 アフラは無視した。


 オーガの右脚。


 赤黒い筋。


 他の場所より。


 明らかに濃い。


「それに」


 アフラの目が細くなる。


「傷がある」


「傷?」


「小さいが」


 太腿。


 何かを刺したような跡。


「まさか」


 タローも気づく。


「薬?」


「可能性が高い」


 アフラが叫ぶ。


「ソニル!」


「なんだ!」


「右脚を狙え!」


「分かった!」


「理由聞かへんの!?」


 ソニルが。


 オーガの攻撃を避ける。


 低く。


 身体を沈める。


 右脚。


「ふっ!」


 蹴り。


 ドゴォン!


「グオッ!?」


 オーガの身体が傾く。


「もう一度!」


 アフラが叫ぶ。


 ソニルが。


 踏み込む。


 拳。


 同じ場所。


 ドガァン!


 右脚が。


 大きく曲がった。


「グオオオオオ!?」


 オーガが膝をつく。


「今だ!」


「ああ」


 ソニルが。


 拳を握る。


 闘気。


 今までより。


 さらに強く。


「…………」


 タローが息を呑む。


「なんや……あれ」


 ソニル自身は。


 何も考えていなかった。


 ただ。


 目の前の敵を。


 倒す。


 それだけ。


「はあっ!」


 拳。


 オーガの顔面へ。


 ドゴォォォォン!!


 衝撃。


 巨体が。


 地面へ叩きつけられた。


 ズズン――!


「…………」


 静寂。


 誰も動かない。


 オーガも。


 動かない。


「倒した……?」


 兵士が呟く。


 ソニルは。


 しばらくオーガを見ていた。


「…………」


 動かない。


「終わりだ」


「よっしゃぁ!」


 タローが走っていく。


「ソニル!」


「なんだ?」


「大丈夫!?」


「ああ」


「腕!」


「血が出ている」


「見たら分かる!」


「でも動く」


「そういう問題ちゃう!」


 その時。


 ソニルの前に。


 文字が浮かぶ。


【経験値を獲得しました】


【戦士 Lv18 → Lv19】


【戦士 Lv19 → Lv20】


【戦士 Lv20 → Lv21】


【戦士 Lv21 → Lv22】


「四つ上がった」


「一体で!?」


 タローが驚く。


「昨日三体倒して七つ上がったやろ?」


「ああ」


「こいつ一体で四つ?」


「それだけ強かったということだ」


 アフラが近づいてくる。


「ソニル」


「なんだ?」


「傷を見せろ」


「大丈夫だ」


「見せろ」


「…………」


 素直に腕を出す。


「骨は?」


「たぶん大丈夫だ」


「後で治療を受けろ」


「ああ」


 タローがニヤッとする。


「アフラ、お母さんみたいやな」


「タロー」


「はい」


「お前は向こうを見ろ」


「向こう?」


 振り返る。


「…………」


 負傷者。


 壊れた家。


 避難してきた住民。


 泣いている子供。


「あ」


「ソニルの仕事は終わった」


 アフラが言う。


「次はお前の仕事だ」


「…………」


 タローは。


 少しだけ表情を変えた。


「分かった」


     ◇


「怪我人はこっち!」


 タローの声が飛ぶ。


「歩ける人は?」


「俺は大丈夫だ!」


「じゃあこの人手伝って!」


「分かった!」


「荷車使える?」


「一台ある!」


「持ってきて!」


「タロー殿!」


 一人の兵士が走ってくる。


「なんや?」


「避難している住民はどうします?」


「…………」


 タローが止まる。


「なんで俺に聞くん?」


「え?」


「いや」


 兵士も止まる。


「なんとなく……」


「なんとなく!?」


「タロー」


 アフラが遠くから呼ぶ。


「考えろ!」


「急に丸投げすんな!」


 とは言ったものの。


 周囲を見る。


「……とりあえず」


 タローが指差す。


「あの広場に集めよ」


「はい!」


「家が無事な人と、壊れた人分けて」


「はい!」


「宿に空き部屋あるか聞いて」


「分かりました!」


「食べ物は……」


 近くの商人を見る。


「おっちゃん!」


「俺か?」


「食料ある?」


「多少なら」


「後で国に請求するから出して!」


「勝手に決めていいのか!?」


「国王に頼む!」


「またそれか!」


「頼むって!」


「……分かった!」


 人が動く。


「…………」


 タローは。


 少しだけ不思議だった。


 前なら。


 誰かに頼まれた仕事をしていただけ。


 それが今は。


 自分が何かを言うと。


 人が動く。


「タロー殿!」


「今度は何?」


「次はどうします?」


「また俺!?」


 少し離れた場所で。


 アフラがそれを見ていた。


「…………」


 ソニルが横に来る。


「何を見ている?」


「タローだ」


「タロー?」


「ああ」


「変なのか?」


「いや」


 アフラは。


 少しだけ笑った。


「本人だけが」


「…………」


「まだ分かっていない」


     ◇


 夕方。


 倒されたオーガの周囲。


 アフラは。


 一人で死体を調べていた。


「まだ見てんの?」


 タローがやってくる。


「ああ」


「何か分かった?」


「少しな」


「何?」


「これを見ろ」


 右脚。


 太腿。


 小さな傷。


「やっぱ注射みたいな跡?」


「おそらく」


「薬か」


「ああ」


 アフラが。


 傷の周囲へ触れる。


「だが」


「何?」


「前とは違う」


「前?」


「森で見つけた小瓶だ」


「ああ」


「あの液体と」


 アフラの表情が険しくなる。


「魔力の性質が違う」


「…………」


「別の薬?」


「その可能性が高い」


「ってことは」


 タローがオーガを見る。


「薬を変えた?」


「ああ」


「なんで?」


「…………」


 アフラは答えない。


 少し考える。


「俺たちは」


「うん」


「これまでの変異個体をすべて倒している」


「そうやな」


「そして今回」


「うん」


「明らかに以前より強い個体が現れた」


「…………」


 タローの表情が変わる。


「まさか」


「ああ」


 アフラが立ち上がる。


「偶然ではない可能性がある」


「俺らが倒すから」


「さらに強いものを作った」


「…………」


 タローは。


 少し離れたところにいるソニルを見る。


 腕には。


 治療された跡。


「もしそうなら」


 タローが言う。


「次は?」


「分からない」


「もっと強いの来る?」


「可能性はある」


「それヤバない?」


「ああ」


 アフラは。


 倒れたオーガを見る。


「だから」


「何?」


「もう」


 静かに言った。


「出てくる魔物を倒しているだけでは駄目だ」


「…………」


「薬を作っている者」


「薬を運んでいる者」


「そして」


 アフラが東を見る。


「それを使っている者」


 一つずつ。


「こちらから探す」


 タローも。


 東を見る。


 国境。


 その向こう。


 ネオセカンド王国。


「今度は」


 タローが呟いた。


「こっちから行くってこと?」


「ああ」


 守るだけだったカンポルが。


 初めて。


 敵を追う側へ回ろうとしていた。

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