エリオン王国【1】
エルニア大陸最大の王国、エリオン王国、王の御前にて宰相は慌てていた。
国王補佐は宰相を落ち着かせようと騎士長と共に策を講じていたが、その前に王が口を開いた。
「えぇい!落ち着かぬか宰相!」
「あぁ、王、すみません。
しかし、王国の未来の変換点であるこの瞬間!
私は落ち着けませぬ!!」
「宰相殿、王が落ち着いておりますのに貴方が一番慌てておるとはどういうことですか!?」
「国王補佐殿も、まぁ落ち着いて!!」
猛烈な寒波が王国を襲う少し前、王妃の出産により城内は騒然としていた。
なにせ、新たな王位継承者が生まれるというのだから。
しかも今回は王の正妻であるアリア妃の出産。
側妃達は我が息子、娘をなんとかして次代の王に仕立て上げるべく日々教育をしていた。
アリア妃の子というだけで、これまでの地位が揺るぐかもしれないという、恐怖が待ち構えていた。
「王よ!なぜ、そんなに安心しておられるのですか!?
私の、仕事がまた!増えてしまいますぞ!!」
「良いではないか、宰相よ。
その分の報酬は常々出しているではないか。」
「報酬を使う前に自身の治療費で使い切ってしまいますぞ!?
この知らせを聞いた日から、ずっと胃が痛いのですぞ!?!?
国王補佐も騎士長も少しは手伝ってくれませぬか!!??」
「我々もそれぞれの仕事がございますので...。」
「騎士団の務めは激務故に...。」
「くっそぉおお!!
あぁ、痛てててて!!」
その様子に王は普段見せない本心で心から笑いをこぼした。
そのひと時の瞬間さえも王には無いと言わんばかりの声が響き渡る。
「失礼します!!
騎士団所属、空のカリナ!
報告がございます!
アリア妃のお産が始まりました!!!」
慌てふためいていた宰相も、ピタリと動きを止める。
その報告により城内には張り詰めた空気が流れる。
「宰相、我と同行せよ。」
「御意。」
王の間を出て、アリア妃のいる部屋へと向かう。
部屋の扉を開け、我が子に対面するべく部屋へ入る。
部屋に入り目に映ったのは顔を青ざめ、泣いているアリア妃と絶望の顔をした医者だった。
「何があった!」
「あなた...、私はなんてことを!!」
アリア妃が抱える我が子を見せてくれた。
一生懸命に鳴き声を上げる我が子が、二人。
「っ!!!」
「こ、これは!?」
アリア妃によく似たクチナシ色の鮮やかな髪色の子と呪い子の象徴とも言われるシルバーグレイ色の髪色の子だった。
「宰相、このことは我との秘密にしてはくれぬか?」
「勿論でございます、王よ。」
「医者よ、呪い子の場合、どうしたらよい?」
「お、王よ!
まず、何の呪いがかかっているか確認しなければなりませぬ。
確認方法は目を見ること。
王妃失礼します。」
医者が灰色髪の子の目を開けると立ち眩み転んでしまった。
「どうした!?」
「こ、これは魔力吸収眼...!
呪い子の呪いの中でも屈指の殺傷力を誇る呪いです!
条件は分かりませぬが、視界に触れた生き物の魔力、即ち生命力を吸収する魔眼です!!」
「こんなにも可愛らしい我が双子...、両方呪い子になる可能性もあったがそれは免れたようだ。
しかし、このことが他の妃だけでなく他国にも知れ渡ってしまっては、我が国は失墜の道を辿ることになる。
宰相よ、今考えていることを話せ。」
「はっ。
私の策は二つ。
一つは隠し子として、我々にしか知らない場所で捨てる。
もう一つは言葉が発せられるぐらいに育て、呪いを解呪する。
この二つです。」
「ふむ、呪い子といえども我が子だ。
一つ目は破棄だ。
よって二つ目の策になるが、この場合誰にも見られないようにする必要があるな。
この部屋をこの子の成長の場にしよう。」
「かしこまりました。
とりあえず、元気な女子が生まれたと伝達してまいります。」
「宰相、いや我が友よ。
我の問題をお前にも抱えさせてすまぬな。」
「この身分になる前から貴方にはたくさん抱えさせられました故に、最後まで付き合いますぞ。」
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厳しい寒さを乗りこえ、エリオン王国は王位継承者が新たに誕生したことを発表した。
とても可愛らしく、アリア妃によく似た髪色、美しい風貌に全てを見透かすような観察力のある女の子だと王国中でその話題で持ちきりになった。
月日が流れ、その女の子はアンシア王女と呼ばれるようになった。
城内を走り回り元気よく挨拶をする、接しやすい王女様だと城内で噂になり、その噂を耳にした側妃の中には嫌悪を見せる者もいた。
王女様はいつも決まった時間に城内から姿を見せなくなる。
メイド長によれば自習をしているのだとか。
勉強熱心で豊富な教育を受け次代の王候補に一番近い子として噂になった。
しかし実際には自習をしているのではなく、ある日たまたま見つけた壁の綻びにあった小さなボタンを押しに行っていた。
「なんだろうこれ...。」
ボタンをカチリと押すと隣の部屋から物音が聞こえてきた。
今いる図書室の隣の部屋は物置部屋で埃が溜まっているからとメイド達からは入るなと言われていた。
この時間帯はこの付近を通る者は誰もおらず、アンシアにとって最高の一人時間だった。
静かに扉を開け隣の部屋に入り込む。
メイドの言う通り確かに埃が溜まっており、薄暗かった。
物音がした方向に進んでいくと、小さな引き戸を見つけた。
興味本位で引き戸を開けると中から声がした。
「あれ?もうご飯の時間なの?」
「?あなただぁれ?」
「わたし、ノンシア。」
「わたしと名前似てるね!わたしはアンシア。」
それがアンシアとノンシアの初の出会いだった。
少ない時間で毎日会いに行くようになったアンシアは、お花や本を持ち込むようになった。
外に出て遊ぼうと話すと、出ちゃいけないのといつも断り、なんで目を隠しているの?と問うと病気があるのと話す。
何回もあっているうちにお互いの名前や顔つき、声などから二人が姉妹であることに気付いた。
どちらが姉なのか妹なのか関係なくお互いを一人の人間として認め合っていた。
アンシアが他国とのお披露目会に出席することになったので、その報告をノンシアにしようといつもの時間通りに向かうと、既に中に人がいた。
何年間もこの時間帯にここに人はいなかったのに、今日という日に限って人がいた。
中で話し声が聞こえるので耳を澄まして聞いてみる。
「王よ、ついにこの時が来ましたな。」
「あぁ、ノンシア、我が娘よ。」
「はい、父上。」
「実はなノンシア、お前の目は病気ではなく、呪いなのだ。」
「はい...?」
「医者曰く条件付きで相手の目を見ると生命力を奪う魔眼ということらしい。」
「ノンシア様、呪いが解呪できるかを試しに来たのが目的でございます。
呪い子の専門医のマーシャル先生です、よろしくお願いします。」
「では、診察を開始します。」
中で何が行われているのかは分からないが、呪い子という知らない単語が聞こえてきた。
すぐに王女権限を行使し図書館の中でも危険とされる準指定書庫に向かった。
”呪い子”という言葉に注視し本を探すと、『呪い子とその歴史』という本を見つけた。
ページをめくり本を読んでみると、衝撃の内容が書かれていた。




