ネヴィーの森
禁地と呼ばれる森、旧名はネヴィーの森。
死体で森全体が覆いつくされていた時期があり、近隣住民からの苦情を抑えるべくやっていた仕事だったのにいつの間にかこの呪いに俺もかかってしまったらしい。
死体を埋め、死体を探し、死体が放り込まれ、また埋める。
それを時が忘れるまで、生活の一部となるまで繰り返してきた。
朝起きて、ご飯を食べ、死体を探す。
四肢があるものは楽だが半数以上は人の形をしていない。
最初こそ、その匂いと様子に抵抗があったものの、今となっては微塵も感じない。
戦争が続いていた間は毎日死体を埋めていた。
この土地は浄化が以上に早く、埋めてもすぐに分解される。
昨晩埋めたところに印をつけたりしてが、朝にはなくなっていた。
装備や持ち物などはここに捨てられた時点で無いが、まれに仕込み杖や隠し箱などから見つかる。
それらは分解されず、地上に放置される。
戦争終結直後にこれまでの数の倍近い死体が捨てられた。
それらを埋め、持ち物を小屋に持ちかえり、久しぶりに森の外へ出た。
出た直後は変わらず、森を囲むように謎の溝があったが気にせず街へ向かった。
街は変わり果てていた。
人々は俺を変わり者だと蔑む目で見てきた。
教会へ行き、俺の身体にかかった呪いをみてもらおうとした。
教会に入るなり、司祭から強烈な浄化魔法が飛んできたが、俺の身体に当たる前に浄化魔法が霧散した。
それから街には行かなくなり、いつからか腹もすかなくなった身体でまたいつもの生活に戻った。
数年経った頃、突如として強い気配を感じ取った。
いつもの仕事場、森の泉へと向かうと泉には無数の死体が浮かんでいた。
引き上げようと近づいた瞬間、死体が動いた。
「ったくあの勇者め、酷い攻撃をしてきおる。」
「あの魔王め、なんだあの騙し討ちは。」
「おぬしも酷い目にあったのか?」
「おぉ、そなたも...奇遇...、っ!!」
「なぜ、勇者がここに!」
「それはこちらの台詞!」
死体同士で喋りあっていた。
その光景に唖然としていると、二人とも俺に気付いたのかこちらへやってきた。
「そこのお主!何者じゃ!!」
「見たところ人間だな?俺は勇者ネモだ!」
ネモと言う名には聞き覚えがあった。
エルニア大陸の初代勇者として、魔王と共に死亡した勇者の名だ。
「この聖剣が貴様を今度こそ...、ん?」
「ん?勇者よどうしたのだ?」
ネモが腰に掛けていた剣を手に取り見て見ると腐食し、ボロボロになっていた。
魔王も身に着けていた剣や指輪を確認し、その惨状に驚いていた。
「お、俺の聖剣が!」
「私の宝珠が!」
「驚いてる中申し訳ないが、二人は初代勇者ネモと初代魔王マガーラですか?」
「私の名を知っておるとは!珍しいのぉ!」
「お前そんな名だったのか、かっこいいじゃねえか。」
ひとまず、二人を泉から少し離れた場所に案内し、この森の事、俺が今知っていることを話した。
その間、再び泉から強い気配を感じた。
嫌な予感がして、泉へ戻ると、死体の中に二人が立っていた。
「いててて、確か私は首を刎ねられて...。」
「あの勇者め、今度会ったら...、って私は死んだのだな。」
「って、なんで勇者がここに!!」
「ん!?貴様は憎き魔王アンナ!」
似たような何かをつい先ほど感じたというのに、説明がめんどくさくなった俺は初代二人に来てもらい説明をしてもらおうとした。
「ほれほれ、おぬしら落ち着け。」
「泉から一旦上がったらどうだ?」
「話に割って入り込むな!...って、え!?初代魔王マガーラ様!?」
「ん?...え!?このお姿、初代勇者様!?」
なんだかこれからの先が見えてきたのでひとまず二人を泉から離してみる。
すると案の定強い気配を感じ取ったので、初代とおそらく二代目の人たちに終わるまで説明を繰り返すようお願いした。
小屋に戻り、拾い物の部屋のドアを開く。
ドアを開けるなり、遺物やらが溢れる様に出てきた。
そこの中から、勇者の荷物と魔王の荷物を見つけ出す作業を行った。
あの時、初代勇者が引き抜いた腐食の剣に見覚えがあったため、こっちにある剣と比べてみると模様と形が一致した。
小屋のドアが叩かれ、外へ出ると困り果てた者達と説明疲れで疲労困憊な初代二人がいた。
「泉に浮かんでいた死体は無くなったぞ、あと疲れた。」
「ワシ一人じゃ無理だったぞ、勇者と手を組んだ魔王はワシが初じゃろう...。」
「それで、結局どのくらいの勇者と魔王がいるんだ?」
「ざっと30組ぐらいだ。
現れるなりそれぞれの先祖を見て同じリアクションを取られ、謎に疲れた。」
「ワシも同感じゃ。
途中から他の魔王にも手伝わせたが、なかなか骨が折れる作業だったわぃ。」
「18代目勇者オウルと申します。
我々はどうやらこの森から出られないようです。
幾度か試しましたが呪いに近い何かが阻止してきて、無理でした。」
「呪いか...、というか勇者と魔王がこの森から放たれたらとんでもないことになるだろうから、一旦ここに滞在してくれ。
この森は俺の所有ではないが、まぁ管理人と言ってもいいだろう。
なにか呪いやら、また新しい情報を得たら適宜俺かこの初代達に伝えてくれ。
あと、知ってると思うが、ここには死体が定期的に外から運ばれてくる。
死体埋めの作業を手伝ってくれるなら何かしらのプレゼントをしよう。
それぞれ勇者と魔王で因縁があるかもしれないが、俺以外全員一度死んでいるのは間違いないんだ。
喧嘩とかはやめてくれよな?
各々疲れていたり、状況を呑み込めていない者もいるだろうから今日は一旦解散だ。
初代二人は小屋に入ってくれ。
以上だ。」
と言う感じで皆承諾してくれて、疲労で二度目の死を味わいそうな二人を適当に寝かせた。
それから、この森に定期的に死体が運ばれ勇者と魔王がたまに湧く泉と化した。
死体の傾向もあって、最初は大人や老人など多かったが、次第に子供や赤ん坊などの比率が多くなっていき、まれに息が残っている者も残っていた。
そんなときは人間の勇者たちに任せて生死を確認させ、道を選ばせてやってたりした。
森が以前より何とも言えない理由で賑やかになった時、呪いが弱まってきた気がして、再度街へ繰り出してみた。
前に訪れた際にはその変わりように驚かされたが、今回はそこまで驚かなかった。
街に住んでいる人こそ変わったりはしたが、建物や雰囲気は以前と同じだったからだ。
商店街に行こうと思った時、街の中から嫌な気配がした。
嫌なのは確かだったのだが、なんだか俺と似たような嫌さを感じた。
裏路地へ隠れ、様子を伺う。
頭の先から足のつま先まで鎖でがっしりと絡められた少女が連行されていたのが見えた。
周りにいた騎士達は重々しい空気で、向かう方角はまさかの森だった。
街に住んでいる人がひそひそと話すのを聞くと、重罪を犯した罪人だから禁地送りになった、らしい。
森へ一行が進んでいくのを見届けたと同時に再びあの嫌な気配を感じ取った。
しかし、今回は一つしか感じなかった。
念のため、森へと遅れて向かうと、嫌な気配の張本人が俺以外にあの溝を超えているではないか。
樹々から見ていたが、向こうから気配を悟られたのかバレてしまった。
姿を他の騎士達に晒すことになってしまったが、やむを得ず近づいた。
見た感じ、魔王だろう。
しかし、なぜ今回は勇者がいないのだろうか、と考えていたらいきなり剣を振るってきた。
死体を埋めていた頃の俺だったら即死だったであろう。
呪いにかかった俺にはあまりにも遅く見えた。
試しに剣先を軽く摘まんでやったら粉々に砕け散ってしまった。
逃げようとするので追いかけようとしたら、森の中から声が聞こえてきた。
声が届く前に少女に手を振れ、まだ生きていることに気が付いた。
そして、低く唸る声が聞こえたと同時に俺と少女以外の生物が爆発四散した。
あまりにグロさに言葉が出なかったが、普段見慣れている死体と比べたら何とも思わなかったので少女についている鎖を外し、安否確認を取る。
口を動かしていたが、吊り上げていた糸が切れたかのようにその場に倒れて眠ってしまったので、しかたなく小屋に連れ帰った。




