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勇者パーティを追放されたので魔王様に忠誠を誓いました。  作者: tomato.nit
カイムと仕事と

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48/68

48話 侵攻


「塞ぐな。だが放置もするな」


 ヴェラの命令で、旧水門の見張りはその日のうちに倍になった。


 見張り台の位置をずらす。水門脇の草を刈る。泥をならす。


「そこまでやるんですか」


「少なくとも来た時に把握はできるからな。来ないに越したことはないが」


「嫌な言い方ですね」


「嫌な相手だからだ。お前の同胞でもあるんだぞ?」


 少し離れた場所で、リューネが壁際に指を当てていた。


「来てほしくないけど、来ると思う」


「私もそう見ている」


 石段の上から、ヴェラが落とした。この角度はなかなか破壊力があるな。

 足のラインが大変美しい。

「ごちそうさまです」


 思わず口に出してしまった。


「お前はこんな時でもそれか。呆れるのを通り越して、もはや尊敬する」


「褒められても何も出ませんよ」

 思いっきり蹴られた。


 夜は長かった。


 水の匂い。湿った石。草のこすれる音。


 旧水門の石段には夜露が浮き、踏みしめた泥が靴裏に薄く張りつく。水路の奥からは、冷えた空気が細く上がってきていた。


 見張りの兵も、俺も、息を浅くして待つ。


 その沈黙を破ったのはリューネだった。


 リューネの肩がぴくりと動く。


「来た」


 声は小さい。


 だが、全員が動くには十分だった。


 水路の奥。暗がりの先で、水音が一度だけ乱れた。


 次に、低い影が一つ見える。


 続いて、もう一つ。


「二人」


 俺が呟く。


 カイムはもう前へ出ていた。


「早いな。待たされるよりかは都合がいい」


 旧水門の足場へ影が現れた時、ヴェラの声が落ちる。


「囲め」


 左右に散っていた兵が動いた。


 影はそこで止まる。


 リューネが杖を構える。


 次の瞬間、一人が旧水門脇へ煙筒を投げた。


「またそれか!」


 白い煙が広がる。


 湿った夜気に混じって、鼻の奥へつんと刺さる薬臭さが走る。


 兵が一瞬ひるむ。


 その隙に、もう一人が逆方向へ走った。


「分かれた!」


「カイム!」


 ヴェラの声が飛ぶ。


「右を追え。アードゥ、リューネは左だ」


 俺たちは左へ走った。


 煙を抜けた先、影は低い姿勢のまま草地を切っていく。


 刈りきれなかった草が脛に当たり、石混じりの土が靴裏で嫌に滑る。


「やっぱり変だな。俺たちが見張ってることも想定内というか」


 草地を抜け、細い石道へ出る。影はそこで一度だけ振り返った。


 口にした瞬間、背後から笛が鳴った。


 短く、二度。


「あいつら落ち着いてるな。こっちが見張ってるのは想定済みか」


「うん。それに、装備もかなり実戦向き」


 リューネの言う通り、多少の剣は止まる程度には、鎧を固めてきている。


「取り押さえろ!」


 ヴェラの号令の下、周囲の兵が一斉に動く。


 その瞬間、再び、白い煙幕が炊かれる。


「その手は見飽きた!」


 その煙の中をカイムが躊躇なく切り込んでいく。


「正面は私が抑える。左右から囲め!」


 ヴェラの指示がさらに飛ぶ。


 敵の数は見えた範囲では二人。しかし、後続は居るのか。それまでは分からない。


 無数の足跡が響く。


「アードゥ、見える?」


「いや、流石にこの距離じゃ……」


 その時、背後に笛の音が響く。


「今のは!?」


「別の方向!」


「アードゥ、リューネ!すぐに迎え、カイム!お前もだ!」


 その声と共に、カイムが煙の中から姿を現す。


 流石というか、あの乱戦の中でも傷一つない。


「ぼさっとするな。急ぐぞ!」


「でもヴェラは?」


「あの程度、ヴェラ様なら造作もない。僕も手を合わせたが、昼間の方がよほど手練だ」


 走り出した直後、別方向から金属音が響いた。


 高い。短い。何度も重なる。


 石壁に跳ね返った音が細い通路を這ってきて、耳の奥を小さく叩く。


「もうやってる!」


 リューネが顔を上げる。


 補給搬入口へ近づくほど、音は増えた。


 怒号。刃のぶつかる音。石を蹴る足音。


 乾いた血と油の匂いが、角を曲がる前から流れてくる。


 扉の前では、すでに戦闘が始まっていた。


 灯りに照らされた石床には、浅い血と泥がまだらに散っている。


 魔族が三人。


 人間が五人。


 数は向こうが上だが、押し切れてはいない。


 補給搬入口の兵たちは扉の前で踏みとどまっていた。


「始まってるじゃないか!」


「見れば分かる!」


「リューネ殿は援護を。君はリューネ殿を守れ」


「お前はどうするんだ?」


「突っ込む!」


 そう言うが早いか、カイムは剣を抜き、側面から一気に突っ込んでいく。


「怪我してる人は退いて!」


 リューネの声が重なる。


 守れと言われても、正直リューネの方が俺よりもよっぽど強いんだが。


 人間側は五人。


 その中に、昼間に水路で見た覚えのある背格好もある。


「数刻ぶりだな。今度こそ逃がさん!」


 カイムのそれを見抜き、迷わずに刃を交える。


「やはり、あの場で仕留めておくべきでした」


「やれるものならやってみろ、ドブネズミが!」


 カイムの怒声が響く。


 狭い搬入口に反響したその声で、扉前の空気がさらに張る。


 しかし、カイムが乱入したことで、魔族側の方が有利に戦闘が進み始める。


「カイムが来たなら余裕だぜ!」


 軽い口調の魔族の兵士。


「浮かれるな! ここで、食い止めるんだ!」


 カイムの檄が飛んだ瞬間、嫌な音が響く。


 鎧を切り裂く刃の音。その奥に、肉を裂く音。


「かすり傷だぜ!」


 先ほどの魔族の兵士が腕に傷を受けながらも、反撃で一人を切り伏せた。


「退いて!」


 リューネの指示。すぐさま回復魔法が飛び、魔族の兵は戦線に復帰する。


 やはり、勇者パーティというのが特殊な環境で、普通は人間が魔族を相手にするには三倍程度の戦力差は欲しいところか。


 その光景を目にした人間側。昼間の男が、口元を歪める。


 仲間がやられたのに、その表情はなんだ?


「カイム、気をつけろ! 何かまだ仕込んでる!」


 言い終わる前に、周囲から呪文が響く。


(ここは死霊術の呪文)


 詠唱が終わるまでの間、人間側は一人、二人と、その数を減らす。


 残ったのは昼間の男と、もう一人。


 しかし、そいつらは急に距離をとる。


「逃がさん!」


 カイムが追おうとした瞬間。


「残念ですが、あなたの相手は私ではありませんよ。せいぜい、死体と遊んで下さい」


 呪文が完成し、人間の兵の死体が紫の靄に包まれる。


 冷えた空気の中で、その靄だけが生ぬるく揺れた。血の匂いとは別の、腐りかけた湿気みたいな臭いが混じる。


「皆、下がれ。これは、少し厄介だぞ」


 カイムを前に、三人の兵が背後に控える。


 その前には先ほど切り伏せたはずの三人が、再び立ち上がる。


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