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勇者パーティを追放されたので魔王様に忠誠を誓いました。  作者: tomato.nit
カイムと仕事と

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42/70

42話 終わったことにされた兵


 帰着札、補給記録、監査官用通路。


 俺とカイムとリューネは、魔王様に言われた通り、紙が通る場所を一通り回った。


 どこにも怪しい跡はあった。


 札箱の前には、処理する間だけ後ろの角が見えなくなる場所がある。補給記録は、荷を受け取る場所と台帳を書く場所が離れている。監査官用通路は、通った記録ではなく、使用後確認の欄だけ筆圧が違った。


 怪しい。


 だが、怪しいだけだった。


「こう、もう少しで手が届きそうなのに、尻尾がつかめないというか」


「まったくだ。そもそも、そう簡単に正体が判明するなら、既に捕らえられているはずだ」


「それにしても、なんか引っ掛かるんだよな」


「何がだ」


「帰着札にしたって、名前を消すことに意味あるのか?」


「いまいち何が言いたいか分からんぞ」


「名前を消すって、その帰着札が受け取られた後だろ。後から消しても、処理はもう通ってる」


 思いつきを口にしただけだった。


 だが、カイムの筆が止まった。


「……隠すためではない?」


「そこまでは知らん」


 カイムは黙った。


 書き板の端を押さえたまま、少しだけ目を細める。


 その瞬間、廊下の奥から足音が近づいてきた。


 かなり急いでいるらしい。


 現れたのは外縁兵だった。肩で息をし、俺たちの前で片膝をつく。


「報告します。西側巡回の帰着札が戻っています」


「戻っているなら、何故走ってきた」


 カイムの声が落ちる。


「ただし、本人が戻っていません」


 さっきまでの引っかかりが、急にこっちを向いた。


「帰着札だけ戻ったのか」


「はい。西側巡回のロウという兵です。予定時刻を過ぎても姿が見えず、確認したところ、札だけが箱に」


「台帳は」


「帰着済み扱いになっています。時刻も、担当者名もあります」


「名前がある?」


 思わず言うと、外縁兵が頷いた。


「担当したのは見張りのダリムです。本人は、札を受け取った覚えがないと言っています」


 カイムは一瞬だけ目を伏せた。


「リューネ殿」


「うん。私も行く」


 カイムは外縁兵へ紙を一枚ちぎって渡した。


「これを魔王様へ。西側巡回ロウ、帰着札のみ戻り。本人未帰還。台帳記録あり。担当者は否認。未確定として即時報告」


「はっ」


 外縁兵は紙を受け取り、すぐ踵を返した。


「君も来い。今は少しでも目がいる」


 西側の帰着札室に着いた時には、兵が何人か集まっていた。


 北側より少し広い部屋。札箱の前で一人の兵が青い顔をして立っている。たぶんダリムだ。机の上には台帳が開かれ、問題の札が横に置かれていた。


「触った者は」


 カイムが聞く。


「自分と、確認に来た上官だけです」


「札は本物か」


「はい。ロウの札で間違いありません」


 リューネが札に手を伸ばしかけ、途中で止めた。


「触らない方がいい。魔力は弱いけど、何か術は掛けられてる」


「人間側の道具か」


「たぶん。でも、前に見た追跡妨害とは違うと思う」


 俺は札箱の前に立った。


 札を戻す。台帳を開く。時刻を書く。担当者名を書く。


 それだけだ。


 それだけなのに、変な感じがした。


「ダリムさん」


「はい」


「この札、いつ戻ったことになってる?」


「台帳では、三刻ほど前です」


「その時、ここにいましたか?」


「いました。しかし、札は受け取っていません」


「誰か来た?」


「いえ。誰も。その時間帯は一人で飯を食っていたので」


 木の箱。細い口。


 札を入れれば、音はするはずだ。


 なのに、誰も来ていない。


「これ、札を戻した奴がいないんじゃなくて」


「さっさと結論を言え」


「急かすな。戻したところを、見られてないだけじゃないか」


 リューネが札箱の横に膝をついた。


「こっち、隙間がある」


 箱の裏側。


 壁に固定された板と札箱の間に、細い隙間があった。手は入らない。けれど、紙か薄い札なら差し込める。


「表から入れたん訳じゃないってことか?」


 リューネが頷く。


「たぶん。札箱に入ったことにはなる。でも、この人は受け取ってないし、入れるところも見ていない」


「そんな、では、私は」


「君の落ち度かどうかは別だ」


「受け取っていないことと、札が箱に入っていたことは両方上げる。判断は魔王様だ」


 ダリムはうなずいた。


 カイムは台帳へ目を落とす。


「担当者名は、君の字か」


「……似ています。ですが、自分が書いたわけではありません」


「似せているな」


 横から見る。


 ダリムという名前。


「これ、なんか違うよな。癖が少ないというか」


 カイムが黙った。


「今、同じ欄に自分の名前を書け」


「は、はい」


 ダリムが震える手で別紙に名前を書く。


 比べる。


 似ている。


 確かに似せてはいるのだが。


 本人の字は、最後の跳ねが少し強い。台帳の字は、真似をしようとしてずれている。


「ダリムさん、筆の持ち方が少し変だね」


「昔の怪我で、指の動きが少し悪いんだ」


 もう一度、台帳の字を見る。


 似せてはいる。


 だが、跳ねるところで力の抜き方が違った。


「勝手に終わったことにしてるのか」


 俺が言うと、カイムの筆が止まった。


「何を」


「あれもこれもそうだ。裏で何か動いてるのに、こっちに来る頃にはもう終わったことになってる」


 リューネが杖を握る手に力を入れた。


「ロウさんを探さないと」


「位置は」


 カイムがダリムを見る。


「西側の石積み道です。最後に確認されたのは、旧水門の近く」


「案内を」


「はい」


 カイムは書き板を閉じかけて、もう一枚だけ紙を切った。


「追加報告を出す。札箱裏の隙間。担当者名の模倣。西側旧水門へ向かう」


 追加報告は、別の兵が持って走った。


 俺たちも旧水門へ向かう。


 廊下を抜けると、外の空気が入ってきた。石壁の向こうから、水の匂いがする。古い水門へ近づくほど、足元の石は湿っていた。


 ロウはまだ見つかっていない。


「アードゥ」


 リューネが横から言った。


「何だ」


「今、顔が怖い」


 ロウの札。


 真似られた名前。


 荷物だけ先に帰ってきたみたいで、気持ち悪かった。


 俺たちは、旧水門へ急いだ。


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