9話 絶望
僕は驚きのあまり目を見開いていた。さっき確実に絶命させたはずのゴブリンロードが立ち上がっていたのだ。どういうことだ? さっき一瞬悪寒が走ったけど何か関係があるのだろうか。
そんなことを考えていると、斬り落としたはずのゴブリンロードの首が体とつながった。どうやら再生したようだ。
「ユルサナイ……。ユルサナイ……」
再生したゴブリンロードの目にはさっきまで感じられた知性の色が全く感じられない。その目はいまやどこか濁っている。
復活したゴブリンロードのことを観察していると、ヤツがどこからか取り出した刀で僕に斬り掛かってくる。
おっと、危ない。僕は攻撃を見切り回避する。なぜだが、さっきまで感じていた危機感がまったくない。復活してからのゴブリンロードにはさっきよりも攻撃のキレがない。速度も遅くなっている。今のヤツの力なら、僕の敵ではないかもしれない。
僕は回避際にヤツの腕を切り落とす。やっぱりさっきよりも弱体化しているようだ。それだけがまだ救いだ。
じゃあなぜこいつが動いているのかということについてはいまいちわからないが、僕の予想は二つだ。
一つ目は、首を斬り落とした際にゴブリンロードが強い恨みを持ち、アンデット化した。強い恨みなどの負の感情が極限まで、集まると人がアンデット化することがある。ただし、それが魔物にも適用されるのかはわからない。
二つ目は、何者かに操られている線だ。こっちの線のほうが可能性は高いだろう。とりあえず、もしもヤツがアンデットならば、光属性にはめっぽう弱いはずだ。まぁ、試してみる価値はあるだろう。
「『光の矢』!」
僕はヤツめがけて光属性の魔術を唱える。アンデットには光属性の攻撃は効果バツグンだ。
しかし、結果は僕が望んだものではなかった。魔術のダメージを与えることはできたが、そこまで大ダメージが入っている感じはしない。となると、誰かに操られているか、はたまた僕の考えられないような原因なのか……。今のままじゃ判断ができない。
ん? 待てよ。あいつの腕さっき斬り落としたよな? まさか再生したのか?
「カクゴシロオオオオオオ!」
ゴブリンロードが雄叫びを上げて斬り掛かってくる。だけど、さっきもいった通り、速度がかなり遅い。見切るのは簡単だ。僕は横に飛ぶ。
ドガァァン!!
僕という対象を見失った刀は虚しく空を斬り、けたたましい音を立て、地面に激突する。
嘘だろ!? 速度が遅いことがせめてもの救いだが、火力がとんでもないことになっている。どうやら復活と同時に火力が超強化されたようだ。厄介だな。
さて、どうしたものか……。こちらが攻撃してもすぐに再生するしなぁ……。もう一度ヤツの首を落として見るか。さっきよりも馬鹿そうだし、なんとかなるかな?
そう考えて僕は攻撃するべく、『付与』を発動させる。
「『付与』氷!」
「キサマ……、ナニヲ……」
残念だがもう遅い。足元から足に掛けて凍らせた。もう、身動きは取れまい。僕はその隙にヤツの首に斬りかかる。その刃は見事にヤツの首を切断する。さてと、どうかな……?
結果は、その首は再生した。嘘だろ!? いや、さっき首を落としていたのに、再生してたから当然と言っちゃ当然か。だとしたらどうしたらいいかなぁ……? このままじゃジリ貧だ。
おっと、危ない。またアイツが攻撃してきた。凍らせたのにそれから脱出したのかよ……。とんだバカ力だな。こうなったら再生を上回るほどの攻撃を繰り返し食らわせてやるしかないようだな。
僕はそう判断して攻撃をするためにヤツに飛びかかる。今のヤツの反射神経ではこの速度の攻撃を防げまい。僕は一個一個の攻撃に『瞬間付与』によるゴブリン特攻を付与している。ゴブリンに対してはすべてが一撃必殺級の攻撃だ。流石に耐えられまい。
「ナンダ……。スベテノコウゲキガオモイダト……。キサマ、ナニヲシタ!?」
「お前に言う必要はないね。これでも喰らえ。『炎の竜巻』」
僕は続けざまに魔術を発動させる。もちろんゴブリン特攻が付与されている。ゴブリンロードが炎の竜巻に飲まれる。どうやら『付与』は魔術にも効果を及ぼす事ができるようだ。使い勝手が良すぎるだろ……。
「アツイ! アツイ! アツイ! コンナトコロデシヌワケニハ……。マオウサマガオメザメニナラレタノニ……」
炎に飲まれたゴブリンロードが悲鳴のように同じセリフを連呼する。というかいまこいつなんて言った? 魔王が目覚めただと? そんな、まさかこんなときに……。いや魔王が復活するからこの襲撃を仕掛けてきたのだろうか。
僕はずっとそのことを考えながら炎に飲まれるゴブリンロードをただ眺めていた。
数十分それを見守っていたが、ゴブリンロードはついにその体を灰に変えた。しばらく見ていたがもう再生する感じはない。今度こそ倒せたようだ。
やつが言ったことが本当なら、魔王が復活したようだ。だけど、今考えても仕方ないと結論を出した。落ち着きからか体の力が抜けて地面に座り込んでしまった。かなり『付与』と魔術を使ったから当然といえば当然か……。
そんなことを考えていると、あたりから煙がただよっていることに気がついた。僕は慌てて町の方を見る。
僕の淡い希望も虚しく町から火の手が上がっていた。何がどうなって……。そんな思考の海に沈んでいると、あることに気がついた。確かにここに来るときにそこにいたゴブリンは全滅させてきた。……はずだ。
そして、さっきと同じように死んだ魔物が復活したなら──。その結論にたどり着いた時、僕はフォワードの町に走り出していた。頼む、死者が出る前に間に合ってくれ。僕はそう願わずにはいられなかった。
■■■■
僕は全力で走り、なんとか町についた。だけど、おかしい。ゴブリンが全くいないのだ。このあたりで倒したはずのゴブリンの死体すらない。やっぱり復活していたようだ。
きっとこいつらのせいで町が燃やされているのだろう。復活したあと、アイツらはどこへ行ったのか全くわからない。僕は町を見回して死傷者がいない確認しながらそんなことを考えていた。どうやらこのあたりには死傷者はいない。それはまだ救いだ。
しばらく見回しながら、町を進んでいくとこの町の冒険者ギルドにたどり着いた。今のところ死傷者は見ていない。僕は冒険者ギルドの扉を開けた。
冒険者ギルドの中にはたくさんの人がいた。怪我人もいるが命に別状は無さそうだ。だけど、僕が出ていった時よりもどこか空気が重かった。とりあえず母さんとアイリスを探すか。
しばらく探していたがどこにもいない。どこに行ったんだろうか?
「あっ。ブライトおじさん!」
「ん? ユート君か。倒せたのかい?」
「うん。元凶は討伐できたよ」
この人はブライトおじさん。フォワード家とは古くからの友人だ。僕も小さい時に何度か遊んでもらった記憶がある。
「母さんとアイリスは?」
僕は母さんたちの居場所を聞く。ただ、それを聞いたブライトおじさんの顔が一気に暗いものになった。
「いいかい。落ち着いて聞いてほしい。クリスタとアイリスは、魔王軍を名乗る者たちに連れて行かれたんだ……」
「えっ?」
母さんたちが魔王軍につれていかれただって? 嘘だよな。嘘だと言ってくれ……。
僕は激しい悲しみに包まれた。それと同時に激しい怒りが湧いてくる。誰にって? 僕自身にだよ。あの時、そのままギルドに残っていれば防げたかもしれない。それなのに、元凶を仕留めようと、ギルドを離れてしまった。そのことがどうしても許せないのだ。
「ユート君がギルドを出ていってからしばらく立った時、魔王軍四天王を名乗る男がやってきて、『フォワード家のやつを出せ。さもないと、お前らの命はない』といってきたんだ。俺達は領主様たちを売るくらいなら、死んだほうがましだ考えていた。だけど、クリスタが『私達がフォワードよ。連れて行くなら好きにしなさい。ただ、ここにいる人たちの安全は保証しなさい』って、言ったんだ。そのまま、魔王四天王を名乗るやつが二人を連れて行ったんだ」
どうやらそうらしい。
「気を落とさないでほしい……なんて言っても無理だよね。ただ、これだけは覚えていてほしい、君が元凶を叩きにいってくれなかったらもっと被害者が出ていたかもしれない。あの時の判断は誇ってほしい……。二階にユート君用の部屋を貸してもらったよ。ゆっくり休んでおいで……」
「わかった……」
僕はなんとか言葉を紡ぐ。そのまま僕はブライトおじさんが取ってくれた部屋に向かった。
部屋に入り、ベットに飛び込むと、抑えていた悲しみが溢れてきた。その感情に身を委ね、僕は一人泣いた。




