8話 絶望の始まり
僕はこの襲撃を終わらせるべく、襲ってくるゴブリンを蹴散らしながら予想される元凶を探していた。僕の予想通りなら、この襲撃には魔王軍が関わっていて、今回の総括はゴブリンロードだろう。
前にも言った通り、ゴブリンロードはかなりの強敵だ。今の僕じゃ勝てるかどうかはわからない。だけど、父さんが帰って来ない以上、僕が倒さない限りフォワードの町は滅びを待つしかない。僕はこの町は滅んでほしくない。探しながらそんなことを考える。
「ニンゲンガイルゾ。ヤッチマエ!」
「お前らに構ってる時間なんかねーよ」
僕は襲ってきたゴブリンを躱しざまに一刀のもとに切り捨てる。さっきまで苦戦していたのが嘘のようだ。やっぱり『付与』の力は偉大だ。
ん? 何だこの感じ。東からひときわ強い気配が感じられる。きっと、ゴブリンロードだろう。僕は意を決して歩みを進めた。
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その場所にはやはりゴブリンロードがいた。その姿は見上げるほどの巨体だ。その手には刃渡り30メートルを超えていそうな剣がにぎられていた。
あれで、斬られたらひとたまりもなさそうだ。ちなみに僕は木の影からやつの様子をうかがっている。自分に『気配隠蔽』をかけているため今のところ見つかってはいなさそうだ。
「首尾はどうだ?」
「ハッ。イマノトコロハサクセンドオリニススンデイマス。タダ、ジツリョクガハカレナイヤツガイマス」
「ほう。そいつによるこちらの被害は?」
「モウ、サンジュッタイハヤラレテイマス」
「何だと!? 人間の中にそのような力を持つものがいるとは、油断ならないな」
ゴブリンロードは部下のゴブリンから戦況を確認しているようだ。というか、ゴブリンが言ってる実力のはかれないやつ、って僕のことだよな。どうやら僕のことはゴブリン達にかなり警戒されているようだ。
さてと、どうやって攻撃を仕掛けるか……。ゴブリンロードは油断しているように見えるが、隙がまったくない。
「しかし、そろそろ魔王様が復活なさるだろう。そうしたら我々ゴブリンの勝利は揺るぎないものとなるだろう」
ゴブリンロードのやつ、今なんて言った!? 魔王が復活するだと!? なんてタイミングだよ……。このままじゃ本当に危ない。
魔王が復活すると、その配下の魔族は今までの数倍の力を得ることになる。そんな状態になったら、わずかでもあるゴブリンロードへの勝率はがくんと下がるだろう。そうならないうちに倒すしかない。
ちょうどいいことに、ゴブリンが何処かへ行った。僕は剣を抜き、ゴブリンロードに、めがけて斬りかかる。
「なっ!? 貴様どこから出てきた!?」
ゴブリンロードが驚きの声を上げる。そんな声を上げつつもゴブリンロードは僕の攻撃をやすやすと受け止めている。そして、僕の剣を弾き、刀を振ってくる。僕はなんとかその攻撃を交わす。
今の攻撃はなかなかやばかった。無我夢中で『付与』を一瞬だけ行使して、『加速』を付与しなければ今の一撃でこの世からおさらばだったかもしれない。このように『付与』を行使したからか、新たな使い方ができそうだ。
僕は、ゴブリンロードから距離をとり、ヤツを観察する。
「ほう、先刻の攻撃を回避するか……。先程の報告にあった人間は貴様なのか」
「そうかもな」
「フン。面白いじゃないか。貴様を殺し、魔王様への土産としてやろう」
ゴブリンロードがその巨体に似合わない速度で距離を縮めてくる。僕はその攻撃を一個一個丁寧に対処していく。
時には剣で防ぎ、時には回避する。大丈夫だ。戦えてる。とはいえ、これで天狗になるつもりはない。もし油断なんかしてたら、一瞬で死ぬ。
「我の攻撃をそうやすやすと対処されるとは、かなり腹が立つな」
「そりゃどうも」
そんな軽口を返してはいるがあまりこちらに余裕はない。ゴブリンロードの攻撃に対処するので精一杯だ。
「『炎の竜巻!』
僕はゴブリンロードに向け魔術を発動させる。
「貴様!! 魔術まで使えたのか!?」
ゴブリンロードが驚いていたが、魔術がヤツに掠ることすらなかった。だけど、僕が魔術を発動させたのは攻撃のためではない。
「ヤツはどこに行った?」
ゴブリンロードがあたりを見回す。しかし、どこにも僕の姿はない。
次の瞬間、ゴブリンロードの右腕から鮮血が舞った。そう、僕がヤツの腕を斬り飛ばしたのだ。
「グアー!!!」
ゴブリンロードが絶叫を上げる。相当こたえたようだ。
「貴様! なぜ我が腕を斬り落とせる!? 貴様のどこにそんな力があるのだ!? 答えろ!」
「いや、そんなにいっぺんに聞かれても答えられないよ。ていうか、敵に自分の攻撃の種明かしをするなんて愚の骨頂だよ」
ゴブリンロードが激昂して僕に問うてきた。まぁ、真面目に答える必要はないし、答える理由もないしね。
そんな驚かれることじゃないと思うけどな。だって、まず、『炎の竜巻』で目眩ましを行い、その後、僕の足元に『上昇気流』を発動させて、空高く飛ぶ。
そして、『付与』の新しい使い方、『瞬間付与』を使い、『加速』を付与する。そして、『風力推進』を使って、一気にゴブリンロードのところへ行き、ヤツの腕を斬り落としたわけだ。
ちなみに、『瞬間付与』と『付与』の違いは、効果時間の長さと威力だ。
『付与』は道具に効果を付与するときは除くけど、それ以外に付与する場合は、効果持続時間は数十分。それに対し、『瞬間付与』は効果持続時間は数秒になる。
だけど、能力上昇率は『付与』よりも、『瞬間付与』のほうが高いのだ。うまく使い分ける事ができれば、より強くなれるだろう。
「まだ、我が負けるわけにはいかない。我は貴様を殺す!」
「できるもんならやってみろ!」
どうやら、ゴブリンロードはまだ諦めてはいないらしい。折れないヤツほど敵として厄介なやつはいない。僕にだって譲れないものがある。この町をコイツらに滅ぼさせるわけにはいかない。
というか、ゴブリンロードの腕は再生しないんだな。やっぱりゴブリンの再生はゴブリンロードの『強化』の影響だったんだな。ほんとに厄介な能力だよ。
僕は一回気持ちを切り替え、再び攻撃する。
「『炎の玉』!」
「その手には乗らんぞ!」
僕が放った魔法は、ゴブリンロードによって真っ二つに切られる。
「どうだ! 先程のようにはいかんぞ!」
ゴブリンロードが喜びからか、声を大にして叫ぶ。
こいつ、馬鹿なのか? それで終わりなんて誰が言った? さっきので全く学習してないじゃないか。
「『付与』氷!」
僕はヤツの足と足元を凍らせる。これでしばらくはその場から動けまい。
「『瞬間付与』加速!」
続けざまに僕は自身に『瞬間付与』による超加速を自身に付与し、ヤツのところへ突っ込む。
「『瞬間付与』ゴブリン特攻!」
その上、剣にゴブリン特攻を瞬間付与する。そして、その剣でゴブリンロードの首に斬りかかる。なんの抵抗もなく、刃が入り首を刎ねることに成功する。
「なん……だと……」
それが、ゴブリンロードの最後の言葉だった。
僕は確認のため剣を構えつつヤツのそばに寄った。どうやら絶命しているようだ。なんとか元凶を排除できたな。いや、この町の襲撃者の元凶は排除できたけど、コイツらを町に送り込んできた元凶は排除できていない。きっと魔王軍だろう。
まあ、今は考えても仕方ない。今はこの勝利を喜ぼう。それにしてもかなり町から離れてしまったな。急いで帰るか。
そう思って町を見たときだった。僕は悪寒を感じ、その場から飛び退く。僕がいた場所には深々とさっきゴブリンロードが持っていた剣が刺さっていた。
そして、その先には、確かに絶命していたはずのゴブリンロードが自らの首を持って佇んでいた。




