30話 ガルダー親衛隊隊長イスタス
「来たか、歓迎するぞ。ユート・フォワード」
玉座に堂々と座る男が、こちらに声をかけてくる。その言葉には、並々ならぬ迫力がある。それは、数々の修羅場を乗り越えてきた僕が一瞬動揺するくらいだ。
自分の頬を冷たい汗が垂れるのを感じる。アイツはやばい、と本能が警告してくるのだ。
三人の方を見ると、僕と同じように恐怖を感じているようだ。
「流石だな。我の威圧を耐えるとはな」
「ただのそよ風かなんかか?」
僕は気圧されているのを隠すため、腰から剣を引き抜き、挑発する。もうすでに、戦う以外の選択肢はないのだ。
僕が挑発的なことを言ったためか、三人も、それぞれの武器を構えた。
「『火の玉』!!」
エリスが魔術を放つ。
その攻撃は、ガルダーに簡単に防がれてしまう。
だけど、それに便乗し、僕は『空間移動』を利用して、ガルダーの背後を取る。
よし、入る。
ガキィィン! 甲高い音が響き渡る。
さっきからガルダーの横で立っていた男が僕の剣を自身の剣で防いだのである。
嘘だろ⋯⋯!? ほぼノータイムで転移したのにその速度に追いつけるのか?
「ガハアァ!?」
次の瞬間、背中に強烈な一撃を喰らい、床を突き抜け、真下に落ちていった。
「「ユート!?」」「お兄ちゃん!?」
三人の声が聞こえた。
■■■■
僕は、痛む体に鞭打って、地面に激突する寸前で、『飛行』を使い、なんとか受け身を取った。
それでも無視できないダメージを受けた。
「あれで受け身を取るとはやりおるな」
回復魔術で怪我を治していると、前の暗がりから刀を腰に携えた男が姿を表した。そう、僕の剣を防ぎ、ここまで落としたやつだ。
「受け身には慣れているんでね」
「そうか」
なんとか治療を終えて、再び立ち上がった。
「回復は終わったかの?」
「そりゃあもちろん。待っててくれてありがとね」
そんな軽口を叩く。こいつは全く隙がない。転移を用いる急襲でも意味がないように感じてしまう。それに、上に行こうとしてもきっと再び叩き落されるだろう。早くみんなを助けに行きたいが、それは許してくれなさそうだ。
隙を探るためにも、しばらくは会話で情報を集めよう。
「何個か質問してもいいか?」
「好きにするが良い」
どうやら付き合ってくれるらしい。
「じゃあ一つ目だ。お前たちは、なんでこんなところに屋敷を作った?」
「それはお主を観察するためじゃ。ゴブリンロードを撃退したお主の力量を図るためにな」
なるほど。僕を探るためか⋯⋯。迷惑極まりない。
「次に、魔王は復活したのか?」
「そのとおりじゃ。我らが敬愛する魔王様は、ご復活なされている」
やっぱりか。なら、最近の魔物の力が強くなったのも、一度倒したはずのゴブリンロードが復活したのも、それが原因か。
「最後にお前たち魔王軍の目的は?」
「⋯⋯今は人間を滅ぼす、と答えておくかのう」
人間を滅ぼすだけではないということか? やっぱり、地球への侵攻だろうか? まさかそれよりも大きななにか⋯⋯?
「質問は終わりかの?」
「ああ、かなり分かったことがある」
「フフ、ならば後は戦うだけじゃ。我は魔王軍四天王ガルダー様の配下筆頭、イスタス」
「僕はフォワードの町領主、ユート・フォワード」
「「いざ尋常に勝負!!」」
その言葉と同時に、僕らの剣が激しい火花を散らして交差する。力は同等⋯⋯いや、僕が押されている。このまま鍔迫り合いを続けても押し負けるのは僕の方だろう。
僕は勢いよく後方に飛び、距離を取る。
イスタスはそれを読んでいたように、僕が飛び退いた場所に追撃を仕掛けてくる。僕はそれを落ち着いて防ぐ。
激しい剣戟が繰り広げられる。
「この速度についてくるとはなかなかじゃな」
「そりゃあありがたい」
僕は防ぐので精一杯だ。それに対し、イスタスは余裕そうだ。それほどまでに僕とイスタスには剣術のレベルの差があるのだろうか。
父さんに稽古をつけてもらっていたからと、天狗になっていたのかもしれない。
再び、イスタスから距離を取り、一度呼吸を整える。
「『風の刃』!!」
「魔術も使えるのかの?」
剣術だけでは勝てないのなら、今僕にできる攻撃手段を使うに限る。そう考えての攻撃だったが、僕が放った魔術はイスタスに切り刻まれて霧散してしまった。
時間稼ぎにはなると思ったが、全くだめだ。初級魔術じゃ届かないのだろう。イスタスにダメージを与えるためには、最低でも上級魔術は必要になるだろう。
ただ、術式構築には時間がかかってしまう。今のような防戦に極振りの状況では戦いながらの構築も難しいだろう。
「どうしたのじゃ? さっきよりも速度が落ちておるぞい? もう限界かの?」
「冗談言うなよ。まだまだ余裕だ」
体力的には問題ない。ただ、攻略方法が全く思い浮かばない。『付与』の特攻だって、一撃を食らわせない限り効果はない。⋯⋯そうだ。一か八かでやってみるか。
「『付与』麻痺!」
イスタスの剣を受け流し、麻痺を付与する。
「こんなこともできるのかの?」
が、イスタスは一瞬動きを止めただけでそこまでの効果がないと見える。やっぱり、この状態異常系は、強敵が相手だと、簡単に抵抗されてしまうな。
でも、初級魔術による牽制と比べると、圧倒的に効果がある。少し、いい発見だ。
待てよ? これを利用すれば⋯⋯。
僕は、一つ思い当たったことがあり、試してみることにした。
■■■■
〈アイリスサイド〉
お兄ちゃんが床下に叩き落とされてしまった。お兄ちゃんの攻撃は転移を利用した、完全な不意打ちだったのにもかかわらず、ガルダー親衛隊の隊長らしき男が防ぎ、そのまま、お兄ちゃんもろとも落下していった。
この場にいるのは、私、エリス、ニウスの三人と、魔王軍四天王のガルダーだ。
「イスタスは派手にやるな。さてと、こちらも始めるか」
ガルダーはそう言うと立ち上がり、私達を見下ろす。その手には、燃えるように赤い大剣が握られてた。
次の瞬間、ガルダーの姿が掻き消えた。その速度は、私がギリギリ認識できる速度だ。
「させねえよ!」
ガルダーは、エリスを狙っての攻撃だったけど、ニウスの盾によってその剣は防がれる。
「貴様、やるな」
「手が痺れたのは久々だぜ」
「私を忘れないでね。『炎の竜巻』!!」
ガルダーは、エリスの発生させた炎の竜巻に飲まれる。
「どうよ!」
それを見たエリスが満足そうな顔をする。それって、お兄ちゃんが時々いう『フラグ』ってやつだと思うよ?
「フッフッフ。やるではないか。久々にこの剣の力を使かうことになるとはな」
やっぱりフラグだったのか、炎の中からガルダーの高笑いが聞こえる。瞬間、今までガルダーを飲み込む勢いで燃え盛っていた炎が掻き消える。
「嘘!? まだ消えるほどの時間じゃないのに!?」
エリスが驚愕に目を見開いている。
「なに、簡単だ。この剣が、貴様の魔術を吸収したのだよ」
ガルダーがそうネタばらしする。戦闘中に自分の手の内を晒すのは自殺行為だが、ガルダーからは、それを言っても問題ない実力が感じられる。
「『光の槍』!」
私は、吸収できるのが火属性だけ、と考えて光属性の魔術を放ってみる。
「無駄だ!」
予想通り、光の槍はガルダーに吸収された。属性によってできるできないがないと分かった。
そうなると攻撃手段はニウスの槍と、魔術を飛ばさないで、それを武器として、近接攻撃を仕掛けるしかない。
「どうした? 八方塞がりか?」
ガルダーが気味の悪い笑みを浮かべる。
「ニウス! 槍で攻撃して!」
「任せろ!」
そう言うとニウスが、槍で攻撃を仕掛ける。
しかし、ガルダーに簡単にいなされてしまう。
「『光の剣』!」
ニウスが攻撃してくれている隙にガルダーの背後に周り、お兄ちゃんが見つけた意味のわからない使い方で、魔術を飛ばさずに顕現させる。
それを握り、ガルダーに接近する。
ガルダーは、私を脅威とみなしてないのか、無視してニウスの猛攻に集中している。
「私を忘れない⋯⋯でね!」
私は、その剣に自分の体重をしっかりと乗せて、剣を振る。
「なっ!? お前武器を持ってたのか?」
ガルダーは、慌ててニウスの槍を吹き飛ばし、私に向き直る。それでも、ガルダーは私の攻撃に対応できずに、私の剣に切られることになる。
ガルダーの肩口から、鮮血が舞う。
私は、すぐに光の魔力で作られた剣を手放し、その場を離脱する。私の手元から離れた剣は、空気に混ざるように消えた。
「やるじゃねえか。まさか俺様に傷を与えるとはな。不思議な魔術の使い方をするなあ!」
「そうでしょ?」
実は私がお兄ちゃんにこれを見せてもらったとき、何がいいのかわからなかった。お兄ちゃんにこれのどこがいいのか聞いてみると、「ロマン!!」って言われたのを思い出だす。
でも今はそれが役にたっている。私もできるようにしておいて良かったと思っている。
これで分かったことを整理する。
一つ目は、ガルダーの武器は、魔術による遠距離攻撃はすべてあの剣に吸収される。
二つ目は、魔力の供給源から離れていないと吸収ができない。
三つ目は、近距離の物理攻撃は防げない。
四つ目、ダメージはしっかりと入る。
以上の四つだ。エリスにも、魔術の武器化のやり方を伝えないと。
『エリス? 聞こえる?』
『ええ、聞こえるわよ。どうしたの』
『今から教える魔術の武器化を使えるようにして。それならやつにダメージを与えられるよ』
『分かったわ』
私は、エリスにそのやり方を伝える。いつでも使えそうとのことだった。
エリスは、弓を使えるけど、もうすでに矢を切らしてしまっているようだ。
「『炎の槍』!!」
早速エリスは、魔術を武器として、ガルダーへと攻撃を開始した。
「チッ。厄介な」
ガルダーも見るからに嫌そうな顔をする。それでも、私達の攻撃をすべて剣で防いでいる。私達は、気がつけば、三人ともガルダーによって吹き飛ばされて、同じ場所に集まっていた。
「これで終いだ。『解放』」
「衝撃に備えて! 『魔力障壁』!!」
瞬間。ガルダーの大剣から、とてつもない魔力の塊による斬撃が、飛んでくる。間一髪で、エリスが張ったシールドによって、なんとか防げている。
「まずいわ。持ちそうにないわ。悪いわねニウス」
「大丈夫だ。耐えきって見せるぞ」
「『後発回復』! これで死なない限りなんとかなるよ」
「大ダメージ前提かよ」
「そりゃあそうよね」
そしてシールドが崩壊する。
ドゴオオン!! 瞬間、けたたましい音を立てて辺り一帯を激しい閃光が飲み込んだ。
■■■■
上から、とてつもない轟音が響いた。
「さすがはガルダー様。なんという素晴らしいお力⋯⋯」
イスタスが恍惚とした表情を浮かべている。
上にいるみんなが心配だ。でも同時に、信じている。三人ならきっとなんとかできると。
僕は、こちらに集中しなければいけない。
「行くぞ! 『付与』術式破棄!!」
僕は、感覚を信じて宣言する。
「『隕石衝突』!!」
僕が言葉を発すると同時に、イスタスに向かって隕石が降り注ぐ。 イスタスは、それらの隕石をすべて剣で切り刻む。
僕は、その隙にイスタスに急接近し、剣を振るう。
全く予想していなかったのか、イスタスは驚愕の表情を浮かべこちらに対応してくる。それでも隕石は次々に落下してくるので、イスタスにダメージが蓄積されていく。
イスタスは、このままではまずいと判断したのか、その場から素早く退避し、隕石の雨から逃れる。
僕は、それについていき、追撃を行う。イスタスの剣と僕の剣が押し合い、鍔迫り合いになる。
「お主、術式はどうしたのかの?」
「破棄した」
「⋯⋯それは本当かの?」
「嘘をついて何になるんだ?」
僕は、力を込めて、押し切る。
「『超爆発』!!」
イスタスが飛ばされていった方へ、『超爆発』を発動させる。
「ガハアァ!」
イスタスの悲鳴が聞こえる。まだまだだ。
「『瞬間付与』魔力吸収」
僕は、一度外気中から魔力を体内に取り込む。さっき気づいたことが、『付与』を重ね掛けするのはできないけれど、『付与』と『瞬間付与』なら重ねがけが可能だ。
つまり、術式破棄を使いながら、魔力を外部から取り込むことができるのだ。
「これで終わりだ。『極光の剣撃』!!」
僕の剣に光が収縮し、それを一気に解き放つ。その光の刃は、車線上の一切合切を切り裂き、イスタスに迫る。
「⋯⋯お見事」
それがイスタスの最後の言葉となった。
かくして、新たな発見とともにガルダー親衛隊の隊長を撃退することに成功した。まだ、ガルダーがいる。すぐにみんなのところにいかないと。
僕は『飛行』で上へと向かった。
次回の更新は3日後です。




