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モブだった僕が転生し世界を救う  作者: 異世界好き
二章
29/30

29話 身体強化を上回る一撃

「ハッ!」


 虎鉄が、裂帛の気合とともに、こちらに突撃してきた。さっきよりも早くなっている。だけど、それを予想できない僕じゃない。


「『空間移動(スペーズムーブ)』」


 僕は空間を移動し攻撃を回避する。


 虎鉄はそれを読んでいたのかこちらに方向を転換した。僕は素早く腰の鞘から剣を引き抜き、その拳を防ぐ。


 お互い一歩も引かず、拳と剣の間で火花が散る。


 さすがの硬さと言うかなんというか。拳と剣がぶつかること自体がおかしいのだが、現に今、僕の目の前でそれが起こっているから納得するしかない。


「『雷の衝撃(サンダーブレイク)』!!」


 長い術式構築の末、エリスが超級魔術を虎鉄に向けて放つ。


 流石にダメージが入ると思ったのか虎鉄は鍔迫り合い(?)を止め、その場から離れる。


 ふとニウスの様子を見るが、怪我は治ったようだが、意識が無いため、戦闘には不参加だ。


「『光の刃(シャイニングブレード)』!!」


 ニウスの治療を終えたアイリスも、虎鉄に超級魔術を放つ。


 しかし、その攻撃も、不発に終わった。魔術を躱しながら、僕へと肉薄し、拳を何度も振ってくる。その全てを、僕は剣で受け止める。

 コイツの攻撃もかなり早いが、父さんの剣技と比べれば雲泥の差だ。僕に防げないわけがない。


 僕だって、防御に徹する訳では無い。虎鉄の攻撃の合間をぬって、剣で攻撃するが、それも虎鉄の拳によって防がれてしまう。


 その攻防ははたから見れば、何をしているのか分からないほどの速度だ。エリスとアイリスは援護するだけでも精一杯だろう。


 しかも、上級魔術以上の攻撃しか通らないため、術式構築に時間がかかり、魔力も無視できないほど消費することになる。


「面白いなあ! 本気の俺相手に無傷とはな。やるじゃねえか」

「お前に褒められても嬉しくないよ」


 僕らは一度距離を取り、軽く休憩しながら会話をする。


 やっぱり、他のことをしながら術式を構築するのは普段より時間がかなり掛かるな。まだ、術式の半分ぐらいしかできてないや。

 もう一つの術式はすでに完成している。あとは、コイツの隙を作るだけだ。


 どうやら虎鉄は気づいてはいないみたいだ。良かった。


「まだまだいくぞ!」


 再び虎鉄が突貫してくる。僕は落ち着いてそれに対処する。激しく火花があたりに散る。


 もう少し、もう少しだ。


 よし、できた。


 僕は虎鉄の拳を大きく弾き、強制的に距離を取らせる。


 即座に、虎鉄が接近して来る。僕はその攻撃を防がずに受ける。拳に当たる直前、僕は自身に『防御力強化』を瞬間的に付与する。

 バキィィ! と悲痛な音を上げる。その一撃の後、虎鉄は一度僕から距離を取った。


 それと同時に、僕は力尽きたように倒れる。


「なんだ? もう終わりかよつまらね──」


 虎鉄が近づいて来てある場所を踏んだ時、虎鉄は魔力でできた鎖に繋がれた。


「なんだ!? 鎖!?」

「油断したな」


 僕は、何事もなかったように立ち上がる。うん、しっかり捕縛できてるな。


 虎鉄は驚きの表情でこちらを見つめる。


「ネタばらししてやるよ。僕は、お前と戦いながら。四つの術式を脳内で構築した。一つ目は、『魔力隠蔽』二つ目は、『(トラップ)』三つ目は『捕縛(バインド)』だ」


 それぞれの魔術の効果を教えると、『魔力隠蔽』は術式の構築時の魔力の隠蔽。『(トラップ)』は術式を置き、その場所を誰かが踏むと発動するようにする魔術。そして、『捕縛(バインド)』は鎖で相手を捕縛する魔術だ。


「まさか、四つも術式を構築できるとはな。油断したぜ。だが、これでも俺は殺せない。時間があればこんな鎖、簡単に破壊できる」

「まあ、そうだろうな。不思議に思わないのか? もし、僕がこれでお前を殺そうとしてるならなぜ『捕縛(バインド)』を使う理由があるのか?」

「それは、確実に俺に魔術を当てるためだろ? お前らが扱えるのはせいぜい超級魔術だろ? その程度じゃあ俺に大きなダメージは入らないぞ?」

「確かに超級魔術ならな。でもそれが王級魔術なら?」

「⋯⋯まさか」


 僕がそう言うと同時に床に描かれた術式が光り輝いた。


「なっ!? お前いつその術式を組み立てた!?」

「言っただろ? 四つの術式を組んだって」

「お前は⋯⋯! お前は一体何なんだ!?」

「僕はユート・フォワード。勇者の子孫だ」


 さてと、魔術を発動させますか。流石にこの魔術は耐えられまい。


「『超爆発(エクスプロージョン)!!』」


 次の瞬間、術式が今までに無いくらいに輝き、凄まじい魔力の奔流が吹き荒れる。全てを破壊するような爆発が、虎鉄を中心に起こる。

 数十メートル離れているここですら、凄まじい熱風がこちらに届いている。


 数秒後、激しい熱風と光が急激に収束する。床は溶けて液体になっており、屋敷の屋根も吹き飛んだのか光り輝く太陽まで見える。

 しかし、すぐに空が見えなくなる。屋敷が再生を始めたのだ。


 『超爆発(エクスプロージョン)』、それは火属性の王級魔術で、術者の望んだ範囲に熱線を伴う大爆発を起こす魔術だ。

 中心が最も熱く、軽く数千度を超える。中心から離れれば離れるほど温度は下がっていく。それでも数百度は超える。

 術式の構築は、他の王級魔術と比べ物にならないほど難しい。なぜなら、術式はさっきもした通り、地面に構築しないといけないのだ。戦闘中に戦いながら構築する必要があり、隠蔽魔術を使わないと、すぐにバレてしまう。

 そのため、実戦中に構築することはほぼ無く、事前にトラップのように設置するのが一般的だ。

 その分威力は他の王級魔術とは段違いだ。その上、術式の大きさ次第で範囲を変えられるのだ。


「さすがユートね。まさか『超爆発(エクスプロージョン)』を使うとはね」

「すごいよお兄ちゃん! 流石だね」

「あれぐらいしか、アイツを仕留められないと思ってね⋯⋯。でも、もう魔力が空っぽだ」

「残念だけど、もうあの薬は無いわよ」


 一瞬期待したけど、流石に魔力回復薬はもう無いらしい。そりゃああんな効果の高いやつがポンポン出てくるわけ無いか。ちなみにニウスはまだ気絶している。アイリスに聞いたけど、怪我は完璧に治っているから心配はないらしい。


「とりあえず魔力無しはきついから⋯⋯『付与(エンチャント)』魔力吸収」


 今僕が自分に付与したのは魔力吸収だ。

 その名の通り、外気中から魔力を吸収するものだ。もちろん外部から吸収しているため、全快するにはかなり時間がかかる。

 それでも、回復できるだけありがたい。


「ごめん、回復まで時間がかかるからここで休憩しよう」

「「了解」」


 僕はその返事を聞くと、『付与(エンチャント)』による結界を展開する。これで並の魔物は近づくことができないだろう。

 まあ、強すぎると破壊される可能性が高いが、それができるのは、ガルダーとまだ見ぬガルダー親衛隊の隊長ぐらいだろう。⋯⋯やべ、フラグかもしれない。頼むから回収しないでくれよ⋯⋯。


 僕は切に願ったのだった。



■■■■



 数時間後、魔力が無事に全快した。運のいいことに、全く魔物が現れなかった。フラグ回収しなくて良かったな⋯⋯。


「はー、数時間は寝ちまってたか⋯⋯。それで虎鉄は倒せたのか?」

「ん? ああ、なんとか撃退できたよ」


 そうそう、ニウスもしっかりと回復したようだ。良かった良かった。


 というわけで、僕らは再び屋敷の探索を開始する。なぜか、さっきと違い魔物が全く出てこない。⋯⋯まるで嵐の前の静けさのように。


 おっとと、そんな縁起の悪いことは考えんのやめよ。

 ⋯⋯さてと、ガルダー親衛隊だかの副隊長は撃退できたけど、隊長の方は撃退できていない。ガルダーの次の壁はほぼ間違い無く隊長だろう。

 虎鉄の強さを基準とすると、体の耐久性は知らんが、実力は同程度か、それ以上だろう。だけど、こちらに退く理由はない。隊長もろともガルダーを撃退して、みんなを助けに行くのだ。


「なあ、なんか不気味じゃないか? 魔物が一匹も出てきやしない。何がどうなってんだ?」

「同感よ。まるで何かの前兆のような⋯⋯」

「ちょっと、エリス。滅多なこと言わないでよ。なんか怖くなるじゃん」

「それもそうね」


 なんだか後ろが騒がしい。というか他のみんなも僕と同じ感想を抱いているのか⋯⋯。やっぱり不気味だよな。


「とりあえず気──」


 気を付けてね、と言おうとしたが、すぐに僕は自分の直感を信じて後ろに飛び退く。


「「「ガルルゥゥ」」」


 たっく、ここでフラグ回収かよ⋯⋯。


 僕が直前まで居た場所には、低い唸り声を上げる剣を咥えた犬(?)が剣を地面に打ち付けていた。判断が遅れていたら、上から真っ二つに斬られていたかもしれない。ゾッとするな。


 周りを見渡すと、剣を咥えた犬もどき三匹以外にも多くの魔物がこちらへ向かって来ていた。後ろに目をやるも、すでに魔物に封鎖されていた。


「⋯⋯いやあしくったな。どうやら僕達、包囲されたらしい⋯⋯」

「それがどうしたの? この程度で怯える私達じゃないわ。それに私達にはここで何もせずに殺されるか、戦って活路を見出すの二つしか無いわよ?」

「そうだぞ、コイツらを倒して、ガルダーだかをぶっ飛ばすぞ!」

「回復魔術の準備はオッケーだよ」


 どうやらみんなやる気満々らしい。僕も負けてられないな。


 僕は腰から剣を引き抜き正眼に構える。


 それと同時に、剣を咥えた犬もどきが咥えた剣で斬り掛かってきた。僕はその攻撃を落ち着いて見極め、剣で防ぐ。

 一瞬拮抗したが、犬もどきは僕の押す力に負けてすぐに弾き飛んだ。


 今のやり取りで僕を脅威とみなしたのか、斬り掛かってきたやつと、残りの二匹がこちらに威嚇しながら、さっきよりも低い姿勢でこちらを睨んでいる。


 次の瞬間、足のバネを利用して、勢いよく三体同時にこちらに斬り掛かってくる。僕は軽く身を翻し、攻撃を回避する。その躱しざまに剣を振り、ヤツの体に裂傷を与える。


「ギャアァァ!?」


 斬られた犬もどきは、あまりの痛みに耐えきれなかったのか、悲鳴に似た声を上げる。そんな中でも、残りの二体がこちらに斬り掛かってくるが、全てを剣で捌く。他の魔物は足が遅く、まだかなりの距離がある。

 さてと、アイツらが合流する前にコイツらを撃退しないと。


「一気に勝負を決めさせてもらうぞ。『瞬間(インスタント)付与(エンチャント)』加速!!」


 その宣言と同時に、僕は超加速により、あたりの光景がとてつもなく遅く感じる。僕は、その加速に身を任せ、止まっているも同然の犬もどきを剣で斬る。

 しかし、一行に切断されない。⋯⋯いや、早すぎて斬れていないように見えるのだ。続けざまに、残りの二体も斬る。

 それと同時に僕の加速の効果が切れる。そして、犬もどきの体は、血しぶきをあげて切断される。


 よし、討伐完了。


 周りを見てみると、三人とも生き生きと戦っている。ガルダー戦のため、ほとんど魔術は使われていない。エリスは器用に弓を使っている。

 実は、エリスが弓もできるといっていた時、かなり驚いたのを今でも覚えている。何でも貴族の嗜みなんだそうだ。初耳だな。


 エリスが矢を放つと、見事に魔物の眉間に矢が深々と尽きさり、その生命を終わらせた。


 二ウスは、盾で魔物の猛攻を防ぎながら、隙を見つけ、槍を突き刺している。本気モードのようだ。


 アイリスはどこから取り出したのか剣を振り、近寄ってきた魔物を次々と切り裂いていっていた。僕が剣を習っていたのと同じように、アイリスも剣の練習をしていた。だから、アイリスも問題なく剣を使えるのだ。


 さてと、コイツらを片付けるか。僕は、前から迫りくる魔物に視線を向けた。



■■■■



「よし、これで最後」


 剣が、ゴブリンの体を切り裂いた。


 気がつくと、こちらに向かってきていた魔物たちが影も形もなくなっていた。残っているのは僕らが倒した魔物の残骸だけだ。

 僕の方にきた魔物の殆どは、首を一撃で両断していたので、ほとんどが綺麗だ。きっとギルドで高く買い取ってくれるだろう。


 僕は、ストレージリングに地面に横たわる魔物達の死体を入れた。


「いやーそれにしても疲れたなあ」


 ニウスが、座りながら言う。


「そうね。こんなに疲れたのは久しぶりね」

「よし、剣の腕は鈍ってない!」


 それぞれが感想を述べるが、なんかアイリスは、地味に物騒な事を言っている。⋯⋯お兄ちゃん、ちょっと心配だよ。


「少し休憩する?」

「いや。大丈夫だ」

「私も大丈夫よ」

「私もオッケーだよ」


 どうやら愚問だったようだ。


「じゃあ行くか」


 僕らは前に進んでいく。索敵魔術を使った所、あっちの方からとてつもなく強い気配が二つほど感じられた。

 それ以外の魔物はもういないようだ。というか今更だが、全く他の冒険者にあっていない。この屋敷に入る直前は何度か見かけたけど、屋敷に入った後は一度も見かけていない。簡単に調査して、早々とギルドに戻ったのだろうか。


 おっとと、そんなことを考えていたら、他の扉とは似ても似つかない、とても大きな扉が見えてきた。


 僕らは、扉の前まで来ると、一度止まった。


 改めて観察すると、他の扉とは違い、派手な装飾がなされていた。まるで熟練の彫り師が彫ったような美しい彫刻だ。

 この彫刻に見とれていたいが、それをさせないとばかりにこの奥から、とてつもない気配がビンビンただよって来ている。


「みんな準備はいい?」

「ああ」

「ええ」

「オッケー」


 みんなから頼もしい返事が返ってくる。


 僕は、その声を聞き、目の前にある大きな扉を開いた。


「来たか⋯⋯。歓迎するぞ、ユート・フォワード」


 扉を開けた僕らを待ち構えていたのは、玉座に堂々たる態度で座るガルダーと思わしき男と、その横で控えている刀を腰に差した侍のような男だった。



次回の更新は3日後です。

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