28話 ガルダー親衛隊
そんな訳で、ガルダーに宣戦布告をしてやった。もし仮に、この屋敷が封鎖されていなくても、僕はガルダーを倒しに行っていただろう。
僕の家族を連れ去った張本人なのだから、許せるわけがない。
さっき、ストレージリングに入っていたアイリスの服を渡し、着替えてもらった。さっきまでの服装は、薄い布一枚だったから、流石に可哀想だった。
⋯⋯一応言っておくが僕に、妹の服を盗む趣味なんて無い。これは、アイリスに渡されていたのだ。
このストレージリングを完成させた後、一度アイリスに見せに行ったら、アイリスに、「これ入れて」って言われて入れていたのだ。
その時は二人とも盛り上がっていて、すっかり出すのを忘れてしまっていた。そして、襲撃があったから、返せずじまいだった。
だから、もう一度言うが、僕の趣味では決して無い。
まあ、それはいいとして。
今の僕はさっきの『極光の剣撃』の使用で、魔力がほぼ枯渇しているのだ。
「ごめん、魔力が無いから、休憩してもいい?」
「⋯⋯なんか戦いを強要してるようで悲しいけど、これ使う?」
エリスが、収納魔道具から青色の液体が入ったポーションを取り出した。
「それって⋯⋯?」
「見ての通り魔力回復薬よ。この前のジャイアントスライム狩りのときに渡したものよりもきっと効果が高いものよ。たぶん、前のものの二倍の効果があるはずよ」
マジですか⋯⋯。この前のヤツの二倍って、僕の魔力が全回復するレベルじゃないか⋯⋯。これまたとんでもないものを⋯⋯。
「もらっていいの?」
「ええ、ユートが欲しいなら⋯⋯」
「ありがとう。もらうよ」
僕はエリスからポーションをもらう。それを、一気に煽る。
味はとんでもなくまずい。だけど、魔力は全快したみたいだ。この上で味を求めるなんて愚の骨頂だろう。
「ありがとう。魔力が全快したよ」
「フー、良かったわ。安全性は大丈夫だけど、効果があるかどうか心配だったのよね⋯⋯」
ん? どういうこと? 効果があるかどうか心配って⋯⋯もしかして。
「あのさあ、エリス。もしかしてだけど──」
「えーと、その、私が調合したの、それ⋯⋯」
へえ、エリスが⋯⋯。って、そんな簡単に納得できるかい! ⋯⋯待てよ薬の説明のときに「きっと」だとか「たぶん」って言ってたな。聞き逃してた⋯⋯。
安全性は大丈夫って言ってたけど、どうやって調べたんだ? うん、考えるのやめよ。
「本当に大丈夫なんだよね?」
「大丈夫よ! それは保証するわ」
それなら信頼できるけど⋯⋯。
「エリス、お前すげえな。調合なんてできたのか?」
「ううん、最近練習したの。他にも、治癒のポーションとか、速度を上げるポーションとか色々あるわよ」
そう言ってエリスが収納魔道具からカラフルな液体が入った瓶を何本も取り出した。そんなに色々作ってるのかい⋯⋯。
まあ、本人は楽しそうだし、問題ないか。もし、僕らに飲ませるとしても、安全性は保証されてからにしてほしいな⋯⋯。
「エリスってすごいんだね」
そんなことを考えていると、アイリスが話しかけてきた。同じ女子同士だからか、すっかり仲良くなっている。アイリスはフォワードの町ではほとんど僕についてきていたから、もちろんニウスとも仲が良い。
だから、アイリスがみんなと馴染めないという心配は杞憂に終わったようだ。
「そうだね。だけど、もう少し効果とか安全性が保証されていたらもっといいんだけどね⋯⋯」
「それは私も同感だよ」
「ちょっとそこ、うるさいわよ」
おっと、そんな話をしていると、ニウスと話していたエリスが、こっちに指さして、文句を言ってくる。どうやら聞こえていたようだ。
「さてと、準備も整ったしガルダーがどこにいるか捜索するか」
「腕がなるな」
「そうね」
「頑張ろう!!」
それぞれの気合がこもった言葉が返された。僕も負けていられないな。
扉の外(正確には、壁の向こう側)に到着する、早速魔物の熱烈な歓迎が待っていた。
どうやら、オークのようだ。そのオークが五体ほどいる。
オークはCランクの魔物だ。そこまで強くない。だけど、今はこの屋敷のバフの中にある。予想以上に強い可能性もあるから、まずは様子見を⋯⋯。
「『炎の玉』!!」
そんなことを考えていると、エリスが魔術をぶっ放した。オークはその炎に飲まれて、灰と化す。
⋯⋯様子見しようと思ったんだけどなあ。
「オラオラ!」
と思ったら、今度はニウスが突っ込んでいった。残り四体のヘイトを集めてくれている。
もういいや。
「『氷の矢』!」
僕も、オークめがけて、氷の矢を放つ。その矢は、狙い違わずオークにヒットし、オークを氷像に変える。
「『光の槍』!」
アイリスによって放たれた光り輝く槍がオークを貫通する。アイリスは回復魔術が得意なため、光属性の魔術も得意なのだ。
残り二体っと。
「オラ!」
ニウスが隙を見て槍を突き出し、オークの腹部を貫通させる。
おお、お見事。
「よそ見してていいのかな?」
僕は『空間移動』を使い、味方がほぼやられていることに驚いたのか固まっている、最後の一体の背後に移動し、その首を一刀のもとに斬り伏せる。
よし、これで全て撃退だ。
「想像以上に弱かったな」
「そうね。屋敷の効果でもう少し強いかと思ってたけど、そんなことなかったわね」
二人が、そんなことを呟く。
確かに予想していたよりもずっと弱かった。まあ、普通よりも強かったと思うけどね。⋯⋯皮肉にしか聞こえないか。まあ、いいや。
「じゃあ先に進もうか」
気の所為かもしれないけど、初めて通ったときと雰囲気が違う気がする。飾られている絵や、蜘蛛の巣はそのままだけど、なにか違う気がする⋯⋯。
「どうした?」
そんな僕のことが心配になったのか、ニウスがこちらを覗き込んでくる。
「ん? いや、なんかさっきと雰囲気が違う気がしてさあ」
「言われてみれば確かに⋯⋯」
何なんだこの違和感は⋯⋯。
そんなどうしようもない違和感の原因が分からないまま、僕らはどんどん進んでいく。
「よう。もうここまでくるとはな。驚いたぜ」
突如として、前方から声が聞こえる。一瞬ガルダーかと思ったが、アイリスを解放したときに聞こえた声と、かなり違ったため、その考えを捨てる。
「何者だ?」
僕は、剣の柄に手を添えながら誰何する。三人も戦闘態勢に入る。
「おいおい、物騒だなあ」
奥の暗がりから、虎のような耳を持つ男が現れた。柔道服のようなものを着込んでいる。その柔道服は使い古されたのか、所々が破れていた。相手にやられたというよりも、修行で破れた、そんな印象を受ける。
目は鋭く、今にも射殺されそうなほどの剣幕を放っている。その眼光と、服の破れ具合が相まって歴戦の強者感が出ている。
さっきのオークとは比べ物になら無いくらいの強敵だろう。
コイツが近づいてきて分かった。さっきから感じていた違和感はコイツの強大な魔力が漏れ出ていたからだろう。
「俺様の名は虎鉄。魔王軍四天王であるガルダー様の親衛隊の副隊長をしている」
「僕はユート・フォワード。勇者ユウキの子孫で、お前を、そしてガルダーを倒す男だ」
「私はアイリス・フォワード。同じく勇者の子孫だよ」
「俺はニウス・プロテクト。お前らをぶっ潰す男だ」
「私はエリス・フレイヤ。覚悟は良いかしら?」
それぞれ自己紹介する。というか虎鉄って⋯⋯。すごい日本人っぽい名前だな⋯⋯。大ニチホン帝国出身かね?
まあ、とりあえず置いといて。
「そうか、なら尋常に」
「「勝負!!」」
僕と虎鉄の声がハモる。他の三人は分かっていないのか無言だ。
その声と同時に、虎鉄が勢いよく地面を蹴り、こちらに肉薄してきた。踏み込まれた床は大きな亀裂を作って陥没する。
虎鉄の拳が勢いよく振り抜かれる。対する僕は剣を抜いていない。一瞬、虎鉄は怪訝な顔をしたが、関係ないとばかりに、拳を振り抜く。
が、その攻撃が僕を捉えることはなかった。顔を横に倒し、虎鉄の拳に合わせて、自分の腕を絡める。そして、虎鉄の勢いも利用して、一気に後ろへ投げる。
ドゴオォォ!! と大きな音を立てて、虎鉄は背中から、床に勢いよく叩きつけられる。背負投だ。
「ガハッッ!?」
地面に叩きつけられた虎鉄は肺の空気が全て外に出たのか苦しそうな声を漏らす。しかし、すぐに起き上がり、ユートから距離を取る。
「柔術とは⋯⋯やるな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「さてと、俺様もギアを一つ上げるか」
虎鉄はそう言うと、息を大きく吸い込み、吐き出す。
「フー。『身体強化Ⅰ』!!」
「『炎の槍』!!」
虎鉄が宣言するのと、エリスが魔術を唱えるのは同時だった。
エリスが放った炎の槍が、虎鉄を包み込む。
「その程度か!」
が、次の瞬間。炎が吹き飛び、無傷の虎鉄が立っていた。
「嘘!? あれで無傷!?」
発動させたエリスがかなり驚いている。『身体強化』か、厄介だな。
『身体強化』とは、その名の通り、身体能力を強化するものだ。使用するのは魔術と同じく魔力だが、『身体強化』は術式を持ちいらず、体に魔力を纏うものだ。
纏う魔力の量と純度によって、身体能力と防御力が上昇する。さっきのエリスの魔術を無効化してるあたり、並の魔術じゃ傷一つつけられないだろう。
「どんどんこいや!」
「お望みどおりな」
こちらに挑発してくる虎鉄にニウスが背後から忍び寄り、虎鉄を急襲する。
「遅いな。あくびが出るくらいだ」
「何!?」
そう言った虎鉄は、真剣白刃取りならぬ、槍の素手取りをしていた。そのまま、ニウスが蹴りを入れられる。バキイィ! と何かが折れる音がした。
ドゴオォォ!! と音を立てて、とてつもない速さでニウスが壁に激突する。
「ゲホッ、ゴホッ」
そっちの方を見ていみるが命に別状はないようだ。とはいえ、今のダメージはとてつもないだろう。
「待ってて、今治すから。『回復』!!」
そんなニウスにアイリスは近づき、回復魔術を施す。すると、みるみるうちに治っていく。いや、外傷はないからみるみるうちに、っていう表現は違う気がする。
アイリスの特殊スキルは『癒やしの力』だ。効果はシンプルで、回復魔術の効果を爆発的に跳ね上げるというものだ。その回復力は魔法にも匹敵する。
よし、あっちは大丈夫そうだ。視線を戻すが、さっきまで虎鉄が居た場所には誰も居なかった。
「アイツ、どこへ行った?」
「よそ見してる暇があるのか?」
背後から、低い声が聞こえた。僕は反射的にしゃがみ込み、距離を取る。
「あれを躱すか。やるな」
危なかった⋯⋯。しゃがんでいなかったら意識どころか命まで奪われていた可能性がある。よそ見なんかしてたら命を持っていかれる。
「ユート! 大丈夫!?」
「ああ。平気だ」
虎鉄はまだゆうゆうとその場に立っていた。まるで、僕らじゃ相手にならないとでも言うように。
どうしたらいい? 並の魔術じゃダメージを与える事はできない。とはいえ、特級魔術や王級魔術を発動させるには時間がかかる。その隙に攻撃をされれば一巻の終わりだ。
「『雷の槍』!!」
僕は魔術をアイツに向かって放つ。
「だからその程度じゃあ、俺にはダメージを与えられねえって言って──」
「確かに、魔術はな!」
虎鉄はその言葉を最後まで言い切れなかった。魔術がアイツにぶつかり消失すると同時に僕が剣で斬りつけたから。
それでも、虎鉄の超人的な反射神経で躱され、頬を掠める程度のものだった。
「まさか、最初の魔術攻撃はダミーだったとはな。やるじゃねえか」
「変則的な攻撃は、案外刺さるからね」
「コイツは俺も本気を出さなくちゃな。『身体強化Ⅲ』!」
「はっ?」
その言葉が宣言されると同時に、タダでさえ強かったアイツの魔力と威圧感が、今までの数倍に膨れ上がった。
まさか、まだ上があったとはな。考えてみれば、アイツは最初にⅠと言っていたな。当然と言っちゃあ当然か。
これで、ヤツにダメージを与えられる魔術は限られてくるだろう。
まあ、こっちも収穫が無いわけじゃない。
「こっちも、奥の手を使わせてもらうよ。『付与』獣人特攻!!」
僕に、獣人に対する特攻が付与された。これでさっきよりはダメージを与えられるはずだ。
さあ、第二ラウンドの始まりだ!!
次回の更新は3日後です。




