三話 剣術練習
あれから、更に10年のときが経過した。僕は十七歳、アイリスは十五歳になった。最近では、父さんにみっちりと剣の稽古を受けている。剣を僕に教えるときの父さんはいつもより生き生きしている。そのせいか、時々手加減を忘れて本気で僕に斬りかかって来るときがある。まぁ、父さんが本気じゃなくても僕はいつもボコボコにされて、大の字で寝そべることになるのだが。
そんなわけで、今日も父さんと剣の稽古をしている。
「さぁ、どこからでもかかってこい」
父さんが木剣を肩に乗っけて、きっちりと構えた僕に言ってくる。
「それじゃあ遠慮なく」
僕はそう言いながら、木剣を振り、父さんに斬りかかる。次の瞬間父さんが消えた。いや消えたように見えたのだ。
「どうしたどうした。そんな攻撃じゃ、いつまで経っても父さんには当たらないぞ」
さっきまで前にいたはずの父さんの声が僕の背後から聞こえてくる。どうやらあの一瞬で僕の背後にまわったらしい。
だけど、僕もそれはわかっていた。だから、後ろに向かって剣を振る。しかし、手にはかすった感覚すら無い。後ろを振り返ると、さっきまでいたであろう、場所から数十メートル離れた場所で佇んでいた。
「いいぞ、背後をとられたからって諦めずに剣を振る姿勢、実戦では役に立つぞ」
そう、父さんが僕のことを褒めてくれる。だけど、僕はあまりうれしくない。決して、うざいとか思っているわけではない。ただ、さっきの一振りは僕の全身全霊の一撃だった。しかし、父さんにそれを軽々しく躱されてしまったからだ。
さて、どうしたものかと考えていると、またしても、父さんが消えた。しかし僕は今まで父さんに指導されていたからなのかは、わからないが直感的に剣を横に構えて、防御の姿勢をとる。次の瞬間に僕の腕に強烈な衝撃を受ける。初めて父さんの攻撃を受け止めることに成功したのだった。そして、喜びに浸っていると、腹部に、強い衝撃がはしり、視界が暗転した。
気を失う直前に、「一回防げてもすぐに追撃が来るから、油断するな」という父さんの声が聞こえた。
◆
目を覚ますと、そこは僕の部屋のベットの上だった。僕はなんでこんなところにいるんだ? …あっ、思い出した。剣術の訓練をしていたら、父さんの攻撃をなんとか受け止められて喜んでたら、腹部に衝撃がはしって…。慌てて体を起こし、右側にある窓をみる。さっきまでは青空が広がっていたはずの空は、うっすらと夜の帷が降り始めていた。
ふと耳を澄ますと、左側から穏やかな寝息が聞こえた。左側をみると、アイリスが、眠っていた。どうやら、僕のことを看病してくれていたらしい。アイリスは回復魔術が得意だ。きっとそれで治してくれたっぽい、僕は起こさないようにアイリスの頭を撫でた。するとアイリスの顔に笑顔が浮かんだ。ありがたいなと思いながら、ベットから出る。
「ん…。あっ、お兄ちゃん。目、覚めたんだねよかった」
どうやら起こしてしまったらしい。
「ありがとう。おかげさまで、お腹の痛みが全くないや」
僕は安心させるように、言葉を紡ぐ。きっと、少しは安心してくれただろう。
「目が覚めたなら、早く下のダイニングに向かおうよ。お母さんが夕ご飯作って待ってくれてるから」
どうやら、母さんが夕飯を作って待ってくれているらしい。それは早くダイニングに向かわないとな。僕達はダイニングへと向かったのだった。
◆
「ユート、目が覚めたみたいだな。お前が気絶する前に言ったが念の為もう一度言うぞ。一度攻撃を受け止めれたからって油断するな。すぐに追撃が来るぞ」
「わかったよ。次は気をつける」
「気をつけるんだぞ」
父さんに釘を刺された。僕ってそんなに信用無いのかな? その後は、みんなで話しながら、美味しくご飯を食べたのであった。
食後、どうしたら父さんに勝てるかな? とソファに座りながら考えていると、隣にアイリスが座ってきた。
「そうだねぇ。お兄ちゃんには無駄な動きが多いんだよ」
アイリスがアドバイスをくれる。
「なんでわかったんだ?」
「何となくかな」
アイリスが笑いながら言う。心を読まないでほしい。でも、僕の動きには無駄が多い、っか。無駄をなくせるように意識してみるか。ちょうど明日は父さんの訓練はOFFだ。自主練でもするか。
その後、しばらくアイリスと雑談したあと、寝る用意をしていつもより早く就寝したのだった。
次の日、まだ日が昇っていない時間から、僕は家の庭に出て、素振りをしていた。軽い準備運動みたいなものだ。
「九九九、これで、千!」
僕はちょうど千回の素振りを終えた。ふう、いい汗かいた。
家に入り水を飲んでから、再び庭に出て、父さんが練習用にと用意してくれた藁人形にむかって正眼に木剣を構えた。深呼吸をして呼吸を整えて藁人形に斬りかかる。だけど、今回は速さよりも正確さ、そして自分の無駄を減らすことを意識する。そんな感じで何回も藁人形相手に練習してると、気がつけばすっかり日が昇っていた。
そして、今更ながら、あることに気づいた。自分が無駄な動きをしていることに、自分が気づいていなかったから、どこで無駄な動きをしているか、に気づけるわけが無いのだ。
どうしたらいいかなぁ……。おっといけない。この時間はいつも朝ごはんの時間だ。早く席につかないと母さんに怒られる。それは嫌だな。そう思い、僕は足早に家の中に戻っていった。
食事中に、そのことを話したら、アイリスが「私が」と名乗りを上げてくれた。僕の剣の練習に付き合ってくれるらしい。これで、なんとかなるだろう。いやー。今日のご飯も美味しいな。母さんは料理がすごく上手だ。そのためいつも美味しいご飯を食べさせてもらっている。アイリスは最近母さんに料理を教わっているらしい。アイリスが今度料理を作ってくれるそうだ。楽しみだな。
食後、僕はアイリスを伴って練習の続きを始める。だけど、さっきとは違いアイリスがいてくれる。僕は呼吸を整え、藁人形に斬りかかる。
「ストーップ!」
アイリスの声に僕は動きを止める。なんか変なところあったかな?
「変なとこあった?」
「えっ、お兄ちゃん気づいてないの?」
アイリスが驚きの声を上げる。
「もう一回やって」
僕は言われるがままに斬りかかる。
「やっぱり…」
「どこが駄目なんだ?」
「お兄ちゃんは剣を振るときに、振りかぶりすぎなんだよ」
振りすぎ? どういうことだ? もう一度、斬りかかる。あっ、確かに振り過ぎかもしれないけど、そんなにだろうか?
「お父さんの剣技と、お兄ちゃんの剣技を比べると、予備動作の大きさが違うんだよ。お父さんは、ほとんど予備動作が無いのに対してお兄ちゃんは予備動作が大きいんだよ。きっとそれがお兄ちゃんがお父さんに攻撃が簡単に躱されたり、防ぐのが上手くいかないんだと思う」
なるほど。予備動作が大きすぎるのか。確かに、こういう戦いでは、コンマ一秒の差でも有利不利が出てくる。予備動作が小さいに越したことは無いのだ。
「ありがとう。アイリス。試してみるよ」
「うん。どういたしまして。頑張ってね」
予備動作を減らすことを意識して剣を振る。なんだか違和感がある。もう一度振ってみるが、やっぱり違和感がある。
「なんかすごい違和感があるな」
「お兄ちゃんはそれがクセになってるからね。練習してたらその違和感もなくなると思うよ」
まぁ、とりあえずやるしか無い。この予備動作を減らして次こそ勝つぞ!僕はそう意気込んで何度も剣を振り続けた。




