23話 王都への道中 (part2?)
「キュイー」
僕は聞き慣れない謎の声で目が覚めた。目を開けると何かが空を飛んでいる。
おぼろげな意識をだんだんはっきりさせる。目の前には小さなドラゴンが飛んでいた⋯⋯ドラゴン。
「って、うわ!?」
僕は驚いてベットから落っこちる。このドラゴンは一体⋯⋯?
えーと、確か昨日は聖竜様と出会って、卵を託されて⋯⋯。
あれ? じゃあこのドラゴンは、聖竜様の子!?
卵が置いてあった場所に目を向ける。そこにはいくつもの細かい破片と大きな破片が転がっていた。掃除が大変そう⋯⋯。
いやいや、孵るの早すぎないか!? もらってからまだ半日も立って無いよ!? いや待てよ、あの卵を産み落としてからどれぐらい経ったかは聞いていていない。ということは、すでに産まれていても、何ら不思議は無い⋯⋯のか?
ふと、時計をみる。時計は七時を指していた。
ふー、寝坊はしなかったみたいだな。とりあえず、聖竜様の子を観察してみる。
見た目は聖竜様と同じくダークブルーだ。小さな翼で、パタパタと飛んでいる。大きさは二十五センチメートルくらいだ。
これからどんどん大きくなっていくのだろうか。大きくなりすぎたらどうするかなあ。まあ、今考えても仕方がない⋯⋯か。とりあえず、大切に育てよう。
そんなことを考えているとコン、コン、コンと、扉が叩かれた。
「エリスよ」
「どうぞ」
どうやら来訪者はエリスのようだ。ドアが開かれた。
「ちょっとユート、朝から騒がし⋯⋯」
言葉が途中で止まる、その視線は聖竜様の子で固まっている。
「キュイ?」
聖竜様の子が首をかしげる。
くそう、かわいいなあ。
「な⋯⋯」
「な?」
「なんでこんなところにドラゴンが!?」
⋯⋯僕に騒がしいって言ってきたのは誰だよ。
「ちょっと、落ち着いて!」
「落ち着いてられないわよ! どうしてユートの部屋にミニドラゴンがいるのよ!?」
「いや、これには理由があってね」
「おいおい、お前ら騒がしいぞ⋯⋯って、うわー!?」
ニウスまでも参戦してきてしばし場はカオスになったがなんとか説明すると分かってくれた。聖竜様にあったことを伝えると、このミニドラ(しばらくはそういう)のときよりも質問攻めにされた。
なんとかすべて答え終わると、気がつけば朝食の時間になっていたのだ。
■■■■
「なるほど、昨日は聖竜様と出会っていたと⋯⋯。もう、何から突っ込んでいいかわかりません」
朝食の会場にいくと、もちろん騎士と王女様に驚かれた。当然だな。
もちろん、「お気になさらず」など言えるはずもないので、一からきっちりと説明した。なんとか理解してもらえたようで良かった。
「ハハハ」
僕は苦笑するしか無い。自分でもとんでも無いのは分かっている。でも、しょうがないじゃない? 助けた竜が聖竜様で、卵を託されたんだよ? 断るわけ無いでしょ。そもそも今回引き受けたのは完全に善意からだ。
あっ、このパン美味しい。
「わかりました。そのドラゴンを連れて行くことを許可します」
「ありがとうございます」
なんとか同行することを認めてもらえた。良かったあ。禁止されていたらどうしてたかな⋯⋯。
「ところで、そいつに名前はなんだ?」
「そいつ言うなし。⋯⋯それにしても名前ねえ」
改めてミニドラをみる。ドラちゃん何ていうありきたりなのは聖竜様の子だし無しだな。
「じゃあ、君の名前はアギオス・キュアノスだ!!」
「キュイイ」
聖竜様の子、改めてアギオス・キュアノスは嬉しそうに飛び回る。喜んでくれているそうようだ。良かった。
アギオス・キュアノスは、ギリシャ語で、聖なる深い青を意味する。聖竜様から神聖なイメージを持ったから、『聖なる』。そして、この子の色から『深い青』を表した。
うん、いい響きだ。長いからキュノと呼ばせてもらおう。
「キュノって呼んでいいかな?」
「キュイ!」
いいよ、というように頷く。⋯⋯あれ? なんで反応できてるんだ? まさかもう、言語を理解している⋯⋯?
そんな戦慄を覚えた。
■■■■
「それで王都に向けて出発します」
王女様の号令で一斉に馬車が動き出す。今日の夕方には王都につくそうだ。どんな場所なのか楽しみだ。
「キュイー!」
レッツゴー! とでも言うようにキュノが元気よく声を出す。やっぱり言語をある程度理解してるんじゃ⋯⋯。
僕は現実逃避するように窓の外を眺める。車ほど早くは無いが景色が流れていく。
おや? 初めてみる動物だ。うさぎみたいで可愛いな⋯⋯。あっ、奥にトカゲがいる。あれ? うさぎみたいな何かが、トカゲに視線を合わせる。狙っているのだろうか。コイツ可愛い見た目していて肉食なのか?
次の瞬間口が裂けてトカゲに飛びかかる。
僕は、そっちを見るのをやめた。
「どうかしたの?」
急に視線を馬車の中に戻した僕にエリスが気づき聞いてきた。
「いや。なんでもない」
そう答える。さて、そろそろあのウサギモドキが居たところは過ぎただろう。もう一度、窓から空を見る。
所々に雲があり、一部は隠れているが青空が広がっている。その空を数匹の鳥が空を飛んでいる。
「王女様、窓を開けてもいいですか?」
「いいですよ。あ、あの⋯⋯。王女様はやめてください。リュ⋯⋯リュミーとよ⋯⋯呼んでください」
王女様がもじもじ顔を赤らめながら言ってくる。なんですか、可愛いんですけど。
「さ⋯⋯流石にそれは⋯⋯。それよりいいんですか?」
「はい。そう呼んでいただけると、う⋯⋯嬉しいです」
うん、もういいや。そう、王女様が望んでいるのなら、叶えてあげよう。
「わかりました。これからはリュミーと呼びますね」
「その、敬語もやめてくれますか?」
「分かった。これでいい? リュミー?」
「それでお願いします」
さっきよりも赤い顔になった。煙が出てるように見えるのは気のせい⋯⋯だよな?
「ユート、あなたすごいわね。なんでそんなに順応できるの?」
「なんでだろうね。僕にも分からないよ」
そんな軽口を返す。こればっかりは僕にも分からない。というかなぜ、リュミーの顔がここまで赤いのかがわからん。
まあ、いいや。僕は窓を開け、例のスーパー望遠鏡で、空を飛ぶ鳥を覗いた。
⋯⋯訂正しよう、あれは鳥じゃない。⋯⋯魚だ!!
「『鑑定』」
僕は鑑定魔術を使ってみる。なるほど、フライトフィッシュか。コイツも始めてみたな。
あれ? あんなに大きかったけ? こころなしかあのフライトフィッシュがこっちを見ている気がする。
そう考えているうちにもどんどん大きくなっていく。ああ、これあれだわ。うん、こっち来てる。
僕は、そーっと窓を閉めようとした⋯⋯が閉まらなかった。横を見ると、キュノが妨害していた。もう一度閉めようとする。また、妨害された。
ああ、あれだ。『ユートは窓を閉めようとした。しかし妨害された』の心境だ。
懐かしいな。僕が前世でプレーしていたRPGゲームで、『◯◯は窓を開けた。しかし鍵がかかっている』ていう表記が何回か出たっけ。あれはキレそうになったな。
「キュノ。そこをどいてくれ」
「キュイ!」
やだ。とでも言うように首を横に振る。もういいや、キュノはもう言語を理解している。もうそういうことにしよう。
ああ、まずい。こんなことをしているうちににもフライトフィッシュが⋯⋯。
窓から、フライトフィッシュが突っ込んで来た。⋯⋯が、キュノがそれを口に頬張る。
なっ、何だと!? コイツ、高速で突っ込んできたフライトフィッシュを勢いを完全に殺して口に入れただと!? なんて超絶技能だ!
そんな戦慄している僕を横目に、キュイが美味しそうにフライトフィッシュをもぐもぐと食べている。
今更だけどあれって食べられるのか? というか、ご飯をあげてからまだ三時間も経ってないのによく食うな。足りなかったのかなあ。よし、次からはもう少し多くご飯をあげよう。
キュノは食べ終わって満足したのか、僕らの隙間に座る。そして、僕の方を見て、なんか長方形を空中で書いた。そして貸してみたいな動作をする。⋯⋯まさか。
僕は、ストレージリングから、本を取り出す。
「キュイ」
そして、そんな声と同時に再び、「貸して」とでも言いたそうなジェスチャーをする。いやどこで覚えたんだよ。まあ、いいや。
とりあえず僕はキュノに本を渡す。すると嬉しそうな顔をして、本のページをめくった。
やっぱり、言語は理解していたか⋯⋯。まだ読めるとは限らないよな。
そう思ってキュノを観察していると、次々にページをめくっていく。あの速度で頭に入ってるのかな⋯⋯?
僕だって前世ではラノベを読みまくっていたからそれなりの速さで読める自信はある。でも、今のキュノのような速度では無理だ。クソ、なんか負けた気がする。
「なあ、ユート」
「ん?」
「俺にはキュノが本を読んでいるように見えるんだけど⋯⋯」
「奇遇ね、ニウス。私にも見えるわ」
「キュノさんすごいですね」
本を読むキュノに三者三様の反応だ。リュミーが何故か読んでいることには突っ込んでいない。
「実際に読んでるんだよ。理解しているかは分からないけどね⋯⋯」
「俺はどう反応したらいいんだ?」
「しらんわそんなこと。僕に聞かないでほしいね」
僕は、もう悟った。キュノはこういうドラゴン何だってね。考えるだけ無駄だ。
『ふむふむ、なるほどね』
⋯⋯もう突っ込まないぞ。キュノが、そんなことを口にした。いや、口にした、というのは違うかもしれない。だって、聖竜様みたいに脳内に直接声が響いているのだ。
「気の所為か? いまキュノが喋らなかった?」
「私も聞こえたんだけど⋯⋯」
「言葉を喋るなんて賢いドラゴンですね」
いや、本当になんでリュミーは動じないんだ? まさか僕と同じ悟りの領域にいるのか!?
「敵襲! 敵襲! 王女様を守れ!」
そんなことを考えていたが、どうやら襲撃者みたいだ。僕は思考を中断して、馬車から飛び降りる。ニウスとエリスもそれに追従する。⋯⋯いや、なんでキュノもいるんだ?
『ユート、ユート。ぼくもたたかっていい?』
ああ、だめだ。もう完全に喋ってる。学習能力高すぎ⋯⋯。
「いいけど、注意してね」
これだけは伝えておきたい。
『わかったよー』
本当に分かったんだろうか? ちょっと心配になる。
えーと、襲撃者はっと。なるほど。オークか。小さいときにフォワードの町で見たぶりだな。なんか懐かしい。
そんなことを考えていると。オークの一体が全身を黒焦げにされて倒れていた。火をはいた犯人の方を見る。どうやらキュノらしい。
『これでもくらえー』
キュノが可愛く言っているが、その攻撃は全然かわいくない。口から青色を通りこして白色に近い色の炎をはいているのだ。それを食らったオークがまた一体、また一体と倒されていく。
ちょっと気になって、その温度を鑑定してみたが、摂氏七千度だった。いやいや、原爆の光線の温度かよ⋯⋯。そりゃあ、食らっただけで黒焦げになるわけだ。
気がつけば、キュノによって、襲撃されたオークは一体も残らず黒焦げになっていた。キュノ、恐ろしい子!
『おわったよー。あいつらよわかったなあ』
物足りなさそうだ。さすが聖竜様の子だ。親に似て強いなあ。
「ご助力、感謝します」
「いえ、そのために僕らはここにいるので」
本当に感謝される筋合いはない。だって僕は何もしてないもの。気がついたらオーク達は全滅してたんだだよ⋯⋯。
「この辺でお昼にしましょうか」
リュミーの提案で、ここでお昼を食べることになった。昼ご飯にはホテルが作ってくれたサンドイッチが出てきた。見た目は普通なのに、とても美味しかった。
昼食を終えた僕らは再び、馬車に乗り込み、王都への道を進んだ。
食後だからか、眠気が襲ってきた。そう言えば、昨日は聖竜様のお話を聞いていたから、ほとんど寝られなかったんだっけ。王都まではまだ、しばらくかかりそうだから一眠りするか。
その後僕は心地の良い睡魔に身を委ねたのだった。
■■■■
「ユート様起きてください。もう少しで到着しますよ」
その言葉で、目が覚める。なんだか後頭部が柔らかい感触がある。目を開けると、そこにはリュミーの顔があった。その顔は赤くなっている。
それを見て、意識がはっきりする。慌てて起き上がると、なぜだかリュミーが少し残念そうな顔をする。
「王女様に膝枕をしてもらえるなんて良かったわね⋯⋯」
エリスの言葉ではっとする。そうか、さっきの柔らかい感触は、リュミーの膝の感触だったのか。心地良かったなあ⋯⋯。いやいやそうじゃない。今はもっと言うべきことがある──。
「すみませんでした!!」
僕は即座に土下座を敢行した。絶対、僕が寝ていてリュミーの方に倒れ込んでしまったのだろう。本当に申し訳ない。
「か、顔を上げてください。ユート様は私に気遣っていてくれたのか、頭を私とは逆の方向に預けていました⋯⋯」
あれ? じゃあなんであんなことになってたんだ?
不思議に思っていると、リュミーが解答してくれた。
「わ、私がこちらにユート様を倒れ込ませたのです!!」
⋯⋯。あれ? じゃあ、犯人はリュミーなのか? でもなんで急に?
「ユート様の寝顔を見ていたらかわいいなあ、と思っていたら、なんだか無性にユート様のお顔を近くで見たいなと思ってしまいました」
顔を真赤にしながらリュミーが答える。ちょ、やめて。僕のほうが恥ずかしくなるから!
「リュミーって案外大胆ね。私達がいるのにこんな事するなんて」
あれ? エリスの口調がかなりフランクになってる。僕が寝ているうちに打ち解けたのだろうか?
ニウスは⋯⋯。うん。寝てるな。
「王女様御一行のお帰り!!」
外から、検問の兵士が高らかに宣言する。気がつけば目の前にある重厚そうな門が低い音を立てながら開いていく。
ついに、グラディア王国の王都へと到着したのだ。




